【行った】ガチ中華って一体なに?ヒットの秘密を探ってきた

【行った】ガチ中華って一体なに?ヒットの秘密を探ってきた

この1年、飲食関連で一気に見聞きすることが増えた「ガチ中華」。2022年の新語・流行語大賞にもノミネートされました。「ガチ中華」と「町中華」の違いは何か?いまいちジャンルの定義がわかりにくいので、食べて言語化すべく行ってきました。「よしだけいすけの飲食店最前線巡り」シリーズ16回目は「ガチ中華」のヒットの秘密を探ります。
前回記事:【行った】新たなニーズか、立ち食い業態。気の置けない仲間とサクッと立ち食い寿司へ

「ガチ中華」は辛い料理?まだ定義に曖昧さ

「ガチ中華」って知ってる?と友人に尋ねると、半数以上から「知ってる」と返ってきました。一方で、一部の人からは「町中華じゃなくて?」との返答も。特にここ1年くらいの間に、テレビなどのメディアで取り上げられることが増えて、一気に市民権を得たガチ中華。町中華との対比で付けられたネーミングですが、これは中国の食トレンドが日本に入ってきたわけではなくて、「ガチ」という言葉からもわかるように、日本人が盛り上がりを作っている背景が見えます。

情報を探してみると明確な定義はないようです。ここは体験して「Foodclipとしての定義を定めるべし」と意気込みながら、店探しをしました。ガチ中華についてのクチコミ情報を見ると赤い料理がたくさん出てきます。辛い物は好きだけど得意なわけではないので心配半分、期待半分です。

ネオンと異国情緒。ここは日本の中国か

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選んだのは大久保駅からほど近い「撒椒(さんしょう)小酒館」です。撒椒の意味を調べてみると「コショウ」とのこと。

大久保駅から新大久保駅付近の韓国グルメが多いエリアとは少し離れており、周りは静かです。その中でひと際、原色を多用したネオンが目立ちます。派手なネオンにはなぜか心躍らせてくれる効能があるようで、テンションが上がるのは私だけじゃないはず。


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50席ほどの店内は、平日の19時30分頃には満席で、すでにウェイティングもかかっています。なるほど、人気なのは間違いないです。

ここで、ガチ中華の定義のヒントが1つありました。店員だけでなく、お客さんも半数以上は中国の人で、聞こえる言語の多くは中国語。内装の雰囲気とあいまって、さながら中国にいる気分になれました。日本にいながらの中国体験が、ガチ中華のポイントの1つになりそうです。

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多言語対応のテーブルオーダー端末から注文します。グローバルな時代と飲食店のデジタル化は、相性がとても良いですね。

いまやチェーン店だけではなく、個人店でも端末の導入が増えてきているようです。人材不足の業界を補うツールとしての価値だけではなく、多言語対応やいつでもオーダーできる便利さは、客側のメリットも大きいといえます。

中華料理の専門店では、メニュー名と価格だけが記載されているケースもありますが、こちらの店では、ほぼ全てのメニューに画像がありました。料理名はわからなくても見た目を参考にできる親切設計です。

現地のものを忠実に。カエルとザリガニ

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想像していましたが「赤い料理」がとにかく多い。タコのピリ辛炒めとカエルのピリ辛クミン炒めをオーダーしました。確かに辛いですが、見た目ほどではないのでビールのつまみとしてしっかり楽しめます。

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気になっていたカエルのピリ辛クミン炒め。カエルは初体験でしたが、原型がわからないように細かくカットされていて、あまり抵抗なく食べられるのはありがたいです。

肉の部分はホロリと柔らかく、骨も一緒に煮込まれていてコリコリとした軟骨のような食感です。日本人に忖度なしに現地のものを忠実に提供することも、ガチ中華の定義のヒントになりそうですね。

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今日のメインディッシュはザリガニ。「ザリガニの四川風マーラー炒め煮」は、見るからに辛そうです。量も多いので店の人に質問をしてみると、量は調整できないが、辛さは多少コントロールできるとのこと。

ただ、ザリガニ特有のくさみを消すことを目的に香辛料を使っているので、そのままで楽しむことをおすすめされました。そう、ここは中国。郷に入っては郷に従えの精神でノーマルで注文しました。

やってきた料理は、コンロで熱々のまま楽しめる仕様です。おもむろにビニール手袋を渡されて、「海老みたいに食べて」とのアドバイス。熱々なので冷ましながら、手でむいて食べます。殻をむくと身自体はずいぶんと小さくなりますが、まさに海老のような味わいでおいしいんです。

辛さが積み重なってきて、唇がしびれ始めたのでライスも注文しました。辛い!熱い!旨い!と、数人でわいわいしながら食べる楽しさがあります。

中国では、日常的にビールのつまみとして食べられているようです。手袋を付けて、一つ一つに時間をかけてむく流れは、口に入れるまでのエンタメ性があって新鮮です。

地域によって異なる食文化。現地訪問を振り返る

今から3年ほど前、当時外食チェーンのマーケティング担当をしていた私は、中国料理の視察として、中国のいくつかの地域を巡っていました。中華料理と言っても、広大な国土ゆえに、地域によって料理の特徴がずいぶん違っていました。

日本の中華料理店では、各地域から人気のもの、日本人に合う料理をピックアップして提供している店が多くありますが、ガチ中華においては、四川、広東、杭州など地域ごとの特徴を残してメニューを構成しているようです。

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この写真は中国で食べたザリガニの炒め煮。今回、大久保で食べたものと同様に「マー」と「ラー」をしっかり使った味付けで、ほぼ同じ味わいでした。ちなみに中国で行った店には、大きないけすにたくさんのザリガニがいました。

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食べ方も全く同じで、中国人の同行者が手際よく、慣れた手つきでむいている様子を見て、デジタル化できない、いや、してはいけない食文化のシーンだなと感じたことを思い出します。

中国を体験できる場所。ガチ中華の定義

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そろそろガチ中華の定義をしておきましょうか。今回の体験から定義するなら、「ガチ中華とは、中国現地の雰囲気と料理を日本人向けにリメイクせずに提供し、中国出身の人も地元食として食べにくる、まさに中国を体験できるコト」でした。

料理だけでなく、体験自体が中国そのものと言えることがポイントだと考えます。「コト消費」に近い体験です。

レストランの生き残り戦略は。二者択一か

すかいらーくホールディングスの谷会長は、客足がコロナ前には戻ることはない可能性に言及しつつ、2022年8月の決算の際にも「生活習慣は完全に変わった」と発言していました。

内食や中食のスタイルが根付いたことで外食の回数は減少し、大人数での飲み会や2次会、3次会が減ったことで、少ない外食の機会の店選びも変わってきていると感じます。平たくいうと「1回もハズしたくない」ので、ちょっと単価が高めな店や、特色のある店を選ぶ傾向が強まっている印象です。

一方で、店側は人件費や食材原価などのコストの高騰、人員不足に打ち勝つために、生産性アップを目的としたデジタル活用、機器の導入も進んでいます。料理ロボ、セルフレジなどを積極的に取り入れて、その分食材原価を下げない工夫をして「おいしさ」を求めるか、あるいは店舗体験を維持して「楽しさ」を求めるか、この選択は非常に重要だと感じます。食のモノ消費か、コト消費かとも言い換えられます。

今回訪れた店舗は、まさに後者のコト消費の象徴のようです。もちろんおいしさもありますが、中国現地さながらの体験ができる店舗デザイン、メニューを用意して、料理以外の満足度を高める取り組みがありました。「また行きたい」を何でつくるか、その見極めが生き残りの鍵を握ります。

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【店舗情報】
撒椒小酒館 大久保店
住所:東京都新宿区百人町1-18-8 大久保カドビル 1F
営業時間:11:00~21:00
※2022年12月の取材時点での情報です

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著者情報

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よしだけいすけ
2020年5月よりカラビナハート株式会社に入社。10社ほどの企業SNSアカウントのコンサル・運用支援を行っている。公式アカウントのフォロワー増や投稿のノウハウだけではなく、目的に合わせた目標設計やビジネス貢献の可視化、再現性ある仕組み作り、SNS担当者のトレーニングが得意領域。2020年4月までは株式会社すかいらーくHDのマーケティング本部にてコンテンツコミュニケーションチームのリーダー。7つの公式Twitterアカウントを立ち上げて合計210万フォロワーに。広告宣伝のほかアプリ、メルマガ、公式サイト、ファン施策、ポイントプログラムなどを担当した。店舗勤務含めて15年間在籍。
Twitter:https://twitter.com/ruiji_31
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