
企業・業界動向
スーパーマーケットのルールを「BLΛNDE」が根底から覆す。背景には既存に抗う“人々の熱量”
2022年9月に開催されたSKS JAPAN 2022に、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社 代表取締役社長 藤田元宏氏、株式会社カスミ 常務取締役兼ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社 プログラムマネジャー 満行光史郎氏が登壇。「食品スーパーの未来」をテーマに、株式会社プランテックス(「プランテックス社」)との協業など自社の先端事業について語りました。“生活者と接点のあるリテールプレイヤーの中で最も先を見通している”と紹介されたその取り組みについて、詳しいお話をうかがいました。
お話をうかがったひと

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社
代表取締役社長 藤田 元宏 氏
Profile
1978年3月株式会社カスミ入社、2000年5月同社取締役、2007年5月同社専務取締役を経て、2012年3月同社代表取締役社長に就任。2015年3月にマルエツ、カスミ、マックスバリュ関東3社の経営統合により設立されたユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社の取締役副社長、2017年3月から同社代表取締役社長(現任)に就任し、株式会社カスミ取締役(現任)を兼任。2022年3月にはイオン株式会社の執行役副会長にも就任し、同社特命担当も務める。

株式会社カスミ
常務取締役 営業戦略担当
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社
プログラムマネジャー 満行 光史郎 氏
Profile
2019年3月にカスミに入社しビジネス変革を担当。2022年5月に常務取締役に就任。営業戦略担当およびSCM/ERP改革プロジェクトリーダー。2021年3月よりユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社のプログラムマネジャーに就任。
既成概念にとらわれないスーパー「BLΛNDE(ブランデ)」。その新しさは?
———新業態の「BLΛNDE(ブランデ)」について教えてください。
藤田氏(以下藤田):「BLΛNDE(ブランデ)」は約3年の構想を経て、2022年1月に1号店がオープンしました。 「人」「食」「生活」「文化」が、商品・サービスを通じて「交じり合う」というコンセプトです。これまで取り扱ってきた商品を一新した新業態で、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(以下、U.S.M.H)が掲げている提供価値を商品とサービスで体現しています。
———従来のスーパーマーケットとは、どう違うのでしょうか。
藤田:例えば「BLΛNDEつくば並木店」は、食と健康美をテーマに、ドラッグストアのウエルシア薬局と協業して医薬品・化粧品・日用品を豊富に揃えました。医薬品を除いて、食料品と一緒に決済することが可能です。デジタルカウンセリングを行う化粧品カウンターや、処方せん調剤薬局も設置しています。
イートインよりも居心地の良さを重視したCafe&Dineや、栄養管理士に健康相談ができるヘルスサポートなど、買い物の途中や買い物後の「ショッピングジャーニー」を充実させる工夫をしています。会員制プログラム「BLΛNDE Prime(ブランデプライム)」は、ブロンズ、シルバー、ゴールドと3つの会員グレードに合わせて、健康相談、オンラインデリバリーの配送料無料やコーヒー1杯無料など、さまざまなサービスが受けられる仕組みです。
また、販売する商品も、従来とは異なります。カスミのオリジナルブランド「MiiL KASUMI(ミールカスミ)」や、地元の生産者が作るフレッシュな生鮮食材、定番商品とは違う目新しい調味料など、今までの常識を一度ゼロにして再構成した品揃えになっています。
プランテックス社と協業して生産している、環境に配慮した自社工場で栽培されたプライベートブランド「Green Growers(グリーングロワーズ)」のレタスなど、弊社プロジェクトで生まれた商品も並んでいます。
———必要な買い物を済ませるだけの場所ではなく、新しい発見やくつろぎがある店舗なのですね。
藤田:それだけではないですよ。多様化するニーズに応えるには、その体験に新しさや驚きがありながら、行動導線がスムーズでなければいけません。我々はデジタルを基盤にした構造改革においても事業を進化させています。そのひとつが自社のデジタルブランド「ignica(イグニカ)」です。
スマホがレジ替わりになる「Scan&Go(スキャン&ゴー)」や、自宅にいながら買い物ができる「Online Delivery(オンラインデリバリー)」など、お客さまの生活に溶け込み、必須の機能として使ってもらえるサービスを用意しています。お客さま本位のサービスを徹底的に考えています。
急速な変化をもたらすマインドとは。現場を知る人間の本気の議論
———常識を覆すアイデアを実現していく原動力は、どこにあるのでしょうか。
藤田:50年かけてつくってきた“村社会”は、ちょっと変えるだけではなかなか変わりません。「これが答えだ」ということを見せないと変わらない。そう思ってつくったのが「BLΛNDE」です。
満行氏(以下満行):形にできた理由のひとつはトップだと思います。トップが本気で変えようとして、人員バランスやリソースの配分を根底から変えないと。藤田さんは本気度がすごいです。
藤田:止める理由はいくらでもつくれます。売り上げを見たら「このままいけば自分がいる間は安泰だ。倒れることはない」と守りに入ってしまう社員はいるでしょう。そこに危機感を感じました。
スーパーマーケットの商品は、「屋号が変わろうが関係なく、ここで買って帰らなくても、どこででも買える、それなら値段を安くして売るしかない」となってしまっては、キャッシュを稼げる会社しか残りません。変化するためのコミュニティは、常識を超えねばならない。違うことをやるというのは勇気がいります。
———トップの危機感や本気度が変化を後押ししたのですね。その思いはどのように伝わっていったのでしょうか。
満行:2021年から、1年間で「我々が解決しなければならない10課題」というものを藤田さんが決めて、それぞれプロジェクトをつくりました。リーダーは各社から部長職以上の、執行役員、取締役が担当して、毎週2~3回、各プロジェクトリーダーがプレゼンをしています。全取締役が集まって課題に対しての行動を発表し、実情を踏まえたアイデアや意見がそこでもまれ、磨かれるわけです。
藤田:プロジェクトをつくった理由は、今までの「結局ひとつの方向の結論しか出せない名前だけのプロジェクト」を変えたかったからです。ビジネススクールでは「バリュープロポジションマップ」、「ビジネスモデルキャンバス」などを教科書で学びますが、実践となるとなかなか難しいもの。現場を知らない人の企画書は、魂のない絵空事になることが多くあります。
そのため現場を知る社員が、プレゼン会議を経て成長する場を設けました。プロジェクトリーダー以外でも、希望者はオンラインで会議に参加できるようにしています。この2年間は人材の育成をおこなってきた側面もあります。
ビジネスの基本は変わらない。胸襟を開いて関係性をしっかり築くこと
———2022年4月にプランテックス社との協業で生まれた工場野菜の販売が開始されましたが、小売業大手のU.S.M.Hとベンチャー企業の協業が成功した理由は何でしょうか。
藤田:お互いの関係性を構築できるかが重要です。商品の魅力は時代の変化で変わるもの。同じ方向を見て「価値を創造していこう」「一緒に考えよう、やっていこう」という関係性を持ち続けられるかどうかです。
満行: 提案や協業が実現しないケースでは、担当者が「会社の上司に言われて提案にきました」といった態度で、自主性や本気度が見えない場合が多いです。うまく話が進むケースでスタートアップが多いのは、情熱・熱量の違いではないでしょうか。
プランテックス社の方は熱量の塊ですよ。本気で向かってきてくれる方と今後も一緒にやっていきたいと思わせてくれます。大手やベンチャーという立場を超えて、お客さまにとってベストをつくっていくんだという気持ちで一緒に進んでいける、胸襟を開ける関係というのはひとつポイントかもしれません。
———社内だけでなく他社との関係でも、より良くしたいという人の熱量が重要になってくるのですね。今後の展望について教えてください。
藤田:「BLΛNDE」はデジタルがどうあるべきか、商品がどうあるべきかの両軸で進化させていきます。ようやくデータを取得して、現場へ還元していく道筋が見えてきたところです。また、データに頼るだけでなく、エネルギッシュなパートナーと新しく出会い、売り場を充実させていきたいです。
この記事が気に入ったらフォロー
ニュースレター登録で最新情報をお届けします!
著者情報

- FoodClip
- 「食マーケティングの解像度をあげる」をコンセプトに、市場の動向やトレンドを発信する専門メディア。
月2-5回配信されるニュースレターにぜひご登録ください。
登録はこちら>>> https://foodclip.cookpad.com/newsletter/
twitter : https://twitter.com/foodclip