「50代だから緑茶を飲むわけではない」 コカ・コーラの自販機をネットにつないで分かった購買行動

「50代だから緑茶を飲むわけではない」 コカ・コーラの自販機をネットにつないで分かった購買行動

コカ・コーラの公式スマートフォンアプリ「Coke ON」は、4200万ダウンロードを記録した。自販機DXを加速し、「飲み物を売るただの箱」から接客を伴う小売店に変化しているというが、どういうことなのだろう。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([大村果歩]/2022年12月08日掲載)からの転載記事です。

 日本コカ・コーラの公式スマートフォンアプリ「Coke ON(コークオン)」が非常に好調だ。2016年4月にサービスを開始してから着実にダウンロード数を増やし、累計ダウンロード数は4200万を記録した。

 マーケティング本部IMX事業本部デジタルプラットフォーム部の宇川有人シニアマネジャーは、「自動販売機(以下、自販機)は『飲料を提供するただの箱』でしたが、Coke ONの活用によって接客ができる小売店のような存在になっています」と話す。どういうことなのだろう。

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「50代だから緑茶を飲むわけではない」 コカ・コーラの自販機をネットにつないで分かった購買行動

自販機DXを可能にしたCoke ON

 Coke ONは、スタンプをためると無料ドリンクチケットが獲得できるコカ・コーラの公式スマホアプリだ。Coke ON対応自販機をBluetoothでスマホと接続すると飲料が購入でき、スタンプがたまる。スタンプ15個で同社の製品と交換できるドリンクチケットを提供する。アプリでは新商品やキャンペーンに関する情報発信も行っている。

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Coke ONの仕組み

 コカ・コーラは全国に約88万台の自販機を設置しているが、そのうちの約半数にあたる44万台がCoke ONに対応している。宇川さんは「台数で言うと約半分ですが、売り上げで言うと8割超をカバーしています。人のいるところであれば、大体Coke ON対応の自販機がありますね」と話す。

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Coke ON対応の自販機

 Coke ONでは顧客情報をユーザーIDで管理する。「誰が、いつ、どこで、何を買った」という情報や、どういった製品ページを訪問したかという閲覧情報やキャンペーン参加情報を取得している。

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Coke ONの画面

「飲料メーカー」「小売業」両方に“うまみ”

 宇川さんは、Coke ON導入の狙いについて、「飲料メーカー」「自販機ビジネスを営む小売業」の2つの側面から説明する。

 「飲料メーカーとしては、お客さまと直接かかわる“オウンドメディア”としてCoke ONを活用。SNSや広告などの外部のサービスではなく、自社のアプリ内でたくさんのお客さまとつながることで、関係強化を目指しています。また、Coke ONを通じての購入履歴、キャンペーン参加の有無やアプリ内の閲覧情報を収集し、マーケティングに役立てています。『どういう時間帯に、どんな人に、どういう場面で購入されているのか』がデータによって明らかになるため、お客さまごとに個別最適化した情報を発信できます。ウザイ広告ではなく、気の利いた情報を発信するためにデータを活用し、コミュニケーションを活性化しています」(宇川さん)

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Coke ON導入で「飲料メーカー」「小売業」両方に“うまみ”

 「自販機ビジネスを営む小売業としては、『常連』のお客さまを増やすためにCoke ONを活用しています。Coke ONがあることで自販機の利用促進ができるだけではなく、お客さまとつながり、コミュニケーションをとることができます。アプリを活用して利便性・サービス向上に努めることで、数ある自販機の中からコカ・コーラのものを選ぶ理由を生み出したいと考えています」(宇川さん)

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Coke ON導入の狙い

「ただの箱」→「接客を伴う小売店」

 具体的な数字は非公開としたものの、Coke ON対応の自販機と未対応のものを比較すると、1台当たりの売り上げは高くなるという。ユーザーは10~60代まで、男性6:女性4と幅広い層を満遍なくカバーしているという。

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ユーザー内訳

 Coke ONの効果は大きく分けて3つ挙げられる。1つはデータ活用による品ぞろえの最適化と、プロモーションにおける充実度の向上だ。

 Coke ON導入前は、ルートセールスが自販機に訪問して「何が何本売れている」というデータを取り出すのが売れ行きを把握する唯一の方法だった。「何時何分にこれが売れた」「ユーザーID何番の人が(誰が)買った」ということではなく、この期間に該当製品が何本売れたという情報しか取得できていなかったという。Coke ONでデータを取得することで、それぞれの自販機がどのように使用されているのか可視化でき、品ぞろえの効率化・最適化を実現できているという。

 データの活用は、新商品情報の発信やプロモーションの方法を飛躍的に増やすことにもつながる。かつての自販機プロモーションは、なにか発信したい情報や販促を強化したい商品がある場合、ポスターを貼る、商品にちょっとしたおまけをつけるなど限られた方法しかできなかった。しかし、Coke ONがあることで、アプリを通じて情報発信やキャンペーンを実施できる。「特定の商品を購入するとスタンプ2倍」などのオファーができ、プロモーションの充実度が飛躍的に増したという。

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Coke ONがあるとプロモーションの可能性が広がる

 2つ目に、「個人に合わせた接客ができる」ことが挙げられる。

 「Coke ONを使用することで、『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』と、接客を提供できます。また、小売店ではよく見られる『新商品入っているよ』『久しぶりですね』などの声かけも、データを活用して実施しています。データがあることで、『誰に、何を、いつ届けるか』の精度を高めることができます。Coke ONをダウンロードしたばかりの人にはサービス紹介や使い方の提案したり、普段炭酸飲料をよく飲む人に『ファンタの新しいフレーバーがでたよ』という情報を発信したり──。好みや利用リズムをデータを通じて把握することで、一人一人に対するメッセージの最適化を行っています。自販機は無人の箱ですが、Coke ONがあることで接客を伴う小売店になることができます」(宇川さん)

個人に合わせた接客ができる(商品画像はイメージ)

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個人に合わせた接客の例

 3つ目に、利用者の「常連化」がある。Coke ONがあることで、数ある自販機の中からコカ・コーラの自販機が選ばれる理由ができるのだ。

 「多くの人にとって自販機は景色です。どのメーカーで、どんな製品を売っているのかを意識することは少ないと思います。しかし、一度Coke ONでドリンクチケットを獲得し、お得な体験をしてもらうことによって、この自販機ってCoke ONが使用できるコカ・コーラのものなんだと認識してもらえます。喉が渇いたときに『Coke ONの自販機で買おう』と想起してもらえることは、売り上げにも効果的に作用していると認識しています。また、ただのポイントカードではなく、キャンペーン情報やお得な情報を届けるなどコミュニケーションをとれることも、『どうせ買うならCoke ON対応の自販機で買おうかな』という気持ちの醸成につながっていると考えています」(宇川さん)

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お得な体験をした記憶が、Coke ONを使用する理由に

「誰に、何を、いつ届けるか」の精度を高める

 宇川さんは「誰というデータを取得するときに、個人情報は必要ないんです」と話す。

 「例えば、50代だから緑茶を飲むということは少ないと考えています。その人が緑茶が好きだから、緑茶が飲みたい場面だから、緑茶を飲むのだと思います。デモグラフィックデータ(年齢や性別、居住地、職業などの人口統計学的なデータ)ではなく、購買データに基づくその人の行動・嗜好・リズムに合わせてメッセージを最適化することを重視しています」(宇川さん)

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データ活用の考え方

DL数も継続率も好調 Coke ONの未来

 具体的な数字は未公開としたものの、宇川さんは「体感ですが、Coke ONの継続率・アクティブ率は非常に高い方だと考えています」と話す。昨今は継続率を高めるためのサービス拡充を強化している。

 18年にはキャッシュレス決済に対応した「Coke ON Pay」を導入。他にも累計歩数の達成ごとにスタンプがたまる「Coke ON ウォーク」、自販機サブスクリプションサービス「Coke ON Pass」を導入するなど利便性の追求やサービスの拡張を行っている。

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Coke ON ウォーク

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Coke ON Pass(プレスリリースより)

 「Coke ONのサービスが開始した当初は自販機での利用がメインでした。今後は自販機以外での活用の幅を広げていこうと考えています。例えば、現在サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会のキャンペーンを実施しており、購入した製品のバーコードをCoke ONでスキャンしたら、スタンプがたまります。このように、購入場所にかかわらず、コカ・コーラ製品を買ったらCoke ONでお得な体験ができる仕組みづくりを強化していきます。今後もより幅広い人に日常的に利用してもらうために、『オトク』『楽しい』『便利』を磨いていきます」(宇川さん)

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元記事はこちら



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