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20歳以上ですか? トライアルの店内で、この言葉が聞かれなくなる理由
スーパーのトライアルが、ちょっと気になることをやっている。「24時間顔認証決済」と「自動値引き」である。今年の4月から実証実験で始めているわけだが、どのような結果がでているのか。担当者を取材したところ……。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([土肥義則]/2022年11月18日掲載)からの転載記事です。
「20歳以上ですか?」――。
コンビニでアルコール飲料を購入する場合、上記のような文言が表示され、「はい」か「いいえ」を押さなければいけない。店員が見て「この人、怪しいなあ。未成年では?」となれば、身分証明書を求められる。
おじさんの中には、定型文が表示されるたびに「はい、はい、押せばいいんでしょ、押せば」と思っている人がいるかもしれないし、童顔の人の中には「幼く見られるのは仕方がないけれど、いちいち身分証明書を出すのは面倒だな」と感じている人がいるかもしれない。
このようなやりとりがなくなるだけでなく、店のスタッフがいなくなるかもしれない。そんな動きがあることをご存じだろうか。九州を本拠に置くスーパー「トライアル」(運営:トライアルカンパニー)がAIカメラを活用して、「24時間顔認証決済」(以下、顔認証)を始めているのだ。
福岡県に本社を構えるトライアル
店内にたくさんの商品が並んでいる
「トライアル? そーいえば、先進的なことをよくやっているスーパーだったかな?」と思われたかもしれないが、その通りである。買い物をしたことがある人であればご存じだと思うが、トライアルの大型店には「リテールAIカメラ」や「スマートショッピングカート」などがある。
リテールAIカメラの主な機能として、「欠品検知」がある。スーパーの店内にはたくさんの商品が並んでいることもあって、例えば、キャベツひとつとっても「いつ、どのタイミングで、どのようなペースで商品が売れたのか」を正確に把握することは困難だった。野菜売り場でずーっとスタッフが張りつくことはコスト的に難しかったわけだが、カメラから取得するデータを分析すれば、陳列数などを適正化できるので「欠品が起こりにくい」と言われている。
店内にAIカメラを設置している
スマートショッピングカート
スマートショッピングカートの特徴は、カートにタブレット端末とスキャナーが搭載されていること。パンや牛乳をカゴの中に入れているときでも合計金額が分かって、レジに並ばなくても会計を済ませることできる。スマートショッピングカートを導入している店舗は89店舗で、利用している人は月に180万人ほどいるそうで(8月末時点)。
というわけで、トライアルは流通業界を何度も「あっ」と言わせてきたわけだが、またまた「あっ」と言わせるほどの取り組みを始めたのだ。
利用者からは「心地いい」の声
「顔認証」の仕組みは、こうである。利用するには専用のカメラを使って、自分の顔を撮影して認証させる。トライアルの会員カードをシステムに読み込ませて、顔写真を登録する(このときに会員カードにひも付ける)。「自分の顔を登録するのは、ちょっと抵抗感があるなあ」と感じられた人もいるかもしれないが、そのまま保存するわけではない。顔のいくつかの特徴を認識して、記録するというわけだ。
顔認証レジ(脇田店)
顔登録(曰佐店)
このシステムの最大の特徴は、24時間アルコール類の販売が可能になること。登録するときに氏名と生年月日が確認できる運転免許証が必要で、そのデータを会員カードにひも付ける。やや複雑な話になってしまったが、登録が完了すれば、店側はお客の年齢を把握することができるので、スタッフが対面で確認しなくても販売できるようになるのだ(税務署も確認済み)。
トライアルの主力店舗である「スーパーセンタートライアル」よりも売場面積が狭い、次世代型の店舗「トライアルGO 脇田店」(福岡県宮若市)で2022年4月、「顔認証」を導入した。実証実験という形で、顔認証のシステムを導入したわけだが、利用できるのは関係者のみ。トライアルの社員、システムにかかわったメーカー、宮若市の職員、総勢250人ほどが利用したところ、どのような結果が出たのだろうか。
脇田店の外観
脇田店の店内。たくさんのAIカメラが設置されている
トライアルグループの「Retail AI」社で働く永井義秀さん(X Camera/IoT Solution Department Product Manager)に聞いたところ、「利用者からは『心地いい』という言葉が多かったですね」とのこと。顔認証システムを使って「心地いい」とは、どういう意味か。
「顔認証」導入で苦労したこと
脇田店は小型店舗なので、スマートショッピングカートは導入していない。というわけで、お客はセルフレジを使う必要があって、商品を1つずつスキャンしなければいけない。ひと手間かかるわけだが、顔認証をすることによって会員カードやスマホのアプリを出さずに決済することができる。このことが「心地いい」というのだ。
顔認証を運営している中で、どんな苦労があったのだろうか。永井さんによると、大きくわけて2つあったという。1つめは「マスク」だ。日常生活において、まだまだマスクを着用している人は多い。マスクをしたままで、顔をうまく認証できるのかといった課題を抱えていた。
認証されなかった場合は、画面にエラーの文言が表示されるわけだが、「これまでのところ成功率は高いですね。エラーがでても、もう一度試してもらえると、うまく認識されるケースが多いです」(永井さん)
曰佐店でも実証実験を行っている
2つめは「光」である。セルフレジは店の入口付近に設置しているので、太陽の光が差し込む時間帯がある。そうすると、どうしても逆光によって、うまく認識されないことがあった。ただ、このことも事前に想定していて、カメラの角度などを調整することによって、問題なく認証されるようになったという。
顔認証はいまのところ大きなトラブルがないので、他店での普及も考えているようだが、この実証実験で、トライアルはもう1つ大きなことに取り組んでいる。売り場カメラと電子棚札が連動する「自動値下げ」だ。
総菜や弁当などが売れ残っていると、店のスタッフがシールをペタペタと貼っていく。「20%引き」「半額」といった文言が書かれたシールを貼っていくので、目当ての商品に貼られるのを待ってから購入したことがある人もいるはず。脇田店のほかに10月からは曰佐店(福岡市)でも、過去のデータを踏まえてAIが売れ残るかどうかを判断し、電子棚札の表示を変更(値下げ)しているのだ。
「自動値下げ」を導入
ちなみに、他の某大手スーパーの話になるが、値下げシールを貼る人のことを「シールマン」と呼んでいる。彼ら・彼女らは製造日時などから、どのタイミングで値下げをするかを判断して、シールを貼っていく。トライアルではこの作業をなくそうとしているので、将来的にはそのぶんの人件費が浮くことになる。
顔認証と自動値下げのシステムを導入することによって、人件費はどのくらい削減できたのだろうか。脇田店の売場面積は300坪ほど。この広さと同じくらいの店舗を比べた場合、「25%」減らすことができたそうだ。
店内から消えていくもの
トライアルによると、自動値下げのシステムを導入したのは「世界初」とのこと。先ほど紹介したように、曰佐店でも「自動値下げ」を導入しているものの、まだ「完璧」とは言えないようだ。どの商品をどのくらい値下げすればいいのか、製造日時からどのくらいの時間がたてばいいのか。値引き率のロジックがまだ決まっていないようで、これからも実証実験を続けなければいけないという。
顔認証レジ(曰佐店)
最後に、ちょっとだけ未来予測を。「顔認証は使いやすい」「自動値下げも便利だ」「なんといっても、人件費を削減できることは大きい」――。現場から、このような声がでてくると、どうなるのか。店内からシールマンの姿は消えて、この言葉も聞かれなくなるかもしれない。
「20歳以上ですか?」
元記事はこちら
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- ITmedia ビジネスオンライン
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