
食トレンド
【行った】分身ロボット・オリヒメがつくる新しい働き方と人手不足解消の光
飲食店の業績を見ると、コロナ前の2019年比でみても復調する業種が増えてきた一方で、人手不足による営業時間短縮や倒産のニュースが後を絶ちません。「よしだけいすけの飲食店最前線巡り」のシリーズ17回目は、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」や「OriHime-D(オリヒメディー)が接客する分身ロボットカフェに注目。新しい働き方と人手不足解消のヒントを探してきました。
前回記事:【行った】ガチ中華って一体なに?ヒットの秘密を探ってきた
人手不足に悩む飲食店の行く末は
お店に入ると機械が受付をして座る席を指定してくれて、オーダーはテーブルの端末から。できあがった料理はロボットが運んできて、最後はセルフレジで会計……。DXの一環として、このような店内サービスの機械化、デジタル化を推進する飲食店が増えてきました。これまでの記事でもデジタル化の勢いは幾度となく書いてきましたが、その影には、人件費高騰と人手不足に苦心する業界の悩みがあります。
人手不足の理由は何でしょうか。まず一つ目は、日本の人口減少があります。2020年から2021年までに64万人(0.5%)も減っています。また、新型コロナの影響によって移動が制限され、外国人労働者の確保も難しくなっているでしょう。
飲食店の重要な人員である学生には、一般企業の長期インターンなど働く先の選択肢が広がっています。株式会社リクルートの調査によると、インターンシップは2024年卒の学生の73.8%が参加しており、2023年卒より5.4ポイント増加、46.8%だった2022年卒からは約1.5倍に増加しています。飲食店をはじめとするサービス業以外の働き方が増えて、そこに人員が流れていることがわかります。
ロボットとは違う、分身ロボットとは?
人手不足をデジタル機器で担う。そんな考え方はしごく当然の流れです。ロボットがテーブルまで料理を届けるガストの取り組みは過去の記事でも取り上げましたが、今回紹介するロボットはまたちょっと違う役割があります。
訪れたのは、東京は新日本橋駅、三越前駅からほど近い「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」です。2021年6月にオープンしたカフェで、株式会社オリィ研究所が運営しています。
案内、注文などをロボットが対応してくれるのは同じですが、実はこれらのロボットはすべて、人が遠隔操作しています。難病を抱えているなどの外出困難者が、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」や「OriHime-D(オリヒメディー)」と名づけられたロボットを遠隔操作して、カメラと声を活用しながらサービスを提供してくれるのです。
お店に入ると入口でロボットがお迎えしてくれました。手元にはタブレットがあり、そこにはロボットを遠隔操作するスタッフのプロフィールが表示されています。挨拶や予約の有無などを会話でやりとりするのですが、操作者(以下、パイロット)からはこちらの様子が見えています。ロボットではなく「分身ロボット」と呼んでいる所以も納得です。
入口での案内、席での料理の説明や注文、お水の提供などそれぞれの分身ロボットに役割分担があります。初めての体験に驚きつつも、いわゆるデジタル機器での対応とは違う、人によるあたたかいおもてなしを感じます。
パイロットが遠隔で接客。4種のOriHime(オリヒメ)
テーブルにつくと、そこには案内ロボットよりもずいぶん小さな分身ロボットがいました。予約をしておけば、着席から30分間、こちらの分身ロボットが対応してくれます。右側にはタブレットがあり、自己紹介から始まって、お店のコンセプトや料理の説明などを事細かに解説してくれます。
人による接客だからこそ、単方向ではなく双方向で、こちらの質問にも答えてもらいながら、注文するメニューを決めます。分身ロボットは手を上げたり、首の向きを変えたり、小さな動きですが確かにロボットの先に人がいることを感じられるボディランゲージ。インプットデバイスはロボットでも、声とささやかな動きがあるだけで、単なる機械との違いは歴然です。これまで体験したことのない不思議な感覚でした。
スイーツやドリンクのカフェメニューだけでなく、アンガスステーキやスパイスチキンカレーなど食事メニューも用意されています。例えばカレーは辛さがいかほどか気になりますが、担当してくれた「OriHime(オリヒメ)」パイロットによると、辛いのが苦手な人でも食べられるレベルとのこと。ライスの量の目安も教えてくれます。
注文は「OriHime(オリヒメ)」パイロットに伝えればキッチンに送信してくれます。その間にまた別の「OriHime(オリヒメ)」がやってきてお水を提供してくれました。床には黒いテープが敷かれ、テーブル近くに表示されているQRコードで向かう場所がわかるようにプログラムしているようです。
新しい働き方。自宅や病院から「働く」
店内で活躍する「OriHime(オリヒメ)」パイロットたちは日本国内と一部海外に約70人が在籍しているそうです。難病を抱えていたり、さまざまな事情で外出が難しい人たちが働いているとのこと。
担当してくれたパイロットの女性も「病気のために家から出にくいが、ここで働くことで社会との繋がりを持つことができてとてもやりがいを感じている」と話してくれました。中には病院からアクセスする方もいらっしゃるとか。
オリィ研究所の吉藤オリィ所長はオープンした際のセレモニーで「カフェで身体を使う作業もテレワークできれば、もっとたくさんの人たちが働くことができる」という考えから「OriHime-D(オリヒメディー)」を開発したと語っていました。人手不足という飲食店の悩みを解決しながら、新しい働き方を提供する取り組みであり、客としては新鮮で温かい接客が受けられる、まさに三方よしの仕組みですね。
ほどなくして、料理が運ばれてきます。オーダーしたのはスパイスチキンカレー(2,310円)とサンドイッチのB.C.C(2,178円)です。ほかの飲食店と比べると金額設定はやや高めですが、料理はこだわりを感じる味わいで、体験込みの金額といえます。
食べる、話す、やすらぐ未来は現実になった
この日はサービス外で体験できませんでしたが「テレバリスタ」という仕組みも取り入れていました。味の希望を伝えるとバリスタの資格をもったスタッフが、分身ロボット「テレバリスタ OriHime×NEXTAGE(オリヒメ×ネクステージ)」としてコーヒーをいれてくれます。
また、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」による接客は事前予約制ですが、店内にはカフェゾーンも用意され、こちらは予約なしでも入ることができます。電源も完備されているので、分身ロボットが働く様子を横目に見ながらカフェ使いができるのも便利です。
ロボットをテーマにしていると近未来的な雰囲気を想像しますが、店内には多くの緑が配置されて、居心地の良さも大切にしていることを感じます。テーブルで接客してくれたパイロットは料理が提供された後も、時間いっぱいおしゃべりに付き合ってくれました。
印象的だったのは、分身ロボットがとても楽しそうなこと。来てくれたお客さんにできるだけ楽しんでもらいたいという気持ちが、接客からひしひしと伝わってきます。改めて、飲食店は腹ごしらえをするだけが価値ではないことを感じた時間でした。
食べる以外の価値。飲食店の「場」の強みを
人か、機械か。多くの飲食店は選択を迫られています。サービスやホスピタリティにこだわりたいために、機械には頼りたくないと考える経営者も多いと聞きます。機械で対応できる部分はデジタル化して生産性を上げながら、その分で料理の食材単価を大きく減らさずに継続していくか、あるいは人による接客、調理にこだわって別の体験価値を守っていくのか。単純な二択ではない難しい岐路に立たされている飲食業界。
料理を食べるだけ、飲み物を飲むだけなら選択肢は山ほどありますが、どこで誰と楽しむか、どういうコンセプトのお店でどうやって過ごすか、といった価値を提供できることが「場」を持つ飲食店の強みです。
何を実現したいか、お客さんに何を提供するかを見極めることが、人とデジタルの選択、あるいは融合のヒントになりそうです。
【店舗情報】
分身ロボットカフェ DAWN ver.β
住所:東京都中央区日本橋本町3-8-3 日本橋ライフサイエンスビルディング3 1F
営業時間:11:00~18:00(木曜日定休)
※2023年1月の取材時点での情報です。
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著者情報

- よしだけいすけ
- 2020年5月よりカラビナハート株式会社に入社。10社ほどの企業SNSアカウントのコンサル・運用支援を行っている。公式アカウントのフォロワー増や投稿のノウハウだけではなく、目的に合わせた目標設計やビジネス貢献の可視化、再現性ある仕組み作り、SNS担当者のトレーニングが得意領域。2020年4月までは株式会社すかいらーくHDのマーケティング本部にてコンテンツコミュニケーションチームのリーダー。7つの公式Twitterアカウントを立ち上げて合計210万フォロワーに。広告宣伝のほかアプリ、メルマガ、公式サイト、ファン施策、ポイントプログラムなどを担当した。店舗勤務含めて15年間在籍。
Twitter:https://twitter.com/ruiji_31
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