
企業・業界動向
ドン・キホーテのPB商品「情熱価格」の戦略を分析。これから求められるPB戦略とは?
SNSなどで話題の「マーケティングトレース」をご存知ですか? 基本のフレームワークを使いながら成功事例を分析し、マーケティング思考を鍛える方法です。今回は、考案者の黒澤友貴さんに、ドン・キホーテのPB商品や今後求められるPB戦略について読み解いていただきました。
※前回記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/15753/
今回のマーケティングトレースのテーマは、プライベートブランド戦略です。
昨今、プライベートブランド商品のリブランディング事例が増えています。コンビニ業界では、2021年にファミリーマートがプライベートブランドを「ファミマル」と名付け、その広告手法も含めて話題になりました。
リブランディングを支援したTheBreakthroughCompanyGOのサイトより引用
プライベートブランドは小売店に来店する顧客をターゲットとするため、テレビCMは打たないことが一般的でしたが、「ファミマル」はテレビCMを活用しました。
プライベートブランドのプロモーションを積極的に行う事例が増えています。
そもそもPB(プライベートブランド)とは何か?
事例を掘り下げる前に、プライベートブランドの定義を整理します。プライベートブランドの対義語はナショナルブランドです。
PB(プライベートブランド)
小売店・卸売業者が自社にて企画・販売をする独自ブランド
NB(ナショナルブランド)
メーカーが企画・開発・製造を一貫して手掛けるブランド
※著者による整理
プライベートブランドの特徴は「価格」です。
SNSのクチコミを分析すると、プライベートブランドとセットで使われるキーワードは「安い」。読者のみなさんも、安くて品質は安定している、とのイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。
PBを取り巻く外部環境
いまプライベートブランド(以下、PBと表記)が生活者サイド、企業サイドの両方から求められています。
原材料の高騰から、メーカーは商品価格の値上げを進めています。NB(ナショナルブランド)が値上げをする中で、財布の紐が固くなっている生活者からは、低価格のPB商品を求める動きが強まっています。
また、小売ブランドにとっては、PB商品は粗利率が高く、収益に貢献しやすいカテゴリーです。そのため、陳列商品のPB比率を高める動きも強まっています。
例えば、業務スーパーを展開する、牛乳パックデザートシリーズのPBで有名な神戸物産は、中期経営計画の中で、「PB商品を強化し、基幹事業である業務スーパー事業の拡大を目指す」ことを掲げています。
注目したいドン・キホーテのPB戦略
ここから具体的な事例を読み解いていきます。
各社がPB戦略を強化している中で、著者が注目しているのが、ドン・キホーテのPBである「情熱価格」です。まず商品名の長さからいって、普通のPBではないことがわかります。
商品名:「年間売上5億円突破 ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めたアーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率 食塩・油を使わないこだわり」
ドン・キホーテHPより引用
そしてなんと、ドン・キホーテのPB「情熱価格」は2022年のグッドデザイン賞を受賞しています。ホームページのバナーでも強調されていました。
ドン・キホーテHPより引用
PBでグッドデザイン賞とは、従来のPBとは違う要素をもっているはずです。マーケティングフレームワークも活用しながら読み解いていきたいと思います。
ドン・キホーテのPB商品「情熱価格」の特徴は?
まず、「情熱価格」のブランドムービーで語られている特徴を要約して整理していきます。
店内でも流れている「情熱価格」のブランドムービーは、「ドン・キホーテらしさ」が研ぎ澄まされています。PB商品のPBは、「プライベートブランド」ではなく、みんなで作る 「ピープルブランド」だということが、大きな特徴です。
●ブランド名
情熱価格
●コンセプト
PBの常識を「ドンドン変える」
顧客と一緒につくる「ピープルブランド」
●3ヵ条
1. 安いのはあたりまえ。思わず手に取りたくなる「驚きのニュース」がない商品は、発売しません。
2. 価格や品質に納得して買ってもらうために、商品の特徴はもちろん、短所も正直に「ぶっちゃけ」ます。
3. 商品への「ダメ出し」も大歓迎。積極的に取り入れて、どんどん改善していきます。
※ドン・キホーテのPB方針を要約
方針として「ダメ出しも大歓迎」とあるように、「情熱価格」の商品は「ダメ出しの殿堂」から顧客が商品に対してダメ出しできるようになっています。ダメ出しから商品を改善するなど、「プライベートブランド」ではなく、顧客と一緒につくる「ピープルブランド」というコンセプトを徹底しています。
ドン・キホーテHPより引用
安いからではなく、愛着をもって選ばれるブランド設計
ドン・キホーテのPBは、従来のPBの常識を覆してきています。違いとして下記があげられます。
●従来のPB
安くて品質が良い
●ドン・キホーテのPB
安くて品質が良くて、何より愛着を持つことができる
※著者による整理
ドン・キホーテのPB戦略をマーケティングフレームワークを活用して整理してみましょう。
整理してみると、ドン・キホーテの「情熱価格」は、品質が良くて安い“だけではない”ことがわかります。
「ダメ出しの殿堂」に代表されるように、商品改善に顧客が関われるコミュニケーション設計をすることで、商品に愛着を持たれる仕組みがつくられています。
「IKEA効果」とも言われる、「人は自分が一手間を加えたものに対して愛着を持ちやすくなる」という考え方があります。
「ダメ出しの殿堂」の仕組みは、機能価値だけで判断されやすいPBに、情緒価値を付け加えて愛着を生み出していることが、素晴らしいポイントです。
経営方針とPB戦略の連動性に注目
コーポレートブランド、PB、商品ブランドのブランド構造を整理すると、経営方針とPB戦略が連動していることがわかります。
ドン・キホーテを運営する、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、企業理念として「顧客最優先主義」を掲げています。
創業時から大切にしている「お客さまから見ると、何が楽しくて、もう一回行きたいと思わせるものは何なのか?」の考えが、PBの「情熱価格」にも反映されていることがわかります。
PBはコーポレートブランドを象徴する商品となるため、ブランド構造を整理したときに「一貫性をもって、らしさを築き上げることができているか?」が重要な観点となります。
今後もとめられるPB戦略の考え方とアクション
ドン・キホーテのPBについて分析をしてきました。
最後に、「情熱価格」から学ぶ、これから求められるPB戦略の考え方、マーケティングの仕事に活かす推奨アクションをまとめていきます。
1.顧客がPBに愛着を持てる仕組みづくり
安いことだけでなく、コーポレートブランドの世界観を反映して、顧客が愛着を感じることができる仕組みづくりをしていくことが、選ばれ続ける理由となります。小売の強みを活かし、顧客が楽しみをもって来店してもらえる売場づくりが重要です。
●推奨アクション…ドン・キホーテの売場に足を運び、PB商品のエンターテイメント性のつくり方を学ぶ
2. 顧客の定量・定性データを集めて改善ができる仕組みづくり
PB商品を購入している顧客の声を定量・定性の両視点で集めて、顧客体験を刷新できる仕組みをつくることが重要となります。
●推奨アクション…ドン・キホーテの「ダメ出しの殿堂」にダメ出しをして、共創の価値を感じてみる
3. 顧客の潜在ニーズを理解して独自商品をつくる仕組みづくり
小売業の最大の強みである「顧客接点」をもっていることを活かして、価格の安さだけではない、 顧客の潜在ニーズや、まだ満たされていないニーズを掴み、PB開発することが求められてきます。
流行している商品を模倣して、価格を下げるアプローチは、Amazonがいち早く、かつ大規模に行っていくはずです。実際に、AmazonのPB強化のニュースが出ています。
PBは安さだけではなく、「顧客が求めているけどメーカーがつくれない商品を開発して届けること」が本質です。
●推奨アクション…ドン・キホーテ「情熱価格」の商品を購入してみて、コンセプトやネーミングを学ぶ
ぜひ、魅力的なPB商品をつくる上での参考にしていただけていましたら幸いです。最後まで読んでくださりありがとうございました。
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著者情報

- 黒澤友貴
- 1988年生まれ。ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに6,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを運営。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」を出版
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