年間4万件の「声」は、味の素「Cook Do」をどう変えたのか

年間4万件の「声」は、味の素「Cook Do」をどう変えたのか

「クレーム対応に追われてしんどい」といったイメージが根強いコールセンター業務。味の素は、消費者からの意見を活用し、商品開発につなげている。1問1答ではなく、「会話力」を重視する理由は?
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([大村果歩]/2022年12月26日掲載)からの転載記事です。

 コールセンターやお客様相談窓口といった“コンタクトセンター”は、「クレーム対応に追われてしんどい」といったイメージが根強い。しかし、コンタクトセンターに寄せられた消費者からの意見を活用し、商品開発につなげている企業がある。

 味の素グループのお客様相談センターでは、消費者から寄せられた“声”を反映した商品開発・商品の改良を強化している。お客様相談センターに寄せられる年間約4万件の意見を“全て”読み込んでいるというのだ。

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消費者の意見を商品開発に生かす味の素(公式Webサイトより)

2グループで構成 「声を聴く」「声を読む」

 味の素グループのお客様相談センターは、味の素、味の素AGF、味の素冷凍食品の3社合同で運営を行っている。社員(派遣社員も含む)23人、電話やメールの応対、代替品などの発送を行う業務委託先が29人、合計52人で構成。

 組織は(1)応対統括グループ(2)企画・情報統括グループの2つに分かれている。応対統括グループが電話やメールで寄せられる問い合わせに対応。企画・情報統括グループが寄せられた意見の読み込み、分析などを行う。

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お客様相談センター業務の流れ(公式Webサイトより)

 応対統括グループでは、問い合わせ内容を全てシステムに記録し、データとして蓄積する。また、オペレーターとの会話で利用者に納得してもらえなかった場合は社員がすぐに対応できるように体制を整備している。

 「1日当たり味の素には約80件、味の素冷凍食品には約25件、AGFには約35件、合計140~150件、1年間で合計4万件程度のお問い合わせがあります。

 お問い合わせ内容は、『どこで売っていますか?』『賞味期限が切れちゃっているんだけど』といった取扱店や商品の使い方に関するもの、『説明書き通り作ってみようと思っているんだけど、●●を切らしていて。どういたらいいかしら?』といった調理に関する内容などさまざまです。こういった声は、味の素のファンであるからこそいただけるのだと思っており、大切にしています」(応対統括グループ 中曽根佐智子さん)

 問い合わせのほとんどは使い方や取扱店舗に関するもので、商品に対する指摘は全体の5%程度だという。

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実際に寄せられた意見(公式Webサイトより)

“声”を全て読み込む「企画・情報統括グループ」

 企画・情報統括グループは、商品の開発・改善につなげるための業務を行っている。

 「お客様の声をその日のうち、もしくは翌日中に全て読み込んでいます。リスク管理の役割も担っているので、異物混入など健康危害につながるようなものは、すぐにアラートとして管理部門に働きかけをしています」(企画・情報統括グループ 小宮山亜実さん)

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過去に消費者の意見から改良した事例(公式Webサイトより)

 商品に対する不満やアイデアは逐一社員がピックアップし、月に1回実施している「お客様の声活用会議」で対応について話し合う。小宮山さんは「3社の視点やノウハウを共有しながら、関係部門にどうやって改善案を提案するかまとめています」と話す。

 「『使いにくい』などの意見を受けて、『どうしてそうなってしまったのか』という原因をお客様の声から読み解き、突き止めていきます。

 オペレーターに会話を全部記録してもらっているのは、意見の背景を探るため。会話を通じて、『どうしてそう思うんですか?』『どういった使い方をしたのですか?』と質問するなど、背景や原因を聞き出すように意識しています。ロジカルに事業部に提案するためには、トラブルやご不満の『背景』がとても大切です。

 どんなに優れた商品を開発しても、時代とともにお客様のニーズや期待は変化します。せっかくいただいたお声なのですから、最大限活用して常にお客様が満足する商品を生み出し、持続的に支持される企業でありたいと考えています」(企画・情報統括グループ 小宮山さん)

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過去に消費者の意見から改良した事例(公式Webサイトより)

電話での会話が重要

 こういった不満・トラブルの背景を探るためには、「会話力」が非常に重要となる。オペレーターは電話を受けた時点で、質問や意見の背景を究明できるように、会話の流れをコントロールする必要があるのだ。

 「電話の対応については、トークスクリプトやFAQを用意しています。しかし、全てを事前予測できるわけではありません。オペレーターからも、『聞かれたことに答えることはできるが、そこから会話につなげるのは難しい』という意見が聞かれており、通年で研修を実施しています。

 研修では、会話の中でお客様とうまく関係構築をできるようにトレーニングを積んでいます。会話のつなげ方、意見やご不満の背景を探るための話し方など、いろいろなコツをレクチャーしています。

 お客様が発する言葉の中には、注意してほしいポイントがあります。例えば、同じことを繰り返している場合は、お客様が私たちに伝えたい内容で、十分納得いただけていないというサイン。会話の中でのヒントを理解してもらって、お客様に気持ちよく話してもらうための練習もしています」(応対統括グループ 中曽根さん)

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「会話力」が非常に重要(ゲッティイメージズ)

 「1問1答で対応するお客様相談センターも多いですが、弊社はお客様の話を傾聴して、プラスアルファの情報を伝えるなど、寄り添った応対を心掛けています。1対1の質疑応答では味気ないじゃないですか。それだったらチャットボットでいいのです。人間がやるからには、気持ちよく話をしてもらいたいと考えています」(松村安津子センター長)

消費者の声から改良に至った事例

 同社では、年間で15件ほど消費者の声を反映して商品開発・改良を行っている。意見の多くはパッケージや使い勝手への指摘だという。

 「『Cook Do』の裏面に、作り方動画に飛べるQRコードを用意しているのですが、これはお客様の意見をもとにした施策です。

 Cook Doには『作り方がよく分からない』『CMで見るようなシャキシャキとしたキャベツに仕上がらない』などさまざまなご不満をいただいていました。声を読み込んでいると、調理に不慣れな方が使用している、高齢の方はパッケージが老眼で見えにくい、などの傾向が見えてきました。そこで、作り方が感覚的に分かるようなものも必要なのではないかと考え、動画を作成。パッケージからすぐにレシピ動画に飛べるようにしています。

 声を読むときは、社会の変化も意識するようにしています。今はシニアの方もインターネットやスマホを普通に使う時代だと思ったので、動画を採用しました。お客様からは『作り方で迷っていた時に、動画があったので分かりやすかった』など好評です」(企画・情報統括グループ 小宮山さん)

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Cook Do

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レシピ動画で感覚的に伝える工夫

 他にも、冷凍食品の「やわらか若鶏から揚げ」を小麦のアレルゲンフリーに変更。アレルギーを持つ人の増加、それに伴う問い合わせの増加を受けて対応した。「ほんだし」でもかつおエキスを使用することで小麦アレルギーフリーを実現している。

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やわらか若鶏から揚げ

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アレルゲンフリーに対応

「お客様の代弁者」であり「会社を守れる唯一の部署」である

 同社のお客さま相談センターは、「お客様の代弁者」であることを意識しているそうだ。同時に、お客さま相談センターは「会社を守れる唯一の部署」であるという。松村センター長は「健康危害などさまざまなリスクを管理する役割があるからこそ、常に『一歩対応を間違えると会社自体が危機に陥ってしまう』と感じています」と話した。

 「お客様相談センターは、会社の立場でものをいうのではなく、お客様と会社の中立的な立場でいる必要があります。お客様に寄り添うのはもちろんですが、会社に寄り添わないわけではありません。耳の痛いお話もたくさん寄せられますが、生活者の目線を忘れずに、お客様の声をしっかり伝えることが大事だと考えています。

 一方で、世の中の動きを1番感じる部門だな、とも感じていて。例えば、コロナ禍に入ってから『購入した商品を全てアルコールで吹いているのだが、賞味期限まで消えてしまう』という意見が寄せられて、びっくりしたことがあります。お客様の生活、行動の変化を最初にキャッチできるので、事業部にできるだけ速く伝えて、できるだけ速く改善をしたいと考えています」(松村センター長)

カスハラ対策も強化 平均勤続年数は「10年」

 電話対応は問い合わせ件数の多さなどに追われ、高い業務負荷に疲弊するケースが多い。また、昨今注目を集めている、顧客が従業員に対して悪質なクレームや不当な要求を突きつける迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の被害が多いことも特徴だ。味の素グループでは、どういった対策を実施しているのか。

 「カスハラ対策では、お客様相談センターが集まる専門家会議に参加するなど情報収集・情報交換をしつつ、対応するためのFAQを作っています。オペレーターで対応するのが難しい場合は、スーパーバイザーに交代。スーパーバイザーがカスハラにあたると判断した場合、すぐに社員と連携し、同時に音声を聞きながら終了の方向に持っていくように指示を出しています」(応対統括グループ 中曽根さん)

 業務の効率化も強化している。販売店検索システムやFAQシステムを構築・導入したり、文字起こしシステムを使用したり、業務軽減の支援をしている。

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味の素のお問い合わせページ(公式Webサイトより)

 一般的に離職率が高いとされるコールセンター業務だが、味の素グループのお客様相談センターは、平均勤続年数が10年。どういったフォローをしているのか。

 「オペレーターは『うまくいかなかった』『強いことを言われた』など、ストレスを感じてしまうことが多いです。朝礼や夕礼で声掛けをしストレス状態を逐一チェックし、『翌日に残さない』ようにしています。

 教育体制も手厚く、入社してからの3カ月はスーパーバイザーと並走して電話を取るなど、心理的安全性が高い状態を保つことを意識しています」(応対統括グループ 中曽根さん)

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カスハラ対策も強化(ゲッティイメージズ)

今後はチャットボットの活用も強化

 現状は電話、メール、手紙でのやりとりがメインだが、今後はチャットボットの活用、YouTubeでの情報発信なども強化する姿勢だ。

 「お客さま相談センターに寄せられるご意見はじわじわと減少しています。お客様が満足してくれていることもありますが、お客様相談センターが開いている時間帯に電話をできる人が減少していることも原因だと考えています。センターが開いていないときでも気軽に問い合わせができる環境を整備していきたいです」(企画・情報統括グループ 小宮山さん)

元記事はこちら



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