
企業・業界動向
ダノンジャパン社長に聞く「日本発のオイコスが世界に展開できた理由」
乳製品を中心とした食料品を製造するフランスのメーカー「ダノン」。ダノンジャパンのローワン・ボワシエ社長に、国産の乳製品メーカーが群雄割拠する日本市場でのビジネス展開について聞いた。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([武田信晃]/2022年11月22日掲載)からの転載記事です。
乳製品を中心とした食料品を製造するフランスのメーカー「ダノン」。日本ではプロテイン入りヨーグルトの「オイコス」で長らくCMを流しており、最近も東京五輪のスポーツクライミングの女子複合で銀メダルに輝いた野中生萌さんをCMキャラクターに起用するなど、積極的にビジネスを展開している。
プロテイン入りヨーグルトの「オイコス」
スポーツクライミングの野中生萌さんをCMキャラクターに起用
ダノンの商品は120の国と地域で販売されており、9万8000人の従業員を抱えている。2021年度の売上高は243億ユーロ(約3兆4000億円)で、その57%が北米と欧州、43%がアジア太平洋、ラテンアメリカなどの欧米以外の地域のものだ。
2021年度の売上高は243億ユーロ(約3兆4000億円)
カテゴリー別では「チルド乳製品と植物由来の製品」が54%、「専門栄養食品」が30%、「ウォーター」が16%となっている。
売り上げ比率は「チルド乳製品と植物由来の製品」が54%、「専門栄養食品」が30%、「ウォーター」が16%
中国・北アジア&オセアニア地域に属する日本法人のダノンジャパンには40年以上の歴史があり、同社は群馬県の館林市に工場を構えている。
ダノンジャパンはグローバルから見ると、チルド乳製品と植物由来の製品の「イノベーションハブ」として位置づけられている。
ダノンジャパンはチルド乳製品と植物由来の製品の「イノベーションハブ」として位置づけられている
日本では「チルド乳製品と植物由来の製品」と「ウォーター」の2つのカテゴリーを展開している。前者の「ダノンビオ」は前年比で2桁成長、「オイコス」も19年4月から前年同期比で連続して2桁成長、20年に上市した「アルプロ オーツミルク」が前年比3桁成長となっている。
なお、ウォーターのカテゴリー商品である「エビアン」は日本市場ではダノンジャパンの管理下ではなく、伊藤園と伊藤忠商事が独占販売権と独占輸入権をそれぞれ保有している。
ダノンジャパンのローワン・ボワシエ社長に、国産の乳製品メーカーが群雄割拠する日本市場でのビジネス展開について聞いた。
ローラン・ボワシエ(Laurent Boissier) 1969年5月生まれ。ボストン・コンサルティング・グループを経て2002年ダノン本社(フランス・パリ)入社。ストラテジックプランニング部門でストラテジックプランニングディレクターを務める。2007年ダノンタイランド、ジェネラルマネジャー。14年ダノントルコ、チルド乳製品事業ジェネラルマネジャー。17年ダノンCBU AIG(オーストリア、スイス、イタリア、ギリシャ、ドイツ)、ジェネラルマネジャー。19年ダノンEDP(チルド乳製品と植物由来の製品)事業部中央ヨーロッパ・北欧担当。2021年ダノンジャパン、ジェネラルマネジャー就任
日本で誕生した「オイコス」 世界展開できた理由
――ダノンにとって日本市場は、どんな位置付けでしょうか? 他市場と比べてどんな特徴を持っていますか?
日本市場は一言でいえば「医食同源」です。病気を治療するのも食事をするのも、共に生命を養い健康を保つためには欠くことができないもので、源は同じだということですね。日本人は、食が人々の健康に関係が深いものであることを理解しています。
私たちの機能性食品は人々の健康に資するところにミッションを見いだしています。その意味で、日本はダノンにとって興味深い国ですし、世界に展開できる1つのインスピレーションの源にもなっています。
つまりイノベーションの源泉であり、チルド乳製品の新しいアイデアの発想元とも言えます。高タンパク質・脂肪ゼロ・100キロカロリー未満のヨーグルト「オイコス」はまさに日本で誕生し、製品名は変えているものの欧米などへと広がっていきました。
オーツミルクの「アルプロ」はもともと、米ホワイトウェーブのブランドで、2017年にダノンが買収しました。これをアジア展開しようとするとき、まず思いつくのは「日本市場で成功しよう」ということです。
日本でテストし、日本人のニーズを捉え、市場展開をしていきます。その過程で、アジア市場との共通性も見いだせるので、例えば東南アジア市場参入へのヒントにもなるのです。
アルプロ
――マーケティングの手法として新商品を地方の札幌市などでテストし、成功すると全国展開するという話を聞いたことがあります。ダノンの場合は日本で成功すると世界で成功する確率が高いと、考えていいですか?
日本人は、製品の機能性やパッケージなどへの興味が高いので、日本で成功すると海外でうまくいく確率は高いと思います。私はタイにも住んでいましたが、日本はソフトパワーが強く、日本の影響はアジア全体で看過できないものがありました。
躍進を続けるダノンジャパンのブランド
――先ほど、日本はイノベーションのハブになっていると話していましたが、ダノンジャパンには研究開発センターがあるのですか?
R&Dセンターのような拠点はありませんが、研究開発チームは持っています。チームはパイロットプラントという小さな商品開発用の工場を持ち、日本の消費者に喜ばれる商品を開発しています。もちろん、仏パリにあるR&Dのチームとも密接に連携をしています。
カテゴリーによってアプローチを変える
――商品は販売先の嗜好に合わせた味にするのですか? それともオリジナルの味で販売するのですか?
カテゴリーによってアプローチを変えます。専門栄養食品は一元管理をするので味に変わりはありません。チルド乳製品と植物由来の製品は、日本のために開発したレシピを作り展開しています。また、日本では季節限定商品が重要で、季節ごとに商品を発売したりもしています。
――ちなみに日本人はどういった味を好みますか?
例えばストロベリーもいくつか系統があるのですが、ジャムっぽい味と摘みたていちごのようなフレッシュな味があるとします。日本でジャムっぽいのを好きなのは年配の方で、摘みたていちごは若い人が好みます。ブランドによって、どの層に買ってもらいたいかを決めて最適な味を選んでいます。
――ダノンは日本でも長らくビジネスをしていて、味の素と協業していました。個人的に私がダノンを知ったのは1990年代前半のイタリアのサッカーチーム、ユベントスのスポンサーとしてです。その後、カナダ、香港に住みましたが現地でのダノンの存在は日本と比べて強かった印象があります。日本でエビアンは知られていますが、他の商品について、今後どのように存在感を高め、差別化を図っていきますか?
おっしゃる通りです。ダノンは、最初からグローバルなビジネスをしてきたというより、ローカルビジネスの集合体のようなところがあります。個々の市場によって、販売している商品も異なっていて、会社全体でみると多岐に渡るカテゴリーを展開してきました。
しかし、今は3つのカテゴリーに絞り込んでいます。理由は、1つの地域の成功事例を各地域に横展開したいからです。それが日本においては、ビオ、オイコス、アルプロだということです。
――日本でのヨーグルトのシェアを7%から13%にしたいとプレゼンで語っていましたが、どのように実現させますか?
13%まで拡大すると規模のメリットを享受することができます。次の3、4年で今の約2倍のシェアにしたいのですが、「戦場」をあまり広げず、必要なところに商品を届けることを確実に進めることが大事です。
ビオ、オイコス、アルプロに集中・特化することによって、飛躍的な伸びを実現するよりも着実にシェアを拡大していきたいと思っています。事実、過去3年間では毎年1%ずつシェアを拡大させてきました。それを継続していきます。
――ヨーグルトでの数値は分かりましたが、他のカテゴリーはどうですか?
ウォーターはダノンジャパンの業務範囲ではありませんので、すみませんが、お答えできません。植物由来の製品であるアルプロは現在3%のシェアです。伸びしろがあると思っていますが、植物由来の製品はまだ歴史が浅いこともあり、目標数値を設定する段階ではありません。
日本の消費者は保守的な面もあるので、今はアルプロの知名度を上げ、しっかりと育てていきたいです。「専門栄養食品」は検討を重ねていますが、まだ日本では事業展開するまでに至っていないという見解です。
新工場の建設 生産能力向上を常に考える
――世界のトップ3市場は米国、中国、フランスとなっています。日本市場での目標数字はありますか? 合わせて売上目標も教えてください。
申し訳ないのですが個別の国・地域の数字については開示していません。トップ5に日本は入っていないとだけはお伝えしておきます。だからと言って、日本市場の重要性が下がるとは考えておりません。
特に仏パリ本社の認識として、チルド乳製品と植物由来の製品では日本市場への関心は高いと思っています。日本の存在感をより高めるには、生産能力の増大が大事だと考えております。
私の仕事の1つは、ダノン本社に日本がどれだけ投資をするべき国であるかを認識してもらうことです。幸い、オイコスの生産ラインを2倍にまで増強することになりました。
――日本への投資を増やすとのことですが、館林工場の生産能力向上の他に、例えば、別工場の建設も考えているのですか?
いい質問だと思います。別な新工場を新しく建てるのか、生産委託または共同生産という形なのか。
日本は天災が多く、1つの工場に依存すると事業の継続性に問題が出る可能性もあるので、そういった点からも考えます。さらに言えば、輸送費の高さがあります。館林から西日本方面に商品を運ぶのはコストがかかるので西側に新しい工場を建設する方法もあります。常に、生産チームと話をしながら進めている状況です。
――新型コロナの影響で在宅勤務が増えるなど行動変容が起こりました。一部は元に戻らない可能性もあります。そういう環境下でのビジネスはどうしますか?
実はいろいろな形で、異なる方法によって消費者の行動を毎週のように調査しています。その分析の中で、将来の大きなニーズが見えてきますので、それに応じて対応していくことになります。
――行動調査がシェアの拡大につながっていると思うのですが、その一方で日本は少子化が進んでおり、市場が小さくなっていきます。シェアを取り、かつ成長していく難しさとは何ですか?
それを乗り越えるには、健康のためのソリューションを特定の世代に届ける方法があります。日本は高齢化社会ですので、健康寿命を獲得していく商品が考えられます。こちらも日本で成功すれば、他の国や地域での横展開が可能となります。
――SDGsが世界全体で叫ばれており、パッケージングも大きな要素となります。どのような対策をしていますか?
2つの課題があると思っています。各国・地域において法規制が違うので均一性がありません。日本においても廃棄物の素材の循環性についてはっきりとした方針が打ち出されていません。私たちとしては、どうやってエコな包装にしていくのかという点からみるので、正しい投資をしなければいけません。そのために、現地の法律を理解するのが1つです。
2つ目として、サステイナブルな素材を使うことは、高価になるので代価を払っていただくことになります。「コストを消費者に吸収してもらえるか?」という中で、理解を深めてもらうための説明が必要だと思います。
毎週、消費行動を調査
以上がボワシエ社長へのインタビュー内容だ。日本には国内メーカーもあり、乳製品などの競争が激しい。その上、日本の消費者は体内に入れる商品には特に厳しい目を向ける。それだけに、綿密な計画を実行しないと市場から淘汰されてしまいかねない。
ダノンは毎週、消費行動を調査して日本人の特性を理解することに注力している。それが乳製品でのシェア拡大に寄与しているのだろう。
しかも製品開発に生かされ、オイコスが日本発で世界に広がっていった。もし高齢者向けの商品が開発できれば、それも横展開できるという発想を持っている。ガラパゴスな商品が多い日本で、タノンが日本で展開しているビジネスの手法は日本企業の1つのヒントになると言えそうだ。
元記事はこちら
この記事が気に入ったらフォロー
ニュースレター登録で最新情報をお届けします!
著者情報

- ITmedia ビジネスオンライン
- 「ITmedia ビジネスオンライン」は、企業ビジネスの最新動向、先進事例を伝えることで、その発展を後押しする、オンラインビジネス誌です。「ニュースを考える、ビジネスモデルを知る」をコンセプトとし、各業界を代表する有力企業から新たなビジネスを提案する新興企業まで、多くの企業への取材を通して、その最新動向や戦略を紐解き、企業の現場で活躍するアクションリーダーに分かりやすく伝えます。