マクドナルドV字回復の立役者 ファミマ足立光CMOに聞く「ヒット商品を連発する極意」

マクドナルドV字回復の立役者 ファミマ足立光CMOに聞く「ヒット商品を連発する極意」

ファミリーマートが2022年10月に発売したポテトチップスとハイボールがSNSで話題を集め、売れに売れている。日本マクドナルドの業績のV字回復に大きな貢献をしたファミマ初のCMO足立光氏にインタビュー。ヒット商品を連発する極意を聞いた。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([乃木章]/2023年1月6日掲載)からの転載記事です。

 ファミリーマートが2022年10月に発売したポテトチップスとハイボールがSNSで話題を集め、売れに売れている。

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「WAGYUMAFIA」監修のコラボレーション商品「ポテトチップス ULTRA GARLIC」「ULTRA HIGHBALL」(以下プレスリリースの写真でないものは撮影:乃木章)

 ホリエモンこと堀江貴文氏と、シェフ・浜田寿人が16年に創業した完全会員制の高級和牛レストラン「WAGYUMAFIA」監修のコラボレーション商品「ポテトチップス ULTRA GARLIC」「ULTRA HIGHBALL」だ(店舗により取り扱いがない場合もある)。

 21年に初めて発売した「ポテトチップス ULTRA GARLIC」はわずか1カ月ほどで完売。ファミマ限定のポテトチップス商品の売り上げとして過去最大の実績を作った。

 22年は前回の1.41倍の生産数に加え、相性抜群のハイボール「ULTRA HIGHBALL」を新たに発売したものの、現在は店頭でも品薄になっているほどの売れ行きだ。

 「ポテトチップス ULTRA GARLIC」に限らず、近年のファミマはファミチキ超えの記録を打ち立てた「クリスピーチキン」、PB「ファミマル」の誕生、ファミリーマート40周年にちなんだ「お値段そのまま!! 40%増量作戦」といった施策によって、数々のヒット商品を生み出している。そのマーケティングをけん引するのが、日本マクドナルドの業績のV字回復に大きな貢献をしたファミマ初のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)・足立光氏だ。

 多くの新商品をヒットさせた足立氏は意外にも、「新商品に頼らないこと」が重要だと語る。ファミリーマートに限らず、コンビニは年間を通して数多くの新商品を生み出していて、客に飽きられないようにする施策を取り続けてきた。足立氏の言葉の真意に迫る。

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足立光(あだち ひかる)P&Gジャパン、 シュワルツコフ ヘンケル社長・会長、ワールド執行役員、日本マクドナルド 上級執行役員・マーケティング本部長、 ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング(APAC)などを経て、 2020年10月よりファミリーマート初のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)に就任。オンラインサロン「無双塾」も主催

異色のコラボは話題性を重視した

――21年、「ポテトチップス ULTRA GARLIC」は初週の販売数が過去最大の売り上げを記録し、約1カ月で完売するほどヒットしました。この理由をどのように分析していますか? どのくらいの売り上げ目標があるのでしょうか?

 3つの理由があると思っています。まずはコンセプトを含めてパッケージが斬新だったこと。商品情報がほとんど記載されておらず、白色に商品名だけのデザインが圧倒的に目立ちましたよね。デザインは浜田さんのアイデアで、ポテトチップスの棚に並べるのだから間違えようがないというのが前提にありますが。

 次に実際に買って袋を開けた時に、強烈なガーリックの匂いが押し寄せてくるエクストリームな味。思わずツッコミを入れたくなりますよね。私はこれを「突っ込まれビリティ」と言っているんですが、話題化したい時の一つのポイントで、みんなに突っ込まれやすかったのが大きかったです。

 最後に、プレスリリースやTwitter、堀江さんや浜田さんのメディアでの告知がうまく機能して圧倒的な拡散につながったこと。本来、当社は全国チェーンとはいえど、ポテトチップスの商品を広告に出すことがほぼないのですが、広告を出さなくても商品が売れるというモデルを一つ作れたと思っています。

 今回の生産数は21年の1.41倍ですので、必然的にそれが目標数値になっています。過去最高の更新ですね。

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ホリエモンこと堀江貴文氏と、シェフ・浜田寿人氏が16年に創業した完全会員制の高級和牛レストラン「WAGYUMAFIA」監修のコラボレーション商品

「匂いの強さ」という短所を特長として訴求

――「ポテトチップス ULTRA GARLIC」がガーリック味に決まるまで、どんな流れがあったのでしょうか?

 初めに今までなかったような味わいが欲しいと決めていました。メーカーの山芳製菓さんに何パターンか出してもらった中から、「わさびとビーフ」の味が実は好評でしたが、山芳製菓さんの看板商品の「わさビーフ」と競合してしまうので難しいと言われました。

 そうは言われても、ある程度エクストリームな味わいじゃないと発売しても面白くないので、最後は「WAGYUMAFIA」にちなんで肉と相性が良いガーリックにしようと絞っていきました。最後の決め手は、あの開けた時の圧倒的な香りの強さですよね。正直、堀江さんのブランドイメージとしてふさわしい強烈なものだと思いますし、「ULTRA HIGHBALL」とも相性が良いです。

 一方で、ご家族でも召し上がっていただきたい思いもあり、小さなお子さまなどにはお楽しみいただきにくい「わさび」を最後に外したというのもありました。

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「ポテトチップスULTRA GARLIC」(プレスリリースより)

――ガーリック味の強烈な匂いは弱点でもあると思ったのですが、マーケティング面でイケると手応えがあったのでしょうか?

 匂いの強さこそがまさに突っ込まれやすい点であり、短所だとしても隠せないので、そこは商品の特長として訴求しました。

 すでにポテトチップスのガーリック味はありますし、ニンニクは間違いなく広く受け入れられる味なんですよ。もちろん、普段はあまりニンニクを召し上がらない方もいますが、一般的にニンニクが大嫌いだという方は多くはありません。

 例えば激辛だと、対象のお客さまが極端に狭くなっちゃうんですよね。間口が広いこと、つまりはお買い上げいただく方の層が広くなることが重要です。

 そして、匂いの強さはまさに突っ込まれやすいので話題化されていくんです。今の時代、話題化しても商品が売れるわけでは全くありませんが、話題化しないと売れません。われわれは売れるような話題化っていうことを常に考えながら一生懸命努力しています。

――今回、新発売したアルコール飲料「ULTRA HIGHBALL」は、「WAGYUMAFIA」で発売している「WAGYUMAFIA ORIGINAL HIGHBALL」とは違う味わいということでしょうか?

 価格を売れ筋の価格に抑えるという点でも、全く同じ商品を発売するのは難しかったので、そちらを参考にしながらも「ポテトチップス ULTRA GARLIC」と合う物を作りました。

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「ULTRA HIGHBALL」(プレスリリースより)

 爽やかでキレが良いかんきつ系のフレーバーをいくつかパターンを出してもらった中から選んでいます。個人的には爽やかな味わいに仕上がったと思います。これは堀江さんも仰っていましたが、海外ではハイボールはジャパニーズウイスキーだと見られている点があり、「ULTRA HIGHBALL」もその一翼を担っている面があると思います。

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「WAGYUMAFIA ORIGINAL HIGHBALL」。パッケージが異なる

定番商品を強化することが基盤

――話題化を狙うという戦略は理解しました。一方で、話題化しても売れないことも指摘していました。ファミマの中で新商品の売り上げはどれくらい重要なのでしょうか?

 新商品はどこのコンビニやスーパーでもやってらっしゃることなので、それはそれでもちろん重要なんです。ただ、そういった「期間限定商品」も大事なんですが、実は私が意識してやっていることは、定番を強化することなんです。

 商品は大体、三層ぐらいに分けられるんですね。定番は一年間、常に置いてあるもので、実は売り上げの大部分がここなので、とても大事なんです。

 次に季節の定番がありまして、例えば春の苺、秋でしたら芋や栗などですね。季節ごとに毎年必ず出てくるものですから、こちらも大事です。

 そして最後に、スポットとして期間限定または売り切れ後免で発売する、とても話題になるような商品があるわけです。今回の、「ポテトチップス ULTRA GARLIC」や「ULTRA HIGHBALL」がまさにそうですね。

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――つまり、新商品の優先順位が一番低いということなのでしょうか?

 新商品ばかりを強化してしまうと、いわゆる定番商品の層が薄くなってしまい、安定的に売れるものが薄くなってしまいますし、お客さま的には「いつもの」商品が棚に無かったら失望してしまいます。また新商品は売ってみないと、どれくらい売れるのか分からない点もあり、リスクが高くなります。

 売り上げの大部分が定番なのに、これでは本末転倒ですよね。なので、定番を十分に太く強くした上で、季節の定番を増やしていき、かつ話題性がある商品も展開してお客さまにご来店いただかなければいけません。

 コンビニという業態は新鮮さも大事ですが、安定性もすごく大事だと思うので、定番や季節の定番を強化しながら、新鮮さや話題性がある新商品も出していく。そのバランスが重要だと思います。

――定番や季節の定番を強化するとは、具体的にどんな施策を展開しているのでしょうか?

 定番を強化するという面では、「ファミマ・ザ・カレーパン」のような定番商品のリニューアルや強化、「ファミから」や「SPAMむすび」のような新しい定番商品の投入、「40%増量作戦」のような定番商品の話題化などのキャンペーンがあります。

 季節の定番ですと、ファミリーマートでは私が就任するまでは、春の苺(いちご)フェア「ファミマのいちご狩り」しかやっていなかったんですが、そのフォーマットを広げて秋には芋のフェアを始めたりしました。毎年必ず来る季節の定番商品を増やしているわけです。

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ファミマ・ザ・カレーパン(プレスリリースより)

化粧品業界でうまくいっている施策を持ってきた

――足立さんがCMOに就任してから2年以上が経ちました。ファミマ40周年にちなんだ「お値段そのまま!! 40%増量作戦」、新商品「クリスピーチキン」、PB「ファミマル」などの開発など数多くの施策を展開してきています。これらのアイデアは、いかにして生まれたのでしょうか?

 さすがに思い付きのアイデアを商品化やキャンペーン化したらリスクが高いので、十分な検討に基づいているのですが、実は増量とかのアイデアは他の業界、具体的には化粧品業界でうまくいっている施策をコンビニ業界に持ってきたんですよ。

 どの化粧品会社も年末に増量キャンペーンを展開していたので、そのアイデアを食品で使わせてもらいました。秋の定番の芋や栗にしても、他のお菓子などの業界ではいろいろとキャンペーンをしかけていたのを、ファミマでも展開しただけです。なので、よその業界や海外でうまく行っているアイデアには、常に注目しています。

――それだけ多くの施策を展開する上で、消費者がコンビニをどう捉えていると感じていますか? それに対してファミマの指針を教えてください。

 一概には言えないのですが、コンビニは若い方から年配の方までお客さまの年齢層が幅広いだけでなく、それこそ早朝や深夜の利用がメインの方もいらっしゃいます。とくに地方ですと、毎日スーパー代わりに利用してくださる方が多いですよね。

 一方で、都会では本当に自分が欲しいときに欲しいものだけを買いに行く方が多いですし、いろいろな小売りやECの使い分け方も人によって違いますし、千差万別なんですよ。これらの方々の全てとはいかないかもしれませんが、できるだけ多くの方のニーズに応えていきたいです。

 PB「ファミマル」にしても、ファミマにくれば、大体のものはそろっているということを目指して開発したんです。

 その上で、われわれは業界では「王者に対してのチャレンジャー」ですから、安定した地位にとどまらずにリスクを取りながら、どんどんチャレンジしていく姿勢を大事にしています。

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元記事はこちら



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