
食トレンド
【行った】ひとり焼肉の文化を確立した焼肉ライクの実力
「よしだけいすけの飲食店最前線巡り」のシリーズ18回目は、外食の中でもひとりで行きにくいと言われる焼肉で、そのハードルを克服してくれた焼肉ライクにお邪魔しました。ひとりでも気にならない環境をどう整えているのか、その魅力に迫ります。
前回記事:【行った】分身ロボット・オリヒメがつくる新しい働き方と人手不足解消の光
ひとりで行きにくい焼肉にあえてチャレンジ
みなさんがひとりで行きにくい飲食店はどんなお店ですか? ひとり〇〇できるもの、できないものは人によって異なり、日常会話でも盛り上がる鉄板ネタですよね。こと飲食においては、クロス・マーケティングの調査結果を参照すると、鍋・しゃぶしゃぶ、食べ放題、焼肉が上位3位となっています。
「行きにくい」の裏側には「本当はひとりで行きたいけど」というインサイトも存在していると感じます。ひとりで行く必要がないのではなく、「ひとりで行きたいけどちょっと…」という葛藤がありそうです。
「行きにくい」の理由としては、ひとりで食べに来ていると周囲に思われること、居心地の悪さ、行ったことがない場所にひとりで行きたくない、などの理由があげられていました。
一方で、核家族化やひとり世帯の増加、さらにはコロナ禍における大人数での食事の敬遠などもあり、ひとりで食事をするシーンは近年確実に増えていると感じます。
そんな中、ひとりで行きにくい飲食店3位の「焼肉」において、ひとり焼肉需要に応えるべく、果敢にチャレンジしているのが「焼肉ライク」です。なぜひとり焼肉というポジションを確立できたのか、実際に現場で探ってみたいと思います。
ひとりでも不安がない環境
焼肉ライクは2018年8月に1号店をオープンし、2023年1月時点で92店舗まで増やしています。開業してから1年半後には、新型コロナによって外食業界全体を逆風が襲いました。その中でも着実にニーズを捉えて店舗数を増やしているのは、コンセプトだけではなく、ひとり焼肉をとことん楽しめるスタイルがそこにあったからでしょう。
お邪魔したのは吉祥寺南口店。実は私も生まれて初めてのひとり焼肉です。ひとり焼肉にそこまで抵抗はありませんでしたが、「焼肉は誰かと一緒にワイワイ食べるもの」となんとなく思い込んでいたので行く機会がありませんでした。
店内に入ってみると、ひとりでも過ごせる空間作りが徹底されています。ほとんどがカウンター席で、壁側を向いてレイアウトされていること。そして1席ごとにパーテーションが用意されて、周りを気にせずに目の前の焼肉に没頭できることが印象的です。ひとりで行けるかどうかのポイントとして、周りの目が気にならないことや、スタッフとの会話が必要最低限であることは重要そうです。
驚いたのは来店者の客層でした。平日の19時過ぎでしたが席は9割ほど埋まっていて、男女比は半々ほどで年代が幅広い。それぞれひとり客なので話し声はありません。複数人のグループはおらず、ひとりで来ている人ばかりという状況は、ひとり焼肉をするにあたって何よりの勇気になると痛感します。ひとり同士の仲間意識…ちょっと大げさですが互いに干渉し合わない空気感からくる安心がここにはありました。
注文は各テーブルに設置されているオーダー端末で行います。トップページには、画像にあるように「焼肉ライクの楽しみ方」というチュートリアルが用意されており、初めての私の不安を払拭してくれました。
ひとりの時は、「これってどう注文するんですか?」などお店の人に聞くのも、なんだか気が引けるので、すべてこのタッチパネルで実現できるのはとてもありがたいことです。
注文から料理受け取りまで。オーダー端末が親切誘導
オーダー端末では肉の種類や量、さらにはライスの量まで細かく注文できるので、すべてこれ一台で完結。スタッフからの補足説明がいらない仕様は、ひとり焼肉にはとてもありがたいです。このようにひとり用に徹底するのは、実は簡単じゃないですよね。
注文すると画面で、次にやるべきことを知らせてくれます。火をつけて待つべしとのこと。一般的な焼肉店では注文時にスタッフが点火してくれるケースが多いですが、ここでは客が自分で点火します。
こうして「いま火をつけてください」と的確に伝えてもらえると、店舗側の作業オペレーションは減っていながら、客側から見ても嫌な気持ちがしないのが不思議です。双方ハッピーな仕組みが随所に盛り込まれていることを感じます。
注文送信してから5分も経たない頃合いで、端末から「商品ができあがりました」とお知らせがありました。テーブルにセットされている「ライクカード」を持って、料理提供窓口に自分で取りに行きます。セルフサービスによって、従業員数を最低限に抑えることができますね。
サービスを最低限にしたことで低価格を実現
受け取り口でお盆ごと受け取って自席に戻ったら、いよいよひとり焼肉のスタートです。ちなみにこれは「カルハラセット200g」で、文字通りカルビとハラミのハーフ&ハーフ。1530円でライスやスープも付いています。
焼肉は一般的にはハレの日の飲食店で、友人たちと焼肉へ行くとアレもコレも頼んで、ひとり3000円は優に超えてきますが、ひとり焼肉ではおそらく、1000~2000円くらいが平均客単価。自分が食べたいものだけ食べられるのはひとりならではの価値です。
また、複数人であれば焼く際に気を使うことを懸念する人もいるでしょう。いざ焼肉奉行となった日には肉を並べ、裏返し、焼き加減を気にしながら上司、先輩に取り分ける…そんな気使いも今日はいりません。自分のペースで、好きな焼き加減で楽しめるのです。
嬉しいのは調味料の豊富さ。こちらも各席にセットされているので、どこかに取りに行ったりスタッフに声をかける必要もありません。立ち上がることなく、色んな調味料を組み合わせながら堪能できる仕掛けが整っています。
気に入ったのは「ドストライク!ふりかけ」。ごはんにかけるものとして常備されています。そうそう、焼肉にはライスが不可欠派の人は、“焼肉バウンド食べ”も気兼ねなくできます。焼きあがった肉をタレに付けて、ライスで一度バウンドさせてから食べる。タレが少しついた白米をその後に食べる。人の目を気にせずに好きな食べ方をできるのも良いですね。
そう考えると、人によって楽しみ方が違う、好きな部位が違う焼肉は、実はひとりでこそ強みを発揮できる業態なのかも知れません。自宅には焼肉機器がなかったり、家の中が焼肉臭くなるのでおうち焼肉はハードルが高い。だからと言って誰かを誘うのも気が引けるシーンは実は多いのではないでしょうか。ひとり焼肉って理にかなってる。
再来店の提案も人ではなく端末でコミュニケーション
もちろん、追加注文も引き続きオーダー端末からできます。「もう少し食べたい。あの部位も食べたい」そんな時に誰にも気兼ねなく注文できるひとりの時間。おなかの容量は人によって違うからこそ、自分に合った量を調整できるのもひとりならではのメリットです。ただ、私のように食べ過ぎてしまうタイプの人は、ブレーキをかけてくれる同伴者がいないことは小さなリスクでもありました。
吉祥寺南口店には奥にテーブル席も用意されていて、2人で楽しむこともできます。「焼肉ライクは行ってみたいけど、まず初回は誰かと一緒に…」という人は2人で訪れて、店の雰囲気を知ってから、次はひとりで来てみるという流れもいいですね。
食べ終わったらテーブルにある会計札を持って、セルフレジでお会計をして終了。お店の人に声をかける必要は最初から最後まで、一度もありませんでした。もちろん各種キャッシュレスにも対応していることと、セルフレジに慣れていない人に向けて、画面で親切すぎるほどにやり方を表示してくれました。
なるほど、ひとり焼肉の魅力を体感できた時間でした。飲食店ビジネスで大切なのは、次に来店してもらえるかどうかです。人口減少が進む日本では、いかに1人の人が何度も来てくれるかが売上を維持するポイントになります。
焼肉ライクでは、オーダー端末が再来店の動機付けのコミュニケーションを担っています。550円で飲み放題の「ワンベロ」や、今後「ひとり鍋」がはじまる予告もされています。冒頭の調査であった、ひとりで行きにくい飲食店1位の「鍋」も楽しめるようになるのですね。
干渉されないひとり時間の充実をつくるDX
飲食店の接客とはどうあるべきか、考えさせられる時間でした。もともと飲食店は、場の提供であるからこそ、おいしい食べ物とホスピタリティあふれる接客をセットで提供して、満足度を高めることが鉄則です。一方で、昨今の原価や人件費の高騰、人材確保の難しさもあり、デジタル機器で人の仕事を担う店も増えています。
得てしてそれは、スタッフの仕事を客側に代替えしているように見えたり、ひとりに慣れない客にとってはストレスにもなり得ます。そこを上手く逆手にとったと感じるのが今回紹介した焼肉ライク。
場や過ごし方においてパーソナルスペースを確保し、誰からも干渉されない仕組みを作ることで、ひとりでも行きやすい店舗を実現しているのではないでしょうか。スタッフとほとんど会話をすることなく、注文から料理受け取り、点火、会計までがひとりでできる仕組みがあるからこそ、各デジタルツールが活かされていると感じました。
飲食店のDX化の重要性が叫ばれて久しいですが、あくまでも手段。ひとりで過ごす時間を有意義にするためという目的があるからこそ、受け手にとっても便利なものと感じる仕組みになっています。
【店舗情報】
焼肉ライク 吉祥寺南口店
住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町1-1-2
営業時間:年中無休 11:00~23:00
※2023年1月の取材時点での情報です。
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著者情報

- よしだけいすけ
- 2020年5月よりカラビナハート株式会社に入社。10社ほどの企業SNSアカウントのコンサル・運用支援を行っている。公式アカウントのフォロワー増や投稿のノウハウだけではなく、目的に合わせた目標設計やビジネス貢献の可視化、再現性ある仕組み作り、SNS担当者のトレーニングが得意領域。2020年4月までは株式会社すかいらーくHDのマーケティング本部にてコンテンツコミュニケーションチームのリーダー。7つの公式Twitterアカウントを立ち上げて合計210万フォロワーに。広告宣伝のほかアプリ、メルマガ、公式サイト、ファン施策、ポイントプログラムなどを担当した。店舗勤務含めて15年間在籍。
Twitter:https://twitter.com/ruiji_31
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