
グローバルフードトレンド
7年も鳴かず飛ばずだったハイチュウ、なぜ米国で爆売れしたのか 「もぐもぐタイム」が火付け役
米国でのハイチュウ人気が止まらない。しかし、米国に本格進出した08年からの7年間は鳴かず飛ばずの状態だったという。21年の売り上げは約105億円に上るとのことだが、ここまで成長できたのはなぜかというと……
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([スギモトアイ]/2023年1月17日掲載)からの転載記事です。
米国でのハイチュウ人気が止まらない。日本を飛び出したハイチュウに、異国の地で何が起こっているのか。製造販売元である森永製菓に聞いた。
海外で「HI-CHEW(ハイチュウ)」というブランドで展開されているハイチュウは、森永製菓の重点領域である米国事業の絶対的エースだ。同社の2023年3月期決算説明会資料によると、ハイチュウの21年度の売上高は9200万ドル、日本円に換算すると約105億円を突破し、営業利益も過去最高の14億円を達成した。
ハイチュウの2021年度の売上高は9200万ドルに到達した(画像:森永製菓「2023年3月期決算説明会資料」より)
最初、ハイチュウはマリーやムーンライトなどのビスケット、チョコレートやキャラメルといった菓子の一つとして輸出されていた。そんなハイチュウに最初の転機が訪れたのは08年――ハワイでハイチュウが売れていると分かった時だ。
「理由を調べていくと、日本人観光客やアジア系の人だけでなく、どうやら現地の人も購入していることが分かってきたんです。『もしかしたら、米国全土にもいけるかもしれない......』という話が当時挙がっていました」(森永製菓の担当者)
西海岸にある日系人向けのスーパーでも森永製菓の商品は取り扱われており、ここでもハイチュウは他の菓子に比べ、売れていたそうだ。これらをきっかけに、本格的に米国でハイチュウを売り出そうと08年に森永製菓は米国法人を設立した。
同社の担当者は、ソフトキャンディ自体は米国でも販売されていると断った上で、「ハイチュウのような、フルーツの味わいを再現しながらも、噛み応えのある食感を持つソフトキャンディは珍しい商品だと思います」と話す。実際に米国内でも「本物のフルーツの味がする」「他のソフトキャンディにはない食感」と言う点で、ハイチュウが評価されているという。
今や米国で幅広く販売されているハイチュウ(画像:森永製菓提供)
しかし、実際にハイチュウが爆発的に売れ始めたのは15年頃だという。一体、この7年間にどのような苦労があったのだろうか。
ハワイでは人気だったけど……
米国法人を設立したからといって、いきなりハイチュウを米国全土で展開できるほど甘くはなかった。
日系やアジア系のスーパー、地元スーパーのアジアフードコーナー、コンビニなどに取り扱ってもらえたものの、日本との商習慣の違いから「導入そのものに一苦労した」と、担当者は当時を振り返る。
当時、とあるコンビニへの陳列を提案したものの、本部商談での全国導入は叶わなかった。しかし、店舗オーナーの「YES」を引き出せば店頭に並べてもらえる仕組みだったため、店舗商談に繰り出す日々が続いた。地元スーパーでは、「日本の商品だから」という理由で、菓子コーナーではなく、アジアフードコーナーに陳列されてしまう。また、日系スーパーがあるのは、西海岸か東海岸、ニューヨークぐらい。中央部の地域では販売すら叶わなかった。
地元スーパーの菓子コーナーに陳列してもらうことは難しかった(画像はイメージです)
担当者は「この頃の売り上げは期待に沿うものではなかった」と振り返る。「お店にどれだけ並べられるか、お客さまにどれだけ知ってもらえるかという両輪で見たとき、どちらも上手く回せていませんでした」
米国全土で目標を上回らないと採用されない
全国規模のスーパーを狙うためには、商品採用の決定権を持つバイヤーを説得する”何か”が必要だった。森永製菓の担当者たちは、バイヤーへの説得材料を集めようと、地元スーパーのアジアコーナーで実績を上げたり、地区採用してもらった店舗で販売目標数を達成したりと、地道な努力を日々積み重ねた。
ある全国チェーンのスーパーから、試しにキャンディコーナーにハイチュウを陳列しようとオファーを受けたとき、「実績を出せるかが不安だった」と担当者は吐露した。なぜなら米国のスーパーでは、地域ではなく、店舗規模でトライアル先が決定されるからだ。これは、店の大きさによって、置かれる商品アイテム数が決まっていることが関係する。日本のように、特定地域で試しに販売し、結果が出たら全国展開というスタイルとは異なる。
バイヤーは、全国の販売平均額が目標ラインに達するかどうかでその商品を評価する。もし西海岸の店舗が合格ラインだったとしても、他の地域が低かったら採用は厳しい。
商談も一苦労だった。「スーパーは年明けから春ごろにかけて商品を入れ替えるため、商談は前の年の夏から始まるのが一般的なスケジュールです。そこで採用されなかったら、次の夏まで基本的にチャンスがありません」
ハイチュウは、トライアル採用されては、目標数に届かずにカットされるを繰り返した。何回ぐらいで採用されたかを質問すると、「何回挑戦したかは、正直分からない」と苦笑が返ってきた。
「商談に落ちた翌年に、別のチェーン店での提供実績を持っていき、再度挑戦できないか提案したのも一度や二度ではありません。ただ、一度売れなかったという実績が残っているので、正直、再チャレンジ自体が難しかったです」(森永製菓の担当者)
何度も何度も挑戦し続け、14~15年頃にようやく全国規模のスーパーマーケットの菓子コーナーにハイチュウが置かれることが決まった。同時に、現地の人からの認知も急激に高まったという。
人気を爆速させたメジャーリーガーのもぐもぐタイム
全国販売と時を同じく、ハイチュウ爆売れの火付け役となる出来事がメジャーリーグで起こった。きっかけは、球団に所属していた日本人選手がチームメイトにハイチュウを差し入れたことだった。
「全ての球団に該当するかは分からないのですが、ブルペンに入る一番若手の選手が飲み物と軽食を用意する習慣がある球団もあったようです。そこにハイチュウを置いたところ大人気だったようで。選手としても毎回ハイチュウを日本で購入し、持参するのは大変だと、球団関係者から当社にご連絡いただき、商品を提供することになりました」(森永製菓の担当者)
メジャーリーガーがハイチュウを気に入ってくれることが分かった森永製菓は、球団とスポンサーシップ契約を結び、メジャーリーガーを通じたプロモーションに力を入れていく。いくつかの球団とスポンサーシップ契約を結び、ベンチにハイチュウを置くことを依頼したことで、試合中継にハイチュウを食べるメジャーリーガーたちの姿が映り込むようになった。現在は、シカゴ・カブスとセントルイス・カージナルスとタンパベイ・レイズの3球団とスポンサーシップ契約を結んでいる。
選手たちが試合中にハイチュウを食べる姿を見て、商品を知った消費者も少なくないだろう。実際に森永製菓が実施したハイチュウの認知調査では、口コミが圧倒的に多かった。メジャーリーガーが全ての要因ではないものの、その影響力は無視できない。
現在は高い認知率を誇る(画像:森永製菓「2022年3月期決算説明会資料より」)
全米におけるHI-CHEWのブランド認知率は48%に上る。販売店率も70%を超え、全米における取扱率も安定した。加えて、メジャーリーグという最強の起爆剤も持つ。しかし、消費者に買い続けてもらうためには、引き続き相当な工夫が必要だろう。
人気を継続させるためには?
ハイチュウが選ばれる存在であり続けるためには「常にお客さまの頭に残る商品であることが大切」だという。
「キャンディや菓子類は、店で見て購入するという衝動的な購買が多いと言われています。そのため、見た瞬間に『ハイチュウだ! 買おう!』となるような工夫が私たちには求められます」(森永製菓の担当者)
その一手が、FacebookやInstagramなどのSNS投稿やスタジアムでのサンプリングである。ハイチュウと消費者との接触回収を増やす努力を続ける一方で、グミなどの競合品との差別化を図るため、新フレーバーや新商品の開発にも力を入れている。
「ハイチュウが好きと話すお客さまも、毎日ハイチュウだけを食べているわけではありません。1週間に何回ハイチュウを食べてもらえるかというせめぎ合いを、競合商品と毎日しています。定期的に新しいフレーバーや新商品を出すことで、いかに飽きないでもらえるかを心がけています」
中でも「ハイチュウの強みは一つ一つのフレーバーの完成度」と森永製菓の担当者は自負する。「例えば、米国ではアサイーやドラゴンフルーツなど、他社が出してこないようなフレーバーを採用しています。風変わりな味が米国では人気があるんです。もちろん定番商品も味の再現度は高いです。一番売れているのは昔からあるORIGINAL MIXです」
一番人気の商品はORIGINAL MIX(画像:ハイチュウ公式Webサイトより)
長い下積み期間とマーケティングの結果、米国の土台を固めつつあるハイチュウは、このままメジャーリーガーたちを巻き込みながら成長していくのか、はたまた全く異なる路線からさらなる販路を拡大していくのか......ますます、これからのハイチュウの動きから目が離せない。
元記事はこちら
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著者情報

- ITmedia ビジネスオンライン
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