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食の偏愛コラム
[世界の台所探検]フライパンで作れる「インドのパン」の世界がすごい!
世界中の台所を訪れて現地の人と料理をする台所探検家・岡根谷実里さんのレポートから、世界各地の家庭料理を通じて、さまざまな食の文化と歴史、それぞれの暮らしを感じることができます。今回は、インドで日常的に作られている、フライパンで作れるパンをご紹介します。
※毎日の食卓を楽しくする「料理の知恵」メディア【クックパッドニュース】より
インドのパンといえば...
何が思いつくでしょうか。 インドカレー屋さんでおなじみの、皿からあふれる大きなナンでしょうか? 焼き立てのナンは、底面のパリッと感と中のふわっと感のコントラストがたまらず、ほんのり甘くておいしいですよね。「ナンおかわり無料」というお店のランチタイムには、もうお腹いっぱいなのについおかわりしたくなってしまいます。
しかし、実はインドの家庭では、ほとんどナンは作りません。 というのも、ナンを焼くにはタンドールという大きな窯が必要だから。加えて、ミネラル分の乏しい精白小麦粉で作られ、砂糖や油脂を使うこともあり、毎日食べるには健康的でないという考えもあるのです。
日常的に家庭で作るパンはチャパティと呼ばれ、「砂糖なし・発酵なし・オーブンなし」、その上材料3つで素材もヘルシーというとんでもなく工夫の詰まったものなのです。
インドの家庭で教わったパンの世界を、ご案内します。
発酵なし、意外な方法でふわっと膨らむ!
訪れたのは、インド西部グジャラート州の家庭。台所は、通りに面した家の中の一等地にあり、大きな窓からはたっぷりの太陽光が差し込んできます。家の奥にある日本の台所との扱いの差に驚く私に、この台所の主スヴァルナ母さんは笑いかけます。
「インドの台所に、太陽の光は大切。台所がきれいに保てるし、何より料理をする人が健やかな気持ちになれるでしょ?」 そう言いながら、昼食作りを始めました。今日の昼食は、さや豆のスパイス炒めに豆スープ。ひと通り料理ができたところで、チャパティ作り開始です。
パンを作るというと、私などは数ヶ月に一度作るくらいの大イベントなのですが、インドでは毎日のこと。棚から小麦粉を出してきて、手慣れた様子で進めていきます。 小麦粉は真っ白ではなく、アタという灰色がかった全粒粉。ばさばさっとお盆に入れて、塩をひとつまみ加えて、水を少しずつ加えながらこねていきます。ドライイーストは使わず、粉も水も一切計量なし。私の知っているパンの常識をひっくり返すやり方で、スヴァルナは淡々と「いつもの硬さ」に仕上げていきます。 生地ができたら30分ほどおいて、全体につやが出たらのばして焼いていきます。
細めの麺棒で丸く広げ、しっかり温めた縁なしの平たいフライパン(タワ)にのせると、数十秒あまりで一つ二つとぷっくり膨らみができてきます。それをひっくり返して裏面も焼き、完成...と思いきや。ここでタワをどかして、チャパティを炎の中に投入!燃えてしまうのではないかとあわてる私をよそに、チャパティは深呼吸するように気持ちよく膨らんで、風船のようなまんまるになっていきます。
ピークに達したら、つんとつついて火からおろし、しぼませながら精製バター(ギー)を片面に塗って完成です。
焼きはじめからものの1分あまり。焼きたてにかじりつくと、全粒粉の素朴な甘さと炎で焼いた香ばしさが鼻に抜け、噛めば噛むほど味わいがあり、止まりません。 発酵なし、オーブンも使わず、風船のように軽くて香ばしい絶品のパンができてしまったのです。
パンはチャパティだけではない。同じ材料で驚きのバリエーション
チャパティが膨らむ様子に興奮する私をみて、「同じ生地でもう一種類作れるんだよ」とスヴァルナが作って見せてくれたのが、フルカというパン。作り方は全く同じように見えるのですが、焼き上がった後もしぼむことなく、風船のような状態のまま。「チャパティよりも少しだけ厚く、焼き時間も少しだけ長いんだよ」というのですが、私にはわからない些細な違い。全く同じ材料で、二種類の違ったパンができてしまいました。
さらにこの後も展開は続きます。食べきらずに残ったチャパティは、何度かひっくりかえしながら両面焼いて、パリパリのクラッカーに。カクラと呼ばれるこれは、保存が効くので朝食や軽食に重宝します。
さらに、生地をのばす時に少しだけ厚くして、炎に投げ入れずに仕上げるとテプラに。
中にスパイシーなマッシュポテトを包んで平たくして焼いたら、アールー・ロティに。
まるで手品のように連日繰り広げられるパンの世界。こんなシンプルな道具と食材で、無数のバリエーションを生み出してしまうその手の力に、惚れ惚れしたのでした。日本に帰ってきてから、無限のバリエーションを作れることを夢みて、せっせとフライパンでチャパティを焼いています。
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著者情報

- 岡根谷実里
- 台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしている。これまで訪れた国は60カ国以上。2014年クックパッド入社。料理から見える社会や文化、歴史、風土を伝えている。
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