人口1075人の村でも黒字を実現 セコマ会長が「過疎地への出店は福祉ではない」と語る理由

人口1075人の村でも黒字を実現 セコマ会長が「過疎地への出店は福祉ではない」と語る理由

「奇跡のコンビニ」として知られる「セイコーマート初山別店」。人口1200人でまさかの黒字経営を実現した要因は──。セコマの過疎地への出店に対する姿勢を取材した。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([大村果歩]/2022年12月26日掲載)からの転載記事です。

 北海道には「奇跡のコンビニ」として知られる「セイコーマート初山別店」(北海道初山別村)がある。初山別村は人口1075人という小さな村だ。村の万屋(よろずや)的存在であった商店が閉店してから日々の買い物が困難になり、村長が自らセコマに直談判。「赤字覚悟」でなんとか開業に至った。

 そんなセイコーマート初山別店は、開業から8年を迎えた今、なんと黒字経営を続けているという。セコマの丸谷会長に、開業してから見えてきた店の面白い使われ方と、黒字化できた要因について聞いた。

<関連記事:「戦略がないのが戦略」 セコマ会長が語る、買い物難民を救った「初山別店」開業の背景

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「奇跡のコンビニ」として知られる「セイコーマート初山別店」(提供:セコマ)

「アイス」が爆売れ 買い物困難地域ならではの我慢

 2013年に初山別店を開業し、住民からは「歩いて買い物に行けるのは、すごく助かる」という声があちこちから聞かれた。セコマができる以前は、多くの住民が村の若者に車を出してもらい、週に一回ほど隣町に買い物に行っていたという。遠慮をしつつ送迎してもらっていたため、歩いてこれるのはいいねという声が多く寄せられたのだ。

 また、「暗くなると“人っ子一人いない”村だったのに、セコマができてから村全体が明るくなった」と、便利さだけでなく、村全体の雰囲気も変化したという評価が多く聞かれたという。

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コンビニができて、村全体の雰囲気も変化(提供:セコマ、初山別店のオープン日の様子)

 初山別店では、日常の食卓に並ぶ野菜や精肉、豆腐や納豆などの食品が非常によく売れる。“ミニスーパー”のような使われ方をされるため、通常店舗よりも肉・野菜類の売り場は大きく設けている。その他、丸谷会長が驚いたのは「アイス」が爆売れしたことだ。

 「お客さまに話を聞くと、今までは車で時間をかけて買い物に行っていたため、アイスを購入することができていなかったというのです。『アイスが買いたかったのよ』『ずっと食べたかったけれど我慢していたの』と、毎日アイスが買えることを大変喜んでいただきました。食品類に次ぐ売れ筋商品です」(丸谷会長)

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「アイス」が爆売れ(提供:セコマ、画像はアイス売り場のイメージ)

「イカそうめんが食べたい」「漬物用に黄色いザラメが欲しい」

 初山別店は、14年に開業した当初は赤字だったが、開業から8年を迎えた現在は黒字経営を実現している。開業当初の人口は約1200人だったが、現状は1075人(22年11月30日現在)。人口は減少しているのに、客単価がぐんぐん上がり、売り上げは好調だ。

 客単価向上の要因は「住民の要望を聞くこと」だという。初山別店をはじめとした過疎地域では、利用者からの要望を聞いて、標準店舗では用意していないさまざまな商品をそろえている。

 「例えば、『刺身が食べたい』『どうしてもイカソーメンが食べたい』『たくあんを漬けるために黄色いザラメが欲しい』といった要望に応えて、商品をそろえています。コンビニには絶対にないような商品も、その人のために用意するんです。物流や製造の機能もあるため、比較的すぐに商品を用意できています。他にも、花や野菜の種、大容量の調味料なども用意しています。こんなの置いているの? と驚く商品が多くて、面白いですよ。

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冷凍の刺身を用意(提供:セコマ)

 一つ一つ要望に応えていくことで、お客さまはセコマで買い物を完結できるようになります。お客さまとの関係が一層深まった結果、客単価が向上し、黒字化したのだと考えています。『地域の役に立てれば、大きな赤字にさえならなければいいかな』と始めたことが、お客さまに喜ばれ、さらに黒字になったのですから、こんなにいいことはないですよね」(丸谷会長)

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総菜なども多くそろえる(画像は別店舗)

 セコマでは、客と店員のコミュニケーションが活発に行われる。「おばあちゃん元気だった?」「久しぶりだね」「新しく入ったお菓子、おいしいから買わない?」という会話が普通に聞かれる。客と店員のコミュニケーションが活発だからこそ、一人一人のニーズを聞き出すことができ、顧客満足度向上に寄与しているのだ。

住民が力を合わせて「600万円寄付」 

 買い物できる店がないということは、住民にとって死活問題だ。農林水産省の「食料品アクセス問題」に関する全国市町村アンケート調査では、86.4%の市町村が「買い物が不便・困難な住民への対策が必要」と回答。その割合は2015年以降増加を続けている。

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86.4%の市町村が「買い物が不便・困難な住民への対策が必要」と回答(農林水産省「食料品アクセス問題」に関する全国市町村アンケートより)

 「お店がない地域の住民は本当に大変だと思います。例えば、ネットでガリガリ君を1個を頼むわけにはいかないでしょ? 70円のガリガリ君が、送料などを考るといくらになってしまうことか……。何でも通販で宅配できるから大丈夫というのは、都会の発想です。肉を200グラムだけ、通販で注文しますか? 調味料や夕飯の材料を1つ切らしちゃったというときは、コンビニに走っていくでしょう。もしお店がなかったら、生鮮品が不足してしまいます。やはり、リアル店舗は地域にとって必要不可欠なのです」(丸谷会長)

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買い物環境の改善が必要な理由・背景(農林水産省「食料品アクセス問題」に関する全国市町村アンケートより)

 セコマは初山別村以外でも多くの過疎地域に出店をしている。初山別村の事例は成功しているとはいえ、やはり過疎地域での出店はビジネスとして成り立たせることがかなり大変だろう。セコマには多くの地域から出店の依頼が来るというが、出店の可否はどのように選定しているのだろうか。

 「基本的に『何でもYES』の姿勢です。話をくれるだけでもありがたいと思っているので『何とか要望に応えられるように頑張ります』という考えで動いています。もちろんお断りするケースもありますよ。自治体が無関心で何も協力がない場合や、地元に根付いた商店があって競合してしまうケースなどです。買い物できる場所が1カ所もない、もうどうしようもないというときに初めて話が進んでいきます」(丸谷会長)

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小清水道の駅店(提供:セコマ)

 過疎地への出店では、「自治体の協力」が不可欠だ。実際に「セイコーマート上渚滑店」(北海道紋別市)の開業にあたっては、町の住民が600万円を寄付し、土地を提供したことで出店が実現した。

 「上渚滑町の出店では、国道沿いにあった古いドライブインを修繕してお店を建てようと考えていました。しかし、調べてみると物件が違法建築で、諦めなければいけなくなり……。それならばと住民の皆さんがお金を集めて、物件を解体して更地にし、買い取ってくれたのです。人口900人の町で、600万円ほどを土地の回収に使用していただきました。土地は住民が紋別市に寄付し、紋別市からセコマに無償で提供されています。

 このように、市区町村と何度も話し合いを重ね、協力し合うことができなければ、各地域での出店は実現できません。こんなの、経営戦略でなんて出せませんよ。各店舗で戦略を考えているというより、なんとか出店できるスキームを作り出している感じです。何とかしてあげたい、しかし私たちだけでは難しい。だから、自治体や住民の協力を仰ぎ、何とか実現できているんです」(丸谷会長)

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上渚滑町(提供:セコマ)

福祉はダメ 地域と共に店を守り抜く

 丸谷会長は「とはいえ、福祉ではないのだから赤字はよくない。福祉の考え方はダメです」とキッパリ言う。

 「出店して、1年営業して閉店では意味がないんです。その地域でずっと店舗が存続することを考えなくてはいけません。覚悟を決めて出店する。そして、住民の方も一生懸命使ってくれる。セコマと、自治体と、住民が一体となり、店を守っていくことが大切です」(丸谷会長)

リアル店舗のあったかさ

 「こうして話していると分かってくるでしょう? 経営とか戦略なんかじゃなくて、企業の本質的な考え方。私たちは地域から恩恵を受けていますから、地域の役に立ちたい、ただそれだけなんです。地域に役立つ仕事をすれば、地域から何かが返ってくると思っています。それが小さいものであっても、売り上げや利益に結び付いていくのではないでしょうか? 『戦略的に過疎地に出店して、どうやっていくつもり?』などとよく聞かれますが、どうしてこの人は分からないのだろうなと思いますよ」(丸谷会長)

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セコマのホットシェフ

 セコマの事業の本質である「地域の役に立つ」「地域のために」という考えが、北海道中の自治体を動かし、多くの買い物難民を救っているのだ。自治体や住民と協力し合って店舗を生み出し、育て、守っていくというのは、“地域密着”を体現するセコマだからできることだろう。

 「Webで物を買う時代になり、『リアル店舗はもう時代遅れだ』『コンビニもスーパーも、今後はアマゾンとの戦いだ』といわれています。しかし、それ以前に、自分たちがリアル店舗を本当に有効活用しているのか、本当にお客さまが必要とするものを置いているのかを考えるべきではないでしょうか? 一人一人のお客さまとの親密度を高めることができれば、客単価も通常の1.5倍まで行きつくのですから。

 今後も必要な場所に、必要な時期に、満を持して出店していこうと思います。人口が減っていく中でも売り上げが上がるということは、お客さまとのつながり、密接度が深くなっているということ。このつながりこそが、リアル店舗の良さであり、“あたたかみ”なのだと思います。顧客満足度、従業員の満足度、お客さんとのコミュニケーションを重要視しているからこそ、お店を愛する気持ちはどんどん醸成されていくと思っています」(丸谷会長)

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リアル店舗の“あったかさ”を重視(画像はホットシェフの人気商品「フライドチキン」)

元記事はこちら



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