「本物のハンバーガーを伝えたい」 王者マックに“ケンカ?”も仕掛けるバーガーキングの強気な戦略とは?

「本物のハンバーガーを伝えたい」 王者マックに“ケンカ?”も仕掛けるバーガーキングの強気な戦略とは?

日本において圧倒的な支持を集めるハンバーガーチェーンといえば、「マクドナルド」。そんな“マック一強”と思われる日本において、昨今成長を続けるのが「バーガーキング」だ。「本物のハンバーガーを伝えることが私たちの役目」――野村代表が語る戦略とは。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([大村果歩]/2023年2月17日掲載)からの転載記事です。

 日本において圧倒的な支持を集めるハンバーガーチェーンといえば、「マクドナルド」(以下、マック)を思い浮かべる人がほとんどだろう。1月時点でのマックの店舗数は2965店に対し、モスバーガーは1272店。圧倒的存在感を誇っている。

 そんな“マック一強”と思われる日本において、昨今店舗数を増やし、インパクトのある商品・プロモーションを展開して注目を集めているのがバーガーキングだ。

 「本物のハンバーガーを伝えることが私たちの役目」――ビーケージャパンホールディングスの野村一裕代表取締役社長に、好調の要因と今後の戦略を聞いた。

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「本物のハンバーガーを伝えることが私たちの役目」――バーガーキング代表が語る強気な戦略(プレスリリース)

3年連続売り上げ130%以上を達成 好調のバーガーキング

 バーガーキングは1954年に設立した世界で2番目に大きなファストフードハンバーガーチェーンである。日本では、ビーケージャパンホールディングスが国内マーケティング、店舗運営、メニュー開発、販売戦略などの全権を担う。

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バーガーキングの運営はビーケージャパンホールディングスが担当(プレスリリース)

 同社は昨今全国への出店を急速に進めている。2019年から22年の3年間で新たに135店舗出店。具体的な売り上げは公表していないものの、「19年から毎年売り上げ130%以上を達成している」(野村氏)という。

 バーガーは一般的なものと比較して約1.4倍の大きさで、バンズの直径は約13センチ。ビーフパティは約125グラムと食べ応え抜群だ。メインの客層は30代後半~50代前半の男性だという。

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バーガーキングの商品は一般的なバーガーより1.4倍デカい(公式Webサイト)

 最近は20~30代女性利用者も増加している。客層拡大の背景にはバーガー、フレンチフライ、ドリンクをセットでお得に提供する「キングバリュー」の存在がある。一般的なバーガーと大体同じ大きさの「ワッパーJr.」などのセットを、550円、600円、650円で提供している。

 「キングバリューシリーズは朝昼夜問わず、毎日変わらず提供しています。『常にお得』であることが評価されているようです」(野村氏)

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キングバリューシリーズ

“デカい”だけじゃない、ウマいハンバーガーを追求

 同社の商品は「直火焼き」であることが最大の特長。他チェーンは鉄板での調理が多いが、直火焼きにこだわることで、他社にはない“バーベキュー感”を訴求している。

 かつてはインパクトがある「大きさ」ばかり押していたが、20年から「直火焼き」というワードを前面に打ち出して宣伝活動を実施。より「味」にフォーカスして消費者に訴えている。

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トレイのマットでも「直火焼き」の魅力を伝える

 実際に、同社が毎年実施しているブランド力調査では「ベストバーガー」「ベストビーフバーガー」「ベストテイスト」で1位を獲得。バーガーそのものへの評価が高いのに対して、「ベストバラエティ」「ベストプロモーション」などの項目ではマックの方が高い評価を集めているという。

 野村氏は「プロモーションやバラエティで1位になりたいわけではありません。私たちの価値は『味』に置いています」と語る。

 「私たちのミッションは、日本の人々においしいバーガーを伝えること。日本にはマックのバーガーしか食べたことがない方がたくさんいらっしゃると思います。直火焼きのバーガーを食べてもらい、『本当のバーガーというのはこういうものだ』と伝えていくことが私たちの役目なのです」

 「フレンチフライやナゲット、デザートで勝とうとは思っていませんが、バーガーになったら絶対に負けたくないですね。『腹が減った』と思った時に近くにあるのがマクドナルドで、『バーガーが食べたい』というときに選ばれるのがバーガーキングでありたいと思っています。バーガーを食べたいというタイミングでマクドナルドに行く人はターゲットに置いていません」(野村氏)

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2月17日に発売したキング・イエティ ザ・ワンパウンダー(プレスリリース)

 味への絶対的な自信があっても、初回の来店につながらなければ意味がない。同社は2個セットで安く提供するなどの割り引きキャンペーンを積極的に行っている。利用者に驚きやお得な体験を提供し、1回目の来店を促す。

 「割り引き施策は奇襲攻撃です。バーガーキングはマックやモスと比較して認知度がまだないので、その穴を埋めるために割り引き施策を実施。1回食べてもらえば、もう他社にはいかないだろうと自信を持っています」(野村氏)

「常に強気」なブランド姿勢

 同社は期間限定商品の開発にも注力している。ビーフパティ3枚とゴーダチーズスライス6枚を使用した「トリプルビーフ・ゲレンデ」や、ビーフパティ4枚、ベーコン4枚、チェダーチーズスライス4枚と野菜を使用した「マキシマム超ワンパウンドビーフバーガー」(22年7月に発売、現在は販売終了)など、大きくてインパクトのある商品を販売してきた。

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マキシマム超ワンパウンドビーフバーガー(プレスリリース)

 商品開発では、味や商品名、キービジュアルの背景や商品画像に統一感を持たせ、大胆かつ力強い、ユニークな商品を展開することを意識している。

 「商品開発では、『どんな人が、どのような気分で食べているのだろう』と考え、力強く、楽しく伝えることを意識しています。例えば、トリプルビーフ・ゲレンデも『チーズバーガービッグ』ではなく、『ゲレンデ』と力強く伝えるからこそ面白さや楽しさがある気がしませんか?」

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ゲレンデシリーズ(プレスリリース)

 「消費者がブランド姿勢を評価しているわけではないと思います。あくまで自己満足です。常に強がって、頑張ってしまっているバーガーキングの姿勢がお客さまに伝わって、『またバカなことをやっているけど、こういうところが好きなんだよね』『公式がこんなことをするなんて面白い会社だ』と思ってもらえるだけで十分なのです」(野村氏)

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過去にはバーガーキングのご近所物件情報サイト「BK TOWN ROOM supported by エイブル」を提供

マックを意識した広告が大バズり 

 「常に強気」なブランド姿勢は、広告やプロモーションでも意識している。代表的な事例は、20年の秋葉原店の「縦読み」広告だ。バーガーキング秋葉原昭和通り店の2軒隣にあったマクドナルド秋葉原昭和通り店の閉店が決まった際、同社はマクドナルドに感謝を伝えるポスターを掲示した。

 一見バーガーキングがマックをねぎらう感動的なポスターのように見えるが、文章を縦読みすると「私たちの勝チ」という言葉が――。当時はSNSを中心に盛大な盛り上がりを見せた。

 「私たちはあくまで『22年間たくさんのハッピーをありがとう』というポスターを出しただけで、縦読みに関しては『お客さまが自由な発想のもとでそのように感じたのであれば、そうかもしれません』という姿勢です」

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マクドナルド秋葉原昭和通り店の閉店が決まった際に掲示したポスター 縦読みにすると……?

 「マックは大手だからこそ、振り向かないという自信もあります。もしここでマックが振り向いたら、私たちの勝ち。私たちは『マックさんありがとう』と、それをネタにしますから」(野村氏)

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マクドナルド秋葉原昭和通り店がスケールアップして再出店した際のポスター これも縦読みすると……?

 同社は広告、プロモーションにおいて「ピンをどこに置くか」を強く意識しているという。施策を講じるうえで、「称賛」と「批判」のどちらに寄せるかを吟味する。

 「炎上させるのはすごく簡単です。また、称賛を集めることもそんなに難しいわけではありません。広告費をたくさん使ってCMを打てばいいのですから。

 私たちのように広告費に回せるお金が少ない場合は、『称賛』と『批判』のちょうど真ん中にピンを置くんです。すると、称賛派と批判派の両方からの興味が集まり、バズることができます」(野村氏)

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下北沢での施策 Twitter上での実際のやり取りを広告に

 秋葉原の広告を筆頭に、バーガーキングは度々バズっている印象がある。しかし、実はもっとたくさんの施策を行っているものの、ほとんどが世間に気付かれていないのだという。

 例えば、Twitter上で「バーガーキング与野駅前店が『バーガーキングの駅』みたい」という声があった際、同社はグーグルマップで同店の名称を「バーガーキング駅」に変更。しかし、誰にも気づいてもらえなかったという。

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バーガーキング与野駅前店

 また、クリスマスに1人用セット「ぼっちバーレる」を販売した際も、グーグルマップ上で渋谷センター街店を「渋谷ロンリーガイ店」に変更した。こちらは1人だけ気付いてくれたらしい。

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ぼっちバーレる

直営店もどんどん販売 フランチャイズを推進

 今後強化するのは出店とフランチャイズ展開の推進だ。同社は19年の95店舗から20年には113店舗、21年は145店舗、22年は180店舗と店舗数を拡大している。しかし、23年までに合計300店舗を目指すとしていたため、現状は少しビハインドしている。

 遅れている要因は、利益を重視し、慎重な出店を行っているため。新規出店をする中で明らかになった課題やミスを洗い出し、次回の出店時の検討材料としている。

 「開業した店には必ず学びがあります。そして、学びがあるということは、家賃・エリア・キッチンの広さなど何かしらミスをしているということ。損してもいいのなら、500店程度はすぐに出店できると思います」

 「物件を探し、間取りや光熱費、賃貸契約に関して慎重に検討するから、1店を出すためにかなりの時間がかかっています。学びによって賢くなったからこそ、300店にまだいっていないという感じですね」(野村氏)

 今後は24年をめどに300店、28年中に500店出店を目指す。

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24年をめどに300店、28年中に500店出店を目指す(プレスリリース)

 同時に各店舗の管理を徹底するためにフランチャイズ化を進める。28年にはフランチャイズ7割を目指し、直営店中心からフランチャイズ中心の運営に移行する姿勢だ。

 「今は直営店が多いですが、今後はフランチャイズを増やしていく予定です。今年は直営店もどんどん売っていきます」

 「店舗が増えると、全ての店に本部の目を届けるのは難しいのが現状です。フランチャイズ化することで、オーナーさんが担当店舗をきちんと見てくれます。本部がオーナーさんと話をできれば、それだけで従業員を守ることができるのです」(野村氏)

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既存店もどんどん売りに出し、フランチャイズを増やす(プレスリリース)

3度目の正直なるか 今後も徹底して「味勝負」

 バーガーキングは1993年に日本初出店。以降、業績不振などの理由から2001年に日本撤退。07年に再上陸するも19年には大量閉店に追い込まれるなど、過去には苦戦を強いられている。失敗の要因については、野村氏就任以前の出来事であることもあり、「無責任な回答になってしまうためコメントはできない」とした。

 不動の王者マックが君臨する日本で、バーガーキングは今後も「味重視」で戦う姿勢だ。

 「バーガーキングはやっぱり『味重視』。一貫して味作りにこだわっているから、味にブレがないんです。商品開発にはとてもこだわっており、私が朝からバーガーを5つ食べることも。毎度何十個もソースを試作しなければならない開発チームが怒らないのは、私がその分全て食べているからだと思います」

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23年に期間限定発売する「メキシカン・アボカドワッパー」(プレスリリース)

 「バーガーが食べたい、というときだけはバーガーキングに来てほしいです。ポテトやナゲットがなければ他店に行く、という方に向けてサイドメニューも用意していますが、私たちは露骨にバーガー愛を持って商品開発をしています」(野村氏)

 「強気なブランド姿勢」「味への自信」によるファン育成によって長年の不調から脱却したバーガーキング。今後の“ちょっと強気な”新商品には注視したい。

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野村 一裕代表

元記事はこちら



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