ホクトの挑戦にみる「売上拡大」の極意とは 増やすべきはシェアではなくニーズ

ホクトの挑戦にみる「売上拡大」の極意とは 増やすべきはシェアではなくニーズ

コロナ禍を経て、円安、物価高騰と世界規模の変化は立て続けに起こり、食マーケットは今までにないスピードで変化しています。この連載では「チャレンジ」をテーマに、食関連企業の経営層が変化をどう捉えて事業を牽引していくのか、その思考をたどります。今回は、きのこの研究・開発・生産・販売を一貫して手掛ける日本唯一の「きのこ総合企業グループ」、ホクト株式会社の代表取締役社長 水野雅義氏にお話をうかがいました。
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インタビュアー:クックパッド株式会社 マーケティングソリューション事業部 事業本部長 北井朋恵

 

お話をうかがったひと


ホクト株式会社
代表取締役社長
水野 雅義 氏

止まらない生産コスト増。主力商品の売上をあげるには

―――全国の売場でシェアを獲得されていますが、国内きのこ事業の戦略について教えていただけますか?

水野氏(以下、水野):ホクトは北海道から九州まで、全国各地に21拠点34ヵ所のきのこ生産センターを配置して、生産力を強化しています。収穫後の輸送に時間がかかってしまうと、鮮度が落ち、流通コストもかさみますから、新鮮なきのこをお届けするために「消費地生産」にこだわっています。

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水野:また、各地に営業部門を配置して、スーパーなど売場とのきめ細やかなやりとりを重ねています。例えば過去には、ブナシメジの「苦み」について売場の担当者から指摘を受けて、品種改良で改善していったこともあります。売場の声を営業担当が聞き、それを開発に活かして、品種改良、品質改善に取り組み続けてきました。「いいものを作ろう」という熱意が伝わって、信頼を得てきたのだと思います。

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国内・海外におけるきのこ生産量の推移
ホクトが生産するきのこは農林水産省公表のきのこ類総生産量の約2割を占める

―――生活者からは食品の値上げについて、特に野菜の値上げを感じているという声が聞かれますが、いかがでしょうか。

水野:実は、2022年は野菜の相場が安く推移していて、きのこの市場取引価格も低調に推移しているんですよ。売場においては、生鮮は格安のときもあれば、割高に感じるときもあって、波があると思うのですが、高いときのイメージが強く残ってしまうのかもしれませんね。加工食品と比べると、生鮮は物価高に連動して価格をあげられていない状況です。

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2022年度のブナシメジの市場取引価格は2020年度・2021年度に比べて低調
参考:東京都中央卸売市場、市場取引情報より

水野:一方で、電力費などの生産コストは確実にあがっています。生産コストが増す中で、商品の価格はあがらないので、大変厳しい状況です。

―――厳しい状況の中で、やはりシェアをさらに拡大していくことが重要になってくるのでしょうか。

水野:売場のシェアを獲得していくというよりは、もっと広い視点で、国内市場のボトムアップに取り組んでいます。簡単にいうと、きのこを食べる人を増やして需要を拡大し、供給量を増やしていきたいと考えています。一定のシェアがある現状では、需要の拡大が売上に直結してきます。

秋冬ではなく春夏にこそ、きのこを売る

―――きのこはすでに家庭での定番食材のようにも思うのですが、さらに需要を増やすとはどのようなイメージでしょうか。

水野:きのこは、秋冬に食べたくなる食材としての認知度が高いので、春夏には需要が下がり、売れ行きは伸び悩みます。春夏の時期にも、秋冬と同じように食卓に並ぶようなれば、大きく需要を伸ばすことができます。きのこを秋冬の食材ではなく、一年中食べる食材に変えていきたいと思っています。

―――確かに、クックパッドの「きのこ」のレシピ検索頻度を調べてみると、9〜11月に盛りあがりを見せています。

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クックパッドでの「きのこ」のレシピ検索頻度の推移(2021年度・2022年度)

水野:春夏の時期にきのこを食べてもらうには、レシピはとても重要ですね。コロナ禍の前には試食販売ができたので、スーパーで試食してもらってレシピを渡していました。「おいしかったから、また作ってみよう」と何度も繰り返し作ってもらううちに、定番メニューに加わっていく、というのが一番効果的だったんです。

いまは試食販売ができないので、ホームページやSNSを使ってレシピを発信しています。例えば、エリンギやブナピーを使った「きのこの浅漬け」は、夏向きのいいレシピだと思いますね。定番の食べ方に捉われない、「え!」と思うようなレシピが拡散してくれることを期待しています。

学生向けのセミナーを行うことがあるのですが、その際に学生たちに、きのこを食べる頻度やどんなメニューにきのこが入っているのか、などヒアリングしてみると、なかなか面白いことがわかります。昔はカレーにきのこは入っていなかったのですが、最近のヒアリングではきのこが入っていたり。カレーのような定番メニューの具材として定着する、という需要の高まり方もありますね。

現場に権限があることで進む開発

―――昨年強化された加工食品事業についても教えてください。

水野:2022年3月期に商品開発部門を組織化して、加工食品事業の強化に取り組んでいます。加工食品事業もまた、きのこが食卓に並ぶ頻度を増やすことが目的です。

きのこは食材としてスーパーなどに並んでいるので、どう味付けするかでおいしさが決まります。加工食品を手に取ってもらい、きのこがいかにおいしく食べられるのかを伝えていくことで、生のきのこを食べる頻度も増えると考えています。

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水野:加工食品の商品開発部門は、若手社員が中心になって企画を進めていて、スープやポタージュ、炒め物のシーズニングなど、自由な発想で商品開発に取り組んでいます。

社員発信で、やりたいことをやりたいと言えるような組織にしていきたいので、私はほとんど口をださないことにしています。トップダウンだと極端に失敗を恐れてしまったり、アイデアが出てこないので、大きな方針は示しながらもフォローに徹します。

―――現場の権限が大きいということでしょうか。

水野:ホクトでは、やる気のある人には、どんどんチャレンジさせるという社風があります。商品開発部門に限らず、現場に権限を移譲することで、社員には向上心を持って果敢に挑戦し、社内外で活躍する人になってほしいと思っています。きのこを生産して販売するだけではない、研究・開発・生産・販売まで一貫して行う日本唯一の企業なので、チャレンジの機会は多く設けられています。

例えば、品種改良や新品種の開発などを担うきのこ総合研究所の社員は先日、野生のポルチーニ茸を探して山に入っていましたよ。何度か山に入ってやっと見つけたようです。いま販売しているブナシメジも、山で採れる野生のシメジをとってきて、既存のものと交配を繰り返して「苦み」をおさえた味わいをつくりだしました。

きのこの品種改良においては、市販品種の交配が一般的ですが、それでは新しい商品は生まれません。いまでは当たり前になった真っ白なエノキタケも、可能性を秘めた原種との交配にチャレンジすることで生まれた商品です。おいしいきのこをつくるために、社員が山に入って野生のきのこを探すようなことも、ホクトでは当たり前の光景です。

たゆまぬ研究開発で商品価値を高める

―――研究部門においてのチャレンジはありますか?

水野:きのこがあまり好きでない人や、子どもたちにも、きのこをおいしく食べられるようになってもらうことができれば、きのこが食卓に並ぶ機会はますます増えると考えています。

ブナシメジの「苦み」を抑える品種改良のお話をした通り、ホクトでは日々、きのこの品種改良に取り組んでいます。「食べておいしい」をテーマに徹底的に研究開発した「霜降りひらたけ」のように、交配による新しいタイプのきのこも生まれています。過去に食べたときの記憶で苦手意識がある人や食わず嫌いの人にも、おいしく食べてもらいたいですね。

また、きのこによる健康効果について、生活者に直接訴求していくことも重要だと考えています。美容や健康において、食べることで身体の中から変えることができると伝えていくことは、生活者にきのこを選んでもらうきっかけになると思います。研究部門では、きのこの継続摂取による身体への影響を研究して発表しています。

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―――さまざまな側面から、きのこの需要を拡大して売上につなげる取り組みをされていることがよくわかりました。

水野:目まぐるしく変化するマーケットの中で、コロナ前の勝ちパターンみたいなものは、ほとんど通用しなくなりました。いまは新しい勝ちパターンを模索し続ける、生みの苦しみの最中だと感じています。チャレンジがなければ新しいものは生まれないので、熱量を高くして取り組んでいきたいと思います。



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