本社前にUFOが墜落!? 埼玉のスーパー「ベルク」がユニークすぎるキャンペーンを連発する理由

本社前にUFOが墜落!? 埼玉のスーパー「ベルク」がユニークすぎるキャンペーンを連発する理由

「霊視体験にご招待」「バレンタインデーなのにおみそ汁を振る舞います」「本社前にUFOが墜落」――こうした一風変わった取り組みで注目を集めているスーパーがある。埼玉県を拠点にスーパーを展開するベルク(埼玉県鶴ヶ島市)だ。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([菊地央里子]/2023年1月27日掲載)からの転載記事です。

 「霊視体験にご招待」「バレンタインデーなのにおみそ汁を振る舞います」「本社前にUFOが墜落」――こうした一風変わった取り組みで注目を集めているスーパーがある。埼玉県を拠点にスーパーを展開するベルク(埼玉県鶴ヶ島市)だ。

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ベルク(同社提供)

 ベルクは1959年、埼玉県秩父市で「主婦の店秩父店」として誕生。地域に根付いた経営で店舗数を増やし、現在は埼玉県の他、千葉県や東京都など計128店舗(8月31日現在)を展開している。16531_image02.jpg

「主婦の店秩父店」として誕生(同社提供)

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埼玉を中心に128店舗を展開(公式Webサイトより引用)

コロナ禍の特需の中でよぎった危機感

 コロナ禍での外出自粛といった行動制限により多くの業界の業績が悪化する中、スーパーはまとめ買いや数少ない外出先としての購買需要により、売り上げが増加。ベルクも特需ともいえる状況にある一方で、同社の原島一誠社長はある危機感を募らせていた。

 「この先の人口減少が避けられない中で、これまで通り主婦を中心とした中高年をターゲットにし続けていては、いつかジリ貧になるのではと思いました」(原島社長)

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ベルク 原島一誠社長(編集部撮影)

 そこで、新規顧客として取り込めないかと原島社長が着目したのが、Z世代と呼ばれる若者たちだ。「値段を見ればコンビニで買うよりもスーパーで買った方が安いのですが、Z世代にはスーパー=主婦層が行くところ、という思い込みがあり足が遠のいていました。こうしたZ世代をベルクに呼び込めないかと考えたのです」(原島社長)

トップダウンでユニークな企画を実行

 とはいえ、これまで買い物といえばコンビニが多いZ世代に、いきなりスーパーで買い物をしてもらおうと考えるのはハードルが高い。まずは、ベルクというスーパーの存在を知ってもらうことが必要だった。ベルクの知名度を上げるために、これまでスーパーでやったことのない面白い企画はないか。そこで思い付いたのが、霊能力者のイベントだった。

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霊能力者のイベント(同社提供)

 このイベントは、2020年8~9月にかけてベルク全店舗で3000円以上購入したレシート画像を送れば、生霊が見える芸人による霊視体験に抽選で招待するというもの。「霊視体験という内容はあまりに奇抜過ぎましたが、トップダウンだったため実行できました」(原島社長)。このイベントのターゲットは占い好きの女性であり、スーパーの主な客層とも合致。予想を上回る多くの応募者が集まり、イベントは成功した。

ユニークな企業コラボがSNSで話題に

 21年8月には「日清焼そばU.F.O.」が45周年を迎えることから、ベルクの本社にU.F.O.が飛来した設定でオブジェを制作。本社前にU.F.O.が墜落したように見える様子が、そのインパクトの大きさからSNSで拡散され話題になった。

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ベルク本社に墜落したU.F.O.(同社提供)

 また、新聞社と協力して「本物のU.F.Oが現れた」という号外を作成。特設のU.F.O売り場に設置したり、配布したりしたところ、3万1000万部が数日でなくなり、その期間の売り上げは180%伸長したという。

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号外(同社提供)

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特設のU.F.O売り場(同社提供)

 こうしたイベントで気付かされたのが、SNSでの反響の大きさと拡散力だ。「これまでスーパーの販促と言えば折り込みチラシが定番でした。しかし、折り込みチラシは配ることができる範囲も決まっていますし、どれほど購買につながったのかなどの効果も分かりません。SNSならば反響や感想をリアルタイムで見ることができ、拡散力も圧倒的に大きい。SNSでつぶやきたくなるような企画をやれば、Z世代に届くのではないかと考えました」(原島社長)

ベルクがZ世代の“聖地化”

 また、ベルクは人気アイドル・日向坂46や乃木坂46のラジオ番組のスポンサーに就任。番組放送時に、同社の公式Twitterで番組の感想や関連する商品宣伝をリアルタイムで発信した。リアルタイムで感想をSNSに投稿しながら番組を楽しむZ世代と同じように情報発信した。アイドルをきっかけにして、ベルクという存在を知ってもらう狙いだ。

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日向坂46の番組ロゴ(同社提供)

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乃木坂46の番組ロゴ(同社提供)

 ライブTシャツが当たるキャンペーンや、メンバーの顔写真が入ったベルク限定商品を販売するなど連動企画を実施。アイドルを通じてベルクに来店するきっかけ・目的を作ったところ、好きなアイドルのグッズを集めるのと同じ感覚で、ベルクに訪れるZ世代が増加。ベルクを訪れたZ世代がその体験をSNSでシェアすることで、それを見た別のファンがまたベルクにやって来るという循環も生まれたという。

 クリスマスには、人気声優の内田雄馬さんがベルク専属ソムリエ「大田崎慎也」として店内放送を行うキャンペーンを実施。内田さんのファンが店内放送を聞くためにベルクに訪れ、ファンにとってベルクが“聖地化”するという現象が起こったという。

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店内放送に人気声優を起用(同社提供)

 こうしたユニークなキャンペーンは一時的に売り上げがあがるものの、しばらくすれば戻ってしまう劇薬のような側面もある。「そうした面は承知の上です。これまで買い物=コンビニだったZ世代に、こうしたキャンペーンを通じて実際に店舗に足を運んでもらい、Z世代が欲しい商品がベルクにもあることを知ってもらうことが狙いです。商品がよければその後もリピートしていただけますし、結果的に客数の増加につながります」(原島社長)

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「スーパーならベルク」という意識付け(同社提供)

 Z世代もいずれ家庭を持ち、日常生活でスーパーに行くようになる。今はまだ購入金額が低くても、いずれスーパーの常連になるZ世代に、ユニークなイベントをきっかけに「スーパーならベルク」という意識付けすることは、将来の来店客を確保するという未来への投資なのだという。

違うツボを届けるスーパーを目指す

 こうしたユニークなイベントが着目されがちだが、原島社長は「面白いことをやり続けるのは“飛び道具”だ」と断言する。「接客やお総菜、商品の鮮度や品ぞろえなど、スーパーの基本を徹底してこそ生きてくることですし、この基本こそが新規顧客を定着させ、さらにこれまでの層を維持するために必要なことです」

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店内の様子(同社提供)

 原島社長によれば、スーパーの店舗づくりはオーケストラに例えられるという。「本社が指揮者で、お店は演奏者。店舗の独自性を高めることよりも、赤点の店を出さず全店舗の平均点を上げることが顧客満足度を高めると考えています」

 特にレジは最後の砦であり、店舗づくりでも力を入れているという。「レジでの印象が良ければまた来店していただけます。スマベルクというスマートフォン決済の導入と、従業員のレジスキルのスピードアップというアナログとデジタルを融合させて、“レジで待たせない”を徹底しています」(原島社長)。

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原島氏「スーパーの店舗づくりはオーケストラのようなもの」(同社提供)

 店舗づくり以外では、PBブランド「くらしにベルク kurabelc『クラベルク』」の開発を急ピッチで進めている。「スーパーは基本同じ商品で構成されています。そこで、ベルクだからこそ、ベルクにしかないという独自性を打ち出すことが急務です」(原島社長)。23年度中には、全商品群に占めるPBブランドの割合を10%に引き上げることを目指している。

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PBブランドで人気のビーフジャーキー(同社提供)

 今後も他のスーパーでは体験できないようなイベントを企画していきたいと意気込む原島社長。トップダウンのみならず、社内からのアイデアも柔軟に取り入れているという。「『ベルクに行けば、何か面白いことがあるんじゃないか?』というワクワク感をお客さまに持っていただける、お客さまに違うツボを届けるスーパーとして、これからも挑戦を続けていきます」(原島社長)

元記事はこちら



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