ゆでて食べられる「お米ストロー」とは? 目指すのは「無意識の脱プラ」

ゆでて食べられる「お米ストロー」とは? 目指すのは「無意識の脱プラ」

飲食店で紙ストローを見かける機会も増えてきましたが、口当たりが悪い、ふやけやすい、と苦手に感じる人もいるのが現実。そんな中、新しいエコなストロー「米(こめ)ストロー」が、じわじわと広まってきているのをご存知ですか?今回は、開発メーカーである株式会社UPayの代表取締役社長・上官ゆい氏と、オリジナルの米ストローを販売するカフェレストラン「Cosme Kitchen Adaptation」のディレクター・谷口かおり氏に、話をうかがいました。

くず米を有効活用した、環境にやさしいストロー

米ストローとは、その名の通りお米で作ったストローです。材料は米と少量のコーンスターチのみで、添加物不使用・完全植物由来。使用後に食べることができ、廃棄する場合も土に還るので、人にも環境にもやさしいのが特徴です。

UPay社では精米時に出るくず米や破砕米を買い取って、ストローにアップサイクルしているそう。色のバリエーションもさまざまで、黒、ピンク、水色、緑など、コンセプトや使用シーンに合わせて選ぶことができます。

コスメのセレクトショップ「Cosme Kitchen」が運営する渋谷のカフェレストラン「Cosme Kitchen Adaptation」では、ファッショナブルさを重視したオリジナルの米ストローを開発。素材そのものを生かした無着色のものに加えて紫色のストローがあり、着色は天然材料にこだわって紫芋のパウダーを使用しているそうです。

「企業のノベルティなどで問い合わせをいただいたことはありましたが、アパレル系の会社との協働は初めて。アパレルの方はサステナブルな意識が高く、他社と違う取り組みをしている印象を受けました。今回のコラボレーションをきっかけに顧客層が拡大し、現在他のアパレルメーカーとも話が進んでいます」(上官氏)。

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「RICE STRAW」605円(税込価格)

紙ストローの製造現場を見たのがきっかけ

米ストロー開発のきっかけは、上官氏の義理の父が紙ストローを作っていたこと。「製紙工場に大量の段ボールが積み重なっていて。今後は紙ストローの需要が拡大するのだと思っていましたが、実際は返品の山でした」(上官氏)。当時の紙ストローは口当たりや耐水性が悪く、子どもが飲み込む恐れもあることから、クレームが多かったと言います。

紙以外には、輸入品の麦わらストローや草ストロー、国産では木のストローがありましたが、いずれも口当たりが悪かったり、高価格で常用が難しいものばかり。紙ストローを樹脂コーティングすれば使い心地はよくなりますが、UPay社は違う素材で作る方法を模索したそうです。

そこで目をつけたのが、長いマカロニのようなパスタストロー。使い捨てストローの使用が禁止され始めていた欧米で普及しており、「小麦粉でできるなら、米粉でもできるのではと思った」(上官氏)。紙ストロー以外の需要が既に海外の先進国にあったことを受け、UPay社は米を活用したストローの開発をスタートさせました。

開発過程では、形状がまっすぐになりにくかったり、ベタつきや耐水性などの問題があったものの、1年3ヶ月ほどかけて改良を重ね、製品化にこぎつけたそう。「現在は米ストローを中国と日本で生産していますが、海外からメイドインジャパンのブランドでご要望いただくこともあります。今後は国内工場の稼働をさらに強化して、生産量を増やしていきたい」(上官氏)。

米農家の支援や食育にも

食べられたり、環境にやさしいこと以外にも、米ストローにはメリットがあります。

一つは、米農家の支援につながること。日本では米の過剰生産を抑えるための減反政策が廃止されたものの、消費量は減少傾向で社会問題になっています。くず米や破砕米は、肥料や家畜の飼料、米菓子に活用されることはありますが、用途が限られるため在庫過剰になりがち。ストローに使うことで、国産米の活用拡大につながります。

もう一つは、子どもたちが環境や食を学ぶ機会を創出できること。UPay社には学校から問い合わせがくることもあり、中学校で環境問題を考える教材として取り扱われたり、千葉大学の学生が企画して生協に本格導入したケースもあるのだとか。

渋谷のカフェレストラン「Cosme Kitchen Adaptation」でも、「子どもでも使いやすく、米から作られていると教えることで環境問題の話をしやすくなった」といった保護者からの声があったとディレクターの谷口氏は言います。子どもが使っても安心というだけでなく、食育の面でも米ストローは価値が高そうです。

米ストローを飲食店が採用する理由は?

そんな米ストローを、飲食店側が採用する理由は何か。Cosme Kitchen Adaptationの谷口氏は、生産者支援や環境配慮について発信できる点に魅力を感じたといいます。

「店のコンセプトであるクリーンイーティング(自然に近い、心身にやさしい食品を食べること)は、自然と共存するからこそ成立するもの。SDGsへの取り組みは、創業時から重要視しています。

日本のフードロスは年間500〜800万トンと言われていますが、規格外を含む米も多く含まれていると知り、カフェからフードロス削減や米農家の支援につながることを発信できないか考えていました。UPay社の米ストローを採用することでお客さまへのメッセージにもなるのでは、と思ったのが決め手です」(谷口氏)。

現在、飲食営業では米ストローを導入しておらず、ギフト用商品として購入者がSDGsへの意識を高めることを目的に販売されています。「将来はふらっとカフェに立ち寄ったお客さまにも米ストローを知っていただけるよう、飲食営業での導入も目指したい」(谷口氏)。

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東京・渋谷ヒカリエにあるカフェ「Cosme Kitchen Adaptation」

本当に食べられる?編集部が実践!

メリット満載の米ストローですが、果たして本当に長時間へたることなく、快適に使えるのでしょうか?FoodClip編集部が、実際に試してみました。

まずは硬さ。プラスチック製のストローよりも少し厚みがあり、力を入れても全く曲がらないぐらい硬いので、子どもがかじってつぶれてしまう心配もなさそう。味や臭いも全く感じません。

次に耐水性。ジュースを入れたグラスに米ストローを挿して、2時間おいてみました。1時間経った時点ではまだしっかり硬さがあり、力を入れれば米ストローが少しだけしなる程度。2時間後に再度見ると、ジュースに浸かっていた部分が少し柔らかくなってしなっているものの、飲む部分は最初の硬さのまま。飲むことに支障は全くありませんでした。

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ジュースを入れたグラスに米ストローを挿入して2時間経ったところ

最後に、本当に食べられるのかを検証。短くカットした米ストローをゆでて、パスタのように調理してみました。食べてみると、米粉を使っていて食感がもちもちしていること以外は、感覚的にサラダマカロニとほぼ変わらない印象。米ストローは食用として売られている訳ではありませんが、口に入れても安心・安全であることがわかりました。

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米ストローをカットしてゆで、パスタ風に調理したもの

「無意識の脱プラ・減プラ」を目指して

米ストローを販売しているカフェレストラン「Cosme Kitchen Adaptation」のメインターゲットは、20代後半から40代の女性。「『Cosme Kitchen』のブランド名で商品化するものは、かわいさやファッショナブルさを重視したい。見た目のおしゃれさで選んでもらって、実はサステナブルな商品だったという方が購買意欲を高められると思います」(谷口氏)。

UPay社の上官氏も、元々環境に配慮したものを作りたいという強い想いがあったわけではなかったと言います。「プラスチック製が絶対悪とは思っておらず、必要なところには届けるべきだと考えています。環境に配慮した選択ができる場面で、今後もサステナブル商品を提案していきたいです」。 

最近は環境に配慮したパッケージや容器の採用が当たり前になりつつありますが、今後はそれだけではなく、見た目や使いやすさ、置き換えやすさといった付加価値が重要になりそうです。脱プラスチック・減プラスチックだから選ぶのではなく、無意識に購入したものが実は環境にやさしいものだった、というくらい「脱プラ」が進む未来が、すぐそこまで来ているのかもしれません。



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