
食トレンド
【行った】コメダ珈琲店が話題になったりクチコミが生まれる秘密を探ってきた
「よしだけいすけの飲食店最前線巡り」のシリーズの記念すべき20回目は、2023年に創業55周年を迎えたコメダ珈琲店です。コメダ珈琲店にとっては特別な年。広告宣伝に多額の投資をしていないにも関わらず、認知度が高く、かつ商品やブランドが話題に上がりやすい理由はどこにあるのでしょうか?実際に店舗へ行って探ってみました。
前回記事:【行った】ここは都会の竜宮城。ネオンと活気に溢れた龍之都飲食街へ
名古屋で生まれて55周年
コメダ珈琲店は1968年に喫茶店の街、名古屋で誕生しました。2023年で55周年を迎えています。長い歴史の中で一気にチェーン展開が進んだのは2000年を過ぎたころでしょうか。2003年に横浜にできたのが関東の1号店です。
コメダ珈琲店の看板メニュー「シロノワール」が2023年で発売46周年を迎えましたが、46周年というのは「シロノワール」の「シロ(46)」を表す特別な年。同じ46周年を迎えた白い恋人(石屋製菓)と共に、46周年の「シロ」同士でコラボ商品を売り出したのは記憶に新しいですね。コラボ商品は残念ながら販売終了していますが、2023年もまだ半年残っているので、他の施策もこの後仕込まれているような気がします。
北海道出身の私にとっても、シロとシロのコンビネーションはとっても魅力的で、2つの偶然に双方が気付き、この年のためにどんなやりとりがされ、どんな準備をしてきたのか…いつか聞いてみたいです。
飲食店が脳内シェアを高める方法
白い恋人×シロノワールのコラボに限らず、コメダ珈琲店の名前って普段からよく見聞きすることが多くないですか?飲食チェーンのマーケティングの勝ちパターンとしてよく言われるのは、脳内シェアを高めること。知っていることとよく行くことは相関しにくいという特性があります。
一歩街に出ると駅前には数えきれない飲食店が軒を連ね、それ以外にもスーパー、コンビニ、ドラッグストアと、食べ物を提供しているお店がたくさんあります。そんな中で選ばれるためには、知っていることに加えて、選択肢に入っていることが大切です。
ランチなら、カフェなら、お寿司を食べるなら…皆さんの脳内にもジャンルごとの好きな店ランキングがあると思いますが、このランキングの上位にいかに入っていられるかが飲食店にとって重要なポイントです。
広告やオウンドメディア(アプリ・SNS・メルマガなどの自社媒体)で繋がり、思い出してもらう機会を作るか。1,000円ほどで体験する飲食店は割とライトに選択されるので、いかに「こんにちは」と接触回数を増やせるかが大切と考えています。
これまでの本連載でも吉野家、スシローにSNS活用についてインタビューしましたが、情報の接触頻度は各社ともに重要視していました。
接触頻度を増やす手立てはたくさんありますが、コメダ珈琲店の情報が世にたくさん流れているのは彼ら自身の発信とは限りません。今までコメダ珈琲のことを知ったのはどんな媒体だったかな。思い出してみると、広告ではなくて、SNSの誰かの投稿だったり、友人との会話だったり、ニュースのキュレーションメディアだったり。誰かに発信してもらうには、語りたくなるネタを提供しなければなりません。
クチコミしたくなる理由とは?
コメダ珈琲店のクチコミはなぜ多いのでしょうか。クチコミとは、言い換えると人への推奨意向が高い、と言えます。つまり自分が良い体験=WOW体験(お客さまの期待を超え、ニーズに応え、期待以上のものを提供すること)をしたので誰かにもおすすめしたくなるということ。多くの方はコメダ珈琲店に行った体験をしたことがあると思いますが、実際に店舗へおじゃましておさらいしてみます。
行ってきたのは北見夕陽ヶ丘店です。2022年9月にオープンした新しい店舗で、実は日本最北端のお店です。北見市はオホーツクにあり、人口はおよそ12万人で地域の中心的な存在です。玉ねぎやハッカ、牛肉の産地として有名ですね。

WOWな体験その1:接客がとても丁寧
コメダ珈琲店は「街のリビングルーム」をコンセプトにしていますが、文字通り、肩肘はらずに居心地の良い場所。北見のお店でも体現されていました。一般的に利益率が高くない飲食業界では、低価格でのサービスを実現するために効率化、生産性を追及せざるを得ない背景がある中で、一人一人のお客さまに丁寧に、時間をかけて、慌てることなく対応してくれます。当たり前と言えば当たり前ですが、スタッフの方が「短時間で多くの作業をこなすこと」を優先して教育されると、その動作はおざなりになりやすく、トレーニングの中でもその精神や所作を徹底してもらうのは本当に大変なのです。
WOWな体験その2:リビングの再現
提供しているのはコーヒーなどの飲食物ではなく、時間と空間なんだ。そう感じました。まずはイスです。一般的なカフェのイスは価格や清掃のしやすさ、置ける数(大きさ)などが優先されがちですが、ご覧の通りソファです。長い時間座っていてもお尻や腰への負担が少なく、くつろげるスペースに。コーヒーなどがこぼれたら掃除が大変だろうなぁと余計な心配をしてしまいますが、こんな私の気持ちこそ、居心地より生産性を考慮してしまっている本質的ではない考えだなと恥ずかしくなりました。
また、新聞・雑誌・子ども向けの絵本やひざ掛けが用意されています。洗濯や管理など実はまぁまぁ手間がかかるアイテムたち。導入することは簡単だけど、維持するために仕組み化するのが大変なはずですが、やっちゃうわけです。
ソファ、テーブルの高さ、周りの視界を程よくさえぎったレイアウトなど、気遣いが随所に隠されていて、探すほどに「彼らが語らない小さなこだわり」がたくさん隠れていました。
例えば手洗いスペースの壁紙。店舗を安く早く建築するなら量産されたもので十分な気がしますが、ロゴ入りのオリジナルなものです。かっこつけてはいないけど、徹底した空間作りにしっかりお金をかけているのです。ひとつの建物で何年かごとに改装してブランドチェンジをするビジネスモデルと比較すると、長くその場で地元の人々と一緒に商売をしていく気概を感じずにはいられません。

WOWな体験その3:商品が期待値を超えてくる
特にこれがコメダ珈琲店のクチコミ発生に寄与していると感じます。「デカ盛り」「食べきれない」「おなかいっぱい」…金額に対して食べ物の量がとにかく多い。一般的な喫茶店の料理はファストフードやファミレスとは違い、1人前ずつ作る必要があるため金額も高くなりがちですが、とにかく大きい。
期待値を上回ってWOWが起こる満足が印象に残り、「コメダ珈琲店は安くて量が多くておいしい」というイメージがつき、人を介して伝播していくのでしょう。
私の実家はこのお店から車で1時間ほどの場所にあり、まだ行ったことはないものの両親、妹家族含め全員が存在は知っていました。口を揃えて言うのは「デカ盛り」という言葉。いや、デカ盛りを目指しているわけではないと思いますが、安くて大きいことが伝わっているようでした。
ちなみにいただいたのは「手作りたまごドッグ」450円。「軽い食事に」というキャッチコピーとは裏腹に、溢れんばかりの卵が盛り付けられていてしっかりおなかいっぱいです。

WOWな体験その4:みんなに平等の場所
マーケティングの世界では「ターゲットを決めよう」なんて良くいいますが、考えてみてください。コメダ珈琲店の「ターゲット」は何歳くらいだと思いますか?男性ですか?女性ですか?商品ごとには絞っているかもしれませんが、お店のコンセプトを見ると、おそらくあえて狭めないという考えをしていると感じました。ターゲットを決めることは、実は非ターゲットにとって来にくいお店になるデメリットもあります。
店舗や駐車場の面積をしっかり確保して、身体障がい者専用駐車場やバリアフリートイレ、おむつ台、喫煙ブース、Wi-Fi、コンセントなど幅広い顧客層に合わせています。席のタイプも仕事や読書に向いているカウンター、ゆったりおしゃべりに夢中になれるワンボックスタイプのソファ席などさまざま。全てのお客さまに平等に。
ドリンクを頼むと必ずもらえる小袋のお菓子。ほんの一口ですが、会話のきっかけ作りには最適のアイテムです。
広告費ではなく原価と人件費に
全国には140万店の飲食店があると言われています。それだけ食事の候補が多いわけで、各社各店舗が発信している情報、メディアが紹介している情報が日々たくさん世に流れています。一つの情報が拡がっていくポイントはSNSでの拡散、メディアによる紹介などがありますが、人もメディアも、発信する理由には「語りたくなること」があること。
見栄えの良い内装、他で食べられない特別な料理、安さ、おいしさ…それらが秀でていると語りたくなるわけです。コメダ珈琲店の場合は、圧倒的な居心地が軸と思いきや、商品の質や量の高さに更なる驚きを作っているのでしょう。広告や販促でコメダ珈琲店を見かけることは少ないですが、広告費ではなくプロダクト自体にしっかりとコストをかけて、良い商品を提供していると言えそうです。これはサイゼリヤやスターバックスとも共通していますね。
売り上げの内、原価、人件費、家賃などの固定費を除いた分を何に使うのか。広告費やキャラクターやタレントとのタイアップの広告活動に使う企業もあれば、その分も食材原価に使って原価率を高くする考え方もあるわけです。それぞれ企業のポリシーなので正解はありませんが、経営方針にのっとってブレない軸を持つことが大切ですよね。
【店舗情報】
コメダ珈琲店 北見夕陽ヶ丘店
住所:北海道北見市美芳町2丁目6−33
営業時間:7時~23時
https://www.komeda.co.jp/shop/detail.html?id=1048
※2023年4月の取材時点での情報です。
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著者情報

- よしだけいすけ
- 2020年5月よりカラビナハート株式会社に入社。10社ほどの企業SNSアカウントのコンサル・運用支援を行っている。公式アカウントのフォロワー増や投稿のノウハウだけではなく、目的に合わせた目標設計やビジネス貢献の可視化、再現性ある仕組み作り、SNS担当者のトレーニングが得意領域。2020年4月までは株式会社すかいらーくHDのマーケティング本部にてコンテンツコミュニケーションチームのリーダー。7つの公式Twitterアカウントを立ち上げて合計210万フォロワーに。広告宣伝のほかアプリ、メルマガ、公式サイト、ファン施策、ポイントプログラムなどを担当した。店舗勤務含めて15年間在籍。
Twitter:https://twitter.com/ruiji_31
note:https://note.com/yoshiwo_note