クックパッドデータからわかる、コロナ・物価高騰による価値観の変化

クックパッドデータからわかる、コロナ・物価高騰による価値観の変化

2023年4月12日〜14日に行われた中食・外食業界の専門展示会「FABEX2023」にて、クックパッド マーケティングソリューション事業部・事業本部長の北井朋恵によるセミナー「コロナ・物価高騰で進化する『作る』と『買う』の食の価値観」が行われました。今回は、セミナーの内容を一部抜粋してレポートします。

 

クックパッド株式会社
マーケティングソリューション事業部
事業本部長
北井 朋恵

健康管理は「特定成分を摂取しない」から「特定栄養素を摂取する」に

食と健康は切っても切り離せないものですが、その意識が新型コロナによって大きく変わり、生活者の価値観がすごく早いスピード感で変化しました。具体的にどのような変化が起こったのか、クックパッドの検索データを分析しながらご紹介します。

健康価値の変化を振り返ると、新型コロナの流行前は「糖質ゼロ」「減塩」などのワードが頻繁に検索されており、決まった特定の成分を摂取しない健康管理が主流でした。それが新型コロナの発生によって漠然と不安を感じるようになり、体によさそうなこと全般で健康管理したいという気持ちから、「ヘルシー」というワードの検索頻度が上昇。2020年の春には、運動不足からか「ダイエット」の検索が増え、摂取カロリーの削減が主目的になっていきました。

その後、長引く新型コロナで薬やワクチンがない中で、自身の基礎体力を強化するため免疫力アップと栄養強化に注意が払われるようになり、発酵食品やタンパク質を含む食材の検索頻度が伸びてきました。これまでの特定成分を「摂取しない」健康管理ではなく、具体的な栄養素を特定して意欲的に「摂取する」健康管理に変化したと言えます。

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「糖質ゼロ」「ヘルシー」はダウントレンド

「糖質ゼロ」「ヘルシー」といったワードは、正月太りを解消したいニーズから年始に検索が伸びる傾向は経年でずっと続いていました。しかしこの2つのワードの検索頻度を比較すると、2022年の年始は2021年ほど検索頻度が盛り上がらず、ダウントレンドであることがわかります。また2023年の年始は2022年より一層検索頻度がダウンしています。

たくさんの食品メーカーが優れた商品を発売し、生活者が自身の食卓で努力しなくてよくなったという見方もできますが、生活者のニーズは新たな方向に動き出したと言えるのではないでしょうか。

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タンパク質の摂取バリエーションが拡大

逆に検索が伸びているのがタンパク質を含む食材で、バリエーションを模索しています。真剣にトレーニングしている人以外にとっても必要な栄養素だと認知されたことから、まず最初に変化が見えたのが「大豆」と「いわし」という肉以外のタンパク質で、2021年12月を境に検索頻度が急上昇しました。

ただし、移り変わりが早いことも特徴で、次々にタンパク質摂取にもっと有効な食材がないかと模索しています。次に来たのが、ちくわやカニカマ、豆腐干だったことを考えると、プロテインバーやドリンクではなく、通常の食事からタンパク質を摂取したい気持ちが盛り上がっており、摂取バリエーションが拡大していくことが予想できます。

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Withコロナで「食べ続けられる安心」を求めるように

もう一点注目していたのは、「食べ続ける安心感」に関わるワードです。Withコロナの考えが定着し始めてきた2021年末に、今後は「安心して取り入れ続けられる食」への関心が高まると予測していました。ワクチンも手に入るようになり、緊急性がなくなったことから、体によい食品を摂り続けて中長期的な健康を目指すようになる、つまり「サステナビリティのある健康管理」に変わっていくのではないか、という仮説です。

物価高騰の問題が起こる前までは「無添加」の検索頻度に変化が起こり始め、体によいものを摂取し続けたいというマーケットの進化の兆しを感じていましたが、2022年2月を境に物価高騰が始まったことで、生活者にとってはコストリダクションの優先順位が上がって来たことが読み取れました。

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節約ではなく、前向きに賢く買い物・調理・保存

Withコロナとなり安定傾向になると思われた食マーケットですが、円安と物価高騰により新たな局面を迎えました。しかしそんな苦しい時こそ、生活者は新たな工夫を生み出しているということがクックパッドのデータから見えています。

生活者が物価高騰を感じている食品を調査したところ、野菜、食用油、小麦粉がトップ3でした。野菜は実際のところ、値上げ幅はそこまで大きくないのですが、常日頃使う食材なので値上げのインパクトが大きかったのではないかと考えています。

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また、旅行や美容などの娯楽はなるべく我慢せず、外食を控えたり日々の食事で工夫する動きも見て取れました。さまざまなデータを分析した結果から、生活者の工夫がどう進化しているのか、以下の仮説を立てました。

・食品を大量購入し調理と保存方法を工夫する
・価格が安定している食材の活用を活性化する
・食事の品数を減らして一品の栄養価を強化する
・必要な栄養素の摂取をリーズナブルに効率よく行う
・買っていたものを「作る」に、作っていたものを「買う」に移行する
・光熱費を意識した調理法の模索や商品の利活用が進む

すなわち「賢く買い物をして、賢く料理し、賢く保存する」ことで、食費のコストリダクションを目指していると考えられます。これを「節約」と表現するのはNGで、実際に「クックパッドニュース」では「節約」を記事のタイトルに入れてもPVが伸びません。コロナから我慢が続いている今、マイナスよりも前向きなワードでコミュニケーションを取る方が、消費者の心をつかみやすいと見られます。

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揚げ物やサラダは惣菜を活用

クックパッドユーザーは基本的に自分で料理を作りたい人が多いですが、物価高騰を経て加工品を買うのと自分で作るのと、どちらがリーズナブルなのか考えるようになりました。

例えば揚げ物は、揚げ油と小麦粉の両方が高騰しているので、少量だけ作りたいときは買った方が安くなります。ポテトサラダやマカロニサラダも同様で、複数の食材を買い揃えるとコストがかかるので、少量でよいときは惣菜を活用し、大量に欲しいときは作る、といった傾向が見られます。

片づけが楽になったり、自分で作るよりおいしいというポジティブな面もあり、コストパフォーマンスだけでなくタイムパフォーマンスという観点での思考も無視できないと感じています。

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価格が安定している野菜を活用

効率とコストを考えて使用頻度が上がった食材もあります。野菜で言えば、価格が安定しているもやし・冷凍ブロッコリー・カット野菜を買う人が増えました。納豆・豆腐も購入頻度が上がっていて、タンパク質の摂取や発酵食品を食べて免疫力を上げたいニーズがある食材も価格が安定しているものに再度注目が集まっていく流れを感じます。

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買う場所と食材の組み合わせも多様化

菓子や酒類はどの店舗でも品質が変わらないので、低価格で買えるドラッグストアの活用が増えています。各スーパ−のプライベートブランドの商品を利活用するという声も多く聞かれました。ただし、プライベートブランド商品への期待値は2つあります。常備品はリーズナブルに揃えられることが価値になっていますが、それよりも強い期待値は、メーカーよりも生活者に近いスーパーが作る商品だからこそ、より生活者の意向を汲んだ商品を多く展開していることで、実際にそのような商品が支持されていると調査から見えました。

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栄養価の高い食材で上手に摂取

クックパッドニュースでPVの高い記事の特徴を分析すると、高騰する野菜は栄養価の高いものを活用する傾向が見られます。例えば「大葉」「ブロッコリー」「モロヘイヤ」などの検索頻度が上昇しており、これらを賢く使って一品の栄養価を高めていけないか模索しているものと見られます。

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タンパク質は食事から上手に摂取したいニーズが増えていますが、「ちくわ」「かにかま」といった魚加工食品の利活用と新たな商品の台頭です。「豆腐干」「ZENB(黄えんどう豆で作った豆ヌードル)」などの新しい食材も注目度が高く、食卓でのレシピバリエーションを模索していることが伺えます。

「ZENB」は「豆腐干」と入れ替わるように伸びていますので、移り気で常に新しい食材を探求している印象です。どんなに効率よく栄養を摂取できても、おいしく食べられるものでないと定着しないので、ブームを当たり前に変えていくにはやはりレシピのバリエーションが重要だと感じます。

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2023年以降はどうすると食品から効率よく必要な栄養を摂取できるか、ということを消費者はより意欲的に模索していくと仮説を立てています。栄養価が高く価格が安定している野菜や、タンパク質や食物繊維などの必要栄養素が含まれる加工食品、腸活が実現できるレシピや食品が、まだまだ食卓で必要とされていくでしょう。

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「食を買う」インサイトは1つではない

テイクアウトや惣菜や外食、つまり「食を買う」という観点から見ると、購入頻度が一番上がったのは惣菜、逆に下がったのは外食、元々利用率がよくないまま変わらなかったのはテイクアウトでした。惣菜は有効活用する方法を知っているかどうかで購入頻度が変わる、すなわち売上拡大には、消費者がどのように活用しているかを知る必要があります。

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テイクアウト、惣菜、スイーツを買う・買わないの判断基準に寄り添うと、一人のインサイトは1つではないことがわかります。

例えば、テイクアウトを活用するのはハレのとき(イベントなど特別なとき)や疲れて何もしたくないとき、惣菜はケのとき(日常の食事)やもう一品欲しいとき、スイーツはごほうびのときや食べたいものを見つけたとき、などシーンによって変わります。

「食を買う」という行動に対して一人の人が持っているインサイトは、1つに限らないということです。「食を買う」=「料理が面倒だから買う」という1つのインサイトだけではなく、シーンによって変化すること、それを理解しているかどうか、はマーケティングではとても重要な観点です。

年代や性別という属性でターゲティングするマーケティングは、高度成長期であれば有効な方法です。今はN1(一人の顧客にフォーカスしたインサイト)を詳しく知ることが、商品開発でもコミニュケーション戦略においてもカギになると思います。

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そして「惣菜に工夫を加えたことがあるか」をユーザーに聞くと、実は買ってきた惣菜をそのまま食べる人は半分ほどで、おいしく食べるために惣菜にひと手間を加えている人が多くいました。リベイク(温め直し)をして揚げ物の余分な油を落としたり、惣菜に野菜を添えたりといったカジュアルな工夫から、コロッケをサンドイッチに使うなどしてリメイクしたり、ハンバーグをキーマカレーに使うなどして惣菜を食材として使ったり、さまざまな工夫をして上手に惣菜を活用しているようです。

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外食は控える傾向にありますが、飲食店の味を食べたいという気持ちは薄れていません。外食で食べたメニューを家で再現したことがあるか、をユーザーに聞いたところ、「再現をしたことがある」と答えた人が43%、「再現したことはないが、家でも食べたいと思った」と答えた人は35%いました。

この結果を見ると、「家でも外食の味を楽しみたい」というニーズは非常に高く、外食産業の皆さまがチャレンジすべきことがわかってくるのではないかと思います。

大切なことは、タンパク質や腸活といった生活者の普遍的なインサイトを正しくつかんで商品開発に生かすこと、それから生活者の今の課題を把握して既存商品のコミュニケーション戦略に生かすことだと考えています。

例えばこれまで「簡便」をうたっていた商品を、現状消費者が抱える光熱費の問題に合わせて「光熱費削減」をうたうように変えることで、同じ商品でも新たな顧客獲得や売上増に繋げられる可能性がある、ということです。

そういった食業界のコミュニケーション戦略に、今後もクックパッドのデータが少しでもお役に立てたら、と思っています。



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