味の素冷凍食品「ザ★」シリーズのマーケティングトレース 「これが家で食えたなら…」の戦略を読み解く

味の素冷凍食品「ザ★」シリーズのマーケティングトレース 「これが家で食えたなら…」の戦略を読み解く

SNSなどで話題の「マーケティングトレース」をご存知ですか? 基本のフレームワークを使いながら成功事例を分析し、マーケティング思考を鍛える方法です。今回は、考案者の黒澤友貴さんにブランド戦略を読み解くシートを使って、味の素冷凍食品の「ザ★」シリーズを読み解いていただきました。
▶︎【解説】マーケティングトレースって何?初心者が知っておきたいマーケティングフレーム:https://foodclip.cookpad.com/16303/
※前回記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/16333/

今回のマーケティングトレースは、味の素冷凍食品株式会社が展開する「ザ★」シリーズの戦略を読み解いていきます。

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ひとくち噛むと肉汁が、口の中でじゅわーっと広がる、肉の旨さがたまらない大ぶりのシュウマイ。葱油の香りとXO醤のコクがクセになる味わい。

ザ★シュウマイのキャッチコピー

「ザ★」シリーズは、ここ数年、冷凍食品のランキングでトップランクに入り続けており、冷凍ギョーザだけで年間200億円を売り上げていると言われています。

ブランド戦略の裏側を読み解いていきます。こちらがマーケティングトレースの全体像です。

PEST(ブランドを取り巻く環境分析)

最初に「ザ★」シリーズの商品ブランドを取り巻く環境を理解するために、PEST分析を行います。

政治の視点

・気候変動に対する対応は国・企業ともに求められる
・HACCP(ハサップ)に沿った衛⽣管理を制度化→⾷品衛⽣法へ反映
・⾷品表⽰法(原料や原産地の表示ルール)などの規制は強化

経済の視点

・冷凍食品の国内消費額は約1.1兆円(2021年暦年)。内食需要がけん引し家庭用が継続的に増加
・業界構造は、家庭用と業務用で同程度。生産量の9割は調理食品
・原材料価格や物流費の上昇を受け、大手各社は値上げを実施

社会の視点

・単⾝化や共働き浸透で調理ニーズが変化、時短ニーズは増加
・共働き世帯の増加により、手軽でおいしい冷凍食品への需要増
→「FROZEN JOE’S(フローズンジョーズ)」のような冷凍食品専門店も
・高齢化社会による健康志向の強化
・食品の持ち帰りニーズや中食市場の拡大、コロナ禍は内食が増える

技術の視点

・製造や物流の技術→冷凍技術の進化
・販売技術→EC関係のテクノロジーが進化し、EC化率が上昇

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外部環境から生まれているニーズ整理

上記の4つの視点から、「ザ★」シリーズがどのように環境に適応してきたのかを整理します。

外部環境への適応シナリオ
内食需要の拡大に合わせて、本格的な味を求める顕在化したニーズに適応。「ザ★」のブランド名からわかる通り、定番の想起を獲得して売り上げを作る。

外部環境を踏まえて創造シナリオ
食品業界全体で値上げトレンドがある中で、いかにコスパ高く作れるかが鍵となる。冷凍食品の特徴である「手軽でおいしい」価値を強化して売り上げを作る。

冷凍食品のニーズは強くなってきており、今後も技術進化や共働き世帯の増加によって、需要が増えてくることが予測できます。

競合整理

次に「ザ★」シリーズの競合を整理していきます。

業界競合

冷凍食品カテゴリーで、コンビニやスーパーの棚を奪い合っている競合がどこかを考えていきます。冷凍食品の人気ランキングに入っているブランドをピックアップします。

・コンビニやスーパーのプライベートブランド(PB)食品
・ニチレイ「本格炒め炒飯」
・テーブルマーク「ごっつ旨いお好み焼」
・ニッスイ「ほしいぶんだけ 口どけなめらか コーンクリームコロッケ」
・日清食品「冷凍 日清もちっと生パスタ クリーミーボロネーゼ」

冷凍食品は、各社が技術力・ブランド力で競い合っている構造であることがわかります。

潜在競合

業界は異なりますが、同じ価値を提供しているカテゴリーを整理していきます。下記のカテゴリーは、業界は異なるが顧客を奪い合う競合になり得ると考えられます。

1. 時短価値を提供する競合
・食材宅配(例:オイシックス)
・時短調理器具(例:バーミキュラー)
・デリバリー(例:Uber Eats)

2. 食事を楽しむ価値を提供する競合
・コンビニ弁当やスーパーのお惣菜
・外食(例:ファストフード、ファミレス)

3. 食事をシンプルにする価値を提供する競合
・完全栄養食(例:BASE FOOD、完全メシ)

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競合分析の整理

多くの企業が生活者の時短ニーズに応える動きを展開しています。コンビニやスーパーなどの総菜や弁当の品質が向上し、冷凍食品市場でも高品質化が求められていることがわかります。

そんな中で、「ザ★」シリーズはどんな違いを作ってきているのでしょうか?注目したいのは、手抜き→手間抜きへの意味の転換を図っていることです。

参考になるのが、家庭で餃子を作る人に代わって、味の素冷凍食品の従業員が冷凍餃子を作るまでにかかる「手間」を可視化したWEB動画の公開です。競合と違って、手間がかかっている=こだわりの価値を伝えていることは素晴らしい仕掛けです。

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メインターゲット

続いて、「ザ★」シリーズのターゲット層を整理していきます。味の素の広告や口コミから推測してターゲットセグメントを考えてみると、「ザ★」シリーズの広告は小栗旬さんを起用しており、「突き抜けたうまさ」を打ち出したCMを行っています。

また下記の記事から、ターゲットを絞り込んでブランドを作っていることがわかります。

味の素冷凍食品の田中宏樹さんは新商品の開発にあたり、「誰に向けた商品なのか、ピントがずれていたら商品は届かない」と話す。田中さんが開発に携わった「ザ★」シリーズにおける開発の軸は、「男性ターゲット」と「外食店品質の実現」。基となるコンセプトから、商品やパッケージ、プロモーションを行い、広く支持される商品は生まれた。

 

年齢/性別

ブランドのコピー「男達に贈る、たましいの一撃」からわかる通り、主要顧客は男性としていることがわかります。
・一人暮らし層:10代後半~20代後半までの男性層
・ファミリー層:20代後半~40代後半までの主婦層(食べ盛りの子どもがいる家庭)

嗜好性/価値観

・家で過ごす時間が好き
・時間が限られている中でも、家の食事を少しだけ贅沢したい
・定番のものが好き
・普通の商品より個性的なものが好き

行動特性

・牛丼やハンバーガーなどファーストフードでガッツリ食べる習慣がある
・スーパーの利用頻度が高い
・家で食事をする機会が多い

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顧客の整理

共通しているのは、外食ではなく「家でガッツリ食べたい」という欲求を持っているということです。外食の置き換えとして「ザ★」シリーズを利用している層がメイン顧客だと考えることができます。

ポジショニング

「ザ★」シリーズの価値をポジショニングマップの形式で整理します。なぜ「ザ★」シリーズが選ばれているのでしょうか?

ポジショニングマップを描く上での前提条件
競合:ニチレイ、外食(ファーストフードやファミレス)
顧客:「家でガッツリ食べたい」と考える20代の男性

今までの分析から「ザ★」シリーズの特徴を要約すると、このようにまとめることができます。
・メインディッシュの定番をラインナップに
・冷凍食品の手軽さを活かす
・自宅で外食店品質のおいしさを味わえる

さらに考えると、以下のシーンで選ばれる存在としてポジションを築いたと分析しています。
・既存の冷凍食品では、ちょっと物足りない
・ファストフードやファミレスに出かけるのは面倒

上記の差別化要素・独自価値が、CMで使われている「これが家で食えたなら…」のコピーに集約されていることがわかります。

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マーケティングミックス4P(価値の届け方)

商品戦略

・ラインナップ:4種類の定番を押さえる(シュウマイ、餃子、炒飯、ハンバーグ)
・機能価値:量が多い
・情緒価値:ガッツリ食べたい欲求が満たされる

価格戦略

・外食より安い、通常の冷凍食品より高い価格設定

流通戦略

・味の素冷凍食品の営業力でスーパーの冷凍食品の棚を押さえる→いつでも手軽に買える

広告戦略

・パッケージで驚きを伝える
・テレビCMで広い層に「これが家で食えたなら…」の価値を伝える

この4Pで設計されている戦略によって、先程のポジショニングマップで整理した差別化要素が満たされていることがわかります。

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成功要因の要約

ここまでの分析内容を要約します。

1. 外食→内食・時短などの外部環境のニーズを先読み
2. 冷凍食品の手軽さに加えて「外食レベルのおいしさ+ガッツリ食べたい欲求に応える」という価値をプラス
3. 商品名・パッケージ・コピーで定番ど真ん中のイメージを強化

上記のような仕掛けが、マーケティング視点で素晴らしい要素だとトレースから理解ができました。

自分がCMOだったら?

1. 外食品質を家で楽しめる価値強化
外食品質を家で楽しめることが最大の価値であるため、現在の外食トレンドを家に持ち込むプロモーションを行って訴求をすると、「あの外食の味を一度食べてみたい!」と未顧客層を動かせるのではないかと考えています。

例えば、炭火ハンバーグと炊きたてご飯が有名な吉祥寺の人気店「挽肉と米」のレシピを自宅で再現する…といったコラボ企画などはどうでしょうか?
「大人気店『挽肉と米』のハンバーグを、行列に並ばずに再現してみた…」といった企画のイメージです。

2. インバウンド需要の取り込み
日本の冷凍食品の技術や品質は、外国人にとっては感動もののはずです。インバウンド顧客が「ザ★」シリーズを味わえるようにホテルと提携をして、「訪日客がみんな食べるのが当たり前」という認識をつくるのはどうでしょうか?

以上が、味の素冷凍食品・「ザ★」シリーズのマーケティングトレースでした。ぜひ今晩の夕食に「ザ★」シリーズを食べながら、マーケティング思考を磨くのに活用してみてください!



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著者情報

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黒澤友貴
1988年生まれ。ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに6,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを運営。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」を出版
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Twitter:https://twitter.com/KurosawaTomoki
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