
企業・業界動向
自然食品F&F、ファンづくりに必要なのは商品の魅力と「伝える人の力」
コロナ禍を経て、円安、物価高騰と世界規模の変化は立て続けに起こり、食マーケットは今までにないスピードで変化しています。この連載では「チャレンジ」をテーマに、食関連企業の経営層が変化をどう捉えて事業を牽引していこうとしているのか、その思考をたどります。今回は、DXやAIが叫ばれる昨今に、商品の魅力とそれを伝える「人の力」で着実にファンを増やしている、エフアンドエフシステム株式会社の専務取締役・谷井正樹氏にお話をうかがいました。
【食のチャレンジ:記事一覧はこちら】

エフアンドエフシステム株式会社
専務取締役
谷井 正樹 氏

クックパッド株式会社
マーケティングソリューション事業部
事業本部長
北井 朋恵
店員と顧客が繋がっているから、ストーリーが伝わる
北井:コロナで「自分の健康は自分で強化していく」流れとなり、サステナビリティのある食生活という観点で無添加ニーズが高くなったと感じています。御社は無添加にこだわり、生鮮ジャンルの商品ラインナップも豊富だと思うのですが。
谷井氏(以下、谷井):オーガニックの野菜は創業時から力を入れていますが、その多くが仲卸を通さない直取引です。「いいものを確保して適正価格で売る」というのが創業者・大林の方針でもあって、そのためには直接取引が一番です。大林は創業時から自ら取引先を探し出して訪問していました。今では私がその役目を引き継いでいます。
例えば、希少な無農薬の春キャベツを作っている三浦の伊藤農園さんがあります。大量生産せずに適切に育てているため、価格は高いですが味はとてもおいしい。キャベツを大量生産で効率よく作ろうとすると、畑につめるだけつめて植えるので、風通しが悪くなって病気になる確率が高くなります。ですから、どうしても化学農薬や化学肥料が必要です。無農薬で育てようとすれば、わざと栽培間隔を空けて風通しを良くする必要があるので、量をたくさん作ることはできません。
北井:収穫量が少なくても、流通や卸を通さず御社が適切な価格で買い取ることで、農家さんは利益を確保できるんですね。
谷井:青果担当者は、たとえキャベツ1玉780円という価格設定でも「売れる」といいます。それは、高単価になってしまうストーリーやお客さまにとっての価値を説明できる機会と自信があるからなんです。
F&Fで販売している「伊藤農園・農薬不使用 三浦の春キャベツ」
時に、生産者さんやメーカーさんの今までの歴史を伝えられることも必要となります。なぜキャベツが通常の価格の3倍以上するのか、その理由をお客さまに理解してもらい、お客さまにとって投資に値するのか、納得してもらえないと購入はしていただけません。そのために、スタッフが農家に話を聞いたり、実際に農作業を手伝わせていただく研修も行っています。
最終的に高単価商品をご購入いただくには、店長や店舗スタッフを信頼してもらえるかどうか、人を通じてお店を信頼してもらえるかなので、人の教育はとても重要ですね。店のブランドはスタッフが作る、だからこそ人を育成できないとブランド力が育たないと思っています。
北井:新人スタッフが成長していき、スキルが装着されると売り上げが上がる。それがリンクしているというのは、スタッフの皆さんもやりがいがあるのではないでしょうか。
谷井:そうですね。ビジネス的に考えれば、人材とリンクさせるのではなくシステムで売り上げを上げるのが正解でしょう。ただ当社の場合、システマチックに売るのがとても難しい。単価が通常の3倍になるものを売るには、人の力を使って地道にやるしかありません。
売上成績のいい店長はお客さまの欲しいものをわかっていて、かつ農家の作るものへの理解があるので、高価な食品でも必ず売り切るんですよね。
北井:店長さんが「マーケットにいるユーザーの嗜好性」をキャッチできているので各店舗の仕入れは店長に任せている、とお話されていましたが、キャッチできているのはなぜでしょうか?
谷井:ユーザーの顔を見て、「人の繋がり」で商売をしているからでしょうね。店長の頭の中で「この人が買いそうだ」と、それぞれのお得意さまの嗜好性をしっかり把握できているのだと思います。その食品を買うお客さまの顔もわかっているんです。もう引退していますが、過去には「この商品は〇〇さまが気に入るはず」と勝手に買い物カゴに商品を入れても、お客さまから喜ばれていた伝説の店長がいました。
ですから、なるべく店長は異動させません。長いほど見立てがうまくなりますし、勘もよくなるんです。店長は自分の力量で売り上げがダイレクトに動いて、お客さまの反応もわかるので楽しんでくれていますね。
北井:同じ商品でも場所や店によって売れる・売れないのグラデーションが出るのは、そこに足を運んでくださるお客さまの違いと、それを感じ取って見極める店長によるのですから。やはり人の力ですよね。コロナ禍でも、生活者のニーズが変わった瞬間、その見立てが絶妙だった企業は売り上げが伸びている印象です。
出店の見極めは「データより現場」
北井:オーガニック食品に関心のあるお客さまが多い高級住宅エリアは、今も変わらず好調ですよね。加えて、直近では大型娯楽施設やイベント会場のあるエリアの店舗も好調とうかがっています。コロナ禍でも積極的に出店されていましたが、その理由をお聞かせいただけますか?
谷井:新型コロナで空き店舗が増えて、出店できる場所が増えたのが大きな理由です。もともとスポーツの試合やイベント時の需要を見込んで出店されていたコンビニや飲食店の場所が空いて、成功が見える場所にタイミングよく入ることができました。店舗数の増加にあわせて人員も1.4倍ほど必要になりましたが、それもアパレルなど他業界にいた多くの優秀な人材を集めることができたと思っています。
北井:御社の商売に適した好立地が担保できるというのは大きなチャンスですよね。店舗開発において「ここはいける・いけない」という御社なりのジャッジポイントはどんなところでしょうか?
自然食品F&F メトロ・エム後楽園店
谷井:投資対効果の観点で賃料もありますが、一番のポイントは「人の流れ」ですね。地図で居住エリアを見て、実際に現場に足を運んで確認します。当店は日常の買い物に使ってもらう店なので、たとえ駅近でもちょっとしたアクセスのしにくさがあればNGです。歩きか自転車で来店するお客さまが大半なので、店舗前に3車線の道路があって徒歩だと渡りにくい、といった点もネックになります。
例えば、山手線内にあるような大きな駅は利用者数が多いのですが、出入口も多くて人が有象無象に動くので流れが読みにくく、出店はかえって難しいんです。逆に私鉄沿線の駅の方が、利用客数は多くないですが人の流れが読みやすいんですよね。
前述の大型娯楽施設のあるエリアで出した店舗は、周辺に子育て世帯が多く住んでいるにも関わらず、オーガニック系スーパーがほとんどなくて顧客獲得を見込める場所だったので、狙いが当たったなと思っています。店舗は居住エリアからは離れていますが、駅構内にあるので通勤などの行き帰りに立ち寄っていただくことが多いです。
駅の乗降客数など参考になるデータはいろいろありますが、それだけではうまくいきません。当店に来て下さる方がどの程度いるかが重要なので、アクセスの良さや人の導線を意識して現場で確認することを大切にしています。
北井:人の流れに加え、通っていただけるターゲットが明確だからこそ、出店場所と出店計画がシャープに決められるんですね。
ECだから伝わる食品の品質とストーリー
北井:コロナ禍でECサイトを利用する消費者が増えましたが、御社の関連会社T&Nネットサービス株式会社が運営されているECサイト「安心堂」も素晴らしいですよね。商品ラインナップはもちろん、食文化や生産者の想いを知ることができるのがサイトのユーザーとしてはうれしいです。リアルの店舗とECサイトでは、売れるものにどんな違いがありますか?
谷井:店舗は購入単位が小さいですが、ECはまとめ買いがメインですね。また、用途の違いもあります。
「スイカ」がいい例で、ECでは大きいサイズが売れますが、店舗ではカットスイカの方が売れます。スイカ好きの方は、大玉の方が甘くておいしいことを知っているため、わざわざECで探し出して取り寄せます。当店のような徒歩で買い物に来る店舗では、せいぜい小玉サイズまでしか売れません。
ECサイト「安心堂」で取り扱っている「笹原農園・尾花沢すいか 5L(約10kg)」
ECでは、取り寄せる価値や希少性のあるものが売れるという傾向を感じています。一番売れているのは土佐文旦です。皮が厚くて食べるのが少し面倒な品種なので、店舗ではあまり売れないのですが、熱狂的なファンの方が多くいらっしゃってECでは好調です。
店舗は商圏が限定されているので、ある程度一般受けを考えることも大事ですが、ECなら例えターゲットが少なくても全国に薄く広くいれば、小ロットで売ることができます。「大量に作れない高単価商品」はEC向きですね。
良質な商品にもかかわらず、大量に作れないから販売が難しい、という食品が日本全国にたくさんあるので、そういったものをECで売っていきたいと思っています。
食品のストーリーは、ネットのほうが伝わりやすいと思っています。例えば、茨城・野口農園の柳蓮田蓮根は、最高で1本5万円超のものがあります。高価格でもブランド化することで価値を高めて、農園の売り上げに繋げたいです。「柳蓮田」ブランドは、野口さんが他のこだわりの農家さんに声をかけ、広がりを見せています。
このれんこんが高品質である理由は、農園のある茨城・霞ヶ浦が細かい泥質でれんこん栽培に適していること、大正時代に創業した野口農園が一本一本手間をかけて栽培していることなどがあるのですが、こうしたストーリーもネットだと説明しやすいんです。
ECサイト「安心堂」で取り扱っている「野口農園・柳蓮田蓮根 國之介(1本)」
家電製品や本などは同じものを大量生産できますが、農産物は質や量にばらつきがあって仕入れの判断が難しく、売れたからと言って無限に生産することはできません。また、日本には四季があり、日本人には旬のものを食べたいという欲求があります。1年ほど売り上げの様子を見てみないと、季節ごとに売れる商品も把握しにくいものです。
食における信頼と信用を得るのは難しいですが、売り手としてはそれを巧みに理解していることが重要ではないでしょうか。
北井:ECサイトは商圏に縛りがなくなり全国の方がターゲットになるので、より一層こだわりの商品を扱うことができるのですね。こだわり商品を通じて御社のファンを増やしているのだと感じました。
物価高騰で市場との価格差が縮小し好機に
北井:御社のターゲットは食品にお金を使えるシニア層だったかと思いますが、コロナの前と後で、客層やターゲットの変化はありましたか?
谷井:コロナ前はシニア層のお客さまに多くご来店いただいてましたが、コロナで在宅勤務が増えて家での調理機会が増加したことと健康意識の高まりから、子育て世帯や、健康を気遣う30代のお客さまが以前より増えてきましたね。
北井:コロナ禍で何を食べるかという意識が向上して、無添加かどうかという選択肢が当たり前にでてくるようになったと思います。実際にクックパッドの検索頻度を見てみても、「無添加」は上昇傾向にありますね。以前から「子どもにいいものを食べさせたい」という意識は高い傾向でしたが、コロナによってより幅広い層に広がったと感じます。
※記事掲載時点の集計データです
谷井:大前提として、どれだけ体によくても結局おいしくないと売れないので、食品に絶対外せない要素は「おいしさ」です。その上で「安心・安全」を考えるわけですが、オーガニックや無添加であることをどこまで突き詰めるかもポイントだなと思っています。
生産工程など細かいところまでオーガニックにこだわると値段が跳ね上がってしまいますし、「究極のオーガニック」を求める人は全客層の10%もいません。多くのお客さまが、当店だけではなく他のスーパーも併用するので、「ちょっといいもの」を求める人に応えることも大切だと考えています。最低限の基準は守りつつ、価格を抑える工夫も行っています。
北井:昨今の物価高騰は、御社の取扱商品と他社の取扱商品の価格差が縮まり、ある意味追い風になっているのではないでしょうか?
谷井:そうですね。弊社は市場価格よりも高い価格設定で、基本的に市場価格との差が1.5倍以上になることは避けたいと思っていますが、通常時はなかなか難しいです。それが今は物価高騰により市場価格が全体的に底上げされているので、他店舗との価格差が縮まってきており、チャンスだと言えるかもしれません。
最近高騰が続いている卵も、他店との差が縮まって今売れてきています。F&Fで扱っている秋田・高橋農園の比内地鶏の卵は、6個入りで598円(税込価格)ほど。平飼いの鶏に腐葉土を混ぜた手作りの餌を与えて育てているので、味に臭みが全くなく濃厚でとてもおいしいのですが、店に並ぶとあっという間に売り切れてしまう人気ぶりです。
いい商品であることは大前提で、それをお客さまにしっかり伝えて売るためには出店場所と人のスキルがポイントだと考えています。あとは、オーガニックや無添加の理解をどこまで深めて、広げていけるかが課題ですね。
北井:そして大事なのは「おいしいこと」ですね!
生活者にコミットして、非効率なやり方を効率に繋げる
北井:人の力が売り上げに連動するとお話いただきましたが、ある意味で非効率だと感じる方もいらっしゃる気がしますが。
谷井:当店の場合、店がオープンしてすぐ売り上げが伸びるのではなく、ある程度日が経ってからリピーターが増えてじわじわ売り上げが伸びる、という傾向が多いです。なので、店のオープン時に広告を大きく打ち出して、一時的に売り上げを伸ばすことはしていません。
先ほどもお話しした通り、実際に農家や取引先と顔を合わせたり、担当者が出店場所を現地で確かめたり、非効率なやり方が当店にとっては、結果効率に繋がるんです。セルフレジの導入など他社がどんどん無人化を進める中で、弊社はレジでのコミュニケーションに価値があると考えているので、他店と差別化できているのだと思っています。
食品は生産者によってクオリティが変わるもの。特にオーガニック食品はそもそも大量生産品ではないので、売る人を信用してもらうことに繋がるコミュニケーションは最も重要です。
北井:「血の通った伝え方」で商品の魅力を伝えているから、一見非効率と思えることがしっかり機能している。有象無象のターゲットを追いかけるわけではなく、ターゲットとなる生活者に心底コミットしていることが競争優位性に繋がっている。御社らしいビジネスの方法論を感じさせて頂きました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
writing support:Miyuki Yajima
この記事が気に入ったらフォロー
ニュースレター登録で最新情報をお届けします!
著者情報

- FoodClip
- 「食マーケティングの解像度をあげる」をコンセプトに、市場の動向やトレンドを発信する専門メディア。
月2-5回配信されるニュースレターにぜひご登録ください。
登録はこちら>>> https://foodclip.cookpad.com/newsletter/
twitter : https://twitter.com/foodclip