
企業・業界動向
日本菓子の海外向けサブスク その本質は日本文化のストーリー発信
コロナ禍を経て、円安、物価高騰と世界規模の変化は立て続けに起こり、食マーケットは今までにないスピードで変化しています。この連載では「チャレンジ」をテーマに、食関連企業の経営層が変化をどう捉えて事業を牽引していこうとしているのか、その思考をたどります。今回は、日本のお菓子を詰め合わせたボックスを、サブスクリプション方式で海外に向けて展開している、Bokksu株式会社の事業統括部長・梶原奈美子氏にお話をうかがいました。
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Bokksu株式会社
事業統括部長
梶原 奈美子氏

クックパッド株式会社
マーケティングソリューション事業部
事業本部長
北井 朋恵
お客さまが求めているのは、毎月の新しい発見と驚き
北井:毎月テーマを決めて日本のお菓子を海外に発信していらっしゃるこのビジネスはとても興味深いのですが、肝となるテーマはどうやって決めているんですか?
梶原氏(以下、梶原):常に半年先の準備をしているので、毎年年間のテーマを先に決めてしまいます。年始は正月、春は桜、夏は花火大会、秋は紅葉など、日本の四季折々のイベントをテーマにすることが多いですね。また、特定の都道府県とコラボしたり、屋台など日本独自の文化をテーマにしたり。社内にクリエイティブチームがいるので一緒にブレストして、パッケージのカラーディレクションも行います。
北井:日本文化をより知っていただくテーマの設定以外にも、お客さまの声からテーマを決めることもあるのでしょうか?
梶原:もちろんです。当初はあくまで弊社からの提案という形でしたが、今は毎月調査をして、どういうテーマが支持されるのかどうか分析しています。
例えば、意外と不人気なのが「抹茶」。まだまだマスで受け入れられる味ではないようです。「ゆず」もそうですね。特定のフレーバーをテーマにすると、それが苦手な人はひと月分丸々楽しめなくなるので、いろいろな人の好みが反映されるように選んでいます。
2023年4月、「桜」をテーマにお菓子をセレクトしたBokksuの商品
北井:お客さまは、どんな思いや期待を持って毎月購入されているんでしょうか?
梶原:みなさん新しい発見を求めて購入されているようです。そのためわれわれも、一度入れたお菓子はその後1年間リピートしないようにしています。
すごく人気でリクエストが多いものは、フレーバー違いで入れることもあります。昨今はテーマに合わせて新しいフレーバーを開発してくださるメーカーさんもいるんですよ。
我々は「アメリカ人の味覚のレンジ(範囲)はここ」というのを理解した上でお菓子を提案していますが、味覚の幅は少しずつ広がってきています。とはいえ、広がる中にも境界線がある。実際にお客さまからも「食べられるかどうかわからないけど、いろいろなものにチャレンジしてみたい」という要望がありました。
その要望に応える形で新たに始めたのが、「チャレンジスナック」という取り組みです。「チャレンジ」と書いておくことで、もし食べられなくてもある程度受け入れてもらえます。常に驚きを与えるために、テーマ設定やお菓子セレクトなど、いろいろなやり方がありますが、そのうちの一つのアイディアとして取り入れました。
北井:面白いですね!新たな領域、味の広がりにもチャレンジされているのですね!日本のお菓子は、アメリカにはない食感や季節ごとのフレーバー、包材など魅力的なものがたくさんありますよね。
梶原:アメリカのお菓子は、ある程度市場が固定されていて、目新しいものが少ないんです。でも日本は常に各社がコンビニの棚を争っているので、次々と新商品が開発されて種類やフレーバーが豊富。その充実さをお届けするために、お菓子のセレクトもバラエティーに富むよう工夫しています。
お菓子だからこそできる、日本文化のストーリー発信
北井:お菓子を通じて海外に日本文化を発信され、日本のファンを増やしていっているわけですが、日本には工芸品もたくさんありますよね。お菓子だからこそできることはなんでしょうか?
梶原:一番は手軽さですよね。日常に取り入れやすいところだと思います。やはり日本の工芸品は日本の生活に合うように作られているので、アメリカの生活には合わないんです。例えば、マグカップやプレートなど日本の食器類は、アメリカ人にとって少し小さい。でも、お菓子ならトライしやすいですし、消え物なので毎月届いても「もういらない」ということになりません。
北井:工芸品は購入タームも長くリピートする難易度が高いけれど、お菓子ならそうはならない。価格的にもバリエーションにもとても有効だということですね。
梶原:また、われわれは地方のお菓子も紹介しています。日本に住んでいても出会えなかったお菓子が、世界へ発信できるんです。地域活性にも貢献できると思っています。
北井:なかなか知られづらい地方のお菓子が、日本より先に海外で注目されることもありそうですね。地域活性の新しい形。
梶原:地域活性で言うと、同じく地方創生の取り組みをしているANAさんともコラボが決まりました。サブスクリプションの中の一つのテーマとして行えば、われわれが持っている3〜5万のお客さまに届くので、広告メディアとしても企業ブランディングに活用できます。
北井:企業コラボはとても可能性があると感じました。海外に対する企業ブランディングの新しいスタイルになる気がいたします。
また、御社のボックスは、お菓子だけでなく冊子(カルチャーガイド)がついていて、お菓子にまつわるストーリーや日本文化についてもしっかり伝えられるのが最大の魅力であり、お客さまも楽しみにされているのではないかと思うのですが。
梶原:カルチャーガイドが本質と言っても過言ではありません。以前この冊子の閲覧率を調査したところ、「詳しく見る」と答えた人が95%もいたんです。皆さんボックスが届いたら、まずは冊子を見て、お菓子を一つ一つチェックするそうで、「月に1回の家族のコミュニケーションツールになっている」という話も聞きました。お菓子を食べるという「体験」をしながら、その背景となるストーリーを知ることで、日本文化をより深く知っていただくきっかけになっていると思います。
株式会社ほんまの「月寒あんぱん」を紹介するページ。会社創設からの歴史やお菓子の味わいなどについて詳しく書かれている
また、TikTokやInstagram、YouTubeでも日本のカルチャーを紹介しています。こちらでは商品に関わらず、純粋に日本で流行っているもの、例えば「今マクドナルドが◯◯とコラボしているよ」というようなことも発信しているのですが、すごく人気があります。閲覧数も伸びていて、日本への興味関心が高まっているのがわかりますね。
最近、会員向けにバーチャル日本ツアーも行ったのですが、こちらも大好評。これからは、今まで以上にコミュニティ施策の強化をしていくべきだと感じました。
欧米人がトライしやすいオンラインサブスク
北井:カルチャーガイドを拝見しましたが、すごく丁寧に、かつ素晴らしいクオリティで作られていますね。
梶原:それがリテール(小売)との違いです。アメリカにもアジアスーパーがありますが、正直現地のアジア人向けで、商品のことをすでに理解している人達が買いに来るんです。なので、「どんなものがあるんだろう」という気持ちでアメリカ人が行っても、何を買っていいかわからないし、周りから「何もわかってないな」と思われるのが恥ずかしくて、なかなか入れないそうです。
でもわれわれは、商品の説明もしっかり行っていますし、何よりオンラインの越境ECで、どんな方でも気軽にトライできるのがいいところだと思います。
越境ECの問題は配送費。今199ドル以下の購入で、25ドルの送料をいただいていますが、ある程度まとめて購入しないとかなり割高になってしまうので、今後の改善課題です。
北井:ボックス購入からECでのリピート購入の送料問題はありますが、今これだけの人に愛されているわけですよね。御社の場合、スタートアップがすごくスムーズだったように感じるのですが、認知拡大でうまくいった点や苦労した点はありますか?
梶原:オンラインでありD2C(商品を直接消費者へ販売するビジネス)なので、やはりSNSの活用が重要になります。当初は商品にフォーカスした広告を打ち出していて、一番伸びたのはYouTubeの配信でした。
ただ、以前はボックスも小さかったですし、カルチャーガイドもカードを入れていただけで冊子ではなかった。そこでお客さまのご要望や社内の意見を反映しながら少しずつ細かい改善を積み重ね、お菓子の数やバラエティー、甘いものと塩辛いものの比率などを調整して、今の形を作っていきました。
あとはコロナですね。家で過ごす時間が増え、今までとは違う体験を求めた方に、興味を持っていただいたんだと思います。
北井:確かにコロナ禍では海外にも行けませんでしたし、お家時間の使い方が多様化して、さまざまな企業が好調になりました。でも、そのあと低迷していった企業もある中で、御社の人気が続いているポイントは何ですか?
梶原:われわれのお客さまは、長く利用する方が多いんです。通常のサブスクだと平均3ヶ月の継続率なのですが、弊社は9ヶ月。お菓子の詰め合わせというこのフォーマットは消え物ですし、毎月テーマが変わって発見もあるので、サブスクにすごく合っているんだと思います。
また最近のアメリカは、多文化教育をすごく重視しています。子どもの頃から他国の文化を知ることを大切にしているので、「Bokksuを国際文化教育に使っている」という方も結構いらっしゃいます。
Bokksu公式HPより https://www.bokksu.com/
北井:なるほど……。毎月商品を見つけてくるバイヤーは大変ですよね。驚きもそうですが、その背景にあるストーリーも考えて選ぶ必要がある。
梶原:実は少数気鋭で、今でこそ3人に増えましたが、以前まで2人でした。ただ、皆すごく好奇心旺盛で探究心がある。時には上司から却下されたお菓子も、あの手この手でよさを伝えようとするほど、熱意を持って取り組んでいます。
もちろんコスト管理もしないといけません。彼らは、他の商品とのバランスを見て廉価版の提案もできるよう、常に幅広くアンテナを張っています。
ストーリーを語る商品開発で、さらなるシェア拡大へ
北井:今後さらに、チャレンジしていきたいことはありますか?
梶原:もっとストーリーを語る商品開発をしていきたいです。今サンリオとのコラボをやっているのですが、ストーリーテリングとフォーマットの相性がすごくいいんですよ。冊子では、サンリオの世界観を語りつつ、それぞれのキャラクターがお菓子を紹介しているのですが、このフォーマットはキャラクターブランディングできる強さもありますね。
北井:ハローキティは海外でも人気が高く、日本と違い海外では大人にも愛されていますからね。
梶原:日本だと「かわいい=子ども」という先入観がありますが、海外にはそれがないので受け入れやすいのかもしれません。皆さん日本製のハローキティ商品に興味があって、売り上げの半分以上は年間でサブスクリプション契約をしているお客さまです。そう考えると、可能性が広がりますよね。
Bokksuがサンリオのキャラクターとコラボレーションしたサブスクリプションボックス
あとは、もっと世界シェアを広げていきたいです。すでにわれわれは全世界100ヶ国への出荷実績がありますが、コロナで配送に制約がかかったので届けられなくなった国があるんです。以前強かった国をリバイブ(再構築)しつつ、もっとグローバルに、ヨーロッパなどにも展開していきたいと思います。
われわれの強みは、日本でしか手に入らないスモールメーカーのお菓子が詰められるところ。情報感度が高く、日本への探究心があるお客さまには、必ず喜んでもらえるはずです。
北井:日本人でも知らない日本の魅力的なお菓子が海外に届けられるわけですからね。日本への探究心があるお客さまに本当に喜ばれそう。そしていいものを作っているけれど、知られていないお菓子メーカーにとっては大きなチャンスになりますね。
梶原:どうしても食品は大企業文化なところがあるのですが、昨今アメリカではそれが批判されているんです。「カルチャーサスティナビリティ」という単語があるのですが、「小さい作り手を大切にしよう」というムーブメントが起きているんですよ。我々が取引しているのも小さなメーカーが多いので、そういう面でも支持されています。
北井:とてもいいですね。コンビニやスーパーでは買えないものに出会えること、またお菓子を通じて日本のカルチャーを届けられることこそ、Bokksuの魅力ですね。
writing support:Tomoko Kodama
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