高級食パン「銀座に志かわ」社長に聞く勝算 ブームが終わっても生き残れるのか

高級食パン「銀座に志かわ」社長に聞く勝算 ブームが終わっても生き残れるのか

全国ブームの火付け役となった銀座に志かわは、2022年7月に米ロサンゼルスで海外一号店を出店した。デリバリーサービスを中心に事業を展開している。高級食パンビジネスでは、何が起こっているのか。銀座に志かわを展開する銀座仁志川の高橋仁志社長に聞いた。
※この記事はITmediaビジネスオンライン([河嶌太郎]/2023年3月31日掲載)からの転載記事です。

 高級食パン業界では熾烈(しれつ)な競争が続いている。

 もともとは10年ほど前に、京都・祇園に本店を置く「ボロニヤ」や大阪市の「乃が美」をはじめ、西日本を中心にした店舗から、ひそかなブームになっていた。

 2018年9月に東京・銀座で「銀座に志かわ」が開店。それを追うような形で12月に「乃が美」が東京に初出店した。その様相が多くのメディアにも取り上げられることとなり、一気に全国的なブームへ広がった経緯がある。

 今や高級食パンを扱う店は、専門店だけで約1000店舗といわれる。

16902_image01.jpg

 そんな中、全国ブームの火付け役となった銀座に志かわは、海外に打って出た。22年7月に米ロサンゼルスで海外一号店を出店。パン食の本場ともいえる米国では、デリバリーサービスを中心に事業を展開している。

 海外進出を果たした狙いとは。高級食パンビジネスでは、何が起こっているのか。銀座に志かわを展開する銀座仁志川の高橋仁志社長(高は「はしごだか」)に聞いた。

16902_image02.jpg

銀座に志かわを展開する銀座仁志川の高橋仁志社長

東京から打って出た銀座に志かわ

――高級食パンブームの流れをどう捉えていますか。

 銀座に志かわは18年9月に銀座本店からスタートしました。高級食パンブーム自体は、乃が美さんが2013年に始め、さらにセブン-イレブンさんが「金の食パン」を展開したことによって文化として広がっていきました。

 乃が美さんの戦略は大阪から打って出て、東京を最後にするマーケット戦略を採っていました。通常、文化は東京から広がっていくことが多い一方、東京を最後にした戦略でブームは進んでいったので、東京の大手メディアに大々的に取り上げられたのは18年になったころでした。ここまでに5年かかっています。

16902_image03.jpg

サンタモニカ店の外観

――18年は銀座に志かわが営業を開始した年でもありますね。

 東京を後回しにする戦略に対し、ならば東京から打って出てやろうとしたのが当社でした。18年9月に営業を始めたのですが、その2カ月後の11月に、乃が美さんも麻布十番に東京1号店をオープンさせました。わずかな差で当社が一歩リードできたというわけです。

――それから銀座に志かわは、乃が美の牙城だった西日本に出店を進めていきます。その様相をメディアが「高級食パン戦争」とも取り上げました。 

 とはいえ乃が美さんは、やはり高級食パンをけん引する先輩的な存在です。文化を生み出したお店として尊敬もしています。現在、高級食パン専門店が日本に1000店舗ぐらいあるといわれて、「銀座に志かわ」は今137店舗を展開していますが、乃が美さんとの差はなかなか縮まりません。

16902_image04.jpg

サンタモニカ店の内観

16902_image05.jpg

店舗数の伸びは「参入障壁の低さ」

――銀座に志かわが開業した18年、高級食パンの店舗数は当時、全国でも300店舗くらいといわれていました。20年からコロナ禍に見舞われているにもかかわらず5年で3倍以上に増えた形になります。なぜここまで伸びたのでしょうか。

 ブーム自体はコロナ禍以前から火が点いていたとは思うのですが、一番の理由は参入障壁の低さだと考えています。コロナによって外食産業は大きなダメージを受けました。ただ、その中で食パンは多くの日本人が家で毎日食べるものなので、需要はそう簡単にはなくなりません。

 何より高級食パンに絞ることによって、一種類の商品でもビジネスを展開することが可能になります。もともとパン屋を手掛けていない企業でも新規参入しやすいんですよね。実際に乃が美さんを含め、現在は全国展開する高級食パンチェーンはベーカリー出身ではない企業が大半です。

 その点、私はもともと、老舗ベーカリー「麻布十番モンタボー」としてスタートしています。ベーカリー業界に20年近く携わっています。

――高級食パンが一つの文化となって何か変わった点はありますか。

 パン業界に入って20年近くになりますが、日本人の主食といえる「食パン」が贈答品にも使えるようになったのは大きいと思います。今までお中元などのギフトにパンを贈ろうとする人はいなかったのではないでしょうか。贈答品にも使えるパンという市場を新たに形成したわけです。ブランドがより大事になったと考えています。

――22年7月には日本の高級食パンチェーンとして初めて海外に進出。パン食の本場である米ロサンゼルスに店舗をオープンしました。なぜ米国に照準を合わせたのでしょうか。

 海外に行ったことのある方なら分かると思うのですが、確かに欧米ではパンは主食ではあります。ただ、日本人になじみのある食パンが主食かというと、そうではないんですよね。フランスパンやクロワッサンといったタイプがどちらかといえば主流なのです。

 四角い形をした角食パンは英国で生まれたもので、英国ではパンの上に山がついているタイプのものでした。この山型タイプの食パンも日本では広く売られています。これが米国に渡ったことで、店頭で縦に陳列して売りやすくするために、山が取れて日本で主流の形の角食パンになりました。

 そういう意味では、(山が取れた)角食パンの発祥の地である米国で、品質で勝負したい狙いはあります。

16902_image06.jpg

――海外のパンは生で食べると固いものが多い印象です。米国の食パンは日本のものと比べて、どうなのでしょうか。

 正直に言うと、乾燥したパサパサしたものばかりでおいしくない印象です。日本の食パンは柔らかくてもちもちした食パンが中心ですが、その中でも当社の食パンは上品な甘さと柔らかさに自信があります。勝算は十分にあります。

――日本の流行を好意的に受け止めてくれる中国や台湾、韓国などで展開する考えはなかったのですか。

 中国、台湾、韓国などのアジア各国では日本の文化がすぐに浸透する地域で、そうした問い合わせも多くいただきました。ただ、当社の高級食パンで、海外で勝負するとなった際に、真っ先に出ていきたかったのが米国とフランスだったんです。

 米国は角食パン発祥の地ですし、フランスは昔から今に至るまでパン食文化の最先進国です。こうしたパンの先進国で自分たちの腕試しをしたい思いは、創業の時から発言してきました。

16902_image07.jpg

米国デリバリーの実態

――米国ではデリバリーサービスを中心にビジネスを展開しています。これはどういったサービスなのでしょうか。

 米国では「Coco」という配達ロボットを使ったデリバリーも進めています。Cocoは道路の上を走るドローンのようなもので、遠隔操作によって動きます。配達可能な範囲は大体半径2マイル(約3.22キロメートル)で、商品が到着したら受け取り人が事前に送ったQRコードを照合することで、Cocoの荷台が開き荷物を取り出せる仕組みになっています。

 ロサンゼルスにある「Colony」というピックアップ&デリバリー専門の商業施設の一画に出店したのですが、そこには30台ぐらいのCocoがあります。もちろんまだまだ人手を使った配達が主ではありますが、今後は無人の配達の仕組みも広がっていくはずです。そういう点も米国という最先端の場所で学んでいきたいと考えています。

16902_image08.jpg ――国内でもパン店の車が住宅街を回る移動販売ビジネスがあったと思いますが、今の国内のパンデリバリーの事情はどのような状況ですか。

 国内の実験ではUberも使って配達したりもしました。ただ高級食パンでは、880円の食パンに配達手数料が上乗せされてしまうと、値段が一気に1000円を超えてしまうんですね。1年ほどかけて実証実験をしたのですが、なかなか活路が見いだせないでいます。

――高級食パンをUberで頼んで買うかという問題になるわけですね。贈答用にも使えるパンだからこそ、デパートなどに出向いて買うことに価値を置く見方もありそうです。

 そうなんですよね。Uber以外でもさまざまな配達方法によって都内で実験をしたのですが、どれもうまくいきませんでした。牛乳だと配達は今でもありますし、パンでもいけるんじゃないかとも思ったのですが、コロナ禍のデリバリー全盛の時代でもなかなか難しかった感じです。

――直営とフランチャイズ(FC)の割合はどんなものなんでしょうか。

 2割が直営、8割がFCになります。

――今のフランチャイズビジネスの課題を、どう見ていますか。

 こだわりの職人でないと作れない食パンをFCでも展開できるようになりました。このことには手応えを感じています。ただ、現在では本当に一種類の真っ白な食パンを作るだけではダメで、食パンの多様化による競争が生まれてきています。こうした動きに対する不安の要望もいただきます。高級食パンブームがピークを過ぎたのではという声もあります。

 それで銀座に志かわでは「あん食パン」や「月初め食パン」などの新商品を投入することで、新たな市場を作ってお客さまを飽きさせない商品を提供していっています。原材料の高騰もあり、22年4月から価格を800円から880円に上げました。

16902_image09.jpg

トップブランドを持つ企業が生き残る

――「高級食パンブーム」に陰りという声はメディアでも報じられています。

 高級食パン業界では、生粋のパン業界の企業が経営しているのは当社ぐらいのもので、外部から参入している企業が大半なんです。そういう意味では、かつてのタピオカドリンクブームのように、はやりに乗って出店したお店が、収束しそうになるや否やこぞって撤退するようになる可能性も大いにあります。

 そうなった時に、私は麻布十番モンタボーというベーカリーもしっかり経営してきました。そして現在もグループでベーカリーを経営している当社としては、ブームが終わったから撤収とするわけにはいきません。当然ですが、一ベーカリー企業としてしっかりパン業界に定着していくつもりです。

16902_image10.jpg

――ブームが収束する時はいつか必ず訪れると思うのですが、今後どのように乗り切っていくお考えでしょうか。

 先ほどタピオカドリンクを例にお話しましたが、ブームが落ち着いても根強い人気を誇るのが「貢茶(ゴンチャ)」というお店です。「ゴンチャ」は日本や台湾だけでなく世界で1700店舗以上を展開する一大ティーブランドとして有名です。

 ブームが収束した時にどんな企業が生き残っているのかをみると、「ゴンチャ」のようなトップブランドを持つ企業が生き残っています。ブームの全盛期に店舗数が一番多かった企業ではありません。

――つまり、生き残るためには店舗数ではなく、トップブランドが必要だというわけですね。

 それを確立したいがための、米国進出とも言えます。海外だけでなく、国内でも「高級食パンといったら銀座に志かわ」と言っていただけるように、47都道府県でしっかりお店を出していくのも一つの大きな目標です。とはいえ、トップブランドを目指そうとするなら、日本だけではなく世界市場も見据えなければいけません。

 そのために、角食パン発祥の地である米国で、日本の高級食パンを新しい文化として広めていきたいです。日本を代表する文化として「Shokupan」を海外で伝道していくことが、銀座に志かわのブランド作りにもつながると信じています。

16902_image11.jpg

16902_image12.jpg

元記事はこちら



この記事が気に入ったらフォロー

ニュースレター登録で最新情報をお届けします!





著者情報

著者アイコン
ITmedia ビジネスオンライン
「ITmedia ビジネスオンライン」は、企業ビジネスの最新動向、先進事例を伝えることで、その発展を後押しする、オンラインビジネス誌です。「ニュースを考える、ビジネスモデルを知る」をコンセプトとし、各業界を代表する有力企業から新たなビジネスを提案する新興企業まで、多くの企業への取材を通して、その最新動向や戦略を紐解き、企業の現場で活躍するアクションリーダーに分かりやすく伝えます。