広がる脱ミート、植物由来食品のスタートアップに注目

米国では以前から、ベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(絶対菜食主義者)を対象とした代替肉食品が存在していましたが、近年では肉類以外のカテゴリにおいても植物由来の代替食品が急速に広がっているようです。


米国では、健康問題・環境保護・動物愛護など、さまざまな問題意識の高まりによって、植物性食品を摂りたいというニーズが広がっています。それを受けて、数多くのスタートアップ企業がしのぎを削り、様々な動物性タンパク質食材を植物由来の原料で製造することに成功しています。

これまでの代表的なものとして、植物由来の牛肉の代替肉がありますが、近年では肉だけに留まらず、その他の食材も植物由来のものに置き換えられています。では、どのようなものが開発されているのでしょうか。特に注目されている5つのスタートアップを紹介していきます。

1.インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)

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まず初めに紹介するのが、最も多くの資金調達に成功しているインポッシブル・フーズです。ビル・ゲイツをはじめとする多数の投資家からすでに1,300億円以上の資金を調達しています。(2020年3月末時点)

インポッシブル・フーズは、2011年カリフォルニアで、スタンフォード大学生化学教授のパトリック・ブラウン氏によって創業されました。ブラウン氏は、持続可能な環境保全のためには畜産業の廃止が有効であると考えて、植物由来の代替肉の製造及び販売に乗り出します。

インポッシブル・フーズは主に大豆を原料とし、特許技術によって大豆から抽出したヘム鉄で、食べた時の肉汁感を出しています。商品としては、牛肉の代替品のインポッシブル・バーガーと豚肉の代替品であるインポッシブル・ポークで、どちらも形状は挽き肉のようなもので、ハンバーガーのパティやミートボールを作る際に使用することができます。

2019年8月には、全米大手のハンバーガーチェーン「バーガーキング」にて「インポッシブル・ワッパー」を販売し、インポッシブル・バーガーの販売拡大をしています。

2.ビヨンド・ミート(Beyond Meat)

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代替肉のスタートアップとして世界で初めて上場を果たしたのが、ビヨンド・ミートです。2009年にカリフォルニアで誕生したビヨンド・ミートは、気候変動の防止や人類の健康のためには、畜産物からではなく、植物からタンパク質を摂取することが最良であると考えています。

ビヨンド・ミートが非常にユニークなのは、見た目の形状や風味だけでなく、調理体験も従来の肉と非常によく似ていることです。生肉にそっくりなピンクや赤い色の状態で販売され、加熱していくとジューシーな肉汁を出しながら、徐々に褐色に変化していきます。その様子はまさに肉を焼いているようです。この調理体験までもリアルに表現した点は、ビヨンド・ミートが他の商品と一線を画していると言われています。

主原料としてはエンドウ豆を使用し、ココナッツオイルやビーツ果汁などを加えて製造しています。幅広く商品を展開しており、ハンバーガー用のパティ「ビヨンド・バーガー」だけでなく、「ビヨンド・ソーセージ」「ビヨンド・チキン」「ビヨンド・ビーフ」「ビヨンド・クランブルズ(挽き肉)」などがあります。

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ビヨンド・ミートも2019年4月より、米国のメキシカンファーストフードチェーン「デルタコ」にて、商品を使用したタコスやブリトーの取り扱いを開始しています。その後、他のレストランでもビヨンド・ミートが使用されたメニューが増え続けています。

また2020年4月には、新型コロナウィルスの最前線で戦う医療従事者などに100万食以上の商品を寄付すると発表し、話題になりました。

3.グッド・キャッチ・フーズ(Good Catch Foods)

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植物由来の代替肉の波は、肉だけでなく魚にも発展しています。グッド・キャッチ・フーズは、植物から代替ツナの製造・販売を行うスタートアップです。2016年にチャド・サーノ氏、マーチ・ザロフ氏らにより、ペンシルバニアで誕生しました。

グッド・キャッチ・フーズは、環境に優しく、誰もが安全に口にすることのできる魚の開発を目指しています。寿司を中心とした日本食の人気ブームを背景に、魚の乱獲による海洋資源の枯渇、海洋生態系の破壊に対する懸念が高まっていることや、海洋汚染によって大型魚類に重金属の含有不安から、妊娠中の女性が摂取を避けていることを問題視し、これらをクリアにするために開発をスタートしました。

主な材料にはエンドウ豆、ヒヨコ豆、レンズ豆、大豆、そら豆、白インゲン豆の6種類の豆類をブレンドしたものが使われています。魚に含まれる健康成分であるオメガ3-脂肪酸やDHAを添加するため、海藻オイルを使用しています。最初の商品としては、世界的に人気が高く、特に乱獲が危惧されているマグロが選ばれました。現在はパウチ入りの代替ツナの他に、冷凍のフィッシュバーガーのパティやクラブケーキを販売しています。

4.ジャスト(Just)

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さらに米国では、植物肉だけでなく植物卵も誕生しています。ジャストは、植物由来のタンパク質を使って製造する卵、またその卵を使ったマヨネーズやクッキー、ドレッシングを販売しています。商品は卵の形はしておらず、全卵を溶いたような黄色い液体がボトルに入った状態で販売されています。

ジャストは2011年にカリフォルニアで、ジョシュ・バーク氏とジョシュ・テトリック氏により、ハンプトンクリーク社として創業されました(後にジャストに社名変更)。テトリック氏は、学生時代にアフリカを旅する中で、貧困や環境問題、動物愛護などの社会課題に対する解決を志します。また様々な活動の中で、養鶏は非常に多くのストレスを鶏に与え、非常に多くの水資源を必要とし、なおかつ大量のCO2を排出することを知ります。もし卵を植物から人口的に製造することができれば、大きな社会的インパクトになると考え、植物卵事業に乗り出します。

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ジャストの植物卵は緑豆を主原料とし、色味としてターメリックを使用しています。風味も非常に卵に近く、最大のメリットは、卵と同量のタンパク質を摂取することができる上に、コレステロールがゼロである点が挙げられます。これにより、コレステロールを気にして卵を控えていた人でも、料理を楽しむことができます。

2017年には植物卵に加え、細胞を人工的に育てて製造する細胞培養肉の研究開発にも取り組んでいます。すでに細胞培養鶏肉の開発は成功していると発表していますが、規制に阻まれ、2020年3月時点ではまだ販売に至っていません。

5.メンフィス・ミーツ(Memphis Meats)

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メンフィス・ミーツは、植物由来の代替肉のインポッシブル・フーズやビヨンド・ミートとは違い、生きた動物から取り出した細胞を培養して作る食肉で、培養肉の研究開発及び製造を行なっているスタートアップです。同社は、2016年に世界で初めて培養肉の製造に成功しており、すでに190億円以上の資金調達をおこなっています。米国では植物肉だけでなく、培養肉から作られる人工肉にも大きな注目が集まっています。

メンフィス・ミーツは、2015年に医師ウマ・ヴァレティ氏と生物学社のニコラス・ジェノヴェーゼ氏により、カリフォルニアで創業されました。培養肉の利点として、通常食肉用の家畜の飼育に数年かかるところ、培養肉であれば数週間で済むことや、飼育過程で必要となる水や排出されるCO2を大幅に削減できることを挙げています。さらに、培養肉は細菌のリスクを減らせること、また脂肪分やコレステロール値をコントロールすることもでき、健康的価値も提供できるとしています。

現時点では製造コストがかかりすぎることで、メンフィス・ミーツの商品化には至っていませんが、2021年の販売開始を目標に製造コストの削減に注力しています。世界初の培養肉の販売を多くの人が待っていることでしょう。


スタートアップの創業者たちはいずれも、人々の健康と地球環境保護のために新しい食品の研究開発に尽力しています。現時点では成長フェーズにあり、まだまだ普及しているとは言い難い代替食品ですが、今後どのように広がっていき、どのような革新的な商品が生み出されるのか目が離せません。





著者プロフィール

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倉中真梨子
夫の渡米に帯同して、2019年7月より当時0歳の息子を連れて人生2度目の米国生活スタート。美味しいものと体に良いものが好きな食いしんぼう母さんです。
米国生活は通算16年目に突入。現在ピッツバーグ在住時々LA。