コロナ禍のアメリカで人々が購入したものとは

2020年がこのような年になることを誰が想像したでしょうか。新型コロナウイルス(COVID−19)の猛威によって、筆者の住む米国では生活が一時大きく制限されましたが、ようやく少し落ち着きをみせ日常生活が再開しました。

そんなコロナ禍において、米国内の人々は何を購入していたのでしょうか。今回は、コロナ禍で顕著に売上を伸ばした食品アイテムをみていきたいと思います。


2020年1~2月の米国は、中国・欧州における感染者の広がりを対岸の火事を見るかのごとく見守っている状態でした。ニュースでの取り扱いも小さく、今年11月におこなわれる大統領選に関する話題で連日持ちきりでした。

ところが突如2月末に、カリフォルニア州とワシントン州で市中感染が確認されると全米へ一気に感染が拡大し、ニューヨーク州を中心に、他国では例を見ないほどのスピードで感染者数が増加しました。3月26日、ついに米国は世界で最も多くの感染者を抱える国となりました。

米国では2月末以降、感染者数の急激な増加に伴って、これまでの生活が送れなくなるのではという不安が膨らみ、人々の購買行動にも変化が現れました。3月に入ると様々な商品が棚から消えていき、オンラインでも「在庫切れ」や「配送予定日未定」という表示が目立つようになりました。米国内の人々はコロナ禍で何を購入していたのでしょうか。

サプリメント

コロナ禍で購入が急増したものの中で、最も米国らしいものとして、サプリメントが挙げられます。米国は年間3兆円もの市場規模を持つサプリメント大国です。人々は健康のためにサプリメントを日常的に摂取しており、感染症予防対策として免疫力を高めようと、さらに購入が急増しました。

3月13日にトランプ大統領が緊急事態宣言を発出した際に、売上が急上昇したようです。IRI社の調べによると、3月9日~3月15日の週で特に大きく売上を伸ばしたのは以下のサプリメントです。

米国での週間売上成長率:対前年
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出典元:IRI
図はデータを元に執筆者が作成


例年では、風邪やインフルエンザ予防に摂取されているサプリメントの売上がインフルエンザシーズンの終了とともに下降するところ、今年は3月半ばに跳ね上がりました。

※エルダーベリー:ブルーベリーのような実をつける植物。ビタミンC、抗酸化物質が豊富で免疫力を高めると言われている。エルダーベリーのサプリメントは風邪、インフルエンザ予防として米国では冬場に摂取されることが多い。

※エキナセア:アメリカ先住民が古くから使用していた免疫システムを活発にするとされるハーブ。

保存食品

3月に入り全米で感染が拡大していくと、人々の間では近々外出が制限されるのではないか、物流が滞るのではないか、という不安が広がっていきました。その頃から米国ではパニック的な買い貯め行動が起こり始めました。例えば、米・パスタ・缶詰・瓶詰め商品など常温で長期間保存できる食材が、昨年同時期と比較し顕著に売上を伸ばしました。主食にもなりタンパク源にもなる乾燥豆の伸びが著しいことが、以下のグラフからわかります。

米国での週間売上成長率:対前年
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出典元:ニールセン
図はデータを元に執筆者が作成

嗜好品

外出自粛により在宅時間が長くなったことで、アルコール飲料やお菓子など嗜好品の売上も伸びています。ニールセン社によると、3月にはアルコール飲料の売上は昨年同時期より55%伸び、特に伸びが顕著だったのはジンやテキーラなどアルコール度数の高いもので、前年同期の75%伸びています。ワインやビールはそれぞれ66%、42%という伸びがみられます。

米国での2020年3月の店頭売上高成長率:対前年
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出典元:ニールセン
図はデータを元に執筆者が作成


また、アルコールのおつまみや在宅勤務のおやつとして、お菓子類の売上も増加しています。コロナ禍の外出自粛期間に利用者数を大幅に増やし、視聴時間を格段に伸ばしたとされる「Netflix」の影響もあるかもしれません。友人たちと会食もできず、映画館にも行けない状況の中、自宅での娯楽としてアルコールやお菓子を片手に「Netflix」を楽しんだ人々も多かったことでしょう。特にポップコーンの売上が伸びているという事実が、自宅で映画を楽しんでいる様子を想像させます。

米国での週間売上成長率:対前年
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出典元:ニールセン
図はデータを元に執筆者が作成

生鮮食品

外出自粛となり自宅で食事をする回数が必然的に増えたことで、生鮮食品の購入量も増えています。しかし、買い物に行く回数を減らすためか保存期間の長いものが好まれ、野菜やフルーツのようなフレッシュなものより、冷凍品や缶入りなど長期保存できるもののほうが高い成長率となっています。

米国での2020年1-3月の店頭売上高成長率:
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出典元:ニールセン
図はデータを元に執筆者が作成


食事の主菜となる肉類も、野菜や果物と同様に購入量が増えており、生肉よりも保存の効く缶詰が前年比較で伸長しています。また、消費期限の長い代替肉も購入量が急増しました。2019年は代替肉自体の市場が18.4%程度拡大しており、近年成長カテゴリである点も留意する必要がありますが、それを考慮してもコロナ禍で売上が大きく伸びていると言えます。

米国での週間売上成長率:対前年
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出典元:ニールセン
図はデータを元に執筆者が作成


また4月に入ると、米国の食肉処理施設でコロナウィルスの感染が広がったことにより、肉類の品薄状態が続きました。多くの処理作業を必要とする肉類は、作業員の不足や稼働の縮小により、不安定な供給と価格の高騰を招きました。肉類の出荷が減少する中で、多くの作業員を必要とせず、また安定的な供給と価格を維持できる代替肉に注目が集まり、4月18日からの1週間では前年同期の300%に跳ね上がりました。コロナウィルスの思わぬ影響で注目の集まった代替肉は、さらに勢いをつけていくかもしれません。

イベント

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春に行われる米国で最も大きなイベントといえば、イースターです。今年のイースターは4月12日の日曜日でした。例年イースターの日にキリスト教徒たちは教会に集い、離れて暮らす家族と久しぶりに会って、ご馳走を食べてお祝いします。しかし外出自粛にあった今年は教会にも行かず、自宅からオンラインのビデオ通信などを利用して、家族とともに祝った人が多かったようです。

しかし、イースターの定番食材の売上は上がっており、直接家族と会わないまでも、それぞれの自宅でハムやパン、イースター用のお菓子などを作った人が多かったことがわかります。外出自粛中でも伝統的なイースターを過ごした人が多くいたことから、米国の人々にとっていかに重要なイベントであるかがうかがえます。

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米国での週間売上成長率:対前年
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出典元:ニールセン
図はデータを元に執筆者が作成

※イースター:キリストの復活と春の到来を祝うイベント。日にちは毎年異なり、春分の日の後の最初の満月から数えて最初の日曜日がイースターとなる。米国人の約65%がキリスト教徒。

植物性ミルク

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米国で年々普及している代替乳もコロナ禍で売上が増加しています。ニールセンによると、オーツミルク(オーツ麦ミルク)が前年同期の474%と急激な伸長をしています。牛乳と比較し消費期限が長く、栄養価が高いこと、またコレステロール値低下の効果があるなど、感染を恐れる人々にとって非常に魅力的な飲料であると言えます。しかし、それ以上に大手外食チェーンの影響も大きく受けているようです。

米国の植物性ミルクの普及において、大手コーヒーチェーンの「スターバックスコーヒー」の存在を無視することはできません。2004年に豆乳、2015年にココナッツミルク、2016年にアーモンドミルクの選択肢を全飲料に加えました。(牛乳の入っている飲料に追加料金を支払うことで植物性ミルクに変更することができます。)

それぞれの植物性ミルクは「スターバックスコーヒー」での導入をきっかけに、多くの人に親しまれるようになりました。オーツミルクは2019年に大都市の限られた店舗でのみ提供されていましたが、2020年から徐々に提供店舗を拡大しています。また店舗数で全米No.1ドーナツチェーンである「ダンキンドーナッツ」が、2020年より全店舗でオーツミルクの取り扱いを開始したことも、認知拡大に寄与したと考えられます。外食チェーンでの取り扱い拡大や健康意識の高まり、保存期間が長い商品へのニーズが重なり、オーツミルクの購入量が急増しているものと思われます。

現時点で、コロナウィルスには有効な治療法は確立されていません。米国も日本と同様に、いかにコロナウィルスと共生し、新たなライフスタイルを確立させ、経済活動および日常生活を再開していくのかという考え方にシフトしてきています。
きっと人々の食事習慣にもいろいろな変化が起こってくることでしょう。今後も引き続き、米国に住む人々の食生活や食トレンドを追っていきたいと思います。





著者プロフィール

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倉中真梨子
夫の渡米に帯同して、2019年7月より当時0歳の息子を連れて人生2度目の米国生活スタート。美味しいものと体に良いものが好きな食いしんぼう母さんです。
米国生活は通算16年目に突入。現在ピッツバーグ在住時々LA。