米国のD2Cフード業界、冷凍は課題解決の糸口となるか

米国のD2Cフード業界、冷凍は課題解決の糸口となるか

米国では近年、D2C(Direct to Consumer)が拡がりを見せるなか、新たに冷凍食品を活用したサービスを展開する「モザイク・フーズ(Mosaic Foods)」にも注目が集まっており、D2Cによるフードサービスは次なる段階へと入っているようです。

競争が強まるD2Cフードサービス

米国ではミールキット市場の第一段階として、シェフと提携して独自に考案したメニュー食材を宅配する「ブルーエプロン(Blue Apron)」や、そこから更に調整されたものを冷蔵状態で配送するサービスの「マンチェリー(Munchery)」など、D2Cフードのスタートアップ企業が増えてきました。

しかし「ブルーエプロン」は2017年上場後に株価が低迷、また「マンチェリー」は操業停止を余儀なくされるなど、いずれも苦戦を強いられていました。

「ブルーエプロン」は、富裕層をターゲットに30分程度で作れるミールキットを宅配するサブスクリプションを提供しているため、レストランの宅配サービスとスーパーマーケットの中間という微妙な位置にあり、潜在的顧客層の極限られたグループにしかリーチできないという根本的な問題を抱えていました。

また、競合他社の参入や、大手スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ(Whole Foods)」を買収した「アマゾン(Amazon)」が、食料品市場へ本格参入しミールキットの独自開発販売を始めたことも大きな影響を受けました。新規顧客の獲得のために膨らんだ広告投資コストが収益を圧迫しはじめ、株価の低迷につながったのです。

また、「マンチェリー」は、サービス内容にコストが見合っていませんでした。1食10ドル前後に設定された価格では、材料・調理・配達のコストを賄うことはなかなか難しく、一方で10ドルを大きく超えてしまうと、安価な外食や他のテイクアウトフードとの競争に勝つことができませんでした。

冷凍食品に見い出した勝機

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「ブルーエプロン」のオペレーションディレクターであった、マット・デイビス氏とサム・マッキンタイア氏は、ニューヨークで新たに「モザイク・フーズ(Mosaic Foods)」を設立し、ヘルシーで美味しいボウル(丼)メニューを冷凍で宅配するサブスクリプションサービスを2019年5月にスタートしました。

「モザイク・フーズ」の最初の製品は、ベジタリアン向けのヘルシーな6つのボウルメニューでした。専用キッチンで新鮮な食材からローストされ、グリルやソテーした後に冷凍加工したものを自宅に直接届けるサービスとして、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンD.C.など、アメリカ北東部の一部の都市で開始しました。

マット・デイビス氏は、当時『TechCrunch』に次のように話しています。
冷凍食品は未開拓だが、非常に高い可能性を秘めていると考え、このサービスをスタートしました。「ブルーエプロン」に約4年間勤め、冷凍食品が業界の中で残された、最後の未開拓領域であることに気付いたのです。冷凍食品は大規模に生産でき、長期間保存でき、そして食品廃棄量を削減できる素晴らしい方法です。

各ボウルには、ソースとガーニッシュ(※)がパッケージされています。ボウルのサイズに応じて、1食あたり8.99ドル〜12.49ドルの範囲で購入できます。4食入りの箱の場合は1食あたりが12.49ドル、12食入りの場合は1食あたりが8.99ドルです。つまり、食事の注文数に応じて、1食あたりのコストを抑えることができるのです。1・2・4・8週間ごとに定期購入するサブスクリプションのプランもあります。

ここに冷凍食品の勝機があります。長い間冷凍庫で保管しておくことができ、腐ることを心配する必要がないため、顧客は一度に大量に注文することができます。
彼らの最大の顧客である郊外の人々は、都市部に住む人々に比べて食事の選択肢が少ない上に、より大きな冷凍庫を保有しているのです。

また、ターゲット顧客の多くは、健康面や環境面の理由から果物や野菜のほか、植物由来の食事を好んで選んでいるベジタリアンやビーガンの人々です。彼らの食事は準備に時間がかかるものも多く、彼らは必ずしも自分で準備や調理をしたいと考えているわけではありません。「モザイク・フーズ」の食事は、さまざまな野菜や豆類、大豆タンパク質のテンペ(※)、豆腐、チーズなどをトッピングした、6つの穀物ベースのボウルで提供されています。その中には、ビーガンとグルテンフリーのオプションがいくつかあるので、忙しい彼らの問題を解決することができます。

(※)ガーニッシュ:付け合わせ
(※)テンペ:インドネシアで生まれた大豆発酵食品。肉のような食べ応えがあることから、ベジタリアンやヘルシー志向の人に注目されている。

また、サム・マッキンタイア氏も冷凍食品の可能性について、次のように語っています。食料品店の中央に位置する不思議なカテゴリーです。ほとんどの冷凍食品は、茹でたりローストしたりされておらず、味付けもされていない野菜の束です。長い間、これらのプロセスを変更する方法については考えられてきませんでした。

私たちのモットーは本物の食材、オーブンや調味料を用いた調理方法、そしてパッケージングについて再考することです。パッケージはすべてリサイクル可能であり、自然に消散するドライアイスで梱包されます。冷凍食品は食べる直前まで解凍されず、冷凍庫内で腐る心配もないので、社会的に大きな問題となっている食品廃棄量を削減できると考えています。

外出自粛による追い風

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2018年の夏に資金調達に成功した「モザイク・フーズ」は、その後サービス展開都市を追加しました。最近の『eMarketers』の記事で次のように語っています。

新型コロナウイルス(COVID-19)の危機が始まって以来、この数ヶ月間でニーズが急増しています。今まで一度も「モザイク・フーズ」を利用したことがない人々と、すでに利用したことのある人々、双方からの需要が増えています。したがって、2020年のロードマップとしては、2つの要素について大きな加速を描きたいと考えています。

1つ目は、需要の増加に伴い、新商品の開発が最も重要な優先事項となっていることです。私たちの顧客が以前と比べて、毎週定期的に注文してくれるようになり、1週間あたりの注文数も増えているため、現在19種類のメニューのラインナップがありますが、そのラインナップをさらに拡大し、さまざまな種類を提供していきます。

2つ目は、安全性と衛生環境を維持しながら、作業スペースとなるキッチンを拡大することです。キッチンのオペレーション体制も拡大する必要があるかもしれません。それらの準備には、運営上の問題もたくさんありますが、とても楽しみでもあります。

まとめ

「モザイク・フーズ」は、今までのD2Cフードサービスが直面していたコストの問題や、他のデリバリーサービス 、外食レストランとの差別化といったビジネス課題に、冷凍食品という新しい観点からアプローチし、食品廃棄問題や環境問題にも取り組んでいます。また、昨今の状況が追い風ともなって、フードデリバリーサービス全体が急速に進展しています。

日本のD2C市場はまだまだこれからの段階ですが、豊富な食の選択肢を持つ日本でこそ、フードデリバリーサービスは今後流行していくのではないでしょうか。
「フードデリバリー」と「サブスクリプション」と「冷凍食品」の組み合わせが、未来の食の"当たり前"となるのかもしれません。





著者情報

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岩沙澄香
健康や持続可能性を意識した未来の食のあり方や、食ビジネスの変化に関心を持つ、現役大学3年生。将来はAIやVRなどのテクノロジーを食の分野に活かしたいと考えている。現在、世界の食をめぐる旅を計画中。