米国の植物性食品ブームを牽引するフレキシタリアンの台頭

米国の植物性食品ブームを牽引するフレキシタリアンの台頭

米国では新しい食のスタイルとして増えてきた、柔軟な菜食主義者たち「フレキシタリアン」によって、代替肉以外でも植物性食品のニーズがますます高まっているようです。その背景とともに、成長傾向にあるカテゴリーとその中身を詳しく紹介します。

フレキシタリアンとは

現在米国では、ミレニアル世代(日本では平成初期の1981年から1995年に生まれた世代。米国人口の約22%と言われている)を中心に、「フレキシタリアン」という食スタイルが広がっています。

「フレキシタリアン」とは、フレキシブルなベジタリアンを表し、基本的にはベジタリアンと定義しつつも、たまに肉や魚などの動物性食品も口にする人々を指します。ヴィーガンやベジタリアンほど厳格ではなく、無理のないペースで可能な限り植物性の食品を取っていく人々です。2017年のPlant Based Foods Associationの発表ではフレキシタリアンは米国の人口のおよそ29%といわれており、2020年現在もう少し増加しているだろうと推測されます。

引用:Plant Based Foods Association
https://plantbasedfoods.org/marketplace/consumer-insights/

フレキシタリアンが増加している背景には、主に2つの理由が挙げられます。

1.地球環境と自身の健康維持のため
2.植物性食品の選択肢の広がりと味の向上

動物性食品の生産過程では多くのCO2が排出されており、地球温暖化を招く原因のひとつになっていることは広く一般的に知られるようになりました。地球環境破壊に歯止めをかけるために、日々の生活の中で自身の食習慣を見直そうと考える人々も増えてきました。加えて米国では、医療費が非常に高くその費用が年々高騰していることから、食事による予防医学の意識も高まっています。

またミレニアル世代の特徴として、お金を稼ぎ所得を上げることよりも毎日を自分らしく丁寧に暮らしたいという思考が強く、外食などの余計な出費を抑え自宅でゆっくり食事をするなどの傾向もみられます。

そうした中で、大手食品メーカーや飲料メーカーも植物性食品の市場に参入し、また多くのスタートアップ企業も誕生しています。これまで、植物性の代替食品は本物より味が劣るのではと思われがちでしたが、各社とも植物性食品の味を飛躍的に向上させたことで「この味が好きだから」という理由で選ばれるようにもなってきました。

このように、米国内で増加するフレキシタリアンたちの思考性が、植物性食品の広がりに大きく影響をもたらし、市場を積極的に牽引しているわけです。

米国の植物性食品の現状

では、米国の植物性食品市場はどのくらいの規模を持つのでしょうか。またどのカテゴリー市場が大きいのかなど、その中身について詳しく見てみましょう。

今年の3月に発表された最新の小売売上データを元に、The Good Food Instituteが発表した「Plant-based Food Market Overview(植物性食品市場の概要)」を参照しながらまとめていきます。

まず全体の市場規模ですが、2019年の植物性食品の売上は過去2年で29%増加し、およそ5,300億円規模に達しています。これは日本の豆腐やアイスクリームの市場規模と同程度であり、米国での植物性食品の規模がすでに大きいことがわかります。

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グラフはPlant-based Food Market Overview より
https://www.gfi.org/marketresearch

成長している植物性食品の中でも、売上を牽引しているカテゴリーは植物性ミルクです。植物性食品の売上の40%を占める、およそ2,100億円が植物性ミルクなのです。(植物性ミルクだけで納豆の市場規模と同程度です。)


次に大きいのが植物性乳製品で、およそ1,500億円規模となります。乳製品にはアイスクリームやヨーグルト、チーズなどが含まれています。乳製品カテゴリーでも動物性から植物性への代替が進んでいることがわかります。

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グラフはPlant-based Food Market Overview より
https://www.gfi.org/marketresearch

植物性の代替食品といえば植物性代替肉に注目が集まりがちですが、米国では代替肉より植物性ミルクのほうがより普及しています。多くのコーヒーチェーン店でも、植物性ミルクの選択肢を広げており、まずは1杯のチャレンジがしやすい点や、一緒にいる人に合わせることなく、個人の好みに合わせて選択できる点が支持されています。
では、次にいくつかのカテゴリーごとにみていきましょう。


【植物性ミルク市場】

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グラフはPlant-based Food Market Overview より
https://www.gfi.org/marketresearch

植物性ミルクの市場は成長を続けており、売上シェアは牛乳を含めた全乳飲料の14%になっています。これは今後も拡大していくことでしょう。米国の全世帯のうち41.3%、およそ5,300万世帯が植物性ミルクを年間のうち1回以上は購入しています。2019年のデータでは、植物性ミルクのうち冷蔵保存商品が売上の約89.5%を占め、常温保存商品が約10.5%でしたが、新型コロナウィルスの感染拡大を受け、2020年は常温保存商品の割合が高まってくることが予想されます。

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日本で植物性ミルクといえば豆乳が最もポピュラーですが、米国では豆乳よりもアーモンドミルクの売上が圧倒的に大きいのです。アーモンドミルクだけで約1,400億円の売上規模となり、植物性ミルクの売上全体の2/3を占めています。アーモンドミルクは抗酸化作用の強いビタミンEを豊富に含み、カロリーや糖質が低いことで知られています。

またオーツミルクの成長率も著しく、売上自体はまだ大きくありませんが、2019年の成長率は686%となりました。2020年はスターバックスコーヒーを始めとする大手外食チェーンでの取り扱いが開始されており、さらに売上を伸ばすことでしょう。

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【植物性乳製品市場】

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グラフはPlant-based Food Market Overview より
https://www.gfi.org/marketresearch


植物性乳製品のカテゴリーで最も売上が大きいのはアイスクリームと氷菓で、約360億円といわれます。米国は一人当たりの年間のアイスクリーム消費量が10.4kgもあり、世界2位を誇るほどです。 植物性ミルクでもよく使われているお馴染みの材料を使ったものだけでなく、アボカドを主原料としたアイスクリームなども登場しています。

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次いで売上が多いのが、コーヒーに入れるクリーマーです。植物性ミルクのブランドの多くが、よりリッチな味わいのクリーマーも販売しています。

米国では、ハーフ&ハーフとよばれるミルクとクリームを半分ずつ混ぜたものをコーヒーに入れるのが流行っていて、クリームだけ入れるよりも軽いと人気です。もちろん植物性のハーフ&ハーフも登場しています。

クリーマーにほぼ拮抗しているのが植物性ヨーグルトです。植物性ミルクに乳酸菌を加えたものですが、しっかりとした酸味があり従来のヨーグルトに近いものもあれば、ナッツや豆の風味が強くヨーグルトというよりクリーミーなデザートのようなものまで商品はさまざまです。店頭にはプレーンのものよりもフレーバー付きのものが多く並んでいます。


【植物性代替肉市場】

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植物性代替肉の市場は、2017年から2019年で38%成長し、売上規模は約1,012億円にもなります。これは植物性ミルク市場の急速な成長をしていた初期段階と非常に似ているそうです。しかしながら、食肉の小売市場全体でみると代替肉はまだ1%ほどでしかありません。植物性ミルクがミルク小売市場全体の14%を占めていることを考えると、今後まだまだ大きく成長していくことが予想されます。

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グラフはPlant-based Food Market Overview より
https://www.gfi.org/marketresearch


代替肉の商品別に見てみると、牛ひき肉の代替品であるハンバーガー用の肉が最も大きな売上となっており、ソーセージ類、牛ひき肉以外のサンドイッチ用肉類(※)、と続きます。売上上位の商品を見てわかるように、ひき肉などの細かく砕いた肉の代替として作られるのが主流で、カットされた肉類(chunks and strips)が6番目にあることから、塊肉での商品化が少ないことがわかります。

従来の食肉と比較し代替肉の価格は約3倍と高価なため、従来品との価格差がほとんどない植物性ミルクに比べ、まだまだ購入している層は多くありません。米国の全世帯のうち14.0%、およそ1,800万世帯が代替肉を年間のうち1回以上は購入しており、植物性ミルクの購入率から考えると今後3倍になる可能性を持っています。

2020年は、食肉加工場内で新型コロナウィルスの感染があった影響で、食肉の供給が大幅に減り代替肉の売上が急増したこともあり、数字を大きく伸ばすことが予想されています。

(※):米国では牛ひき肉をバンズで挟んだものだけをハンバーガーと呼び、その他の肉類(フライドチキンやグリルドチキンなど)はパティと呼ばれ、それらをバンズで挟んだものはサンドイッチと呼ばれます。

米国での植物性市場の今後

新型コロナウィルスの感染が止まることなく広がり続ける米国では、健康意識がより一層高まっています。また人々の生活が一時大きく制限され、経済活動が停滞したことにより大気汚染は大幅に緩和されました。全米で交通量が最も多く、国内外から多くの飛行機が離着陸することで知られているロサンゼルスの空が、コロナ禍には澄み切っていた様子がニュースとして報じられ、現代人の生活がいかに地球環境に負荷をかけているかを改めて知るきっかけにもなりました。人々の健康意識や環境保全意識が高まることで、2020年はさらに植物性食品のニーズが拡大していくことでしょう。





著者情報

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倉中真梨子
夫の渡米に帯同して、2019年7月より当時0歳の息子を連れて人生2度目の米国生活スタート。美味しいものと体に良いものが好きな食いしんぼう母さんです。
米国生活は通算16年目に突入。現在ピッツバーグ在住時々LA。