米国のフードテックトレンド「プラントベース×乳製品」

米国のフードテックトレンド「プラントベース×乳製品」

ここ数年、米国で存在感を増している「プラントベース(植物性)食品」。健康志向や環境保全への意識の高まりに合わせて、生活者に支持されているようです。今回はその中でも「プラントベース乳製品」に注目し、人気ブランドと最新トレンドをお伝えします。

勢いを増すプラントベース乳製品

健康志向や環境保全の意識が高まる中、米国では年々プラントベース食品を選ぶ生活者が増えてきています。プラントベース食品と聞くと、先ず「代替肉」をイメージする人が多いかもしれませんが、実は米国のプラントベース市場で最も規模が大きいのは、プラントベースミルクです。続いてヨーグルトやチーズなどを含むプラントベース乳製品となっています。

日本でも豆乳はすでに浸透していますし、2020年3月から日本のスターバックスコーヒーでも、オーツミルクの導入が開始されたので、皆さんプラントベースミルクを一度は飲んだことがあるのではないでしょうか。

では、プラントベース乳製品についてはどうでしょう。日本のスーパーやコンビニでは、牛乳を使った乳製品がたくさん並んでいますが、プラントベースのものとなると、まだまだ少ないように思います。

プラントベース食品の先進国である米国の店舗では、牛乳を使ったものとプラントベースのものが同じボリューム規模で並んでいます。オーガニック系スーパーにおいては、むしろプラントベースのものの方が多く陳列されていることもあります。

この記事では、米国内で取り扱いが多く人気のあるプラントベース乳製品ブランドをいくつかご紹介していきます。

ヴィーガン界の革命ブランド
「Miyoko’s Creamery」

3912_image01.jpg

参照元:https://miyokos.com/


ブランド名からもわかる通り、日系アメリカ人であるミヨコ・シナー(Miyoko Schinner)氏によって、2014年にワインの産地として有名なカリフォルニア州サンフランシスコ近郊のソノマで立ち上げられたブランドです。

カシューナッツやココナッツオイルを原料とする完全植物性のバターやチーズの製造販売をおこなっています。ホールフーズなどのオーガニック系スーパーだけでなく、ウォルマートやコストコでも取り扱いがあるので、入手しやすい商品として知られています。また全て自然由来のオーガニックな原料を使い高品質であるほか、ヴィーガン食品の数々の賞を受賞しており、味や品質にも定評があります。

3912_image02.jpg

「Phenomenally Vegan(驚異的なヴィーガン)」をブランドミッションに掲げており、ヴィーガンはこれからのライフスタイルのスタンダードであり革命であると説いています。

他のプラントベースブランドと同様に環境保護を訴えていますが、さらに動物愛護も啓発しているブランドでもあります。サイト内でも、プラントベース食材から乳製品を作ることで、動物たちと寄り添い、自然環境や乳牛に与える負荷を回避できると説明しています。

同ブランドに関しては2020年2月に、業界を騒がせるニュースがありました。牛乳生産量が全米No.1であり、同ブランドの所在地でもあるカリフォルニア州の食品農業局から、パッケージに「バター」という表記をしないこと、ブランドサイトに牛の画像を使用しないことを求められ、同局に対する訴訟を起こしたのです。

同局が「バターとは動物のミルクやクリームから製造されるものを指し、ブランドサイトに乳牛の画像を掲載することで消費者に誤認を与えている」と指摘したのに対し、シナー氏は「消費者はアーモンドミルクをオーダーするとき、それがまさか牛乳を使用しているとは思っていないし、市場にはバターやミルクと表記された植物性食品が溢れている」と反論しました。

本件は、同ブランドの表現の自由とシナー氏の訴えに同意するものとして、シナー氏の勝訴で決着しました。この問題をきっかけに、カリフォルニア州は消費者の新しいニーズを無視し、年々減少している牛乳や乳製品の既存産業を守ろうとしているとの批判の声が高まりました。プラントベース食品の存在感の強まりをあらためて認識する出来事でもありました。 

パッケージにも環境保全へのこだわり
「Forager Project」

3912_image03.jpg

参照元https://www.foragerproject.com/


カシューナッツミルクを使ったプラントベース乳製品を扱う「Forager Project(フォラージャープロジェクト)」は、2013年にカリフォルニア州サンフランシスコで誕生し、創業者のスティーブン・ウィリアムソン氏とその家族によって経営されています。

原料への強いこだわりだけでなく、製造過程やパッケージも含めて環境に配慮した商品作りが有名で、主にカシューナッツを原料としたヨーグルト、飲むヨーグルト、サワークリーム、コーヒークリーマー、プロテインシェイクを展開しています。(カシューナッツ製ではないですが、今年の春にはシリアルとチップスも販売を開始しています。)

同ブランドでは、カシューナッツを主原料としている理由に、3点を挙げています。

①濃厚で味が良いこと
②栄養価が高いこと(特にタンパク質と良質な脂肪を多く含んでいること)
③栽培にあたり過度な水を必要とせず地球環境にも優しいこと

ヨーグルトは非常にクリーミーで優しい甘さ、そして酸味はかなり控えめでムースのような味わいです。従来のヨーグルトの酸味は、乳糖が乳酸菌によって発酵されることにより強い酸味が生まれますが、乳糖フリーのカシューナッツミルクを使用したヨーグルトは、酸味が弱いことが特徴だとしています。

また他ブランドとの違いとして、サトウキビから作る砂糖を使用していないことを挙げています。基本的になカシューナッツ本来の甘味を生かし、もう少し甘みを足したいものには、栄養価の高いデーツを使用することで健康価値をさらに高めています。

3912_image04.jpg

同ブランドは、オーガニックな原料にこだわるだけでなく、環境に配慮した容器の使用を推進する協会「OCCS2 packaging collective」や、気候変動および地球温暖化防止を推進する協会「The climate change collective」にも加盟しています。

商品パッケージに石油プラスチック製のものは使われておらず、容器を捨てる際には簡単に分別ができ、種類別にリサイクルができるようになっています。

ヨーグルトの原料や栄養表示は、容器に直接印字するのではなく、紙製ラベルにプリントされています。食べ終わった後、紙製ラベルを剥がすと裏面にはブランドからのメッセージが書かれています。非常にシンプルでスタイリッシュなパッケージですが、ブランドの熱い想いも込められていることに気づきます。

基本概念はケトジェニック・ダイエット
「Lavva」

3912_image05.jpg

参照元:https://lovvelavva.com/


ピリナッツを使ったヨーグルトの製造販売をしている「Lovve(ラヴァ)」は、2018年にエリザベス・フィッシャー氏によってニューヨークで創業されました。プラントベース乳製品ブランドのほとんどが、2010年代の前半に創業されているのに対して、比較的まだ新しいブランドです。

フィッシャー氏は自身が癌を患い、医師である夫の勧めで、食事療法としてケトジェニック・ダイエット(※)を取り入れました。ケトジェニック・ダイエットについて調べていく中で、東南アジアで栽培される希少なスーパーフード、ピリナッツと出会ったと言います。

ピリナッツは、ナッツ類の中で最も糖質が低く、良質な脂質を豊富に含んでいます。またマグネシウムとビタミンEの含有量は、ナッツ類で最も多いと言われています。ピリナッツを使って、手軽に摂れる健康的な食べものができないかと研究を重ねていくうちに、「Lovve」のヨーグルトが生まれたのです。アメリカで広く流通しているプラントベースヨーグルトの中でも、ピリナッツを使用している唯一のブランドです。

また同ブランドも、サトウキビから作られる砂糖を使用しておらず、フレイバーによって使用されるフルーツは異なりますが、どの商品にも下記8つの原料しか使われていません。

①主原料のピリナッツ
②粘度と甘みを出すプランテン(※)
③濃厚な味とクリーミーさを足すためのココナッツ
④風味づけのフルーツ
⑤粘度を出すキャッサバ
⑥爽やかな酸味を出すライム果汁
⑦味のバランスの為にほんの少しだけのヒマラヤ産塩
⑧自然由来の植物性のプロバイオティクス

このヨーグルトはケトジェニック・ダイエットを実践する中で着想を得たものなので、通常版のヨーグルトの他に、ケトジェニック・ダイエット食認定を取得している「Molten Lavva(モルテン・ラヴァ)」という商品も出しています。

原料は通常版のヨーグルトと同じですが、糖質の多いココナッツ含有量が少なく高脂肪低糖質な商品です。ヨーグルト商品の中でケトジェニック・ダイエットとして認定されているものはこちらの商品だけで、注目を集めているケトジェニック・ダイエット実践者にとっては非常に魅力的な商品といえるでしょう。

3912_image06.jpg

同ブランドのパッケージも、ゴミの分別がしやすいように工夫されており、紙製ラベルの裏面には使用原料へのこだわりが記されています。それぞれの原料の特徴がわかりやすく書かれていて、読み物としても面白い内容になっています。

(※)ケトジェニック・ダイエット:良質な脂質とタンパク質を十分に摂取し、極力炭水化物を摂取しない食事法。人間の体は通常炭水化物などの糖質をエネルギー源としているが、それらが極端に不足すると体はケトン体という物質を作り出し、脂肪をエネルギーとするようになる。近年はダイエット法として知られているが、元々は様々な病気の食事療法として注目されていた。

(※)プランテン:見た目はバナナのような野菜で中南米やアフリカで主食として食べられている。

注目度の高いスタートアップ
「kite hill」

3912_image07.jpg

参照元:https://www.kite-hill.com/


「kite hill(カイトヒル)」は、2010年にカリフォルニア州サンフランシスコ近郊で創業されました。プラントベースのチーズやヨーグルトを中心とした商品の製造販売をおこなっています。このブランドの注目すべき点は創業者陣です。

その創業者陣とは、「Impossible Foodsインポッシブル・フーズ」の創業者の1人であるスタンフォード大学教授のパトリック・ブラウン氏、ロサンゼルスにある人気ヴィーガンレストランのオーナーシェフであるタル・ロンネン氏、チーズ職人で元コルドンブルーの講師を務めたこともあるシェフのモンテ・カジノ氏の3名です。

また革新的なスタートアップへの積極投資で知られる、米国の大手ベンチャーキャピタルである「Khosla Venturesコースラ・ベンチャーズ)」からも資金を調達しており、スタートアップの聖地といわれるシリコンバレーでも非常に注目されているブランドです。

ちなみに「Khosla Venturesコースラ・ベンチャーズ」は、以前ご紹介した代替肉のImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)や植物卵の「Just(ジャスト)」にも投資をおこなっています。https://foodclip.cookpad.com/1900/

3912_image08.jpg

同ブランドは、「我々は乳製品の代替品を作りたいのではなく、最もおいしいものを作りたい。プラントベース食品の健康的価値と味を大胆な発想で追求していく」と掲げています。自らを「Plant-based artisans(プラントベース職人)」と謳い、使用する材料にこだわり、科学と伝統的な乳製品の調理法を用いて、おいしさを追求する商品開発をしています。

彼らの作る商品は、ラインナップの幅広さにも特徴があります。現在販売されているものにはチーズ、ヨーグルト、ディップ、チーズ入りのラビオリ(パスタ)、サワークリーム、子ども向けヨーグルトがあります。主力商品であるヨーグルトには、ギリシャスタイル、アーモンドミルク製、ココナッツミルク製とバラエティも豊富です。

また最初に発売を開始したチーズにも、リコッタやクリームと複数の種類があり、好みや用途に合わせて選ぶことができます。創業者3人のうち2人がシェフであることから、ブランドサイト内には簡単に作れるおしゃれで本格的なレシピがたくさん掲載されています。そのまま食べるだけでなく、様々な料理に使って欲しいというブランドメッセージを感じます。 

いかがでしたでしょうか?

プラントベース食品が盛り上がりをみせる米国では、プラントベース乳製品においてもヨーグルトを中心にさまざまなブランドや商品が登場してきています。原料や栄養素、味にもそれぞれ特徴があるので、ブランドストーリーを眺めながら食べてみるのも面白いのではないでしょうか。

新型コロナウィルスの世界的流行で、なかなか旅行のしにくい時期ですが、今後また米国を訪れる際には、ぜひお気に入りのプラントベース商品を見つけてみてください!

 





著者プロフィール

著者アイコン
倉中真梨子
夫の渡米に帯同して、2019年7月より当時0歳の息子を連れて人生2度目の米国生活スタート。美味しいものと体に良いものが好きな食いしんぼう母さんです。
米国生活は通算16年目に突入。現在ピッツバーグ在住時々LA。