[研究開発AtoZ]商品開発の仕事とは?

[研究開発AtoZ]商品開発の仕事とは?

食品業界の中でも、マーケティングやセールスからすると近いようで遠い存在の研究開発職。
FoodClipでは現役の研究開発職に就かれている「じゃぐさん」に、開発職の基本や最新情報などを連載でお話しいただきます。

知られざる”理系”の世界

初めまして。私は、とある食品企業で基礎研究や商品開発に従事している、いわゆる「理系」の人間です。皆さんは食品企業の中で我々「理系」がどんな仕事をしているか、ご存知でしょうか?白衣を着て試験管を振って実験している?小難しそうな計算をしている?そんな知られざる「理系」の世界を皆さんにご紹介していきます。

今回ご紹介するのはマーケティングに最も近く、イメージがしやすいと思われる商品開発の仕事です。商品開発は味という商品の根幹を作る花形部署という印象をお持ちの方々(特に就活生)も多いかもしれませんが、実際商品開発とは、決して失敗の許されない泥臭く、むしろ守りの面も強い仕事です。

マーケッターの方々にとっては「あれはできない、これもできない」と理系っぽく理屈をこねてストップをかけられる場面も多いのではないでしょうか?なぜそんなことを言うのか、あまり表に出ることのない商品開発者の仕事をたっぷり解説します。

商品開発の大きな流れ

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食品のジャンルによっても多少違いはあるでしょうが、大体共通していると思われるものをピックアップして流れをまとめてみました。これはあくまで商品開発担当者が主に関わる部分の抜粋ですので、実際商品をリリースするまでには宣伝や流通など、他にもタスクがたくさんあります。一つの商品に対して半年から一年程度のサイクルが基本ではないでしょうか。

1. コンセプトメイク(顧客ニーズを探る)
2. 素材検討(製品に使えるシーズの探索)
3. 試作(小規模プロトタイプでの具現化)
4. 工場でのテスト生産(大スケール実験)
5. パッケージ確認(内容物と表示の一致)
6. レシピ規格書作成(工場向け書類作成)

では一つずつ見ていきましょう!

コンセプトメイク

どんな商品を世に出すか考えるフェーズで、商品開発といえばここのイメージが強いかもしれません。既存製品リニューアルと新商品開発のパターンがありますが、いずれにせよ生活者のニーズやトレンドに沿って新しいものを生み出していく、これぞメーカーといった仕事。

スーパーなど現場に出かけたり、消費者調査として直接話を聞いてみたりと、生活者の潜在的なニーズを探り、どうやったらヒット商品を生み出せるか、多くの場合はマーケティング担当者が中心となり商品コンセプトを作り上げていきます。特に季節ものの商品開発は、その季節がずれていることも多い(夏向けの製品を冬場に開発するなど)ので、ある種の想像力が必要となります。

そして段階が進めば進むほど開発者が思っていることは、「話は盛り上がっているけど、これって本当に味作りできるんだろうか?こんな配合と工程で工場はOKしてくれるだろうか?」ということです。もう不安でいっぱい!それほどにここから先の工程は非常に長く険しい道のりです。

新規素材の探索

ニーズ探索と並行しているのがシーズ探索。自社内の基礎研究部門が探り当てた素材もあれば、食品素材メーカーから提案のあったものなど、さまざまなシーズが商品開発者にもたらされます。特に最近では健康素材の人気が高く、素材の展示会なども国内外問わず数多く開催されています。それら新しい素材と既に使用されている素材の中から、コンセプトにあった商品のレシピを構想します。

ただし、新しい素材を使うと言うことは、品質に問題はないか、きちんと納品されるのかなど、不確定要素が多く、攻めれば攻めるほど時間の制約も出てきます。既存の素材だけでいかに上手くやり繰りするかと言うことも、商品開発者の腕の見せどころかもしれません。

試作

コンセプトの方向性が見え始めた段階で、並行してそのコンセプトを具体化していくために試作の作業がスタートします。試作したプロトタイプがあると、これまで抽象的だった商品コンセプトがより具体的にイメージできるようになり、コンセプトの修正もおこないやすくなります。この段階では開発所の実験台のようなとても小さなスケール(とは言ってもご家庭の料理と比べると数倍量!)で、まずはプロトタイプを作ります。

さて、この試作こそ商品開発の中で非常に重要な業務の一つなのですが、試作において一体開発者はどんなことに注意を払わなければならないのか、想像してみてください。もちろんコンセプトメイキングで定めたターゲットがおいしいと感じる食品を作るのは当然!では他にもどんなことを我々は考えているのか、頭の中を公開してみます。

・試作直後だけでなく生活者に届いた時も美味しさがキープできる?
・この成分は賞味期間内に変敗(※)せずにキープできる?
・このくらいの濃度やpHだと菌の繁殖を抑えられる?
・流通時に温度管理が悪く分離したり溶けたりしない?
・このくらいの殺菌で流通時に安全をキープできる?
・どこまで糖を抑えるとカロリーオフ表示できる?
・この原料使って目標コストを達成できる?
・中身を守るためにどんな包装容器にする?
・工場の生産ラインでちゃんと作れる?
・工場の設備を傷めない配合?

(※)変敗:褐変したり味が変わってしまうなど、風味が悪くなること。


商品開発者があれもできない、これもできないと否定的な発言をした時には、大体上記のようなことが頭に浮かび、解決できるかやってみないとわからないため困っている時です。

これらを全て解決する、まさに針の穴を通すレシピを作るのが試作と呼ばれる作業。コンセプトを達成した上で、市場に出回っても問題ないものを作るため、たくさんの実験水準(配合のバリエーション)を作り、一つ一つ官能評価をおこない、最終的にこれぞと言う設計を作り込みます。

一つの商品の試作において、私の経験では多い時には200種類ものレシピから一つに絞り込んだことも…。「試作=実験」と言っても過言ではなく、しっかりと目標計画を練り、結果を取得し、考察をして、また計画を立てる。まさに理系のセンスが問われます。

ただし、やっとレシピが完成したと思って消費者調査にかけたら結果が散々…。味を変えたら他の配合も調整し直し、なんてことも日常茶飯事です。

工場でのテスト生産

試作でさまざまな混乱を乗り越えた次に立ちはだかるのが、スケールアップの壁。実験台でおいしくできても、工場でおいしい物ができなければ全く意味がありません。そんなに違わないだろうと思われるかもしれませんが、例えば火の通りやすさであったり、かき混ぜた時に均一になるまでにかかる時間であったりと、実験台と工場は大きく異なります。

このテスト生産は実際に工場でおこなうことが多いのですが、実製造を一旦ストップしてもらい、大量の原料を準備して実験する、つまり時間とお金をかけているのでとてもプレッシャーがかかります。何度経験してもなかなか慣れないもので、かくいう私も実験に失敗し、一からやり直しになって氷点下の寒空のもと見知らぬ土地で終電も逃し、なんとか見つけたホテルに駆け込んだのが夜中の二時、という経験も…。

最終的に実験もうまく進み、生産ラインから大量のテスト生産品が流れてくる時は、これまで実験台で小さく作っていた子が表舞台に立ったような気持ちになれます。もしかしたら開発者がまず達成感を覚える瞬間はここかもしれません!

パッケージの確認

テスト生産がうまくいくと、いよいよレシピを確定させます。使う原材料や使用量が確定するので、それに基づいてパッケージの表示を決めていきます。デザイン自体を開発者が担当することはほとんど無いでしょうが、原材料表示、栄養成分表示、アレルギー表示などはレシピを把握している商品開発者が最も詳しい内容です。

あまりしっかり見ている生活者はいないかもしれませんが、地味ながらこれが非常に重たい仕事。特にアレルギー表示など安全性に関わるところでもあり、一歩間違えば全品回収という恐ろしい事態が待っています。食品表示法をはじめ表示に関しては、さまざまな法律が存在するため専門知識が必要な仕事であり、「食品表示検定」のような取り組みまで存在します。

またパッケージには詳細まで書かれていなかったとしても、生活者から成分に関してお問い合わせが入ることもあるので、その回答事例を作ることもあります。例えば最近ではハラル対応(※)に関するお問い合わせなどがありますね。

※ハラル対応:宗教上の厳しい戒律があるイスラム教徒(ムスリム)へ対応した食事やサービスなどの提供


レシピ規格書作成

テスト生産後にレシピが確定するわけですが、その際にレシピに関する規格書、つまり原料の種類や使用量、原料を混合する順番、攪拌や加熱の条件、包装容器へのパッキング、品質条件など事細かにレシピの説明書を作ります。

なぜこれが必要かというと、実際に商品を製造するのは商品開発者ではなく生産の最前線に立っている工場の方々であるからです。つまり重要なのは、誰が見ても全く同じものを作ることができ、全く同じものを工場から市場に提供するということで、規格書を読む人によって解釈が違うような曖昧な表現はできません。一言一句間違えるわけにはいかないので、これも非常に大変な作業です。

この規格書を作成する上で重要なことは、開発者と工場の方との連携です。商品によっては複数工場で生産することもありますが、工場ごとに設備の配置が違うので、工場一つ一つに対して説明書を作る必要があります。ですので、この規格書は商品開発者だけの力で作成することはできず、常に工場の方々とやり取りをしながら作っていくことになります。逆に工場の人だけでは、なぜこの原料をこの順番で混ぜるのかなど、そのレシピに至った背景まで完全に把握しているわけでは無いので、商品開発者の力が必ず必要になります。

このような書類作成時間の占める割合が、商品開発者の仕事の中でも比較的大きいことは意外と知られていないかもしれません。

最後に

工場への規格書さえできれば、あとは生産・流通とどんどん前に進んでいくので、発売直前期は(トラブルさえなければ)商品開発の仕事は意外と少ないかもしれません。

そして自分の子供のような商品が発売される瞬間を迎えるとき、一度目を上回るほどの達成感を味わえます!スーパーやコンビニで自分の携わった商品を見かけたときほど嬉しい瞬間はありません。それを見たときに我々はふっと記憶を遡り、この製品はあそこの工場で作ったのかな、その味はうちのラボで作ったよな、コンセプトはマーケ担当者と考えたよな、とここに至るまでの映像が逆再生されます。

しかし残念なことに、食品業界においてヒット商品の出る確率は非常に低く、次の年まで残っている商品はほとんどないとも言われています。そんな不安も感じながら誰か買ってくれないかなと密かに売り場をチェックしたりします。(笑)

さて、以上が商品開発業務の一例でした。想像以上に幅広い仕事内容だったのではないでしょうか?これをきっかけに、普段あまり表に出ることのない商品開発者の実態に興味を持っていただけたら幸いです!





著者プロフィール

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じゃぐ
食品メーカーの現役研究員。基礎研究から商品開発まで幅広い業務経験を持ち、学生時代から栄養学や薬理学を専門とするなど、一貫して食と健康の課題に取り組んでいる。科学全般や理系就活生向けの話題もSNSで情報発信中。
https://twitter.com/food_juggle