デジタル強化がコロナ禍の明暗を分けた米国の食品業界

デジタル強化がコロナ禍の明暗を分けた米国の食品業界

ロックダウンによる外出や移動の禁止で、人々の生活が厳しく制限されたコロナ禍の米国。キャッシュレス決済などさまざまなデジタルサービスが人々に支持され一気に浸透したことで、これまでデジタル投資を進めてきた企業とそうでない企業との業績差にも繫がってきているようです。

新しい買い物スタイルへ変化

新型コロナウィルスの感染者数および死者数が世界最多となった米国では、その後も人々の生活は大きく変わっています。パンデミックをきっかけに、米国で暮らす人々の買い物の仕方にも変化が表れ、各所で新しい買い物スタイルが見られています。

特に食品業界においては、生活者の外出自粛や感染への脅威から、大手小売チェーンを中心にモバイルを利用したサービスが進み、買い物におけるさまざまな場面でデジタルへの移行が目立つようになりました。実際の事例をいくつかご紹介します。

一気に進んだコンタクトレス決済

もともとクレジットカード文化である米国では、コロナ禍でさらにキャッシュレス化が進んでいます。利用者側も店舗スタッフ側も紙幣や硬貨からの感染を危惧し、現金払いを敬遠する動きがあります。

これまでスーパーなど小売店での会計は、店舗スタッフにクレジットカードを渡して決済をおこなっていましたが、3月以降は一気にコンタクトレス(非接触型)決済が進みました。コンタクトレス決済には大きく下記の2種類がありますが、コロナ禍で利用が進んだのは②の支払方法でした。

①クレジットカード、またはキャッシュレス決済に対応したスマートフォン(Apple Pay、Android Payなど)を端末にかざす支払方法

②小売店専用のスマートフォンアプリに事前にクレジットカードを登録しておく支払方法


国内小売最大手のウォルマートでは、2015年末より「Walmart Pay(ウォルマートペイ)」をリリースしていますが、コロナ禍でその利用が活発になっています。「ウォルマートペイ」は、事前にクレジットカード情報を登録しておけば、会計時にレジで表示されたQRコードをスマートフォンで読み取るだけで、そのままカードで決済することができます。

また店頭での買い物決済だけでなく、オンラインショッピング、広告の閲覧、買い物リストの作成、返品交換の依頼などを全てアプリ上でおこなうことができます。

コロナ禍において、コンタクトレス決済で、なおかつ在宅でいつでもウォルマートの取扱商品が買い物できるとあって、2020年4月にはアプリダウンロード数が「Amazon(アマゾン)」を20%も上回り、ショッピングアプリの中で堂々の1位となっています。


ウォルマート傘下のホールセール会員制小売店、サムズクラブの「Scan and Go(スキャン&ゴー)」も2016年にリリースされたサービスですが、感染拡大に伴い、利用がこれまでの4倍以上に伸びたと発表されています。

「スキャン&ゴー」は、スマートフォンにダウンロードしたアプリで購入したい商品のバーコードを店内で次々にスキャンしておき、すべてのスキャンが終わったタイミングでボタンをクリックするだけで決済が完了します。

決済完了時に表示されるQRコードを店舗出口でスタッフに提示し、専用端末に表示される商品一覧を見ながら、スキャン漏れの商品がないかを確認する流れになっています。

購入量が多くレジが混雑しがちなサムズクラブにおいて、レジの長い列に並ぶ必要がない点が感染を恐れる人々に支持され利用を伸ばしています。

キャッシュレス化が進む米国では、クレジットカードを所有できない貧困層に配慮し、2019年よりペンシルバニア州やカリフォルニア州の一部で、キャッシュレス決済のみを取り扱う店舗を禁じる法案が可決されていました。しかしながら、コロナ禍においては、現金払いを禁止するまでには至っていないものの、各店舗ごとにキャッシュレスを促すといった逆行する動きにもなっており、今後キャッシュレスを制限していくことは難しくなりそうです。

車社会の米国で広がる
カーブサイドピックアップ


「Curbside Pickup (カーブサイドピックアップ)」または「Click & Collect(クリック&コレクト)」というサービスの需要も高まっています。

「カーブサイドピックアップ」とは、アプリやWebなどのオンライン上で購入した商品を店舗の指定場所(主に店舗駐車場内)まで車で取りに行き、到着を知らせると、購入商品をピックアップできるというサービスです。車のトランクさえ開ければスタッフが直接積み込んでくれるため、商品やスタッフと一切接触することなく自宅まで持ち帰ることができます。

調査会社アドビ・アナリティクス社の発表によると、2020年4月1日から20日までの「カーブサイドピックアップ」の利用数は前年同時期比が208%も増加しているとのことです。

2020年3月中旬に発令されたカリフォルニア州北部の外出禁止令を皮切りに、40以上の州で不要不急の外出が禁止され、米国で暮らす人々のおよそ95%が自宅で過ごすようになりました。

同時にオンラインでの買い物需要が一気に高まりましたが、需要増に対し配送が間に合わずネットスーパーの配送枠を確保するのが困難になったり、配送が大幅に遅延する事態が多発しました。そのため、利用者自身が受け取りに行く「カーブサイドピックアップ」の利用が急増しました。買い物は済ませたいが店内は感染リスクが高いと懸念する人々のニーズに合致したことが大きな要因です。

5月以降、徐々に外出禁止令が解除となりましたが、車から降りることなく買い物を済ませられる「カーブサイドピックアップ」は引き続き盛況のようです。

大躍進のInstacart

不要不急の外出が禁止されたことで、「カーブサイドピックアップ」と同様に利用を大きく伸ばしたサービスがあります。食料品の即日配達サービスです。特に「Instacart(インスタカート)」の利用者は飛躍的な伸びになりました。

「インスタカート」とは、2012年にサンフランシスコで誕生したサービスで、さまざまな小売業者の食料品をオンライン上で購入し、ショッパーと呼ばれる個人の配達員によって最短1時間以内に配達されるというものです。(Uberのようなシェアリングエコノミーサービスです。)

このサービスの利点は、複数の小売店の商品を同時に購入・配達できる点であり、利用者は自宅にいながら買い物ができることに加え、配達料金がいくつの店舗で購入しても変わらないという点です。

また、ショッパーは自身の空き時間を買い物代行に当てることで副収入を得られるとし、フルタイムの仕事をすることが難しい人を中心に、2020年4月時点で50万人以上が登録されています。

「インスタカート」のアプリダウンロード数は、外出禁止令が発令された2020年3月には前月比218%、3-4月の前年同時期比500%と大幅に伸びました。コロナ禍を背景に創業8年目にして黒字化を達成しました。

「インスタカート」は買い物代行サービスを提供するテックカンパニーです。多くの人に支持されている理由は、利便性だけでなくそのシステムを支えるITインフラにあります。

現在400社以上の小売業者と提携をしており、それらが取り扱う商品情報や在庫管理の即時アップデートやシステム、小売・メーカーと連携した価格調整、利用者のデータログに基づいた検索精度、効率的な買い物・配送ルートの最適化、配達員と利用者のリアルタイムでのコミュニケーション機能など卓越したIT技術により、利用者が求めているものを適正価格で素早く手に入れられるという価値を提供しています。

コロナ禍の米国では過去最大の失業保険申請数を記録するなど、雇用状況の悪化も目立ちましたが、個人配達員が失業者の受け皿となり、職を失った人の登録が相次ぎました。

しかし、利用者の感染リスクをショッパーたちが肩代わりしているとし、3月には雇用条件の改善(主に手数料の値上げ)を求める大規模ストライキが実施されました。雇用条件の見直しはおこなわれたものの、ショッパーたちが強く求めた手数料については変更されませんでしたが、「インスタカート」の需要は引き続き高く、国内の失業率が緩やかに改善し始めた今でも、多くのショッパーが買い物代行を続けています。

アプリでオーダー、
店舗ピックアップがスタンダードへ

コンタクトレス決済での購入は飲食店でも大きく利用が伸びています。


コーヒーチェーン最大手のスターバックスコーヒーは、2020年4-6月期の決算発表で「Mobile Order&Pay on Starbucks(モバイルオーダー&ペイオンスターバックス)」が注文全体の22%に達したことを発表し、話題となりました。2019年10-12月期の同サービスは全注文の17%だったため、コロナ禍において5ポイント増加したことになります。

「モバイルオーダー&ペイオンスターバックス」は、アプリ上で商品を注文し、決済まで完了するため、表示された完成時間を目処に店舗へピックアップに行くだけという非常に簡単な注文方法です。

利用者、店舗スタッフ間の接触を最低限に抑えることができる上に、レジ待ちの行列緩和や、注文の聞き間違いなどのミスを回避することができます。感染リスクの低下だけでなく顧客満足度も上げるサービスとして利用が進んでいます。

移民や外国人が多く暮らす米国では、利用者も店舗スタッフも英語が母国語でないケースも多く、注文ミスの発生頻度は日本とは比になりません。細かいカスタマイズ内容まで齟齬なく注文できるということは非常に大きなメリットです。

5044_image05.jpgまた2020年4-6月期の決算では、売上全体としては40%ほど低下していることも発表しています。その背景には、外出自粛でオフィスワーカーたちが在宅勤務に切り替わったことによって、出勤前やランチタイム利用者からの売上がなくなったことが大きな要因と思われます。

そんな中、「モバイルオーダー&ペイ」での注文が5ポイント増加したことを受け、同社はこの注文方法で効率的に売上を伸ばしていくとし、都市部の既存400店舗あまりをピックアップ専用店に切り替えていくと発表しています。ピックアップ専門店にすることで、レジ待ちや飲食用のスペースを持つ必要がなくなるため、店舗面積を縮小できるとし、賃料の高い都市部の固定費を大幅に下げることができます。


全米に2,600店舗以上を展開するメキシカンのファストフードチェーンであるチポレ(Chiptole)も、モバイルオーダーによって売上を伸ばすことに成功したブランドです。

チポレとは、顧客がメイン(ブリトー、タコス、サラダ、ボウル)を選び、タンパク質や野菜、サルサなどすべて好みに合わせて追加していくカスタマイズオーダーの飲食店で、ヴィーガンオプションや細い好みに対応し、ヘルシーな点が人気のファストフードです。

チポレは、オンライン上で注文したものを車から降りずに受け取れる専用のピックアップレーン「Chipotolanes(チポトレーン)」を設置し、人との接触を極力避けたいコロナ禍において売上を大きく伸ばしました。

「チポトレーン」自体は2018年より一部店舗で設置をしていましたが、今年3月以降は既存店の一部に追加設置を、また新規店の約半分に設置していく予定だと発表しています。

ファストフードチェーンでは、これまでドライブスルーが一般的でしたが、マイクに向かって注文をする際の音質の問題や、利用者とスタッフ双方に英語のアクセントがある場合などは注文が正しく伝達できないなどのトラブルも頻発していました。

アプリ上で細かいカスタマイズを入力でき、決済まで完了するため、注文ミスの回避だけでなく、コンタクトレス決済で商品受取が可能な点も選ばれる理由となりました。

チポレは2020年4-6月期において、「チポトレーン」の盛況でモバイルオーダーを中心としたデジタルでの売上が216.3%増加し、売上全体の6割がデジタル経由の売上となったことを発表しています。

コロナ禍では店内飲食を禁止する州が相次ぎ、いかにデリバリーやテイクアウト利用を増やすかが飲食店においては大きな課題となりました。以前からそうしたサービスを提供していたファストフードチェーンは有利であったものの、早くからデジタルへの投資をおこない、コロナ禍において迅速に対応したチポレの成功には注目が集まっています。

デジタル強化が明暗を分ける結果に

今回紹介してきた事例は、コロナ禍中にサービスローンチされたものではありません。特にモバイルを利用したサービスは、一朝一夕には成せるものではなく、すでに数年前からデジタル強化に取り組んでいた各企業の施策が、このタイミングで花開いたというものばかりです。サービスの定着まで数年かかっていたかもしれないものが、コロナ禍を背景に一気に利用が進んだとも言えます。

コロナ禍で業績を伸ばした企業は、少し先の未来をいち早く予測し、人々の新しい生活スタイルに合わせてサービスをデザインしていました。特にデジタル強化をしていた企業に至っては、経済が停滞する米国内においても大きく業績を伸ばし、人々の買い物の仕方をも変えてしまいました。より便利で新しい買い物の仕方に慣れた人々は、きっともう以前のようなスタイルには戻れないはずです。





著者プロフィール

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倉中真梨子
夫の渡米に帯同して、2019年7月より当時0歳の息子を連れて人生2度目の米国生活スタート。美味しいものと体に良いものが好きな食いしんぼう母さんです。
米国生活は通算16年目に突入。現在ピッツバーグ在住時々LA。