[江戸メシ クロニクル]江戸時代の豆腐の話

[江戸メシ クロニクル]江戸時代の豆腐の話

食や料理への「偏愛」を教えてもらうHolicClip。江戸の食文化を愛するクックパッドエンジニア・伊尾木さんによる人気コラム「江戸メシ クロニクル」です。今回は第3回目、江戸時代も人々に愛されていた豆腐のお話。
前回の記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/2893/

はじめに

サッカーのある日常が戻ってきて数ヶ月、僕の応援するクラブがリーグ首位を独走している。おかげで毎日とても楽しい。(毎日試合を見返している)みんなも他サポでないなら僕と同じクラブを応援すると良いと思う。本当に。

さて、江戸時代の人気首位の食べ物といえばなんだろう。色々な意見があるだろうが、庶民的なおかずの首位といえば、豆腐だ。この柔らかく白い食べ物は、今や世界的に食べられているが、江戸時代にも絶大な人気を誇った。

実際「日々徳用倹約料理角力取組」という江戸時代のおかずランキングがあるが、そのTOPは八杯豆腐という豆腐料理だ。というわけで今回は豆腐について色々みていこう。

豆腐は元々中国で生まれた食品だ。日本への伝来時期は諸説あるが、普及し始めたのは室町時代あたりだ。ちなみに豆腐の「腐」は豆を腐らせるという意味ではなく、「豆を柔らかくした」という意味だ。本当に腐らせる納豆の名前と勘違いしたという俗説をネットでちらほら見かけるが、それは信じないほうがいいだろう。(良く出来てる俗説だと思うが)

豆腐は中世の最先端料理である精進料理でよく使われていた。ちょうどイケてる女優たちがやってることは何でもイケてると感じるように、豆腐は当時のイケてる食品と思われたかもしれない。「お、今日は豆腐か。超クールでおじゃる」と、室町貴族や武士が言ったかどうかは知らないが。

ちなみに当時の豆腐は今よりも固めだったようで、当時の豆腐売りの絵をみると、水につけずに売っている。現在の中国でもこのような売り方をしている。

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中世の豆腐売り
出典:東京国立博物館:「職人尽歌合(七十一番職人歌合)」から一部切り取り


江戸時代になって水の中に入れて売られるようになったようだ。日本人は肉でもパンでも、何でも柔らかくしないと気がすまないらしい。

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江戸時代の豆腐屋。左下の容器の中に豆腐が浮いている
出典:国立国会図書館デジタルコレクション「職人尽絵詞」

豆腐百珍

江戸時代に入っても豆腐人気は衰えることがなく、庶民に人気の食品になっていく。そのひとつの象徴が、江戸時代中頃に出版された豆腐百珍というレシピ本だ。これは豆腐のレシピを100個あつめた本で、当時非常に広く読まれたヒット本だ。続編も作られ、この本をきっかけにその後、様々な百珍本が出版された。 冒頭の八杯豆腐もこの本に記載されており、現代でも通用しそうなレシピばかりだ。いくつかレシピを紹介しよう。

こおり豆腐 by クックパッド江戸ご飯
https://cookpad.com/recipe/3867363
5239_【江戸の味】こおり豆腐-(黒蜜かけ).jpg

凍み豆腐と名前が似ているが違うレシピで、まるで豆腐が浮いているように見える面白い一品だ。ちなみに原文はこんな感じだ。

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こおり豆腐
出典:国立国会図書館デジタルコレクション「豆腐百珍」


「干凝菜(かんてん)を煮ぬき 其湯にて豆腐を烹(たき)しめ さましつかふ 調味このみ随ひ」 とある。調味好み次第とあるので、実際にどう食べたかは分からない。酢醤油で食べたかもしれないし、黒蜜で食べたかもしれない。あなたが望めばハバネロソースで食べてもいい。「こおり豆腐」は自由だ。それはさておき、この一品は、おいしいことはもちろん、なんと言っても見た目のインパクトが強い。豆腐百珍の中でも「奇品」という分類をされているので、当時としても奇抜なアイデアだったようだ。現代でも“映える”と思っている。パーティで、こおり豆腐を出したらきっとモテるに違いない。そう思ってずっと機会をうかがっているが、そのチャンスが全く来ない。

ちなみに、勘の鋭い人(つまり、あなた)は「こおり豆腐」の原文レシピに分量が記載されていないことに気づいただろう。江戸時代のレシピは、菓子や漬物など以外で分量が記載されることは殆どない。レシピに分量がちゃんと記載されるようになったのは明治期。西洋レシピの影響を受けてのことだ。

もう一品紹介しよう。

叩き豆腐 by クックパッド江戸ご飯
https://cookpad.com/recipe/3892719
5239_【江戸の味】叩き豆腐(豆腐ナゲット).jpg

豆腐のナゲット。今でも十分に通用しそうな一品だ。酒のつまみに最高だ。

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叩き豆腐
出典:国立国会図書館デジタルコレクション「豆腐百珍」


「やき豆腐ふくさ味噌七分三分の分量にして菜刀にてひとつによくたたきよきほどにとり油にてさつとあぐる也 調味好みに随ふ」
つまりは豆腐と味噌を一緒にして油で揚げなさいというわけだ。これも味は間違いないから是非試して欲しい。そして「つくれぽ」をもらえたらとても嬉しい。これらのレシピは僕が管理している。

豆腐一丁

ところで、豆腐一丁の大きさは江戸時代と現代では大きく違った。そもそも「丁」という単位は一本とか一杯のように決まったサイズがあるわけではない。江戸時代は「挺」という字が使われたが、これは鉄砲やろうそくなどに使われた単位だ。 だからというか、現代でも豆腐一丁に確定されたサイズがあるわけではない。現在の一丁は大体300gから400gらしい[1]。今度豆腐を買うときは注意しよう。

江戸時代も正確な大きさは決まっていなかった。しかし、とある経緯で豆腐一丁の大きさと価格が決められたことがある[2]。そのときの大きさと経緯を見ていこう。

まず豆腐の価格は何度か幕府からお達しが出ている。「豆腐が高くて、みんな困るから安くしろ」というわけだ。 こいうことは現代でも起きていて、政府の人間が「携帯代高くて、みんな困るから安くしろ」と言っている。 それが豆腐にまで起きた。それだけ豆腐が庶民の生活に密接な食品だったことがわかる。

ちなみにいくらだったかというと、天保十三年(1842年)のお達しには一丁48文にしろとある。1文20円くらいだとして、一丁960円くらいになる。現代に比べると随分と高い。(毎度言うが、貨幣の価値は変動するのでただの目安だ)

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豆腐の道具
出典:国立国会図書館デジタルコレクション「諸事留. [11] 天保度御改正 諸事留 五」


当時の幕府の力はとても強いので、商人は幕府に従う。が、これでは「商売あがったりだ」として、商人は豆腐一丁の大きさを少しずつ小さくしていった。賢いやり方だ。

しかし「そういうことやない」としてまた幕府側から横槍が入った。天保十四年(1843年)のことだ。そのときに豆腐一丁の大きさと価格が規定されたのだ。豆腐一丁は21x18cmに厚さが6cmを一丁として売りましょうとなった[3]。かなり大きい。これは現在の標準的な豆腐一丁の5倍程度だ。間違って「お味噌汁に使うから豆腐一丁ちょうだい」なんていうと、大変だ。味噌汁が豆腐に占拠されてしまう。 だから、こんな量を1人で買うことはあまりなかった。独り身は焼き豆腐などを買ったようだ。焼き豆腐は1/12のサイズで売られていた。

このときの価格は52文(1,040円)に決められた。天保十三年(1842年)の48文から少し値上げを認めている。現代のサイズの5倍位だと思えば、価格が1,000円くらいになるのも分からなくはない。

豆腐小僧

江戸時代、豆腐人気は留まるところを知らず、ついにはゆるキャラすら生み出してしまった。それが豆腐小僧という妖怪だ。

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豆腐小僧
出典:国立国会図書館デジタルコレクション「夭怪着到牒 2巻」


妖怪といっても特に何かの能力があるわけではない。どちらかというと非力で、他の妖怪のパシリにされてしまったりする。 ところが、これがとても人気があった。おそらく「なんにも出来ないけど、そこが可愛い〜」と言っていたのかもしれない。

ゆるキャラが流行る現代の状況をみる限り、江戸も現代も変わりない。どうやらこういう萌えの感覚に関して江戸から進化していないようだ。いや、もしかしたら萌えこそが日本の伝統文化と言えるのかもしれない*1。

豆腐小僧が持っている豆腐には紅葉の模様がついている。これは「紅葉=こうよう=かうよう=買うよう」という洒落で、実際に江戸にあったらしい[4]。

ちなみに豆腐小僧は、「豆富小僧」という名前で現代に復活している。同名タイトルのアニメ映画が作られた[5]。僕はまだ見たことがないのだが、是非誰か感想を教えて欲しい*2。

おわりに

江戸時代から現代まで愛される食品、豆腐を取り上げてみた。前回、前々回からすると違う連載かと思うくらいにお気軽な話だ。江戸時代はゆるふわな時代だったのだから、こういう記事こそが江戸なのだ、っと思ってもらえたら嬉しい。次回もゆるふわな話を書きたい。



注釈
*1 日本の美意識を表す「わび・さび」に続いて、僕はいずれ「もえ」が仲間入りするだろうと真剣に考えている。
*2 DVDで販売されているが、あいにく我が家にDVDプレイヤーがない。そうだ、今度アマゾンのWishlistに入れておこう。

参考文献
[1]クックパッド 料理の基本:https://cookpad.com/cooking_basics/5949
[2]西木浩一, 「天保改革と江戸の食」, 東京市史稿 産業篇 第55 解読の手引き 江戸1842, 2014.
[3]江原絢子, 「江戸の豆腐」, ふでばこ(40), 2020.
[4]アダム・カバット, 江戸の可愛らしい化物たち, 祥伝社, 2011.
[5]ワーナー・ブラザース「豆富小僧」:https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=3170/

 





著者プロフィール

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伊尾木将之
大阪出身のうさぎ好き。修士までは物理を学び、博士課程で情報系に進むも撃沈。現在はクックパッドでエンジニアをしながら、食文化を研究している。
日本家政学会 食文化研究部会の役員を務める。
2020年秋から社会人大学生(文学部)に。
本業は川崎フロンターレのサポーター。
https://github.com/kikaineko/masayuki-ioki