世界が注目する昆虫食は未来のスーパーフードとなるのか

世界が注目する昆虫食は未来のスーパーフードとなるのか

近頃、メディアでも取り上げられはじめている昆虫食。栄養価が高いだけでなく、食糧問題解決の糸口となる可能性も示唆され、次世代の食材として期待が高まっています。かつて日本の農業地域では一般的に食されていた時代背景や、いま話題の「コオロギラーメン」など、新しい昆虫食もあわせてご紹介します。

なぜ今、昆虫食が注目されるのか

現在、世界の人口は75億人といわれていますが、2050年には100億人にも達するのではないかといわれています。そんな未来を見据え、考えなければならないのが食糧危機の問題です。

こうした背景から、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)は昆虫が今後の食糧になり得るというレポートを発表しました。このことが発端となり、世界各国で昆虫を食糧として研究する動きが生まれ、昆虫食品を開発する企業などが登場しました。

日本でも「2020年は昆虫食元年」といわれるほどに、新しい動きが出てきました。今回は昆虫食のメリットやデメリットをまとめ、日本での昆虫食商品をいくつか紹介しながら、昆虫食の可能性について考えてみたいと思います。

参考:「国際連合食糧農業機関(FAO)食品及び飼料における昆虫類の役割に注目した報告書を公表」
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03830870295

昆虫食のメリット

昆虫食のメリットのひとつは「豊富な栄養」にあると言えるでしょう。昆虫は高タンパク低脂肪でありサプリ、漢方、ダイエットなどで活用できるほど豊富な栄養を含んでいます。そのため、災害時などの非常食としても検討されています。

「加工のしやすさ」も昆虫食のメリットです。昆虫をそのまま食べることには抵抗があるという人は多いと思いますが、粉末やペーストすれば食品に簡単に混ぜることができます。

また、昆虫を飼育する際に排出される温室効果ガスや、必要となる水や飼料も、牛や豚などの家畜と比べると圧倒的に少いため、環境への負荷が少ないという特長があります。水資源や排出される温室効果ガスを大幅に削減できるなどの環境保全にも効果的で、環境や場所を問わず小スペースで安定した飼育が可能であることから環境問題解決の糸口として期待されているのです。

昆虫食のデメリット

なにより最大のデメリットは、見た目の問題と“虫を食べる“ということへの抵抗感でしょう。

また昆虫は、カニやエビなどの甲殻類に近いといわれており、甲殻類アレルギーを持つ人には食物アレルギー発症の可能性があります。加えて、昆虫のなかには毒性を持つものもあるので食材とするにはしっかりとした情報や知識が必要です。

日本でも昆虫食が次々と登場!

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前述したように、日本でもこうした昆虫食への関心は高まっており、次々と新しい商品が開発されています。話題となっている昆虫食をいくつか紹介します。


1.無印良品「コオロギせんべい」

2020年5月に発売された「コオロギせんべい」は、量産された食用コオロギをパウダー状して練り込まれたせんべいです。見た目は普通のせんべいであり、食べやすく味もおいしいと人気の商品です。

大手ブランドである無印良品が190円という低価格で商品化したことで、SNSなどでも話題となり、まだ昆虫食を知らなかった人たちの間でも認知されることになりました。

▶無印良品コオロギせんべい:https://www.muji.com/jp/ja/feature/food/485181


2.ANTCICADA(アントシカダ)の「コオロギラーメン」

昆虫食の魅力を探究する「ANTCICADA(アントシカダ)」のレストランでは、「ラーメン凪」と共同開発をおこなった「コオロギラーメン」が話題です。
2種類のコオロギからとった出汁をはじめ、「コオロギ醤油」を使ったタレに、特製の「コオロギ油」、さらには「コオロギ練り込み麺」とさまざまな形でコオロギが使用され、ラーメン1杯あたり100匹のコオロギが使われているそうです。イベント各地での導入販売当初から「とてもおいしい!」と評判で、すでにこれまで多くのメディアで取り上げられています。

コロナ禍には、オンラインショップで通販用の「おうちでコオロギラーメン」も販売開始され、自宅で気軽に「コオロギラーメン」が楽しめるとしています。

これ以外にも、カイコの蛹を原料に使用した「シルクソーセージ」や、「蚕沙タピオカミルクティー」「昆虫の佃煮3種セット」など他では見ることのできない商品が販売されています。

▶ANTCICADAオンラインショップ:https://antcicada.shop/


3.Bugs Farm(バグズファーム)の「コオロギコーヒー」

世界中の昆虫食を販売する通販サイト「Bugs Farm(バグズファーム)」では、クラウドファンディングで多くの支持を集め、目標額を達成した昆虫コーヒーの販売をスタートしています。

奈良県の現役大学生で、昆虫食の普及活動をおこなっている「昆Tuber」こと昆虫食YouTuberのかずき氏と、全国4位のコーヒー焙煎士で、大阪の実力店「sanwa coffee works」の店主 西川隆士氏。この二人のコラボによって誕生したのが、「クリケットブレンドコーヒー」なのだそうです。

「クリケット」は英語でコオロギの意。フタホシコオロギの粉末を贅沢に20%配合した香り高いこだわりのブレンドと称されています。

▶Bugs Farmオンラインショップ:https://bugsfarm.jp/shopdetail/000000000321/


4.渋谷パルコ 米とサーカスの「虫ランチ」

新しいカルチャーを発信し続ける渋谷パルコ。その地下レストラン街に昆虫食を扱う飲食店「米とサーカス」があります。店舗の外見もかなり奇抜なデザインで「旨し妖し初体験 ゲンキニナレル鳥獣虫居酒屋」という独特なキャッチフレーズを持つ店舗です。

「米とサーカス」では多様な食文化に触れることを目指し、ジビエ料理や昆虫食のメニューが提供されています。

ランチメニューの「バグバーガー」は、コオロギ肉にひよこ豆や白米が練り込まれたパテを使い、代替肉バーガーといった印象ですが、デザートメニュー「MUSHIパフェ」には、タガメがそのままトッピングされており、こちらはやや衝撃的なビジュアルです。

▶米とサーカス:https://miyashitakikaku.com/store/kometocircusparco/

 

かつての日本は昆虫食が盛んだった?

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少し意外に思うかもしれませんが、日本はかつて「昆虫食大国」でした。日本における昆虫食は古くから農耕文化とともに広がり、特に魚が取れない内陸部では貴重なタンパク源としての役割を果たしていました。

例えばイナゴは、稲作の邪魔者として捕獲していましたが、食べることで米だけでは摂取できない栄養分を補うことができたのです。同様にハチの子なども駆除の目的とハチの持つ豊富な栄養を摂取することを目的としていました。

大正時代には食用の昆虫は55種類もおり、イナゴ、ハチの子、サザムシなどは今でも食べられています。ではなぜ、その後は衰退していってしまったのでしょうか?

大きな理由として考えられるのは、農薬が使用されるようになり害虫駆除の必要がなくなったことや、流通や保存技術の発達によって新鮮な肉や魚が各地へ輸送できるようになったこと。

また、戦後の衛生概念の変化もあるでしょう。伝染病の媒介となるハエや蚊が徹底駆除され、そうしたことが昆虫食のイメージが悪化につながったというものです。

拡大が予測される昆虫食市場

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昆虫食は、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも大きな影響を与えるものとして注目されています。SDGsの目標にもある、世界の貧困や飢餓をなくすこと、気候変動の軽減や陸の豊かさを守ることなどに該当すると考えられています。

各国でもその取り組みは始まっています。フィンランドでは酒のおつまみとして「ローストコオロギとナッツ」が酒場のメニューにならんでいますし、タイでは既にコオロギの養殖工場などもあります。

すでに世界を見渡せば、20億もの人々が約2,000種類の昆虫を食用としていると言われ、昆虫食の市場規模予測としては、2030年までに約80億ドルと算出されたデータもあります。今後さらに市場が拡大するとして、スタートアップとしても注目の分野です。

昆虫を食べることが「当たり前」となる時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。



writing support:noriaki inagawa





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