![[ロングセラーの分岐点]オハヨー乳業の焼プリン](/files/cache/6c1ce6f76b8a17d4d7c8375f157f470a_f1310.jpg)
企業・業界動向
[ロングセラーの分岐点]オハヨー乳業の焼プリン
長く愛され親しまれている商品にも当然ながら新商品時代があったり危機的状況があったはず…
そんな視点を持ちながら、新連載[ロングセラーの分岐点]では、ロングセラー商品に成長するまでの過程で、どんな壁を超えてきたのかを教えていただきます。
初回は、オハヨー乳業の「焼プリン」です。
発売から27年以上、
ずっと愛され続ける焼プリン
オハヨー乳業の「新鮮卵の焼プリン」は、発売から27年以上愛されてきたロングセラー商品。華やかな功績の裏には、構想から発売まで13年もの開発期間があったといいます。長い間ブレずに追い求め続けたこだわりとはなんだったのでしょうか。オハヨー乳業株式会社 商品担当の田村さんと広報の野崎さんにお話をうかがいました。
海外視察で生まれた構想を
長年の研究で商品化
Q. 「焼プリン」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?
商品開発の発端は、1978年にヨーロッパへ視察に行った社員が、焼き目のついたプリンのようなお菓子に感銘を受けたことからはじまります。日本では、ゼラチンなどで固めたプリンが一般的な中、自社で焼きプリンができないかという構想が持ち上がりました。発売は1992年からなので、構想から商品化まで13年かかったことになります。
Q. ゲルプリンと焼プリンの違いとは?
ゲルプリンは、ゼリーのようにゼラチンで冷やし固める製法で作られています。この製法ですと、ゼラチンを溶かすのにプリン液の温度を上げるため、卵を多く使えません。
一方、焼プリンはその真逆で火を通して固める製法で、材料は卵が主体。プリンの先祖といわれているプディングは、航海時代に余った野菜を卵で寄せ固める料理ですから、オハヨー乳業としては卵主体のプリンこそ本格派と考えました。それをなんとかして作れないかと、研究が始まったわけです。
Q. 開発に長期間かかったのはどういった課題があったのでしょうか?
最大の課題だったのは、賞味期間です。全国流通させるには2週間の賞味期間が欲しいところ、試作品は長くて3〜4日、研究を重ねても1週間が限度でした。この課題はなかなかクリアできないまま開発は中断し、別の商品の開発へと移っていきました。
当時、研究開発を担当した弊社顧問の古川に聞いたところ、その後、卵で固める「蒸しプリン」を開発した際も、「2週間の賞味期間」がずっと頭にあったそうで、焼きプリンへの執念は捨てなかったといいます。数年後、卵と牛乳などを分けて殺菌するアイデアをひらめき、「蒸しプリン」の製法もうまく活用。理想の賞味期間を叶えました。
また、卵主体の商品ゆえに新鮮な卵を使いたいというこだわりもありました。試行錯誤の結果、自社工場に割卵機を導入。工業用の液卵は使用せず、自社で卵を割ることにしました。割卵機は毎日分解して洗浄しなければならず非効率な部分は多くありますが、卵の風味をつくる役割を担っており、今でもその製法は変えていません。
特有の焼き目を作るのにも苦労したそうです。この命題が課されたのは、開発の最終段階。ライバル会社から焦げ目のない「焼いたプリン」が発売されてしまい、見栄えの良さや香ばしいおいしさを引き立てるためにも、焦げ目が必要になったんです。最終的には、研究員の“失敗作”にきれいな焼き目がついたのをきっかけに解決の糸口が見え、改良を重ねて商品が完成。多くのハードルを乗り越え、発売に至りました。
こだわり続けた「新鮮たまご」
Q. ここまで卵主体のプリンにこだわったのは、なぜでしょうか?
古川は、「だって日本人は卵好きじゃろ」と。すごくシンプルな答えですが、重みのある一言ですよね。日本人が消費する卵の量は年間平均で約330個。昔は「巨人大鵬卵焼き」なんて言葉があったくらいですから、卵のありがたさや美味しさは日本人のマインドに根付いているんです。そんな卵を主体にしているはずのプリンがスーパーに並んでいないのですから、実現すれば喜んでもらえる確信があったのだと思います。
Q. 長年こだわった甲斐があって、大ヒットのロングセラーとなったわけですね。
そうですね。卵のデザートという普遍的な価値と焼き目という付加価値が、お客さまの心を掴みました。当時、本格的な焼プリンは洋菓子店やデパートでしか販売していない商品だったというのも大きかったですね。オハヨー乳業のデザート開発は、お客さまに喜んでいただけるよう、本格的なデザートを手軽に食べられる商品に作り上げるというのが根底にありますから。
Q. 本格的なデザートといえば、キャラメリゼした焼き目がついたアイス「ブリュレ」も革新的でしたね。
「ブリュレ」のキャラメリゼした焼き目部分も、当時は洋菓子店や飲食店でしか味わえませんでしたから、お客さまにとっての価値をいかに生み出すかという点はやはり同様の考え方ですね。
「新鮮卵の焼きプリン」の次なる挑戦
Q. 発売当初から売上好調というイメージですが、販売促進で苦労されたことはありましたか?
発売当初はどんどん売れて、よいスタートダッシュで走り出しました。焼プリンの工場を作って供給を追いつかせるのに必死な時代もあり、一時期はプリン市場のシェア10%を獲得。その後、競合商品があらわれて業界内での競争がはじまり、残念ながら、他社製品にシェアを逆転されてしまいました。価格競争など大変な時代も経て、販売戦略は新たなステップへ進んでいます。
デザート企画全体では、初心に立ち返って事業目的を再整理し「お客さまの笑顔に貢献する」というミッションを掲げています。「焼プリン」として競合他社と一緒になってしまいがちなところを、オハヨー乳業ならではの魅力にフォーカスして、お客さまとコミュニケーションが取れるブランドに育てていきたいと思っています。
「プリンは卵」へのこだわり
【ロングセラーの足跡】
■今までにない焼きプリンの開発を構想
■日本人が好きな卵をプロダクトの軸に
■プロダクトの軸となる卵にこだわり
■普遍的な価値「卵主体のプリン」+付加価値「焼き目」
■お客さまとコミュニケーションの取れるブランドを目指す
商品の軸をブレずに追い求めた結果、ロングセラーとなった「新鮮卵の焼プリン」。今後の展開にも目が離せません。
著者情報

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