食品メーカーのデジタル推進と展望、今後の課題とは

食品メーカーのデジタル推進と展望、今後の課題とは

当社主催イベント「Food Marketing Forum Online」の開催レポート第2弾。
他業界に比べて食品業界はデジタル化が遅れており、保守的で前時代的だと言われる中、積極的にデジタル推進を進めているエバラ食品工業株式会社とキッコーマン株式会社。今後デジタルをどう活用していくのか、という食品業界全体の課題についてディスカッションした内容をレポートします。

食品製造メーカーにおける
デジタル推進の展望とコロナ禍における課題

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※ご登壇者の所属、役職は2020年10月時点のものです。

エバラ食品のデジタル推進とコロナ禍の課題

毛利:私は現在、全ブランドのデータ分析に加え、自部門だけにとどまらない全社的なデータ活用推進をおこなっています。また、本年度からは新規事業の推進業務も取り組んでいます。


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私たちの仕事は、データをためて、見える化し、活用していくことです。「データでブランドを磨く」とは、個々のブランドのアドホック分析でPDCAを回すことはもちろん、ブランドごとのROIの改善、全社に関わるサプライチェーンの最適化という大きな課題についても着手しています。

「学習機会の提供」とは、使う側つまりマーケティング部門や営業部門に対する教育です。データ環境を構築しました、活用してください、と言ってもまったく浸透していかないので、学習機会を設け、社員のデータリテラシーを上げていくこともまた重要であると考えています。


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現状の課題については、3つあります。1つが「需給ギャップ」。新型コロナによって需給ギャップが生まれていて、安定供給がひっ迫しているブランドがあります。メーカーとして安定供給は課題であり、責務でもあります。

2つ目が「データ分析における時間軸」。新型コロナは長期間の災害が続いている状態であると考えます。つまり、欠損値や異常値がずっと続いているという状態です。データ活用においては、その期間データをどう扱うのか、非常に悩ましいところです。

3つ目が「店内リアルプロモーションの再考」です。現在は試食販売等の接触型の店内プロモーションをおこなうことができない状態です。積極的にレジカートやデジタルサイネージなどを活用した施策を検討する必要があると考えています。

齋藤:「データで社員を磨く」ことについてはどのような課題がありますか?

毛利:社員には積極的にデータを利活用してもらいたいのですが、やはり勤続年齢やデータリテラシーの有無によって偏りが出てきてしまいます。人は仕事のやり方を変えたくないものなので、いかにマインドを変えていくか、使ってみようと思わせるか、そこが難しくもあり課題だと感じています。

齋藤:「データ分析における時間軸問題」そのギャップを埋める策については、何かお考えですか?

毛利:これについては結論が出ていません。どこまでを異常値とするか、欠損値として定義づけるか、解釈がバラバラです。そこは、お客さまと一緒に考えていくことになると思っています。

キッコーマンの
デジタル推進とコロナ禍の課題

清水:私はキッコーマン一筋26年、約半分は海外で勤めておりました。約12年間アメリカの卸会社に出向して、マーケティングや物流・システムなどを経験してきました。2018年の4月に、デジタル化の遅れに対応するために「デジタルマーケティングプロジェクト」が発足、昨年7月に組織化し、その担当部長を務めております。


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業務としては主に5つです。デジタルだけで何かが完結できるものではないので、マス、デジタル、リアルを組み合わせた統合的なマーケティングの仕組みを社内に作っていくために組織横断的に動いています。

「消費者との双方向コミュニケーションの推進」は主に SNS でのマーケティング活用です。もともと広報的に使われていた SNS をマーケティングにも活用していく取り組みです。

「流通のデジタル化への対応」については、流通もどんどんデジタル化していて、折衝相手がデジタル部門であったりします。ですから、我々のチームが営業と一緒に販促の建付けをおこなったりしています。

「データ基盤の構築とデータ活用の推進」。これがまさにデジタルマーケティングの基盤です。今まで蓄積されていなかったり、分散していたデータを一元管理して可視化し、活用していく取り組みです。まだデータで人を育てるところまではできていないですが、それは課題のひとつです。

「社員のデジタルリテラシーの向上」については、今後デジタル化が進んでいくにあたり社員の勉強会、経営層の報告というかたちで向上に努めています。


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デジタルマーケティングを進めるうえで一番重要なのは、「消費者を知る」ことです。上の図はプロジェクトが始まって最初に書いた消費者接点の図ですが、それぞれの接点をオンライン化し、情報をため、消費者を知る取り組みをしております。

例えば、会員の仕組みをつくり、来場施設で来場者に登録してもらったり、キャンペーンもWebで応募できるようにしました。

コロナ禍の課題について、今後どうなるかは誰にもわかりません。ただ当社は海外の事業も多く、特に米国は日本よりも大変な市場です。ですので、米国の動向については見ていますね。

米国では、食品においてもECは急速に伸びており、ミールキット市場なども拡大しております。また、非接触型の買い物行動がどんどん増え、店舗の作り方そのものも変わってきたりしています。そういうことを見つつ、将来を予測していくことが大事だと思っています。

国内に関しては、マクロミル社のデータを見ると、調味料の主要カテゴリーは一貫して、昨年比で購入率が高く推移しています。ここから見ても、家庭内での調理が増えている事は間違いなく、新しいユーザーがどんどん入ってきたのも事実だと思います。そういった点で、常備調味料、基礎調味料にもチャンスが訪れているとも捉えられるので、今はこういう方たちとレシピを通してしっかりコミュニケーションを取ることが大事だと考えています。

齋藤:消費者との双方向コミュニケーションの推進について、具体的に取り組んでいることを教えてください。

清水:デジタルマーケティング部門ができるまでは、ほぼ一方向の情報発信でした。今はSNSを中心に、双方向コミュニケーションが取れる媒体があるので、ここからまず始めて、さらには、アンバサダーのプログラムを運用したりしています。

いずれにしろ、急に双方向でコミュニケーションを取ろうとしても消費者に煙たがられる可能性もあるので、まずは「キッコーマンを身近な存在に感じてもらうこと」だと思います。

そのために、このコロナ禍では、食品企業17社が集まって一緒にレシピ配信をするようなTwitter上での取り組みを企画し、実施しました。このように、少し消費者に寄り添うような企画をどんどん立てて、当社らしいコミュニケーションが深まってくればと思ってるところです。

齋藤:消費者接点の拡大は、マーケティングの仕組みづくりをされている中で、どのような影響があるとお考えでしょうか?

清水:今までメーカーは消費者との距離が遠く、なかなか直接情報が取れなかったと思います。ですが、デジタル化によって、かなり情報が直接取れるようになってきました。

いろいろなところでいろいろな接点が生まれるので、そこで得た消費者の情報を統合していくことで、本当にコアなお客さまの像が見えてきます。そういう人たちとコミュニケーションを深めていくことを、愚直にやっていきたいと思ってます。

パネルディスカッション

齋藤:ここからは事前に視聴参加者の方々からいただいた、ゲストスピーカーの皆さまへの質問をもとに、パネルディスカッションを進めていきたいと思います。


Q. これからの食卓を作るために、デジタルマーケティングをどのように活用されていくか、お考えを教えてください

毛利:「4Pの主役+α」です。文字通り、マーケティングのフレームの4P(Product/Price/Place/Promotion)ですが、デジタルがこのすべての活動の軸になっていくだろうと思っています。

プロモーションにおいては、リアルからデジタルに転換するいい転期なのかなと。また、今まで食品メーカーの施策とは縁遠かった位置情報や、ファーストパーティーデータに加えゼロパーティーデータの活用がますます進んでいくと思います。

プレイスについては、既存のチャネル以外での販売を積極的に取り組んでいく必要があると思います。クックパッドで言えば、クックパッド買い物機能やクックパッドマートといったところも、チャレンジしていく必要があると思います。

例えば、気温や野菜の価格などとの特定のブランドとの売上の関連性がわかっていれば、プライシングも柔軟に対応できないかなと思っています。売上は単価×個数×リピートですが、個数はこの先、少子高齢化で必ず減っていきます。ただ単価の部分は、デジタルの技術で何かできないかと、何か新しい取り組みができないか模索していきたいと思っています。

プロダクトについては、これまで店内プロモーションに回していた分、これまであまり着手できなかったアンバサダーやファンマーケティングに取り組むべき時期だと思っています。

「+α」としては、コロナ禍においてお客さまの情報や行動を確認するために、位置情報や検索情報を注視するようになりました。取り扱うデジタルデータの範囲や価値自体が変わったと感じています。

清水:私は「レシピを軸にしたマーケティングの強化」としました。クックパッドの閲覧数も伸びていますし、当社の「ホームクッキング」レシピサイトの流入や新規ユーザーも増えています。こういった方たちとの、レシピを軸としたコミュニケーションが絶対的に必要です。

当社のレシピサイトの来訪者・非来訪者を比較すると、来訪者の売上寄与がだいぶ高いということがわかっています。つまりサイトが有望顧客との接点になっています。今後、サイト来訪者の滞在時間がより長くなるような有用な情報を提供していきたいと考えています。

ただ、やはりメーカーだけでは消費者をカバーしきれないので、クックパッドのような料理メディアや料理家の方とうまくコラボしつつ、カバーを広げていきたいですね。

レシピ接点の拡大のためには、キラーレシピを作れば、その料理を作るために買うというトライアル層が増えます。ただ、すでに買っている人たちも多くいるので、その方たちに向けていかに使ってもらえるかも大事です。

買い物の頻度が減っている今だからこそ、定番レシピのデジタルを使ったコミュニケーションがリピートに繋がると考えていますね。

Q. クックパッド等のデータを活用してプロモーションや販促計画を考えるのは、各商品担当者なのか、もしくはデータを考察する担当が別にいるのでしょうか?

毛利:データの蓄積や見える化をしているのは私たちの部署です。ただ、使う側は部門で限定はしていなく、それぞれが分析・仮説・検証をおこなっています。

営業担当者、マーケティング担当者など抱えている課題はさまざまです。当社では、それぞれがPDCAを回せるデータ環境を整えています。クックパッドさんのデータも利用させてもらっていて、いろいろなデータと組み合わせて可視化することで活用させていただいています。

清水:基本はマーケッターが掲げたマーケティングのテーマをもとに、宣伝、販促、デジタルマーケティング部門、みんなで一緒に考えています。ただ、たべみるのデータは流通でも受け入れられていて、営業部門も使うような有効なデータになっています。

例えば、たべみるのデータと当社のホームクッキングのデータを比較して、レシピの傾向がわかれば、それを提案資料に使うといったトライアルもしていますね。

Q. クックパッドに期待することは?

毛利:「料理の作り手を増やしていく」ことです。私たち調味料メーカーは、お客さまが料理をして初めて商品の価値が伝わります。その人数を増やしたくてもメーカーでは限界があります。ぜひクックパッドを通して、作り手を増やしてもらいたいですね。

清水:「レシピのエコシステム」です。メーカーだけでできることには限界があります。クックパッドはもはや消費者のレシピのプラットホームになってます。ですから、クックパッド、メーカー及び流通を含めた、レシピのエコシステムができて、消費者の食卓が華やかになるということを実現して欲しいと思います。

齋藤:毛利さん、清水さん、本日は有意義なディスカッションをありがとうございました!

次回は

続いて次回のレポートでは、カゴメ株式会社と日本水産株式会社による、パネルディスカッション②「コロナ禍における販売促進活動の現状と課題」の内容をご紹介いたします。



writing support:Miyuki Yajima



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