[スーパーマーケット偏愛日誌]トライアル編

[スーパーマーケット偏愛日誌]トライアル編

自他共に認めるスーパーマーケットオタクの谷尻純子さんによる偏愛コラム。今回は福岡県に本社をおく「トライアル」の特集です。読んだら訪問せずにはいられない、スーパーマーケット偏愛情報をぜひご堪能ください。

スーパー業界一の意外性!?
「トライアル」の魅力

私は「意外性」があるものに惹かれる傾向がある。思い返せば最初に意外性にときめいたのは、漫画「天使なんかじゃない」(集英社・矢沢あい作)だったように思う。

いつもはリーゼント頭で不良の晃(あきら)が、雨の中で捨て猫に優しく話しかけ拾うシーンには、主人公の翠(みどり)だけではなく、むろん私もキュンとしてしまった。
…って、いきなり何のことかと思いますよね(笑)

「あれ、読む記事を間違えたかな?」と思った方、間違えていません。こちらはスーパーマーケットの偏愛ポイントをご紹介する連載記事、第4回目です。

どうしていきなり意外性について語ったのかというと、今回のスーパーマーケットの偏愛ポイントこそ、この意外性にあるからです。

今回取り上げるのは、福岡県に本社をおく「トライアル」です。
スーパーセンターと呼ばれる、食品のほか生活雑貨や家電なども扱う業態のお店を多く展開する同社は、世間一般の生活者からは「激安スーパー」と見られているだろうと思います。

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主婦メディアなどでは「激安スーパー!トライアルで見つけた戦利品」のような特集を時々見かけますし、実際とっても安い。PB(プライベートブランド)だけでなくナショナルブランドの商品さえも、「この価格で売ってるの!?」と思わず二度見してしまうような価格になっていることもあります。

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天然水が2Lで49円!!?安い…


通常こういった「安さ」で勝負するお店は、段ボールに入った納品時の状態のまま店頭に商品を陳列して人件費を削減するほか、同じ商品を大量に仕入れたり、空調や照明を抑えたりしてコストダウンを図るなどで安さを実現しています。

ですが、トライアルの「安さの実現方法」の真髄はズバリ「IT」の力によるもの。
スーパーマーケット業界の中で、どこよりもIT化が進んでいる同社のお店では、そのIT化により業務が効率的になり、無駄なコストを削減することに成功しているのです。

祖業のソフトウェア開発事業から
小売り事業へ

数年前から小売業界では盛んにDX(※)が叫ばれるようになりました。

(※)DX:デジタルトランスフォーメーションの略。企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること


これを受けて各店舗では、店頭にデジタルサイネージを取り入れてみたり、ネットスーパーのシステムを構築したりと、様々な取り組みを実施しています。

ですが業界の方々にお話をうかがうと、導入・活用の意欲について本部と現場が乖離していたり、そもそも上手く使いこなせていなかったりと、現状としては前途多難な店舗がほとんどなようです。

ところがそんな業界の中でも、今回ご紹介するトライアルでは、設立当初から先んじてITの力を取り入れた店舗運営をおこなっていました。

もともとソフトウェア開発の事業会社として、主に流通業向けのITシステムを開発していた同社。創業当時から「ITと小売業・流通業を融合させ、お客様の役に立つ」というビジョンを掲げていました。

「現在の会長が、流通業向けのシステム開発をしていた中で、アメリカに視察に行き、ウォルマートのお店を見たことが小売に参入するきっかけでした。当時、ウォルマートではとても安い価格でいろいろな生鮮や日用品が提供されていたんです。

それと比較すると日本のスーパーには、いろいろな場面で「ムダ・ムラ・ムリ」があって、割高になっていることに気付きました。もっと多くの方たちが、毎日必要なものを安く手に入れられないかと課題を感じたことから、自分たちがお店を運営し、ITの力で小売業界を変えようと決意したのです。」(株式会社トライアルカンパニー マーケティング部 堀井さん)

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トライアル創業期(1993年頃)の店舗外観/柳川店(福岡県)


こうして小売のIT化がまだほとんど意識されていなかった1992年に、トライアルの1号店は誕生。その後、店舗オペレーションで生じる膨大なデータを処理するシステム「SMART」や、店舗スタッフの業務を効率化する携帯端末「PACER」を自社開発するなどIT投資をおこない、今日に至るまでずっと、IT化・DXのトップランナーとして走り続けている企業なのです。

ローコスト体制をITの活用で実現

今や、POSレジの使用やセルフレジの導入などは多くのスーパーで見られるようになりましたが、トライアルではこのあたりは序の口。

例えば「自動発注システム」では、在庫状況やこれまでの販売傾向からシステムが人に代わり、商品を自動発注してくれます。

また主に青果コーナーで使用される「電子棚札」は、バイヤーが市場価格をシステムに入力すれば全店に自動配信され、棚札に価格が反映されるという仕組み。こうすることで従業員が手動で価格表示を変える必要がなくなり、その分の手間を削減できるというわけです。

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電子棚札の例


加えて、2018年2月にはアイランドシティ店(福岡県)にスマートショッピングカートを導入。買い物客自身が、ショッピングカートに取り付けられたタブレットで商品の会計ができるこのカートは、業界関係者だけでなくメディアなどからも多くの注目を集めました。

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スマートショッピングカート


「小売業って、実は100年前とそんなに姿が変わっていないという課題があるんですね。物を並べてお客さまが手に取って、レジに持っていってお金を払う仕組みって、100年間変化がなかった。いろいろな業界がアップデートしていく中でも、頑なに構造が変わらなかったんですよ。

そんな中でも弊社では随所でDXを進めていたのですが、スマートショッピングカートはお客さま自身が自分の手でIoTデバイスに触れるため、『ITで小売が変わる』と初めて実感いただけたのかなと思います。」(堀井さん)

このほか、棚の商品量の変化や棚前でのお客さまの行動を観察する「リテールAIカメラ」を設置するお店も。

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リテールAIカメラ


この「機械の目」による観察・記録により、従業員の勘や経験のみに頼ることなく発注量や陳列量を最適化し、「お客さまが欲しい商品が欲しい時にある」売場を作ることができるというわけです。

小売の「ムダ・ムラ・ムリ」は年間46兆円

トライアル独自の調査によると、小売業界で生じている「ムダ・ムラ・ムリ」は何と年間46兆円。

「例えばターゲティングがちゃんとできていない広告は、無駄に広告費を使ってしまっています。またお客さまが欲しくないのにお店に大量にある商品は、結局廃棄となってしまいます。

もしかしたらもっと安く商品をご提供できるかもしれないのに、旧態依然とした構造にコストが生じており、結局そのコスト分をお客さまに負担いただく必要が出てくる。トライアルではこの構造を変えようとしています。」(堀井さん)

トライアルではこの「ムダ・ムラ・ムリ」について、自社が開発したシステムやデバイスを横展開し、自社だけではなく業界全体を変えていこうとしているそう。

トライアルだけが良くなったとしても、それでは一部のお客さまの生活しか変わらない。そうではなく、業界全体のDXを推進することで、生活者の暮らしを良くしていこうとしているのだと言います。

生活者の反応は?

ここまでトライアルのDXについて、その背景や想い、具体的な導入内容を紹介してきましたが、私もスーパーマーケットマニアであると同時に、イチ生活者。何といっても気になるのは「私たちの暮らしにどうメリットがあるのか?」です。

この点についてトライアルにうかがってみると、興味深いデータをいろいろと教えていただけました。

同社の調査では、スマートショッピングカートを導入することで、会計の所要時間は1回あたり平均32秒になったそう。同調査によると、セルフレジでは125秒、有人レジでは75秒かかっていたとのことなので、会計にかかる時間を大幅にカットできているようです。

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ショッピングのイメージ


とはいえ、スマートショッピングカートってなんだか難しそう。
「ITに苦手意識の多い高齢者層のお客さまは、嫌がっていらっしゃるのでは?」なんて意地悪な質問もしてみたのですが、意外や意外、実は利用者の4割弱が60代以上なのだそうです。

「もともとのお客さまの年齢構成もあると思いますが、決して若い方を中心に使われているという印象ではありません。お店で実際に見ていても、高齢の方々が率先して使ってくださっていますね。弊社としても、思った以上の利用率で驚いています。

先日オープンしたお店にもスマートショッピングカードが入ったのですが、いの一番に使われた方って、ご高齢の方が中心だったんですよ。」(堀井さん)

トライアルの堀井さん曰く「スマホや、銀行ATMのタッチパネル操作など、デジタルが生活の中に馴染んできているので、すんなり受け入れられたのではないか」とのこと。

私たち生活者にとって、スーパーがIT化していくのはなんだか不便に感じてしまうのでは?と勝手に思っていましたが、実際は積極的に利用されているようですね。

従業員とは「共通言語」で
情報共有や教育を進める

もう一点気になるのが、現場の従業員がこのDXについてこれているのかというもの。実際、本部主導で数々のITサービスを導入したものの、現場ではリテラシーや工数の問題からなかなか活用が進まないというお話もよく聞きます。これについても、こんな回答をいただきました。

「同じ本を読むようにする、同じ理論や哲学を理解できるようにする、など“共通言語”をとても大事にしています。『自分は店舗の担当者だから、それだけ知ってればいい』ということはありません。本部も店舗も同じ課題を共有し、別々の役割とアプローチで目標に向かっていくことが大切ですね。

情報共有や教育体制を整え、現場の従業員と意識のズレができるだけ生じないようにするというのが、私達の会社の特徴だと思います。」(堀井さん)

なぜやるのか、その先にどんな世界を実現したいのか、そのために何を知っているべきなのか。ただ便利なシステムを導入するのではなく、この点についてしっかり企業全体で共通理解ができているからこそ、現場が疲弊しない運用が可能になっているというわけですね。

目指すは業界全体の「情報流通革命」

2018年、トライアルではグループ会社として株式会社Retail AIを設立。こちらの企業では「テクノロジーで世界一のお買い物体験を実現する」をミッションに掲げ、小売に関するシステムの開発、運用を担当しています。

「私たちは同じホールディングスの中に小売業もあればIT業もあるので、ITの開発と実証の場が近いんですね。業界全体に横展開していくときにも、IT企業としてではなく、同じ課題感を共有できる小売企業同士としてお話ができるところが、一つの強みです。」(堀井さん)

業界全体にアプローチするにあたり、トライアルが大事にしている考え方の一つが、既存のシステムに新しいシステムを馴染ませていく「レトロフィット」というもの。

システムを一から作り変えるには膨大な資金が必要となるため、結局体力のある大手チェーンしかDXできないということになりますが、この考え方では「今までの基盤を活かし、そこに新しいシステムを組み込む」ことでDX化を図ります。

また現場での運用を前提にテクノロジーを取り入れていくことを「オペレーションドリブン」と呼んでおり、これも同社の特徴的な考え方の一つ。

圧倒的な資金力を持たなくても、デジタルに対して知見が十分でなくても、各社が今のお店に無理なくITを導入できるよう並走していくことを目指し、現在は小売各社と話を進めているのだそうです。

「テクノロジーだけ最高峰のものが導入されても、それを使いこなせなかったり、お客さまに実感していただけるようなメリットが無かったりでは、ハイテクになってもしょうがないですよね。大手スーパーも中小スーパーも無理なく導入できて、現場にうまく馴染むもの。それが、私たちが開発の際に大切にしていることです。」(堀井さん)

リアル店舗からIoTデバイスで集積したオフラインデータを活用し、技術を適切に投入することで、流通業界の最適化=「情報流通革命」の実現を目指すトライアル。

表に見えるのは「安さ」という価値ですが、その安さや買い物の心地良さを提供するために、トライアルはDXのトップランナーとして業界をリードし続けています。

「安さの実現」に込められた想い。こんな意外性を知ってみると、とっても面白くありませんか。


※記事中の写真はすべてトライアルカンパニー様よりご提供いただきました。





著者プロフィール

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谷尻純子
1986年生まれ。編集者としてはたらく傍ら、スーパーマーケットキュレーターとして小売りや食品の情報を集め、自身の運営するWEBサイトやSNS、各種メディアで発信している。スーパーマーケットに関するメディア出演、執筆、監修など多数。暮らしの道具と台所も大好物。
Twitter:https://twitter.com/gotouchisuper
ゴトウチスーパードットコム:https://gotouchisuper.com/