
広告・販促事例
キユーピーのレシピ開発秘話、未来の定番料理を創るには
人気商品として知られるキユーピーの「深煎りごまドレッシング」。最近はサラダの他にも新しい楽しみ方を提案していることをご存知でしょうか? 今回は、「深煎りごまドレッシング」の企画でレシピ開発を担当するクックパッドのディレクター、遠藤さんにレシピ開発の背景や意識したことについて話を聞きました。
クックパッド株式会社
マーケティング企画制作部
遠藤 いく
2013年クックパッド入社より広告ディレクターを担当。
テーマ設定、レシピ開発、コピーライティングなどコンテンツの企画と制作を行っている。
前職は食品メーカーの販促担当。
最大、年間1,000点のレシピ開発する
クックパッドのクリエイティブ集団
編集部: 遠藤さん率いるディレクターチームは、広告に関わるクリエイティブな業務を一手に担うチームですよね。レシピ開発はもちろん、サイトなどのクリエイティブ全般を生み出すセクションということですが、これまで最大だと年間でどれくらいのレシピ数を開発したんですか?
遠藤:そうですね、一時期はチームで年間1,000点以上のレシピを提案していました。
編集部:それも対応カテゴリが広範囲ですよね。ビールなどの飲料に合うレシピ開発から、電子レンジをはじめとした家電製品など、幅広いですね。
遠藤:クックパッド広告のお客さまは広範囲なので、さまざまなご依頼をいただきます。でも目的は「クックパッドユーザーに作ってほしい、知ってほしい」という共通点があるので、そのマッチング作業だなと思って日頃から取り組んでいます。
定番ドレッシングをサラダ以外の料理に
使ってもらいたい
編集部:今回のお取り組みは、キユーピーの「深煎りごまドレッシング」。実際に開発したレシピはテレビCMにも起用されて放映されているんですね。まず、今回のプロジェクトの背景を教えてください。
遠藤:はい。キユーピーさん定番商品(2020年で20周年)の「深煎りごまドレッシング」をサラダ以外の料理にももっと使ってもらいたい、というのがご要望でした。
この与件の前提条件となる「ドレッシングを使ってサラダ以外のおいしいレシピを考えること」は、そこまで難しくありません。商品はもちろん美味しいですし、野菜以外にも合います。ただ「深煎りごまドレッシング=サラダにかけるもの」というイメージを外していくのが難題です。一般の生活者が何度も自宅で作って、サラダ以外に使うことに抵抗がなくなるようにしていかないといけません。
そこで、まずはドレッシングで作ってもおいしいだろうな、と誰もがイメージしやすい料理に絞ることにしました。
編集部:具体的に言うと、どのようなものでしょうか?
遠藤:具体的にはフレッシュな野菜を使っている料理です。キユーピーさんでもレシピをお持ちだった「サラダうどん」や、ご提案させていただいた「よだれ鶏」は、どちらもフレッシュ感があり、冷たい料理なのでサラダに近いイメージをもたせます。こちらをキユーピーさんのご要望に合わせて「深煎りごまドレッシングレシピ」にチューニングしていくことにしました。
編集部:確かに、サラダの延長線という感じで、あまり抵抗なくトライできそうですね。
遠藤:キユーピーさんから追加で調理頻度の高い「炒めもの」のレシピが欲しいという要望もいただいたので、そこでもあまり火入れをしないでシャキシャキと仕上げる「きゅうり炒め」を作りました。
加熱するけれどサラダの食感を残したままなので、こちらも違和感がありません。
商品価値を引き立たせることにこだわる
編集部:今回の開発で特に意識した点はなんですか?
遠藤:レシピの詳細を考えるときは、その商品がもともと持っている価値を失ってしまわないように気をつけています。ドレッシングに限らず、合わせ調味料の価値は「自分で味を調合しなくても、これを使うだけで簡単においしく作れる」ということだと思います。
編集部:なるほど、確かにドレッシングは自分で作っても、イマイチ味が決まらないというか、面倒というか、そう思って購入してしまいますよね。
遠藤:例えば、合わせ調味料はそれだけで味が決まることが価値なのに、他にいろいろ調味料を足してしまったらその簡便さが失われることになってしまいます。簡単に作れることが価値である商品で手間のかかるレシピを作ってしまうとか、手頃な値段で楽しめる商品に高級な食材を足してアレンジしてしまうことも同様です。
おいしさは担保しつつ、ドレッシングの価値を活かすために最小限の材料と調理工程で、「気軽に試してみたら思ったよりもおいしかった、簡単だしまた作ろう!」と違和感なく思ってもらうことが狙いです。
作る必要があるメニューは定番化しやすい
編集部:今回「定番化」を狙った施策になりますが、どんな点がポイントなのでしょうか?
遠藤:おいしくて簡単で、イメージしやすく、商品価値も活かされている、そんなレシピだったら定番化するかというと、そうでもないということがあります。無数にある料理の中で今日それを作る必要がなければ、いつのまにか忘れ去られてしまうのです。
そこで今回は、簡便さとおいしさで冷凍商品が伸長している「うどん」、サラダチキンのヒットで右肩上がりの「鶏むね肉」、生食中心でなかなか消費できない「きゅうり」に「そのレシピを作ってもらう理由」 になってもらいました。
編集部:食材の選定にもそんな「作ってもらう理由」という戦略があったんですね。
遠藤:皆さんにとっても馴染みのある「うどん」「鶏むね」「きゅうり」はどれもクックパッド検索ワード12万語のうちで、年間ランキング(※2019年年間)の上位40位内に入るビッグワードです。
これらの日常的によく使う食材をメインにし、それぞれのメニューの悩みをドレッシングが解決する、というようにレシピを考えていきました。
編集部:生活者の日々の料理に対する課題を網羅的に理解していないと、なかなか考えられない視点ですね。
遠藤:クックパッドは検索データをはじめ、さまざまなビッグデータを保有しているので、今の作り手の悩みやニーズを速やかに把握できます。また、作り手がどんな方法でその悩みを解決しようとしているのかも、定性コメントから理解することができるんです。
例えば、サラダうどんは、つゆについての検索が多くなっています。そのタレを「深煎りごまドレッシング」とめんつゆが「1:1」という単純な割合にすることで、2回目はレシピを見なくても簡単に作ることができます。
※データはレシピ公開時期に合わせて調べています
遠藤:よだれ鶏も同じくタレについての検索が多く、またレンジ調理についても検索されています。こちらも、鶏むね肉に酒と水をまわしかけて電子レンジで加熱するだけ、タレは「深煎りごまドレッシング」にすりおろしのしょうがと、にんにくチューブを加えるだけという簡単なレシピにして、一度作れば覚えられるような内容にしました。
編集部:商品の価値を引き出し、最小限の工程で斬新なレシピができましたね。
遠藤:最後にきゅうりですが、夏になると突然「炒め」と組み合わせた検索が増えます。おそらく、袋詰で安く売っていたきゅうりを買ったけど、サラダなどで食べきるのは難しいのでしょう。メインのおかずになるような炒めもののレシピを探しているようです。
そこで、メインになるおかずにするためには、ご飯に合うことが重要になってくるので「深煎りごまドレッシング」を少し煮詰めて食材にからめ、ご飯に合うこっくりとした味になるようにしました。
遠藤:どれもそんな工夫をこらしつつ公開したレシピですが、じわっと生活の中に入り込む、ほんの1ステップ目です。これからもまだまだレシピを発表していく予定です。
「いつの間にか定番メニュー」
そんなレシピを開発したい
編集部:今回開発されたレシピは、どれも美味しそうでしたし、とても魅力的に感じました。
遠藤:「深煎りごまドレッシング」のように、定番調味料の使い方を変えるときは、作り手の中に少しずつ「じわじわと入り込んでいつの間にかスタンダードの使い方になっていた!」みたいな作戦でいくのが良いかなと思っています。
今はSNSも普及して個人の発信力が購買を動かすようになっています。そのため今は「いかにしてバズるか、シズル感の強いコピーで惹きつけるか」という点に気持ちが向きがちですが、私たちが日々食べているものって、実際にはそれほど代わり映えしないですよね。
味噌汁や生姜焼き、ナポリタンなど… 食べているメニューの8割程度は定番料理で、2割ぐらいが定番のアレンジ料理と新しいトレンドメニューではないでしょうか。新顔のトレンドレシピが入っては消え、その中でごく僅かな料理が定着していきます。
今回のキユーピーさんの「深煎りごまドレッシング」は、そんな定番メニューへの仲間入りを目指すために、強く惹きつける要素はなくても、ユーザーが自然に作ってみようと思うことが出来て、レシピには「かゆいところに手が届く」価値があり、確実にリピートされるようなレシピを作っていきたいんですよね。
熱量高く語る遠藤さんには、ドレッシングを新しい使い方で楽しむ生活者の姿が既に見えているようです。
クックパッドのミッションは、毎日の料理を楽しみにすること。愛されている商品×クックパッドのソリューションで、これからもたくさんの笑顔を創ってまいります。今後もぜひご期待ください。
著者情報

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