外食店も進化の年へ。ゴーストレストランで広がる可能性

外食店も進化の年へ。ゴーストレストランで広がる可能性

FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。今回は、2020年10月にゴーストレストランへ参戦したイタリアンレストランのチェーン店「カプリチョーザ」。
レストランの在り方を模索する中、外的要因に負けないためゴーストレストラン事業に参入。同店を率いるWDI GROUPのスピード感ある対応と未来に向けてのお話をうかがいました。
(聞き手:FoodClip編集部)

お話をうかがった方

株式会社 WDI JAPAN
取締役 営業本部 本部長
福田 典生 氏

2020年振り返り

―2020年コロナ禍においては、外食産業として打撃を受けたかと思いますが、当時の対応について教えてください。

私たちWDI GROUPは、「カプリチョーザ」や「ウルフギャング・ステーキハウス」「ハードロックカフェ」など、国内外で20以上のレストランブランドを運営しています。今年3月は緊急事態宣言を受けて一部店舗を閉めざるを得ない状況になり、外食産業が外的要因に弱いことを改めて痛感しました。

外食産業はフロービジネスであり、労働集約型の産業なので、サービスや商品の提供と共に消費行動が伴います。そのため、店舗に人が集まらないことには、売上が立ちません。また、WDIではセントラルキッチンを持たずに店舗ごとに調理し、ホームメイドの味を提供することに価値を置いていましたが、それが今回は逆に弱点になってしまいました。


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2020年 カプリチョーザ 横須賀モアーズ店における外販活動の様子


店舗を閉めている間、本部の私たちはフードテックの運用を開始するべく、全ブランドでデリバリー・テイクアウトサービスのUber Eatsや出前館、menuなどの導入をおこないました。

「ウルフギャング・ステーキハウス」などでは、日本で初めてとなるタクシーデリバリーも開始。大型施設に入っている店舗では、施設の休館に伴い、テイクアウトの販売もできないため、施設の入り口での手売りができるように交渉して店頭販売などにも乗り出しました。3月から5月は、できることをその日その日で判断しながら走り続けていた感じです。


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―そんな中、「カプリチョーザ」はSNS運用でもさまざまな施策を打って話題になっていましたね。

店に訪れてもらうことができないのならば、家で店の味を楽しんでもらうしかない。ということで、「#家プリチョーザ」というハッシュタグを作り、既存のロゴマークをアレンジして、期間限定の“家”ロゴマークを制作しました。「TRATTORIA(食堂)」のロゴを「CASA(家)」として打ち出したんです。テイクアウトで「カプリチョーザ」の味を楽しむお客様や、自宅でイタリア料理を作るお客様と食べる楽しみを共有して、巻き込み型の施策を打ちました。


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店舗テイクアウトでは割引もおこない、通常970円程度(※店舗により異なる)で販売している定番メニューの「トマトとニンニクのスパゲティ」を500円で販売し、ソースのみの販売もおこないました。ロスを出すくらいならばお客様に還元したいという思いと、ファンの方にはずっとファンでいて欲しい、そしてこの機会でもファンをさらに増やしたいという思いでした。

また、ネット環境がないとか、ネットに弱いご年配の方からの要望もあり、ゴールデンウィーク前には、全レストランブランドのデリバリー・テイクアウト情報を載せた冊子を制作してお配りし、利用促進に努めました。この時は、通常1ヵ月かけて検討することを1週間ほどのスピード感で動いていましたね。


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―さらに、昨年10月にはゴーストレストラン参入も果たしましたね。

当社は実店舗のメニュー開発やスタッフ研修のため、社内にレストラン同様のキッチン設備を持っています。しかし、研修なども全てストップしている状況でしたので、機能していないキッチンを客席のないデリバリー専用のレストラン、ゴーストレストランとして活用したのです。

ゴーストレストラン自体は、先行していたアメリカの市場を見ており、数年前からスタディはしていましたが、コロナ禍で加速度的に導入を早めた形になります。外食の頻度が急激に減り、企業の会食もNGとなっている状況下では、イートインの実店舗をテコ入れしていくだけではなく、ゴーストレストランへの参入が急務でした。


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WDIでは「WE COOK」というオリジナルブランドを初めて立ち上げ、ゴーストレストランへ参入。世界の食文化を楽しんでもらえるように、台湾の薬膳一人火鍋やハワイのガーリックシュリンプ、ベトナムのフォーなどの料理提供を開始しています。ゴーストレストランでのオリジナルブランドの利点は、売上を見ながらコンセプトやメニューを変更していくことができる点なので、これからも新ブランドをアサインしていく予定です。

2021年は・・・

―2021年以降には、どのような施策を考えていますか?

昨年は社内キッチンに次いで、神楽坂にあるクラウドキッチン「KitchenBASE」にも出店して、ゴーストレストランの拠点を増設しました。まずは、この二拠点を最大限に活用して、これから訪れるかもしれない外的要因にも振り回されない運営体制を作る必要があると考えています。

将来的には、自分たちでクラウドキッチンを運営し、ゴーストレストランのプラットホームを目指す計画もあります。さらに、お取り寄せのEC事業も開始する予定です。

しかし初心に立ち戻ると、テイクアウトもデリバリーも飽和している今では、実店舗として「わざわざ訪れる価値のある店」がこれからも生き残っていくと考えています。そのためには、お客様の安心・安全対策は、たとえ席数を削ってもやっていかなければなりません。また、デリバリーに力を入れながらも、リアル店舗も積極的に出店して未来へ投資していきたい。具体的にはキャッシュレス機能を持つ、お客様と非接触型の専門店なども考えています。

外食産業としては厳しい状況ですが、店舗数を減らしたり守りに入ってしまうと企業としてシュリンクするだけ。会社が新しいことに挑戦していく姿勢は、働く従業員たちのモチベーションにも繋がります。ピンチはチャンスなので、この状況を嘆いていても仕方ない。チャンスに変えていくことを社内でも共有して、新しい市場にも参入し、さらなる成長につなげていきたいと思っています。



writing support:Yasue Chiba





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