ミシュラン星を獲得したシェフが次に狙うのはファミレス

ミシュラン星を獲得したシェフが次に狙うのはファミレス

FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。2018年のオープン後、2019年、2020年と連続でミシュランの一ツ星を獲得した代々木上原のフレンチレストラン「sio」の鳥羽周作シェフが登場。コロナ禍には、レストランとしてどこよりも早くテイクアウト販売に乗り出し、勢いよく前進している背景や鳥羽さんの描く将来のビジョンについてうかがいました。
(聞き手:FoodClip編集部)

お話をうかがった方

sio株式会社
代表取締役社長/CEO
鳥羽 周作 氏

2020年振り返り

―2020年は各メディアに引っ張りだこでしたが、昨年を振り返っていかがですか?

緊急事態宣言が出たそのときには、レストランとしての戦略は何もありませんでした。けれども、世間の動きよりも早く動かなければというスタンスは、常日頃から持っていました。

なので、緊急事態宣言が発令された3日後の3月30日には、お弁当などのテイクアウト販売を始め、すぐに「HEY!バインミー」というテイクアウト専門商品を作りました。そして「お客様が店に来ることができないのであれば、こちらから出向こう」ということで、“トーバーイーツ”と称して自分たちで自転車や車での宅配も始めました。


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―HEY!バインミーは「sio」が出すバインミーとして話題になり、連日完売になりました。
その次の仕掛けとして、単価1万円を超える贅沢弁当も登場しましたね。

僕は最初にお弁当をやろうという案が出たときは、乗り気ではなかったんです。すでに老舗の弁当店などはたくさんあったので、にわかに参戦してもそれを超えるクオリティにはならないと思って。それでも挑戦してみようと、店はスタッフに任せて、僕は自宅にこもってレシピ開発を始めました。

お弁当は食べ手がいつどのような状況で食べるのか分からないから、衛生面も考慮しなければならない。普通のお弁当であれば、たくさんのチェーン店が街中にある。その中で、レストランが手がけるお弁当として五味を散りばめることや、味移りなどを研究しながら商品開発をしていました。


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商品開発している間、自宅で奥さんと子どもと一緒に過ごすことで、世の中の人々が毎日3食作らなければいけない大変さもひしひしと感じました。

3食中で1食でも楽をしてほしいと、コンビニの商品にひと手間加えた簡単アレンジを提案したり、10分程度で作れるレシピなどを「#おうちでsio」としてネットに上げていきました。このレシピが話題になって、「やさしいレシピのおすそわけ #おうちでsio」というレシピ本も発表できることになりました。


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―バインミーや「#おうちでsio」が拡散されることで、贅沢弁当も13,500円という高価格帯ながら評判は瞬く間に広がっていきましたね。

僕たちは、料理を通じてたくさんの人に幸せになってほしい。“幸せの分母を増やす”ために料理と向き合っています。

今回の事態下では、店舗での食事体験だけでなく、テイクアウトやレシピなどをシェアすることで、僕たちの思いを届けることができました。それはレストランの価値の拡大です。贅沢弁当など新しいコンテンツができた時には、それを自分たちの狙い通りの形でお客様に届けることができました。コロナ禍でファンとのエンゲージメントが強固になったと感じています。

僕らのレストランのベクトルは、真っすぐお客様に向いています。自分たちの利益や短期スパンでの売上向上などは二の次。あくまでも、いま外に出ていけない人達が何を求めているかを想像し続けていました。それが、バインミーのような手の届きやすい価格の料理だったり、「#おうちでsio」の唐揚げやナポリタンのレシピだったり、自粛が長引いてきたときに、家で外食気分を味わえる贅沢弁当だったりしただけです。


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「sio」には、子どもが小さかったり、予算が合わなかったり、遠方だったりと店に来ることができない人もたくさんいました。そんな中、今までお会いすることができなかった方にも食事を届けられたことで、レストランとしての可能性は広がりました。今までは半径3メートルの世界で料理を作っていましたが、コロナで半径500キロになった感覚です。

2021年以降の展望

―2019年には丸の内に「o/sio」、渋谷に「パーラー大箸」を続けてオープンしています。
この快進撃はまだまだ続くのでしょうか?

2021年は、代々木上原から全国へ幸せの分母の拡大を開始します!2020年に予定していた2店舗の出店計画が延期になっていたのですが、3月には奈良ですき焼きのお店、そして大阪パルコでモダンレトロポップな居酒屋をやります。すき焼きのお店は商業施設で多店舗経営していくことも視野に入れています。


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―最後に、鳥羽さんの将来のビジョンについて教えてください。

目標は、5年以内にファミレスチェーンを作ること!
ミシュランの星を獲得した一流レストランのシェフが、マスにも受け入れてもらえる店を出すことに面白さを感じませんか?

“幸せの分母を増やす”という理念には、食にまつわるソーシャルな問題を解決することも含まれています。例えば、鰻やマグロの問題について、たとえ問題意識を持っていたとしても、僕たちが1店舗しか構えていなければ、その消費量にはインパクトを与えられない。大きな社会課題の根本解決のミッションを達成するには、自分たちができることをさらに拡大させていかなければいけないんです。なので、ものすごいスピード感で走り続けなくてはいけない。

他にも、糖質制限ダイエットが流行っている今、鍋料理の店もやってみたいし、海外にも進出したい。やりたいこと、やるべきことがたくさんあります。

自分がトップで走れるのは、あと10年ほどしかないことを実感しているんです。だから、命を燃やして覚悟を持って走り続けて、食で幸せを感じる人の母数を増やしていきたいですね。



writing support:Yasue Chiba





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