クックパッドCTOが見たコロナ禍の開発と求める人材像

クックパッドCTOが見たコロナ禍の開発と求める人材像

FoodClipでは新春特集として、キーマンの思考を連載形式でたどります。今回は、クックパッドのCTOとしてエンジニア全体の責任者を務める成田に、テクノロジー領域に関する2020年の振り返りとともに、社会やビジネスを取り巻く環境が大きく変化する中で、今後必要とされる人材像について聞きました。
(聞き手:FoodClip編集部)

お話をうかがった方

クックパッド株式会社
執行役CTO
成田 一生

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2020年振り返り

―クックパッドでは、内食回帰によって需要が高まる中、コロナ禍でも停滞なくサービスを開発できていた印象があります。2020年を振り返ってみていかがでしょう?

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大を避けるため、クックパッドでは2月から全社員を在宅勤務に切り替えました。日本企業の中でも早い判断だったと思います。さらに7月からは、基本週1日の出社に切り替え、在宅とオフィス出社を混ぜた働き方を模索しています。

現在イギリスのブリストルに第二本社があり、世界へのサービス展開も活発に進めています。もともと世界中のメンバーと連携するために、場所を問わずサービス開発ができるよう社内インフラの整備を強化していたことが功を奏しました。チャットツールでのテキストコミュニケーションを主流にして、オンラインミーティングも導入していたので、新たなシステムの導入をすることもなく、比較的スムーズに在宅勤務体制へ移行できました。

また、国内では今年、クックパッドiOS、Androidアプリの大規模なリニューアルをおこないましたが、開発のマイルストーンはコロナ起因で遅れたりすることなく、達成することができました。その理由としては、在宅勤務体制になる前にリニューアルの方向性が固まっていたというのも大きいとみています。


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―「在宅勤務」をする上でのメリットやデメリットが顕在化し、頭を悩ませている企業も多いと思います。成田さんは国内のエンジニアを統括する立場としてどのように考えていますか?

在宅勤務のメリットは、誰がどの開発を担当するかが既に決まっている場合、通勤の手間がなくなり、コーディング開発に集中できる環境がいつもより多く確保できることですね。

デメリットは、まだ開発内容が決まっていない場合です。サービスを新しく開発する場合には、目に見えないさまざまな情報が必要です。何気ない普段の雑談や、他の部署がどんなプロジェクトを進めているのかなど、一見必要なさそうなコミュニケーションから新規サービスのための情報が得られていたのだと気がつきました。

開発領域に限らず、在宅勤務による難しいところは、やはり「雑談」ができないところですね。


―確かに、どの職種でも日々の会話の中にビジネスのヒントが転がっているものですよね。

クックパッドのオフィスには大きなキッチンがあって、そこでコーヒーを淹れてたりすると、ふと普段コミュニケーションしないメンバーと会話ができて、そこからヒントや発見に出会えたりするのですが、それが今だと難しい。Zoomなどのオンライン会議ツールは1on1で面と向かって対話できるという利点がありますが、雑談をするにはあまり向いていません。

僕個人としては、その機会を確保するために、用事がなくとも他の部署とのミーティングを意識的に取って、雑談の時間というのを作っていました。非言語的な情報共有がとても大切だと感じます。

また、雑談のような”情報と出会う機会”を作るために、社内ブログは一層機能していたように思います。

クックパッドには社内ブログのシステム「Groupad」というものがあって、社員が自由に発言できます。その中には、全社向けのアナウンスもあれば、海外拠点に在籍する社員のレポート、エンジニアによるデータベースのシステム更新に関する技術的な報告から、趣味のための話題まで多様です。雑多な情報でも発信できる貴重な文化が社内にあります。

このGroupadを導入した2010年当初は、一部のエンジニアしか発信していませんでしたが、新入社員には必ず自己紹介を投稿してもらったりと少しずつこの文化を育ててきた歴史があります。この規模の企業で、職種問わずに誰もが発信できる文化が培われているのは、珍しいことだと思います。こうした何気ない情報を発信できる場があるのは、在宅勤務の中で社内コミュニケーションに一役買っているかなと考えています。


―そうした今までにない環境下で、得られた知見は何かありますか?

現在、キッチンの物理的な課題解決をハードウェアによってサポートする新規事業を進めています。キッチンで使うためのデバイスを開発していますが、物理的にデバイスを開発するとなると、部品が調達できない。開発を委託している企業もリモートになり、機材に触ることができないなどの問題が発生して大変でした。

しかしこの物理的な制約のおかげで、オンラインでも開発を進めるための技術的な工夫も生まれました。遠方にあるデバイスのシステムを自宅に居ながらにして書き換えるなどの基盤を整えて開発を進めました。

実物の機械が手元になくとも、機械の動作を別の機械で模倣できるようにしたりと工夫して乗り越えたので、いざという時のための知見や資産は溜まりました。物理的にデバイスがなければできないこと、遠隔でもおこなえることの境目を改めて見直すことができたんです。


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ーリモートワークによって、エンジニアの開発環境に変化はありましたか?

エンジニア領域は、サービス基盤を作るという長期的な目標に対し、着実に開発を積み上げていく業務が多いので、在宅勤務でも進めやすいです。しかしサービス開発は、常に変化する状況に柔軟に対応しながら、チーム戦で色々な人が関わり有機的な繋がりで物事を進めていく必要があります。そのため、顔を突き合わせて議論して決定していくことが一番効率がいいなと実感しています。

特にクックパッドは、ユーザーインタビューを重視している会社です。サービスを利用いただいているユーザーに実際にお会いし、新しいプロトタイプを目の前で使ってもらい、表情や視線がどう変化するのかなど、ちょっとした機微からも情報を拾っています。

これはリアルで対面でおこなうことに価値があるのですが、今はZoomでのインタビューしかおこなえません。そうすると非言語で読み取れる情報が今までのようにリッチにはいかない点などで苦労しています。

今後求められる人材とは

ービジネスの場が変化する中で、今後求められる人材とはどのような人だと思いますか?

これからのサービス開発においては、一人ひとりのリーダーシップが重要になってきます。
サービスの方向性について自分なりのスタンスを持ち、自分の意志を持ってタスクを自分で切り開いていく個人の力の重要性が上がっていきます。このような状況下で会社の未来を切り開いていくのは、能力があっても受託的な人材ではなく、サービスへの思いが強い人材が必要になってくると思います。

クックパッドが求めるエンジニア人材は、技術的に狭い領域にだけ興味がある人よりも、情熱を持って複数の技術領域にまたがってでも課題解決にこだわることができる人のような気がします。

2021年は・・・

―2021年、クックパッドはどのような開発に注力していきますか?

生鮮食品EC「クックパッドマート」のサービス開発に力を入れていきます。
「クックパッドマート」は、生産者と消費者をつなぐ生鮮食品ECプラットフォームです。町の精肉店や鮮魚店、地域の農家などの生産者が販売する食材を、1品から送料無料で出荷当日に新鮮な状態でお客様へお届けします。商品は、店舗や施設に設置された生鮮宅配ボックス「マートステーション」の中からお好きな場所・お好きな時間でピックアップすることができます。(一部地域では有料の宅配サービスも実施)

コロナ禍でスーパーへ買い物に出かけるのもハードルが上がってしまった今、「クックパッドマート」なら「マートステーション」を使って、自分の好きな時間、空いている時間に商品を受け取ることができます。手軽に生鮮食品の通販を利用できるこのサービスが今大きく成長しているので、技術的な投資はさらに力を入れていきます。

また、海外事業にも引き続き投資していきます。イギリス・ブリストルの開発拠点を中心に、新規事業の拡充や世界中のユーザー、料理の作り手に向けてクックパッドが新しい価値を提供できるように注力をしていきます。



writing support:Yasue Chiba





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