[書評コラム]食卓の経営塾(横川正紀)

[書評コラム]食卓の経営塾(横川正紀)

食や料理に関心の高い皆さんへ届けたい書評コラム[BookClip]。今回は『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方(横川正紀著、ハーパーコリンズ・ジャパン社)』です。

本書の概要

DEAN&DELUCA(以下、D&D)やCIBONEなど、食とデザインを軸にライフスタイルを提案するウェルカムグループ代表である横川氏の初著書。

ニューヨーク発のグローサリーストアが、なぜ文化も食の好みも異なる日本で受け入れられたのか、グローバルからローカルへとブランドとしてどのように進化してきたのかを教えてくれる一冊。食やデザイン、流通、外食業に限らず幅広い領域において、たくさんのヒントを与えてくれます。

特にD2Cをはじめ、スモール規模でも食ビジネスに携わる方々にとっては、本書の全てがアドバイスとなるでしょう。

肩の力をぬいてスッと読める
やさしい、新感覚の食ビジネス書

やさしい明朝フォントで、穏やかな文体。数字的な話もあまり出てこない。文章の合間にはアメリカ本国のD&D写真や仲間たち、横川氏が当時書いた手書きのビジョンなどの資料が折り込まれていて、見ていて実に楽しい。

同時に、食でビジネスをする上で考えるべき視点や、今の時代で選ばれるブランドになるための欠かせないポイントも教えてくれます。D&Dを日本で展開するときに考えていた「最大のライバルは個人店」と向き合ってきた横川氏。今多くの企業にとっても似たような状態と言えるかもしれません。小さい規模で世界観を作る個人店がインターネット上でたくさん誕生している今、「最大のライバルは個人店」と考える食品メーカーやブランドは多いのではないでしょうか。

時代を越えて、選ばれ続けるために、顧客との約束を果たすために、まず何をするべきなのか、何を考え抜かなくてはいけないのかが、本書から見えてくることでしょう。

ファミレスチェーンの息子として見た食の業界
電子レンジ経営とオーブン経営

本書の特徴のもうひとつに「巨大食品産業」と比べたうえで、お店の在り方を見つめている点があります。著者の横川氏の父は、大手ファミレスチェーン「すかいらーくグループ」の元経営者。

「食卓の経営」のヒントとなるやり取りが、横川氏親子の会話の中で紹介されています。

 このとき父が口にしたのが「電子レンジとオーブン」のたとえです。
電子レンジはオーブンに比べて短時間で一気に温められるけれど、その分急激に冷めてしまう。だけどオーブンでじっくり温めた料理はなかなか冷めない。
 ビジネスも同様で急速に拡大・成長をするとどこかでつまづくことになりかねない。一方、オーブンで料理をじっくり温めるように時間をかけて育てることで、長いスパンで持続可能になる。
 昭和の時代に大きく成長した企業には見習う点が多々ありますが、規模やスピードを重視しすぎて、本質を置き去りにしたまま突っ走ってきたような面もありました。結果的に、僕はそれを反面教師として行動してきたような気がします。

D&Dをはじめとするウェルカムグループが、時代にフィットしながら提案できている力はここにあるのか、と納得した瞬間でした。

今世の中に流布されている「成功のノウハウ」は、何を成功とするのかの定義が個々に違うから要注意ですよね。時代は変わり、生活者の思考も意識も求めるものも変わりつつある時に「どの視点でみた成功への公式」を採用するかで、関係者を本当に幸せするのか、見せかけの幸せで終わらせるのか、大きなターニングポイントが存在しているような気がします。

これは経営者だけではなく、「誰かに指示をする役割」を担う全ての人に言えることのような気もします。そのためにもビジョンが必要で、目指す北極星はどんな星なのかという認識合わせが非常に重要なのだろうと、本書を読んであらためて思いました。

本書の目次

はじめに

1. 哲学を共有する ──見るべきものは「根っこ」にある
・認知度0.1パーセント以下からの出発
・人生を変えた、「人」と「店」との出会い
・インテリアからグローサリーへ
・船出早々の大ピンチ
・1億円の授業料
・ソバとパスタ ーデルーカさんの教え
・見るべきものは「根っこ」にある
 COLUMN 1 京都で「店の力」を知る

2. ブランドの前に人がある ──価値をつくるのは看板ではない
・ライバルは個人店
・ウェルカム風「風通しのよさ」
・トートバックの話
・「雑貨店」の発想
・時代を感じて「引き寄せる」
・ゼロからのブランドづくり
・看板よりも人に価値がある
 COLUMN 2 問題だらけの卒業制作

3. 好きこそ仕事の上手なれ ──興味の熱量がすべてを決める
・頭の中を「ビジュアル化」する
・まずは「手書き」か始めよう
・「未来会議」で絵を描く
・大切なのは「配置のバランス」
・メンバーの「居場所」が見える地図
・チームでパワーは増幅する
・「目線のずれ」はトラブルのもと
・「単純キャリア志向」の限界
・仲間の「リスペクト」を得る条件
 COLUMN 3 積み木の原点

4. 大は小を兼ねない ──「いい塩梅」を追求する
・「ヒューマンスケール」が心地がいい
・ルールの7〜8割は「ゆるく」決める
・おいしいチーズの理論
・ネットワークは信頼関係である
・「統合」から「結合」へ
・「船団」というチーム
 COLUMN 4 鳥の目、虫の目

5. 食卓の経営塾 ──感性を共鳴させる
・昭和がくれた教訓
・電子レンジをオーブン
・あえて競争しない
・ヒットを生んだ「逆張り思考」
・質と量の話
・おいしそうなものばかり食べるな
・「バッドネス」を理解する
・自分の「リアル」を信じろ
・食卓の経営塾のマナー
 COLUMN 5 かわいい子には旅をさせろ

おわりに

お礼の言葉

[著者]横川正紀

ウェルカムグループ代表。1972年東京生まれ。京都精華大学美術学部建築学科卒業後、2000年にジョージズファニチュア(2010年に株式会社ウェルカムへ社名変更)を設立。DEAN&DELUCAやCIBONEなど食とデザインの2つの軸で良質なライフスタイルを提案するブランドを多数展開。その経験を活かし、商業施設やホテルのプロデュース、官民を超えた街づくりへと活動の幅を拡げている。武蔵野美術大学非常勤講師。





著者情報

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渥美まいこ
FoodClip編集長。ストラテジックプランナーを経て現職、好きな料理はベトナム料理。
https://note.com/atsumimaiko
https://twitter.com/atsumi_maiko