
食の未来
2020年食品業界の総括、生活者の価値観の変化とは
食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどる、FoodClip新春特集。三菱食品株式会社の小山氏とクックパッドの北井による対談を全2回に渡ってお届けします。前編の今回は、2020年を総括します。
三菱食品株式会社
マーケティング本部長
小山 裕士 氏
クックパッド株式会社
Japan 執行役員
北井 朋恵
2020年で大きく変わった社会と価値観、
そして食品業界
小山:2020年のトピックは、なんといっても新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大です。各業界や企業は手探り状態だったといえます。
コロナによって、私達の表面的な行動だけではなく価値観も変わりました。外出制限で生活が抑制された状況が「突然」やってきたこと、今後の事態が予測できない不安な状態が心理的に大きな影響を与えているでしょう。
そのような2020年の小売業全体の動態を示しているのが、図1になります。
▼図1
グラフをみると小売全体の金額は減っていますが、飲食料品小売業(黄色の折れ線グラフ)だけは「巣ごもり」「イエナカ」需要が高まって、前年比を上回っています。
▼図2
では、食料品で分類していきましょう。
図2で、外食・中食(コンビニエンスストアなど)・内食それぞれの前年比較と支出推移をみると、外食は前年比6割以上も下がっていることがわかります。
スーパーは好調。人が集まる大型店や百貨店、コンビニは苦境に
▼図3
小山:図3は、食品業界の業界別推移のグラフです。スーパーマーケット、百貨店、ドラッグストアの比較では大きな差が生まれました。
スーパーマーケットやドラッグストアが上がっている一方で、苦戦しているのが大型店舗のGMS、百貨店、コンビニエンスストアです。やはり人が集まる場所は大きな影響を受け、コンビニについてはオフィス需要、行楽需要が減ったことで下がり、2020年12月の段階でもいまだに戻っていません。
▼図4
さらに、図4の三菱食品の出荷実績から立地別推移をみると面白い傾向がみえてきます。
2月以降、休校や在宅勤務が増えて、駅近立地の需要が低下したわけですが、10月からの第三波の影響で駅近と駅遠の店舗との差が拡大しています。駅の乗降者数が減ったことで、電鉄系のスーパーも同様に減少しています。
北井:今、オフィス街のコンビニは特に大変だと思います。これまで、コンビニは便利に使えるように、250メートル以内の生活動線の中に出店することで、来店促進をしてきました。だからこそ、今後はどのコンビニを選んでもらうかが戦略のポイントになってくるのかもしれないですね。
生活者の防衛意識は、引き続き高い水準
▼図5
小山:図5は、消費者態度指数を表したものです。消費税増のタイミングで微減していましたが、やはり3月〜4月のコロナ感染拡大のタイミングで急速に下がりました。
食品小売業界としては、2020年は底上げ効果もあって平準化してきています。ただ、2021年は水面下でかなり落ちるのではないかと見込んでいます。企業の業績も良くない、倒産件数や失業者数が増える、こういったことで経済が好循環に回っていくには少し時間がかかるでしょう。
仮にコロナが早めに収束しても、生活防衛意識の強さは変わらず、思い切りお金を使うというよりは、財布の紐を締めていく傾向が見られるのではないでしょうか。
「即食、小容量、個食」から
「健康、安心安全、大容量」へ
▼図6
小山:三菱食品では商品属性分析が可能で、どのような特性のある商品が人気だったのかがわかります。今年は在宅時間が増えたことで「即食、小容量、個食」が減少し「健康、安心安全」に関する商品、「簡便・大容量」の需要が高まったことが分かります(図6)。
▼図7
小山:具体的な例として、ホットケーキミックスをみてみましょう(図7)。
今年は各所で在庫切れなどの社会現象もおきました。これほど売れた背景を考えると、義務的に作るのではなく「楽しく作りたい」という調理そのものに価値を見い出した変化だといえそうです。
北井:自宅にいることが増えたからこそ、便利な調理グッズや楽しめる調理器具の売上も好調となりました。そのうちの一つとして、ホットプレートの販売も大きく伸長しました。子どもと楽しむ・キャンプ気分を味わうといった意味もあるのだと思います。
小山:図7の下部は、同メーカーのチョコレートA商品の大袋商品と個食商品の比較で、大袋のほうが伸びています。オフィス等の需要が大きい個食商品より、大袋商品を求める傾向がみられます。
食への生活者の価値観は、より本質的なものに
▼図8
小山:2020年のハイライトは「オンライン購入の普及」でしょう。人との接触を防ぐ外出を控えた結果、大きく伸長しました。図8にオレンジ色で示されている出前も、4月以降伸びて定着しています。
北井:緊急事態宣言の解除後も、リアル店舗で購入できる環境があっても、多くの人がネット購入を継続しているということですね。暮らしの中に、着実に根付いていることがわかります。
小山:これまで利用しなかった層が初めて利用し、サービスの利便性に気づいたのでしょう。生協などの宅配系も同様で、食生活のひとつのスタイルとなったといえます。
▼図9
図9は、三菱食品生活者調査による、属性ごとのオンライン購買の調査結果です。全ての性・年代でコロナ以前よりオンライン購買が拡大していて、特に子持ち世帯は積極的に活用していることがわかります。また若年主婦層を中心に、無人のレジや小売のアプリ、デジタルサービスを活用していることがうかがえます。
▼図10
小山:三菱食品の戦略研究所では、毎年生活者の動向調査をしています。この分析から生活者の価値観の変化がわかりました。図10に示した2020年7月と10月に実施したアンケート調査の結果を見ると、主なキーワードは食に関する価値観、ライフスタイルについては、公衆衛生、節約志向などの要素でした。
中でも「背景にある価値観の変化」が大きく、目に見えない深層的なものが変わってきました。これまで義務的に食べていたものが「楽しみ」に変わっています。食に求めるものや食から得られる価値が変わっていったのでしょう。本当に必要なものは何か、本質的な自己実現的な価値へシフトしていったのだと思います。
北井:作ること、食べることしか楽しみがなくなっていった中で、男性の調理者数が増えました。特に若い年齢層が増えており、このまま調理者の若年齢層が定着するのか、それとも一時的なものなのかは気になる点です。
小山:それについては「定着する」と思っています。その理由は、もう食への意識が表面的なことではなく、本質的な部分で変わっているからです。特に若い男性の調理参加は、社会的に正しい&環境に良いという要素がつながっているとみているので、食は二の次にはならないでしょう。
北井:環境、経済の影響を受けて、価値観までもが変化した一年だったということがよくわかりました。この点を踏まえながら、2021年の食品業界の未来についてもお話を聞かせてください。
対談後編:「2021年消費予測、キーワードは男性市場とデジタル化」はこちら
▶https://foodclip.cookpad.com/7118/
writing support:Miyuki Yajima
著者情報

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