
生鮮
2021年消費予測、キーワードは男性市場とデジタル化
食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどる、FoodClip新春特集。三菱食品株式会社の小山氏とクックパッドの北井による対談を全2回に渡ってお届けします。前編の2020年総括に続き、今回の後編では、2021年消費予測について語ります。
三菱食品株式会社
マーケティング本部長
小山 裕士 氏
クックパッド株式会社
Japan 執行役員
北井 朋恵
北井:前編では2020年の総括でしたが、後半は2021年の消費予測についてお話できればと思います。
小山:2021年は「with/afterコロナ時代の生活者の価値観の変化」にヒントがあるとみています。前編で紹介した、購買の背景にある価値観の変化をまとめると、図1のようになると思います。
▼図1
新型コロナウイルスによって経済や生活の変化を余儀なくされ、「これまでの当たり前」を見直す期間になりました。その結果として「本質的な自己実現的価値へのシフト」が促進されている状態とみています。
北井:「食・調理の楽しさ」や「身体的健康の見直し」など、具体的な例だと納得感がありますね。クックパッドのデータでからも兆しが確認できています。
▼図2
小山:これまでのルールが一変したことで、家族との時間の大切さを実感している方も多いことでしょう。自分時間が増えたことや、外出が減って家族とのコミュニケーション機会が増えたことによって、これまで暗黙のルールであった「食」に関する価値観(義務的な購買や調理、食まわりは女性の役割という認識)や、調理の目的、作り手の変化などがみえてきました。この価値観の変化が、今後のマーケティング戦略において商機があるといえるのかもしれません。
2021年の経済の動きは?
▼図3
小山:食まわりの価値観の変化をふまえながら、2021年のタイムスケジュールを確認していきたいと思います。今年の大きなポイントは「コロナの収束時期」「Go To施策の効果」「東京オリンピック・パラリンピックの影響」この3点でしょう。
最初のポイントである「コロナの収束時期」の大きなカギとなるのがワクチンです。海外ではすでに実用化が始まっていますが、日本では世界の動向をみながら、現実的には秋頃になるのではないでしょうか。
▼図4
図4は、中国国家統計局のデータをもとに独自に分析・作成したデータです。現状、コロナ収束と経済回復に成功している中国では、経済成長率が戻っていますが、個人消費はまだ時間を要していて、外食についてはさらに後です。日本がまったく同じパターンになるとはいえませんが、近しい波形を辿るのではないでしょうか。
最後のポイントである「東京オリンピック・パラリンピック」の経済効果は、海外からの観戦客が見込めないことから、限定的にならざるを得ないでしょう。
食品業界としては「イエナカ観戦」需要に対して、どうアプローチしていくのかが重要です。単にポテトチップス1袋だけで終わるのではなく、家の中で食を絡めてどう盛り上げるかという仕掛けを作ることが必要ではないでしょうか。
2021年注目キーワード①「地方プレゼンス」
小山:三菱食品としては、2021年は「地方プレゼンス」「男性マーケット」「デジタル化 × 生活者の価値観変化」の3つのキーワードに注目しています。
北井:地方への意識は大きく変化しています。基本はリモートで週3日程度出社すればいいとなれば、もう都市部に住む理由はありませんよね。都心部に集中せず、大都市周辺や地方へのニーズが高まっているというのは、とても大きな変化です。
▼図5
小山:図5の住民基本台帳のデータを見ても、4月以降、東京からの人口流出は増え続けています。都市周辺、地方部に居住したいという層が増加すると、これまでの世帯構成、収入の幅も広がります。地方の人口増、単身層、ファミリー層、ヤング層が増えると、これまで狭かった消費傾向が拡大・多様化していくはずです。
2021年注目キーワード②「男性マーケット」
▼図6
小山:図6は、三菱食品の戦略研究所のアンケート結果を集計したものですが、男性の食の価値観、特に20~30代の既婚男性に「食を楽しむ」傾向がみられ、実際に調理参加も増えています。
北井:コロナ禍でスーパーに来店される男性は増加していますよね。男性が求める食品やレシピが注目されていくことでしょう。男性がスーパーに立ち寄った時に起こる非計画購買(ついで買い)も魅力的です。「男性×スーパー」での購買行動は、今後注目していきたいですね。
2021年注目キーワード③「デジタル化×生活者の価値観変化」
小山:コロナによって、産業と個人両面からデジタル許容度が上がり、デジタル化のニーズと重要性は高くなっています。コミュニケーション戦略や販促施策でのデジタルデバイス活用はもちろん、ECサイトも増えていくでしょう。
北井:ECサイトで最も伸びしろがあるのは「ネットスーパー」でしょうか?
小山:米国ではWalmartを除いて小売企業のネットスーパーは苦戦しています。多くの人がAmazonを利用しています。その理由はやはり「使い慣れている」インターフェイスだからでしょう。
ただ、アメリカの購買傾向は加工食品中心、日本は生鮮品中心という違いがあるので、日本においては「普段使いのスーパーの安心感」は一定の価値があると思います。小売企業が運営しているネットスーパーは、配送時間帯の利便性を高めたり、ユーザーインターフェースを変えるなど、新たな取り組みが求められています。
ネットで求められる「楽しさと効率性」
▼図7
小山:図7は、生活者アンケートを元にネットとリアル、楽しさと効率性の四象限で傾向を捉えたものです。これまでは「リアルが楽しさ」「ネットは効率性」というニーズでしたが、コロナによって「ネットでも楽しさ」「リアルでも効率性」を求められるようになりました。今後はこの2つの領域が勝負になってくると思います。
北井:「ネット×楽しさ」の訴求は、「ネットや画面を通して、楽しさをいかに伝えられるか」これについては、我々も日々模索している状態です。
小山:アンケートの回答でも「買い物に行くのは苦痛だが、行ってみると気になる商品に出会えて、新しい発見があって楽しい」という意見もありました。
北井:まさに「想定外の気づき」です。例えば、ホウレン草を買いに行ったのに、珍しい京野菜を見つけてつい買ってしまうといったことです。こうした気づきをどう作っていけるかが、我々はじめ販売店が努力していく点だと感じています。
また、コロナによって「スーパーでの買い物の仕方」が変わってきました。これまでのように、試食で生活者に「経験」を提供できなくなり、催事用の棚も作れなくなるなど、リアルプロモーションが立てられなくなったメーカーは非常に苦戦しています。こうした状況下でどう売上を伸ばしていくかが今年の課題のひとつです。
小山:単に割引きクーポンを提供するといった価格訴求ではなく、商品のストーリーを伝えて、つなぎ留めておくという本質的な部分を届けることが重要になってきますね。
北井:価格の訴求ではないアプローチで、いかに心に刺すものを届けられるかが差別化につながっていくのだと思います。
withコロナ時代、定着する行動・価値観
小山:これまでお伝えしてきたものをまとめたものが、図8になります。アンケートの結果から、コロナで変化した行動意識、価値観を図式化したもので、右上の[コロナ後定着する可能性]の中に、冒頭でふれた調理心理や働き方などが入っています。
表面的なものから世界観や感性の方向に価値のレベルが上がっていく傾向がみられるため、我々もその部分に注目していかなければなりません。
▼図8
2021年食品業界の在り方とは
小山:そのような生活者の価値観の変化に合わせて「価格一動作」から「世界観一感性(五感)へ進化していく必要がありそうです。オフラインでもオンラインでも生活者とのコミュニケーションレベルを上げていき、体験価値を醸成していく企業やブランドが勝ち残るのではないでしょうか。
▼図9
2020年は厳しい1年でしたが、決して暗いことだけではなく、良いことについてもいろいろな芽が出てきていると思います。物資的な豊かさだけではなく、本質的な幸せについて考えるといった価値観の変化は良い傾向だといえるでしょう。
新たなスタンダードとして定着していくなかで、その都度変化に対応し、2021年は良い年にしてきたいと考えています。三菱食品は、引き続き環境や生活者の変化を速やかに捉えて、食を通じて日本を明るく元気にできればと思っています。
北井:変化を捉えることができればチャンスになります。すべての企業にとって、今年が勝負の年、クックパッドも多くの食品企業様のお力になれるよう尽力して参りたいと思います。
対談前編:「2020年食品業界の総括、生活者の価値観の変化とは」はこちら
▶https://foodclip.cookpad.com/7101/
writing support:Miyuki Yajima
著者情報

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