2021年、企業は成長するために何をすべきか

2021年、企業は成長するために何をすべきか

FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。今回はあらゆる企業のコンサルティングを経験してきたマーケターの菅原健一氏をお迎えし、2021年のビジネスシーンの変化予測と食品業界として向き合うトピックについてうかがいました。
(聞き手:FoodClip編集部)

お話をうかがった方

株式会社Moonshot
代表取締役社長
菅原 健一 氏

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企業の10倍成長のためのアドバイザー業を創業。社会や企業内に存在する「難しい問題を解く」専門家。グローバル企業を含めクライアント10社、エンジェル投資先20社の計30社のプロジェクトを並行して進めている。過去に取締役 CMOで参画した企業をKDDI子会社へ売却、そのまま経営を継続して売り上げ数百億円規模へ成長させる。スマートニュースを経て現職。
Twitter:@xxkenai

“自分らしい消費”が活性化しつつある2020年

ー2020年は、経済やビジネスにおいても大きな転換点だったと思います。新型コロナウイルスによるインパクトをどのように認識されていますか?

先ずはじめにお伝えしたいことは、「多難だった2020年、倒産しなかった企業経営者の皆様は全員、本当にお疲れさまでした」と敬意を表したいです。事業を存続することだけでも、大変だったと思いますし、企業がこれまで蓄えてきたさまざまな資産や従業員の力があってこそだと思います。

そんな異例の一年となった2020年、新型コロナウイルス(以下、コロナ)は、もちろん社会全体に対しては未だに猛威をふるい、経済にも深い爪痕を残していますが、ポジティブにと言いますか、そこから得られたこともあったと思います。

誤解をはばからずに言えば、問題が早めに顕在化して良かったのではという見方もあります。
なぜなら以前から、今後の人口減少によって日本の経済活動の衰退は予想されていたわけで、その経済悪化の進行が少し早まったと見ることもできます。したがって、2020年のコロナ襲来によって、予定よりも早く経済の足下を強くする対処ができたと受け止めることもできるでしょう。


飲食業やホテル、インバウンド事業などは非常に大きな打撃を受け続けていますが、その一方で影響を受けるどころか好調だったのが、IT・オンライン業界でした。その理由はシンプルで「可処分時間が増えたから」と言えますね。

先日、子持ち家庭にアンケートを取ったところ「働く時間が減った」と回答した割合が約16%だったんです。ネット動画を見る、オンラインショッピングをするなど、オンラインに使える時間が増えたことが要因で、この点は良い面として認識しています。自由に使える時間が増えたことで、自分らしい消費が活性化しているとも言えます。

さらに、個人の財布の支出状況が、会食などの「他人との時間」から「家族の豊かさ」に変わってきました。こうした個人消費の変化は見逃してはいけない視点だと思いますし、商機だと感じます。


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菅原健一氏 /クックパッド本社にて

変わらないと生き残れない、
そんな時代に企業は何をすべきか

ーこうした状況下で、企業は限られた経営資源の中、どんな意思決定をするべきでしょうか?

これは大きく3つの視点が必要ではないかと考えています。


1. ポートフォリオ型経営

ひとつはポートフォリオ型経営の視点です。先ほどもお伝えした通り、コロナ前には大きな消費を創出していた「外での」ビジネスはこの先、確実に減少していきます。こうした行動の大きな変化の渦中にいる時「大きな売上ではあるが減る方向にある事業」に張るのか、「売上は小さいがこれから確実に成長するもの」に張っていくかで考え方が大きく変わるでしょう。

今こそ、「大きいが確実に減るもの」「小さいが確実に増えるもの」この2つを見定めたほうが良いのです。短期的には収益効率が悪いかもしれませんが、「小さくて伸びる市場」に投資していくべきだと個人的には思います。

これは投資家の視点で見るとわかりやすく、米国の経営者の上には必ず投資家がいて、ポートフォリオ的な考え方をします。1つの事業に張るのではなく複数に分け、変化があったときに対応できるものを準備していたり、組み替えられる構造にしています。これが「ポートフォリオ型経営」です。

日本企業の場合、専門事業で特化する意識が強く、利益率の高い・シェアが高い事業の一本足打法でいくところが多くみられます。すると、誰も予想することができないコロナのような事態で一気にグラついてしまう。

今は何が伸びるがわからない時代ですから、一見非効率だと思えるようなものも、将来性が少しでも見込めるなら地道に育てていくポートフォリオ型経営の視点は、持っておくべきではないかと思います。


2. 多様性・ダイバーシティの視点

日本企業のあいだでは、ダイバーシティというのはCSRとかSDGsなど、社会的責任の範疇で扱われることが多いかもしれませんが、海外だとダイバーシティは未来に生き残るための戦略として語られています。なぜなら、「企業の中にさまざまな視点を持つには、それ以外の方法はないから」という答えが返ってきます。

性別や世代のグラデーションも含めて、企業の中に多様性がなければ、商品開発や宣伝からダイバーシティの視点が抜け落ちてしまいますよね。これが常態化すると、企業は社会からどんどん孤立していくかもしれません。

これはポートフォリオ経営においても重要な視点で、誰か一人の意見ではなく、あらゆる多様な意見を聞いて投資領域を決めていかなければなりませんから。企業が存続するため、事業を拡大するためには、もはやスルーすることはできないのです。


3. 徹底的な顧客目線

これが最も重要で、これが全てです。だって、企業はお金を出す顧客がいないと商売になりませんからね。

企業は「商品を作って売る」のではなく「価値を作って価値を売る」ところです。顧客を理解し「顧客に必要とされる価値を作り、その価値を買ってもらう」ことを何よりも考えなければなりません。

コロナによって、多くの人がより「選ぶ理由」を考えるようになりました。つまり、価値を感じて心が動かないと、行動に移さなくなっているわけです。単なる価格価値だけ、原価率の勝負に陥らないためにも、顧客が求める価値を追究していくことではないのでしょうか。


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菅原健一氏とFoodClip編集長/クックパッド本社にて

顧客の目線でみるオンライン化を

ー他媒体の2020年新春記事の中で、今後伸びる分野に「オンライン」を挙げてましたね。
実際に急成長したオンラインですが、食品業界はどのように向き合うべきでしょうか。

企業は確実にオンライン化をするべきですが、通り一辺倒にやるべきではありません。
消費者にメリットのあるオンラインは何かを考える必要があります。どんな形のオンラインであれば自分たちの商品を顧客が好むのかを考えて、顧客中心に設計していくべきでしょう。

LINE、TikTokなどのSNSも考え方は同じです。これも「顧客側から見る」ことが重要です。企業でオンライン施策を検討する時に、一人の顧客を意識して検討することが大切です。

その意味合いで考えると、コロナ禍で在宅勤務になって良かったことのひとつに、企業が一般生活者の目線を取り戻したということだと思うんです。それまで会議室にこもってロジカルに議論していたことが、スーツを脱いで一般の暮らしに近い感覚で「自分が生活者ならどうか」という自分なりの感覚を抱く機会が増えたのではないでしょうか。

企業が一般生活者の感覚と乖離して良いことなんてありません。今伸びているD2C(Direct to Consumer)は、感覚が「We are You=私たちはあなた」なんです。この生活者目線が持てないと顧客に価値を届ける前の棚を取ること、GRPを出すことに目線がいってしまう。たとえそれで一時的に売上が上がったとしても「顧客が価値を買ってくれた」と本当に言い切れるのか。そこにこだわるべきです。

そもそも顧客の目線で、どうすればそのECサイトを使いたいと思うのか、どうなると助かるのか、何をすればサイトで商品を選びたくなるのかという議論が抜けてしまっています。まず一般生活者を第一に考える視点を忘れてはいけないと思いますね。

結局、今回のコロナ状況下で問題がなかった企業というのは、ちゃんと生活者を見ていて、数年前からオンラインなども使って直接顧客と繋がっていたところで、かつ「ポートフォリオ型経営」ができている企業なんですよね。

それは、誰のためのDX化なのか

ー企業のオンライン化とも言うべき「デジタルトランスメーション(DX)」も活発に議論されています。その際の注意点みたいなものはありますか?

デジタルトランスメーション(以下、DX)のゴールが、「特定のツールを導入する」とか「オンライン販売をできるようにする」などになっている企業は注意が必要です。

一番大切なことは、「今取り組んでいるDXプロジェクトが終わった時、消費者にどのくらいのメリット・ベネフィット還元されるかを数値化できますか?」という質問が、一番わかりやすいと思います。

DXは、「企業をデジタルにすること」が目的ではありません。この20年、インターネット、スマートフォン、GAFAの存在で、ユーザーのDX化がものすごく進みました。ユーザーが大きく変わったにもかかわらず、企業が変わっていないため、今ここにギャップが生まれてしまっています。ですから、DXの目的は「自分たちの顧客とのGAPを埋める」というただそれだけなんです。DXを推進するにはまず、ツールの議論ではなくて「消費者を見ましょう」ということです。例えば、より鮮度の高い商品が届けられるなどどんなことでもいいのですが、本当に消費者に価値として還元されているかがとても大事な視点なんです。

経営者の方が使えるお金というのは、前年に消費者からいただいたお金で、それを運用する義務があります。また買ってほしいと思うのであれば、消費者たちへいかに還元できるかについて考えたほうが良いのではないかと思います。

2020年の状況を受けて、今後どこに注目していけばいいのか方向性を見い出せていない企業も多いかもしれませんが、シンプルに「顧客目線で考える」しかありません。顧客の価値に還元される活動かを常に考える。これをするかしないかで、どんどん差は広がっていくと思います。

既存ビジネスで高利益を保ち、
オンラインで新規ビジネスを

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ー2021年、ビジネスシーンはどんな表情を見せていくと思いますか?

2021年に限らず、当面はインバウンドの受け入れも難しく日本の人口は減っていく、ある意味「鎖国」のような状態で、衰退していくという状況が色濃くなっていくでしょう。

この状況を突破するためには、既存のビジネスで高い利益率を保っていくことと、新たな顧客を獲得するためにオンラインを活用することです。例えば、オンラインフェスのようなものでメーカー主導の料理教室を開催するといったことも一案ですし、オンラインの可能性を、もっと考えたほうがいいと思います。

単純に変換すると難しいかもしれませんが、もっと家族で楽しむためには、もっと時短をするためには、もっと子どもの好き嫌いを減らすためにはなど、「もっとどうか?」の部分に意識を向ければ何かしらの芽があるはずです。今までどおりの視点だけで物事を考えていくと見つけられませんが、小さなものでも「これは伸びるな」というものをちゃんと探してあげることだと思います。

伸びるものの発見と組み換えが鍵

必要なのはコロナ以前のことではなく、今とこれからを考える視点だけです。自社が今持っている資源やアセット、これから伸びるものにどう適応できているのかを考えていくべきでしょうね。

2021年は「伸びるものの発見と組み換え」が鍵になるでしょう。投資領域のポートフォリオ、企業内資源など、どう組み替えて再発見していくかだと思います。主体事業に固執しすぎず、そもそも自分たちは何をしている企業なのかを広く捉え直すタイミングがきていると思います。来年や再来年の今日どうなっているかという長期的な目線や投資、努力が必要だと思います。“前年比の呪縛”から脱却し、前を向いた企業だけが速やかに成長するはずです。



writing support:Miyuki Yajima





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