
家電製品
顧客目線ならコモディティ化しない。BRUNOの強さ
FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。今回はイデアインターナショナルの星野氏に調理家電の「差別化」と、海外戦略・商品開発についてお話をうかがいました。(聞き手:FoodClip編集部)
お話をうかがった方
株式会社イデアインターナショナル
取締役マーケティング&セールス本部長
星野 智則 氏
顧客の楽しみ方に目を向ければ、
コモディティの視点は外せる
ーBRUNOは、2020年も売上が大変好評だったと聞いています。一見コモディティ化されているような家電市場の中で、指名買いされている理由は何だとお考えですか?
今はどの商品も高機能で便利ですから、機能的価値だけで差別化を狙おうとしたら、もちろんコモディティ化(※)せざるを得ません。だからこそ、今までにない「新しい価値観や気付き」を作り出すことに最も重点をおいています。
商品にとっての価値は機能だけではないですよね。商品によって拡がる利用シーン、充実したライフスタイル、心理的な楽しさ、ワクワク感の付与も価値です。この点に着目して顧客が求めていることを汲み取り表現することが大切ではないかと考えています。
BRUNOの特徴のひとつにカラーバリエーションがあります。レッドなどの暖色カラーをはじめ、家電では珍しいブルーグレーなど豊富に揃えています。その理由は「キッチンツールに対しても、インテリアに合う色味を探している」という顧客目線に気づいたからなんですよね。
(※)コモディティ化:高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること。
キッチンツールであっても「キッチンで使って、片づける物」ではなく「テーブルの上で使って片づけなくても良いもの」と考えをシフトさせたことで、インテリアの一部として部屋に映える色やデザインなど相性を意識して生み出したわけです。
BRUNOのコアターゲットは、独身から小さなお子さんを持つ女性です。まさにそのターゲット層と同じ年代の女性社員が多く在籍しているので、ターゲット層が好むものや刺さるものが理解できて、同じ感覚を持っている彼女達の声やインスピレーションはとても大事にしています。
BRUNOは顧客目線に立ってチェンジすべきことを見つけたら、一般的なセオリーからは外していく。捉え方ひとつでコモディティ化は避けられるのだと思います。少なくとも僕は家電業界がコモディティ化しているとあまり思っていないんですよね。
withコロナ時代のコミュニケーション戦略とは
ー顧客目線というお話がありましたが、BRUNOはお客様とのコミュニケーションをとても重視しているんですよね。
当社は直営店舗を持っているので、お客様とスタッフとのコミュニケーションをみて学ぶところが非常に多いんです。
2020年はもっとお客様とのコミュニケーション機会を設けていこうとリアルイベントを企画していたところでしたが、実現が難しくなってしまいました。そこで2021年は、オンラインイベントを積極的に実施していこうと考えています。
ーどんなオンラインイベントを構想中なんですか?
私たちは機能面以上に、「商品の楽しみ方や捉え方」にどのようにスポットライトを当てていくかが差別化につながると考えています。
ですから、オンラインイベントでは、単に新商品の機能説明をPRするのではなく、BRUNOの特徴を活かした楽しみ方を提案していきたいですね。楽しみ方をよりわかりやすく適切に伝えるためには、「動画」というツールはとても合っていますし、よりお客様に近いところで表現していくことができるのではないかと思っています。
お客様のライフスタイルによって、開発する商品やアプローチの手法は当然変わってくると思いますが、「お客様のライフスタイルに寄り添って喜んでいただく」というのがブランドポリシーなので、商品やアプローチが変わっても「ワクワク」や「ときめき」は変わらずに提供していきたいと考えています。
世の中が成熟していくと楽しみ方もまた変わってきますから、時代に合わせて差別化のポイ
ントを見定め、プロモーションを変えていくことも大切です。
オンラインの波にのって海外展開に注力
鍵は“模倣できない”ブランド力
今年は「世界」に向けたプロモーションもオンラインを駆使して注力していきます。すでに香港ではSNSを通して人気に火がつき、日本と同じくらいの認知度がありますし、台湾やシンガポール、中国さらに北米でも展開が始まっています。
「食」は万国共通のテーマなので、アプローチしやすい分野だと思います。「食を素敵にしていきたい」「こんな食卓にしたい」とSNSの投稿を参考にしている人も多く、BRUNOのブランドイメージを落とさないように気をつけています。
海外プロモーションも、機能だけにフォーカスしてしまうとすぐに真似されてしまうこともあります。だからこそ大事なのはブランドイメージやその世界観。たとえ海外であっても素敵なものは素敵と受け止められるので、そこさえブレなければ、あとは言葉の壁をどう乗り切るかだけだと思っています。
ー今年、商品開発はどのように仕掛けていかれるんですか?
すでに海外起点の商品が豊富にあるので、今後は日本に逆輸入という形も増えてくるかもしれません。限定カラー商品もありますし、ホットプレートのオプション商品である蒸し網がついた深鍋も、実は香港からの発想なんです。やはり海外はライフスタイルが違うので、日本では思いつかない新たなアイデアが生まれてくるということもあります。
ー商品開発やプロモーションのヒントは、どこからキャッチアップしていますか?
ウェビナーなどを使ったオンラインコミュニケーションに加えて、Instagramからもインスピレーションをもらっています。月に1度はInstagramの運用担当者から、最近のヒットの芽、新たなエクストリームユーザーや使い方など、トレンド情報をもらって参考にしています。
つい先日、非常におもしろいと思ったのが、当社が販売しているBRUNOのガシャポン®のミニチュアを使って精巧なレシピを作っているコアなファンの方の投稿です。ミニチュア空間であればBRUNOの世界観を表現しやすいですし、何かプロモーションに活かせないかとまさに今考えているところです。コアなファンの方の楽しみ方に着目すると、新しいプロモーションアイデアが浮かんでくるので、とても刺激になります。
ー30代の女性たちのSNS発信で、最近得られた“発見”のようなものはありましたか?
特徴的だなと思ったのが、投稿写真の変化です。これまでのInstagramでは「完成した料理・食卓写真」が主流でしたが、キッチンツールの投稿も増えたという印象があります。料理工程の写真だったり、作り手やお子さんの姿が映っている写真が目立ちました。“生活感”がある、言い換えれば“温もり”が感じられるものが目に止まるようになりました。
また、これまで「キッチン=女性の領域」というイメージだったものが、男性やお子さんの調理参加や、SNSの投稿によってキッチンを囲む生活シーンが幅広く捉えられ始めたことで、イメージも変わっていったと思います。このように、生活感がわかりやすくなったというのは、コロナ禍がもたらしてくれたポジティブな面として捉えていますし、当社にとってもプラスになりましたね。
今現在は、Instagramからの情報や顧客の声を大事にしていますが、時代に合わせてその他のSNSや新たなメディアも活用していきたいと考えています。重要なのは、特定のメディア在りきでどう使うかではなく、どう楽しみを生み出せるかです。
世の中の人たちの楽しみ方で、どのツールが適しているかは時代によって変わってきますから、今後Instagramに代わる新たな媒体がやってきても「生活者の楽しみ方」に合わせて活用していくだけなのではないかと思いますね。
これからのBRUNO
ー2021年のBRUNOは、どのような取り組みに注力していきますか?
今後は、男性に向けたアプローチも増やしていこうと思っています。料理、スキンケアなど、特に若い層を中心に男女の垣根はなくなってきていますからね。今回コロナ禍で取り組んだYouTubeでは、男性の視聴も割と多かったので、新たに男性に向けたクリエイティブも意識していかなければならないなと思っています。
お客様の意見はどんなものであっても絶対正解なので、いかにその意見に視点を向けて気づいて、商品開発に繋げるかです。通常、商品会議ではいいところばかりをアピールすることが多いと思いますが、当社ではマイナスをきちんと捉えて指摘できるプレゼンテーションを大事にしています。マイナスの意見こそ大事にして、負の意見を改善していくことが大切だからです。
こうしたマーケットインの商品開発ができるというのは、まだブランドの歴史が浅く、企業規模が小さいからこそできる強みだとも思っています。クックパッドとのタイアップもそうですが、生活者に近いところと連携を強化するというのが、今後も大切な流れになっていくのではないでしょうか。
2021年もお客様の意見やご要望をキャッチアップしながら、さらに進化する一年にしていきたいと思います。
writing support:Miyuki Yajima
著者情報

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