食の分野強化が奏功。SDGsにも取り組む無印良品の姿勢

食の分野強化が奏功。SDGsにも取り組む無印良品の姿勢

コロナ禍では冷凍食品やレトルト食品の需要が高まり、暮らしを見つめ直すことで、SDGsへの関心も高まった2020年。どうやらこの動きは、2021年も続いていきそうです。FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。
今回は、無印良品を展開する株式会社良品計画より、食品部商品開発担当の神宮氏と鈴木氏をお招きし、レトルトカレーやコオロギせんべいなど、2020年にコロナ禍やSDGsの視点から注目を集めた商品についてお話をうかがいました。(聞き手:FoodClip編集部)

お話をうかがった方

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左から、
株式会社良品計画
食品部 商品開発担当
調味・加工担当カテゴリーマネージャー
鈴木 美智子 氏

株式会社良品計画
食品部 商品開発担当
(兼)菓子・飲料担当部長
神宮 隆行 氏

数年ごしの食カテゴリー強化が奏功

ー2020年の動向はいかがでしたか?

鈴木:コロナ禍の食品の売り上げについては、スーパーマーケットほど目に見えた変化といえないまでも、レトルト食品やフリーズドライなどの需要が高まりました。

外出自粛期間中は、店舗が一時休業となったこともあり、ECの利用率は上がったのですが、最近は徐々に落ち着いてきている印象ですね。商品としては、全41種類を揃える「素材を生かしたカレー」や、エスニック料理が簡単に作れる「手作りキット」などの売れ行きが良く、外食ができない中、家でも手軽に非日常の食が演出できる商品が評価されました。手軽に作れるという分野では、冷凍食品類なども好調です。
ただ、これらについては、コロナ禍の一過性で売上が上昇したとは捉えていません。無印良品では、ここ数年で食の分野を強化しており、売り上げが拡大していく動きの中で、世の中の需要とマッチしたと考えています。


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ーここ数年で食品に力を入れることになったのは、どうしてでしょう?

鈴木:2018年春に、生鮮食品を初めて取り扱う“食”の大型専門売場を併設した第一号店が堺北花田にできたのがきっかけです。無印良品では各店で地域と連携した取り組みをおこなっており、同店は食を中心に据え、食材を作る産地とお客様をつなぐ店として立ち上げました。

今後も地域に根ざした活動を続けていく上で、食は必須となるカテゴリーです。店頭に地元野菜などを揃えていくなら、自社の加工食品や調味料も充実させていきたい。という流れがあり、食品のラインナップを強化し始めました。同時期に冷凍食品の開発も始めました。

食が楽しめて、皆さんの食卓をサポートできるものを提案したいと取り組みを進め、売り上げも順調に伸長していたタイミングでした。


ー最近、メディアでも無印良品の食品が取り上げられる機会が増えていますね。

鈴木:コロナ禍では、以前取り上げていただいたメディアが商品の良さを覚えてくださっていて、再取材していただく機会もありました。コロナ禍のみならず、テレビやメディアで取り上げていただいているのは、売り上げのベースアップにつながっていますね。

無印良品のコアな客層は30〜40代なのですが、スマホで調べながら買いに来てくださる若年層、シニアのお客様も多いです。一過性のトレンドではなく、新規のお客様がファンになってくださることで、売り上げも順調に伸びています。

無印良品に求められる価値を商品に反映

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手づくり鍋の素 ビスク鍋 200g(2〜3人前)。
同シリーズは、全7種類で世界各国の鍋料理をテーマにしている。


ー商品のどのような点がファン獲得につながっていると考えますか?

鈴木:無印良品にできることをきちんと考えているからでしょうか。生活のために必要な食品類はスーパーマーケットや商店街で手に入るので、私たちは世界や日本中の食文化や、食材を通じて、食の豊かさや面白さを提供していくことに主眼を置いています。

もっというと、味が簡単に想像できるものは無印良品では買わないのではないかなと。だから、お客様がパッケージを見て、ちょうど味が想像できるかできないか、さじ加減の絶妙な商品が多いですね。棚に並んだときのビジュアルや、ちょっと驚きのあるような味わいは、試作を重ねてかなり吟味しています。

例えば「手づくり鍋の素」シリーズは、「いかすみ」「ビスク」「バターチキンカレー」など、毎年一般的なスーパーの品揃えとは異なるラインナップを揃えています。鍋といえば、メインのビジュアルが土鍋で、出汁の美味しさなどを訴求するイメージがありますが、こちらは全く違う表現に仕上げました。世界の鍋スープを題材にしているもの珍しさから、季節性以外の需要も獲得。

こちらもコロナ禍の影響もあり、家で過ごす時間が長くなっているため、家で作ることが難しい料理が手軽に家で食べられることが注目されました。SNSなどでも紹介され、今年は前年に比べて大きく売り上げが伸びています。

「コオロギせんべい」開発の発端は
フィンランド土産だった

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コオロギせんべい 55g。
2020年5月に数量限定のオンライン先行発売で話題となった。


ーいつも無印良品の棚には発見や学びがあります。今年は「コオロギせんべい」の発売で、SDGsの観点からも注目が集まりましたね。

神宮:「コオロギせんべい」は、構想から一年半をかけて商品化にこぎつけました。発端は無印良品がフィンランドのヘルシンキに出店したこと。現地スタッフがお土産にくれたのが、コオロギのお菓子でした。はじめは現地でそういった文化が根付いているのかと思って、調べてみたら違ったのです。

さまざまな環境問題が叫ばれる中で、将来的な食糧難を見据え、たんぱく質の補給を何でおこなうか。欧米の取り組みを知り、日本でもこうした問題を考えるきっかけになればと考え、商品開発へ踏み出しました。当初はコオロギが丸ごとプレスされたせんべいを作る計画でしたが、甲殻類アレルギーの対応や他製品への異物混入の問題がクリアできず、試行錯誤の末、コオロギをパウダー状にして混ぜ込む形に落ち着きました。


ー丸ごとコオロギを入れる計画だったとは、かなり勇気がいりますよね。

神宮:なぜコオロギを使うのか、バックグラウンドを知っていただきたいこともあって、インパクトを狙いたかったのです。今となっては、パウダー状にすることでお客様の抵抗感もなくなって良かったという声もあります。

でも、展示会ではコオロギせんべいを出している横で、サンプル用に用意した丸ごとのローストコオロギを試食されるお客様も多くいらっしゃいました。興味本位もあるかと思いますが、それだけ皆様の注目度も高まっているんですよね。


ー環境問題に紐づく、新たなたんぱく源はここ数年で注目が集まっていますね。
2020年は代替肉の取り扱いも始められましたが、お客様の反応はいかがですか?

鈴木:代替肉には数年前からアンテナを張っていて、当時はなかなか美味しいと言えるものが少なく、いつか製品化したいと思っていました。

お肉と同じように手軽に使ってもらえるように、常温で保存でき、水で戻さなくても使える「大豆ミート」を発売でき、売れ行きも順調です。実は全然売れないんじゃないか、と心配していたのですが、SNSなどでも好評で、無印良品の商品で初めて大豆ミートを食べたというお客様も多くいらっしゃいました。

SDGs関連は若年層の方が関心が高く、環境問題を軸に新規のお客様とつながっていけることにも価値を感じています。

ブランドコンセプトがSDGsに貢献

ー世の中で注目される以前から、SDGsに取り組まれている貴社ですが、
SDGsへの取り組みは今後どのように考えていますか?

神宮:まずはコオロギせんべいや代替肉の関連商品を、普及させていくことが第一です。まだまだ原料の供給も少なく、取扱店舗も限られているので、きちんと多くのお客様に届けられるように体制を整えていきます。その上で、お客様の日常に「今日はコオロギせんべいにしてみようか」「大豆ミートにしてみようか」という選択肢が浸透すれば嬉しいです。

鈴木:弊社は社会貢献を考える文化があり、ブランドのコンセプトにも「無駄をなくす」「使い切る」が根付いています。昔から受け継いできたものなので、後からSDGsがついてきたような感じです。

もちろん、SDGsのどの項目に当たるのか考えていかなければいけない部分はありますが、今後の活動についても、SDGsに取り組もう!という姿勢で施策を動かすのではなく、今まで積み上げてきたことを続けていくのがベースになります。

神宮:お客様と接している私たちには、知ってもらう、気づいてもらうことぐらいしかできないと思うので。毎日の一杯がペットボトル削減につながる給水サービス(※)をはじめ、日常に近い商品や取り組みを通してお客様にSDGsをお伝えしていきたいですね。


(※)無印良品の給水サービス:2020年7月、プラスチックゴミ削減を目指した給水サービスを開始。「自分で詰める水のボトル」を購入するかマイボトルを持参すれば店頭の給水機から自由に給水でき、水アプリを通してPETボトルの削減量およびCO₂削減量といった環境への貢献度がわかる。


ー今後、食を取り巻く環境はどのようになっていくとお考えですか?

自宅で過ごす時間を見直すタイミングがきていて、食に関して向き合う時間が増えましたよね。この動きは2021年もしばらくは変わらないと予想しています。

今後は、引き続き皆様に食の楽しさを伝えるとともに、生活のサポートとなるような商品を開発していきたいと思います。また、食関連の商品を豊富に扱える大型店舗もできているので、新しい食カテゴリーにもチャレンジしていきたいと考えています。



writing support:Akira Fukui





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