[和菓子タイムトラベル]南蛮菓子ってどんなもの?前編

[和菓子タイムトラベル]南蛮菓子ってどんなもの?前編

和菓子メディア「せせ日和」を運営している「せせなおこさん」に、和菓子を通じて日本の文化や歴史を教えてもらう新連載!読んで学んで、和菓子をもっと身近に感じてくださいね。

九州ではお馴染みの南蛮菓子

九州で育った私は、上生菓子や大福といった、あんこやお餅を使った和菓子よりも「丸ぼうろ」や「カステラ饅頭」など、ちょっと洋風な?和菓子に馴染みがあります。東京に出て初めて「九州には当たり前にあったお菓子は特別(つまり南蛮菓子)だったんだ!」と驚きました。

地域に根付いたお菓子とはこういうことだったのか、と他の地域のお菓子と比べることで初めて実感し、自分の地域の日常は他の地域にとっては非日常なんだなぁと地域文化に興味を持つきっかけになった出来事です。

前回の記事ではカステラの歴史をお伝えしました。そんなカステラと同じように外国からやってきた南蛮菓子についてお伝えしようと思います。調べて見ると思っていたよりもたくさん!2回に渡ってたっぷりとお届けします!

実は手軽なおやつの丸ぼうろ

まずは「丸ぼうろ」というお菓子。九州ではスーパーでも売られていて、しかもひとつ80円程。牛乳と一緒にでてくる定番の3時のおやつでした。小さい時からよく買っている馴染みのあるお菓子です。


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もともと丸ぼうろは「bolo(ボーロ)」というポルトガルのお菓子。砂糖と小麦粉を混ぜて焼いたもので、ポルトガル船員の保存食として食べられていました。丸ぼうろは今では佐賀の銘菓として知られています。南蛮菓子なのに長崎ではなく佐賀で根付いた理由はなんだろうと調べてみると、佐賀で質の良い小麦粉が取れたからなんだそう。佐賀にある元祖丸房露を作った鶴屋の2代目は佐賀から長崎・出島に通い、オランダ人や中国人から技術を学んでいたそうです。

サクッとした食感なのに、中はしっとり。牛乳と一緒に合わせると最高のおやつの時間を過ごせます。ちなみに鶴屋では丸ぼうろ用のジャムやアイスクリームなんかも売られています!


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そして明治時代に入り、それまで日本ではあまり食べられていなかった卵を食べる習慣が広まります。同じく佐賀の北島というお店では丸ぼうろの材料に卵を加え、そのおかげで、ふっくらとした丸ぼうろが誕生しました。こうして丸ぼうろは佐賀の銘菓として根付いていきました。

ちなみに、佐賀の銘菓である丸ぼうろなのですが、実は大分の中津でも有名なことが判明!佐賀の丸ぼうろは1枚なのに対し、中津の丸ぼうろはふっくらと厚みがあって、2枚セットで売られています。もともとは小麦粉がよくとれる宇佐(うさ)の名物でしたが、現在では中津の名物になっています。そんな中津の丸ぼうろはこんな感じ!


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佐賀の丸ぼうろはお祝い事に使われる一方、中津の丸ぼうろは弔辞の時に使われているため、1袋に2つ入っているんだそう。なるほど、そんな理由があったとは!丸ぼうろ好きとしてはいっぱい食べられる中津の方がお得!なんて思っていたのが恥ずかしい…。たかが丸ぼうろ、されど丸ぼうろ!丸ぼうろにそんな違いがあったとは知りませんでした。知れば知るほどハマっていく魅力あふれるお菓子です。

黄金色に輝くお菓子

江戸時代、宗教上の理由により卵を食べることは禁止されていました。そんな中やってきた卵を使った南蛮菓子は特別なお菓子として位の高い人たちの間で楽しまれていました。

続いて紹介する「鶏卵素麺(けいらんそうめん)」は福岡の銘菓。約400年ほど前、福岡の松屋というお菓子屋さんが長崎で製法を学び、持ち帰ってきたお菓子。当時としては高級品だった卵を使うため、黒田藩の経済支援を受け、今日まで受け継がれてきました。現在は福岡の他の和菓子屋さんでも作られていますが、なかなか日常では食べることのないお菓子です。


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名前の通り素麺状になっていて、沸騰した糖蜜の中に鶏卵を細く流し入れて作られます。初めて見たときは錦糸卵と間違えたほど…!ポルトガルではお祝いごとに用いられるおめでたいお菓子なんだそう。また、メキシコやタイ、マカオでも同じようなお菓子が作られているそうです。世界で愛されているのがなんだか嬉しいなと思います。(写真は食べやすいように一口サイズにカットされた鶏卵素麺を昆布で巻いたもの)

鶏卵素麺には卵の黄身だけを使い白身は使いません。白身を捨てるのはもったいない!と生まれたのが、福岡にある石村萬盛堂のマシュマロの中にあんこの入った「鶴の子」というお菓子です。この鶴乃子は今では博多銘菓として親しまれています。

庶民は食べられなかった幻のお菓子

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もうひとつ卵を使った鮮やかな黄色のお菓子「カスドース」を紹介したいと思います。

カスドースは長崎・平戸(ひらど)の名物。カスドースはカステラから生まれたお菓子で、カステラの上下の焦げ目部分を切り取り、卵黄の液につけます。ここでのポイントは卵黄がカステラに染み込まないようにすること!想像しただけで難しそう…!さらにこれを高温の糖蜜でコーティング。うんと甘いカスドースの完成です。

一口かじるとまず出会うのはシャリっとした砂糖。その次に卵、そしてカステラに出会うというひとつのお菓子にこんなにもおいしさが凝縮された贅沢すぎる一品。平戸藩松浦家の茶道用のお菓子として改良され、ポルトガルには存在しないのだそう。また、当時の職人は身を清め、白装束で作っていたんだとか…!なんとも恐れ多いお菓子です。

馴染み深いと思っていた丸ぼうろに実は深い歴史があったり、知らないお菓子を知ることはもちろん、すでに知っているお菓子について深掘りしてみるのも意外な発見があって楽しいものです。

次回の後編では、砂糖をメインに作られる南蛮菓子や、長崎以外で作られている南蛮菓子について紹介します。次回もお楽しみに!





著者情報

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せせなおこ
あんこが大好きな和菓子女子。和菓子を好きになったきっかけはおばあちゃんとつくったおはぎ。小さな和菓子に日本の文化や歴史が反映されているのに魅力を感じ、和菓子を発信すべく和菓子メディア「せせ日和」を運営。商品開発や和菓子専用のコーヒーのプロデュースもしています。
せせ日和:http://sesebiyori.com/