家具量販店「IKEA」のマーケティングトレース

家具量販店「IKEA」のマーケティングトレース

SNSなどで話題の「マーケティングトレース」をご存知ですか? 基本のフレームワークを使いながら成功事例を分析し、マーケティング思考を鍛える方法です。4回目となる今回は、考案者の黒澤友貴さんに家具量販店「IKEA(イケア)」をトレースしていただきました。

前回記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/5816/

はじめに「マーケティングトレース」とは?

「マーケティングトレース」とは、企業のマーケティング戦略をフレームワークに落とし込んで分析し、言語化や図解をしながら思考力を鍛えるトレーニング手法です。自分自身がCMO(最高マーケティング責任者)になった想定で、戦略の仮説作りまでをおこないます。マーケティングトレースによってマーケティング脳が鍛えられると、顧客ニーズがわかるようになったり、時代の流れが読めたり、打ち手を考える力が身につきます。

以下が、黒澤さんによる「IKEA(イケア)」のトレース内容です。

IKEAが「食」を強化する意味とは?

皆さんにとって、IKEAのイメージはどのようなものでしょうか。

●郊外にある家具販売の大型店舗
●家族で車で出かけ、組み立て式の大型家具を購入して持ち帰る

このようなイメージを持たれる方が多いと思いますが、そんなIKEAの出店戦略が変わってきているのをご存知でしょうか。日本国内では、2020年に原宿、渋谷に都心小型店舗がオープンしています。

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IKEA渋谷では、プラントベースフードの展開に注力しており、世界展開するIKEAの中でも初となるベジドッグ専門スウェーデンビストロを併設しています。また、スウェーデンフードマーケットでは、IKEAお馴染みのミートボールを肉に代わるプラントベース原料で再現した、プラントボールなどが販売されています。
「食」を店舗体験の重要な立ち位置としていることがわかります。


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なぜ、IKEAは都心小型店舗、さらに「食」の領域を強化しているのでしょうか。IKEAの戦略をマーケティングトレースから読み解くことで、小売業や食のマーケティングを考えるヒントを抽出していきます。

ここからはマーケティングトレースの分析手順に基づいて整理していきます。


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日本におけるIKEAの外部環境を分析する(PEST分析)

先ずは、IKEAの外部環境(政治・経済・社会・技術)の4要素を読み解くことで、戦略背景を探っていきます。

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政治

・環境に対する規制強化(脱プラスチック)
・SDGsへの取り組みなど、企業へ社会性を求める動きが強化
・コロナ禍の影響で店舗営業に規制
 
⇒企業は社会や文化への貢献をより一層求められるように


経済

・2021年の家庭用・オフィス用の家具市場規模は9,840億円予測
・巣ごもり市場の拡大

⇒家庭用・オフィス用の境界線が曖昧になり、新しい商品開発が求められる


社会

・単身世帯の住宅が増加(特に都心は顕著)
・SNSが購買の起点に
・食の多様化(ジャンル、内食・中食・外食)

⇒若い世代の購買行動は、デジタル中心となり、中でもSNSが重要な位置付けとなる


技術

・代替肉や植物性食品など食分野のテクノロジー革新(フードテック)
・EC×物流技術の発達により、店舗とECの関係はよりフラットに変化

⇒EC市場は関連技術の発展に合わせて拡大


外部環境分析のまとめ

・店舗の位置付けは、販売の場所ではなく、ブランドの価値観を伝える場へと変化
・若い世代とのタッチポイントであるSNSを捉えておくことが重要となる
・都内に単身世帯が増加し、より単身世帯が訪れたい店舗作りが重要となる


IKEAは外部要因に対する適応として、以下をおこなっていることがわかります。

・オンラインストア/アプリ接点の強化
・単身世帯や若い世代のニーズに応える都心店舗設計

競合の定義

続いて、IKEAにとっての競合はどこで、どのような対策を取っているのかを整理していきます。

競合は、同業界で直接顧客を奪い合っている「直接競合」と、周辺市場で間接的に顧客を奪う可能性がある『価値競合』の2つの視点で考えていきます。


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直接競合
●ライフスタイル訴求が重なる競合:無印良品
●低価格高品質の競合:ニトリ
●高品質家具:カリモク、大塚家具

価値競合
●北欧デザイン:北欧暮らしの道具店
●DIY市場:カインズ、コーナン、島忠、コメリ
●低価格雑貨:ダイソー、セリア、キャンドゥなど

⇒最大の競合は「ニトリ」だと考えられます。IKEAの思想と同じく「低価格・高品質」でより広い層に家具を提供しており、さらに都心に大型店舗出店を強化しています。
IKEAの戦略を考える際は、「いかにニトリと差別化を図るか?」が重要になってきます。

都心型店舗のターゲティング/重点顧客

続いて、IKEAのターゲット層を整理していきます。
ここでは、直近の都心型店舗のターゲット層について考えていきます。

年齢/性別
・20代の若い世代
・若い世代のカップル

行動特性
・単身世帯、1人暮らし
・店舗購入、EC購入の割合は半々程度

嗜好性
・消費はコストパフォーマンス重視(節約志向が高い)
・低価格高品質の商品を好む

⇒まとめ買いをする層ではなく、自分の嗜好や間取りにあった家具や雑貨を財布と相談しながら購買の意思決定をする人たちだと考えられる。

マーケティングミックス(4P)特徴は?

上記のターゲット顧客に対して、どのような価値を届けているのかを整理していきます。


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売物Product

・家具+雑貨+食
・食や雑貨カテゴリーは拡張傾向
・スマート家電やスマートホームデバイス領域の強化


売値Price

・最低価格は数百円の雑貨
・ベジドッグ80円、ホットドックは100円


売場Place

・大型店舗+小型店舗
・小型店舗×ECは流通戦略の鍵
・2020年は都心小型店舗を強化


売方Promotion

・テレビCM
・直近のCM訴求テーマは「この家が好き。」
・カタログを廃止し、デジタル訴求にシフトしている。


ここで特に注目しておきたいのが、冒頭でもご紹介した売物Productにおける「食」です。
「食」はIKEAのマーケティングにおいて、どのような位置付けになるのでしょうか?

IKEAにとって「食」は優位性を支える要素

IKEAにとっての「食」は、以下2つの意味があると考えられます。

1.顧客接点を拡大する手段
・新規の顧客接点を増やす(カフェ・レストランだけに立ち寄る顧客を増やす)
・店舗を訪れた顧客に「家具購入以外での楽しみ」を体験として提供する

2.価値観を伝える手段
IKEAは「Eat better Think Sustanable」と掲げ、ベジドックについて、ホームページでは以下のように紹介しています。

お客さまのためにサステナブルなメニューを開発しても、おいしくなければ意味がありません。ベジドッグの登場によって、お客さまの意識を高め、よりサステナブルな植物性食品を手ごろな価格で楽しんでいただけるようになりました

             
Michael La Cour、マネージングディレクター、IKEA Food Services


店舗は、エンターテインメント性やブランド価値を伝える場であることが求められています。IKEAは、ベジドッグ専門スウェーデンビストロやスウェーデンフードマーケットを展開することでブランドの哲学や世界観を顧客へ伝えていると考えられます。

「食」は、ブランドの哲学や世界観をエンターテインメント性をもって伝える武器に成り得る。ということを、IKEAから学べるのではないでしょうか。

ポジショニング

最後に、ポジショニングマップを整理し、IKEAの優位性をまとめていきます。ポジショニングマップでは、IKEAの優位性が何かを、2つの軸で表現していきます。

1つ目の軸は、コスパの高さです。この優位性については、IKEAの理念である『より快適な毎日を、より多くの方々に』に基づいて、創業当時から守られてきた軸です。

・安いけど長く使える
・安いけど使い心地が良い

しかし、低価格・高品質だけでは今後生き残っていけません。前述でも触れた通り「ニトリ」のような国内競合が出てきています。よって、もう一つの競争力を支える軸が必要となります。

それが2つ目の軸となる、北欧・スウェーデンの文化性になるのではないでしょうか。

先ほど「食」を武器にスウェーデンの文化を伝えている点が、最近の特徴であることを解説しました。機能ではなく文化で差別化を図っているという点です。安くて品質の高い商品を提供しつつ、「文化的な価値」も感じられるブランドであることがIKEAの成長・成功理由だと考えられます。

IKEAの守り続けてきた文化『より快適な毎日を、より多くの方々に』とともに、「食」を通して北欧スウェーデンの文化を伝えることで、IKEAの独自体験が生み出されているのではないでしょうか。

まとめ

マーケティングトレースしたIKEAの戦略について、あらためて要約します。

・これからは文化性を伝えるブランドが生き残る
・文化性を伝える手段として、「食」は有効的な手段と考えられる
・小売業は「エンターテインメント性×ブランドの世界観」の独自体験設計が重要となる
・この独自体験設計にも食は有効的である

以上が、IKEAのマーケティングトレースとなります。
普遍性を持ちつつも、時代の変化に適応して仕掛けていく姿勢から多くの要素を学ぶことができるのではないでしょうか。





著者プロフィール

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黒澤友貴
1988年生まれ。ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに6,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを運営。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」を出版
note:https://note.mu/tomokikurosawa
Twitter:https://twitter.com/KurosawaTomoki
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