
調味料
先進企業に聞く、コロナ禍で推進する「デジタルシフト」
コロナ禍によって市場が大きく変化し、「今まで活用していたデータが使えなくなった」というお悩みをお持ちの方も多いだろうと思います。2021年2月18日に開催したオンラインセミナーでは、エバラ食品工業でデジタル化、データ活用を推進する毛利様に、コロナ禍でのデータ・デジタルの捉え方や活用法について対談形式でお話をうかがいました。「デジタルシフト」を目指す企業担当者のヒントと成り得る内容満載のレポートです。
セミナー登壇者
※登壇者の所属・役職は2021年2月時点のものです。
データの利活用で勝つことが
お客様から受ける信頼につながる
齋藤:新規事業推進室長としての役割・普段担われていること、新規事業推進室に期待されていることを聞かせてください。
毛利:その名の通り、新規事業の模索をおこなう部署でして、社内外の環境分析、事業アイデアを創出、コンセプト化、受容性の確認といった新規事業を模索する一方で、社内外に点在しているデータを取り込み、蓄積、それを社内のマーケティングセクションのみならず、経営・マーケ・営業に至るまでKPI達成に向けてデータの利活用を促すこと、及び利活用の為の社員の教育をおこなっています。
データ環境の整備のみならず、学習機会の提供まで含め、タスクとして持っているという感じです。
齋藤:エバラさんは、デジタルの推進を積極的に且つ、かなり早い段階から取り組まれている印象がありますが、導入や推進に当たりどのようなきっかけがあったのでしょうか?
毛利:我々がデータの利活用を本格的に始めたのは、2015年頃からです。
「焼き肉のたれ」「鍋つゆ」「浅漬けの素」などの商品を保有しておりますが、競合他社さんが我々よりも非常に体力があると言うか、何倍もの規模の大きい企業が競合メーカーとして存在するので、その広告費、営業フォローにおける販売促進、リソースが全然違う中で、どう自分たちが戦わないといけないかと考えた時に、データで負けたくない、データの利活用で勝つことが最前線の企画の採用率や、お客様から受ける信頼につながると考え、他社よりも少しでも早くデータのプラットフォームを整備することが、短期的・中期的に有効だと考えて取り組んだという経緯があります。
齋藤:データを使って勝ち筋を見つけたり、戦略としてどこに重点を置くというのを見る、というような新たな活動については、社内の方に説明するにあたってハードルが高かったのではないでしょうか?
毛利:システム投資に関しては、少なからずインパクトのある額だったとは思います。
我々が幸運だったのは、まずトップの理解があったと言うことです。とは言え、経営承認を得なくてはいけませんので、各部門の取締役に丁寧に説明しました。
その際、データを利活用するにあたって、マーケセクションをサポートするのはもちろんのこと、いろいろな部門に対してこういった形でサポートができますよ、ということを最初から提示していたことが、スムーズな承認に繋がったのだと思います。
齋藤:こういう部門に、こういう課題解決を提案した話が、反応が良かった、理解があったなど、参考までにうかがえますか?
毛利:分かりやすいのは営業部門で、例えば、これまで企画書を作る際に、野菜や肉の価格を外部のオープンデータから拾ってきてグラフ作成等の作業をしていたところ、我々がデータを取り込み、BIツールで可視化、それをエクスポートするだけで企画書に使用するグラフを1分で作れます、と説明することで容易に理解してくれたと言うことはありますね。
営業任せにせずマーケセクションが入り込み
PDCAで検証していく
齋藤:收集したデータは具体的にどのように扱って、工夫されていますか?
毛利:データマーケティングの推進は、直近5年位は取り込んでいます。提供していただいているデータ会社の都合などもありますので、限りあるデータの中で分析業務をおこなっていますが、新型コロナウイルスの影響で、非常に分析が難しくなってきており、今まで蓄積してきたデータが使えないという状況です。
例えば、ブランド商品のキャンペーンが好調だったとしても、その要因がコロナ禍による内食傾向の影響なのか、キャンペーンの影響なのか、その他の外部要因の影響なのかが見えにくいですし、分からないですよね。
コロナ禍の影響は、我々が今まで蓄積してきたデータ分析業務を根底から覆すようなことですので、どうしたものかと思っています。
齋藤:コロナ禍でのデジタルの使い方、デジタルに対する社内の期待値や要望など、何か変わったことはありますか?
毛利:店頭の販売促進において、接触型のプロモーションができないので、非接触型のプロモーションを模索する必要性が出てきたというところですね。
特にレジカートや、サイネージカート、店内のデジタルサイネージなどの非接触型の店内施策に対する要望が、流通様や社内からも高まっていますが、果たして店内のデジタル施策に対してどのブランドをあてていいのか、どのような施策が効率的なのか、経験値が貯まっていないので、店頭施策ではありますが、マーケティング担当もしくはプロモーション担当が検証していかないといけない。
営業任せにせず、マーケセクションが入り込んでPDCAで検証していくことが必要だと感じています。
齋藤:ぜひ具体的なお取り組みを聞かせていただけますか?
毛利:とあるチェーンストアにおいて、サイネージカートを利用したクーポン施策をおこないました。
我々は週次データと月次データしか購入していなかったのですが、とあるきっかけで日次データも購入することになり、分析をおこなって、商品を「計画購買型」と「非計画購買型」に分けて仮説を立てました。
仮説では、計画購買型の商品よりも非計画購買型の商品の方が、クーポン使用率が高いであろうと、逆に言うと、計画購買型の商品にはクーポン施策は効かないだろう、という仮説で4SKUで期間を分けて施策をおこなったところ、予想通り、非計画購買型の商品のクーポン使用率が倍くらいになりました。
計画購買型の商品はテレビCMも有効な場合がありますが、一方で非計画購買型はテレビCMではなく、店頭施策にリソースを投資した方がいい。
価格のコントロールで、店頭に来たお客様に機能的な価値をお伝えする、クーポンで購買のきっかけをつくる等、分析、仮説立案、検証、そして全体施策に活かしていくということですね。
単発的な施策の検証だけですが、このような積み重ねが重要だと思っています。
齋藤:即ち、計画購買型・非計画購買型とで分けていますが、商品によっては変わってくるということですよね、目的によって変わるってことですよね?
毛利:計画購買型はマインドシェアですね。そこで負けないことが大事ですね。一方で非計画型商品は、店頭で効率的な施策を模索しながらやっていく方がいいんだろうなと思います。
マス中心の施策からどう「戦い方」を変えるか
齋藤:特に食品メーカー、小売り流通の多くがそうだと思うのですが、マーケティングの在り方はマス中心で、認知を上げて頭の中のマインドシェアを取りにいく、それがメインの取り組みでしたが、商品によってはそれではなかなか戦っていけない、戦い方を変えないといけない、ということですか?
毛利:そうですね。弊社の今までのやり方は、マスで認知を獲得し、小売り流通で商品導入と商品露出を図り、お客様にようやく購入してもらえ、本数を稼いでいました。
それに対し、デジタルの技術が進んできて、レジカート・サイネージカート・ ID POSデータなどの導入によって、テレビCMを入れて購入してもらった商品がリピートされやすい商品なのか、クーポン施策で購入してもらった商品がリピートされる割合が高いのか。あるいはIDで紐づけて、どの年代でどのライフステージの購入者がメインターゲットなのかを可視化したり、どのような人が認知から購入、そしてリピート、さらには発信までするのか。といったテスト検証をしてもらえることが徐々に増えてきています。
コロナ禍で内食傾向になり、家庭用商品に関しては売上が堅調なブランドが多いと思います。ただ基本的には少子高齢化で向かい風の環境下なのは間違いないので、購買ファネル自体のボリュームを広げられるブランドや施策が何なのか、それをより効率的におこなえるプランは何なのか、それを一つ一つブランド毎に検証していくことが大事なのではないかと思っています。
齋藤:お話しいただいた検証についてですが、今の時代で押さえておくべきポイントについて、重要になってくるだろうと思っていることが3つあります。
1.データを押さえる
2.スマホ時間を押さえる
3.非接触型の店頭施策
クックパッドでも「レシピを決めてから商品を…」という、計画購買型の行動変容に近いこともあり、今まではクックパッドのプロダクトをマス的に使っていただいているメーカーさんが多くて、もちろんこれからも、計画購買型の商品で充分使っていただきたいと思っているのですが、いわゆる非計画的購買とか、デジタルをこれからさらに上手く使っていく上で、どういう施策ならば非計画的購買に合うのかという観点では、より検証が必要だなと思っています。
メーカーさんや我々にとっても、どういう効果に繋がるのかを検証していく目的で、例えば研究会のようなものなど、いろいろな取り組みをおこなっていきたいと考えています。
メディア、プラットフォーム、小売りを絡めて
仮説検証をしていきたい
齋藤:直近の2021年、afterコロナでお考えになっていることはありますか?
毛利:afterコロナはなく、withコロナが続くのだと思っています。
同じ話になりますが、いろいろなメディア、プラットフォーム、流通様を絡めて、仮説検証をしていきたい。そうしないと食品業界のマーケティングは変わらないのではないかと、今変わらないでいつ変わるのか、と。
メーカーと流通、デジタルとデータを活用して、利害関係抜きにして互いに広告領域と分析領域においてレベルを上げていかないと、中々厳しいのではないかと思いますし、食品のマーケティングが面白くならないのでは、と感じてます。
ですので、しばらくは現場に出向き、分析、仮説検証を繰り返しやっていきたいと思っています。
齋藤:最後に、クックパッドにこれから期待することはありますか?
毛利:食卓における調理の機会を増やしていただくことが、クックパッドのミッションであり、経営理念にもある通り、人を幸せにすることだと思いますので、そういう機会を増やしていただきたいと思います。
齋藤:ありがとうございます。我々がメーカーさんに届けるべきは、今起こっていることだけではなく、今起こっていることの背景と、背景から考えられる少し先の未来、メーカーさんにとっては3ヶ月先、半年先、この辺りが活動上で一番重要なのだと考えています。
中期という観点でも2〜3年くらいのスパンで、先々に起こりそうなことをタイムリーに発信し、メーカーさんをご支援していきたいと考えております。
毛利さん、本日はありがとうございました!
著者情報

- FoodClip
- 「食マーケティングの解像度をあげる」をコンセプトに、市場の動向やトレンドを発信する専門メディア。
月2-5回配信されるニュースレターにぜひご登録ください。
登録はこちら>>> https://foodclip.cookpad.com/newsletter/
twitter : https://twitter.com/foodclip