[研究開発AtoZ]健康食品の制度と仕組み

[研究開発AtoZ]健康食品の制度と仕組み

食品業界の中でも、マーケティングやセールスからすると近いようで遠い存在の研究開発職。FoodClipでは現役の研究開発職に就かれている「じゃぐさん」に、開発職の基本や最新情報などをお話いただく連載企画。第4回目の今回は、健康食品について解説いただきました。

食品の研究開発に日夜明け暮れている私ですが、その中でも「健康」という分野は非常に大きなウエイトを占めてきました。健康志向という言葉が叫ばれて久しいですが、それに加え、新型コロナウイルスによる影響で、食と健康に関する生活者の興味はますます高まっているといえるでしょう。

でもちょっと待って!食と健康とは一体何でしょうか?健康食品という言葉をよく耳にしますが、そもそも何なのか、生活者に問われたときにどのように答えたらよいのでしょう?

健康食品の制度や仕組みをしっかりと理解せずに間違った情報を発信してしまったら、最悪の場合、製品回収や会社の信用にもかかわる大きな問題に発展することがあります。

特に、最後に見落としがちなマーケティングにおける気を付けるべきポイントも書いていますので、ぜひ最後までご覧ください!

そもそも健康食品とは?

食と健康の話の前に、まずは食品とは何かについて話さなければなりません。改めて聞かれると、この問いは案外答えが難しいです。

端的に言えば「食品とは口から入れるすべての飲食物(医薬品を除く)」と定義されることが多いようです。医薬品を除くので、食品は原則として健康効能を謳うことはできません。

であれば健康食品は法律を破っているのか?という疑問への答えとして登場するのが、健康増進法や食品表示法です。例外的に保健機能食品として、一定の効能を記載することが認められています。

さらに細かく見ていくと、一般的に健康食品と呼ばれるものは、以下のように分類できます。

  • 特定保健用食品(いわゆるトクホ)
  • 栄養機能食品
  • 機能性表示食品
  • いわゆる健康食品(制度とは無関係)

ですので、厳密には健康食品と呼ばれるものは存在せず、上記の3つを合わせて「保健機能食品」というのが正しい表現方法です。

トクホと機能性は何が違うの?

いろいろな種類がある保健機能食品の特徴的な違いを、以下にまとめました。


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(※)規格基準型トクホを除く


上記で最も重要なポイントは赤字になっている部分。すなわち「どこに責任があるか」です。

トクホ:申請を消費者庁が審査・許可することで、有効性や安全性を担保

栄養機能食品:対成分およびその訴求文言を限定することで、有効性や安全性を担保

機能性表示食品:国の審査がない代わりに、企業責任として届出資料の情報開示が必須

ということで、国に責任があるのがトクホ、栄養機能食品。
企業に責任があるのが機能性表示食品、一般食品となります。

国が許可しているから絶対に大丈夫とか、企業の届出資料は信用できないとか、一義的に決められるものではありませんが、エビデンスの質の目安にはなるのかもしれません。

ではそれぞれに関して、もう少し詳しく見ていきましょう!


特定保健用食品(トクホ)

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1991年に制度が開始したトクホ。コンビニやスーパーでもよく見かけますよね。製品を手に取る際に「同じヨーグルトならトクホマークついている方にしようかな」という購買の判断基準や付加価値の提供という観点では一つ成功事例になっているように思います。

企業目線でいうと国の許可が必要なので、申請業務や許可を得るまでのステップはなかなかハード。「この成分は効きますよ」というだけでなく「この成分を含んだ製品が効きますよ」ということを証明する必要があり、そのために臨床試験(RCT:ランダム化比較試験とよばれるレベルのもの)を実施しなければなりません。

どんなに成分レベルで良い働きをしても、反対の作用を持つ成分も含まれてしまうと元も子もないので、成分だけでなく製品トータルで考えようというのがトクホの考え方です。

2019年の段階で1000件を超える商品が存在しており、たとえば以下のようなヘルスクレーム領域があります。

  • 体脂肪・中性脂肪
  • おなかの調子を整える
  • 血圧が高めの方に
  • 血糖値が気になる方へ
  • コレステロールを低下させる
  • 肌が乾燥しがちな方に

ちなみに規格基準型トクホという例外もあり、これは少しだけハードルが下がります。特定の食品成分を所定量配合し、特定のヘルスクレームを記載し、特定の形態で提供する場合は上記の臨床試験は不要になります(安全性は必須)。

もう少し具体的にいうと以下のようなものがあります。

  • 特定の食物繊維→お腹の調子を整える
  • 特定のオリゴ糖→ビフィズス菌を増やし、腸内環境を良好に
  • 難消化性デキストリン→糖の吸収を抑える、脂肪の吸収を抑える

規格基準型はこのように少しだけハードルが低いものの国の審査はハードなもので、申請開始から許可を受けるまで数年単位でかかるものが当たり前。また臨床試験も非常に費用がかかるため、これ自体も非常にハードルが高いものです。

ハードルの高い申請をこなせるのは体力のある大手だけでという課題もあり、2015年に「機能性表示食品制度」が始まりました。


機能性表示食品

2015年に制度がスタートした機能性表示食品制度。トクホとの違いを一言で言うと、商品化のハードルが下がったことです。

  • 国の審査が不要で、届出のみ(差戻しはあるようです)
  • ヘルスクレームが多岐に渡る
  • システマティックレビュー(SR)による届出も可能

機能性表示食品の届出数は現在3000件を超えており、開始6年で既にトクホの二倍以上の商品数があることからも、そのハードルの低さはわかるでしょう。では具体的にどうハードルが下がったのでしょう?大きく分けて二つあります。


トクホでできなかった新訴求

前述の通り、トクホのヘルスクレームは実質的にはある程度限定されていたので、訴求をしたくてもできないものが存在していました。そこで機能性表示食品制度ができたのち、これまで研究していたデータを根拠に、新たなヘルスクレームを訴求した製品の届出がいくらかありました。

具体的な製品名は伏せますが、例えば目の健康に関するものや睡眠、疲労に関するものがこれらの範疇に入ります。

システマティックレビュー(SR)による製品化
システマティックレビュー(Systematic Review)とは,特定の臨床上の課題に対して既にある研究を網羅的に調査し、質の研究をまとめ、バイアスを評価しながら分析・統合を行うことをいいます。

ちょっと難しい言葉が多いですが、企業目線でいうと「すでにある研究をまとめる」ことなので、費用の掛かる臨床試験を新たに行わなくともその成分が有効であることが分かれば、配合するだけで届出および製品化ができるということです(配合量や栄養成分との関連など最低限クリアすべきことはあります)。

例えば「GABA」や「難消化性デキストリン」などがその典型的な事例で、BtoBの素材メーカーがSRの情報を持っていれば、BtoCのメーカーは容易に届出ができるという仕組みです。この二つの素材を合わせるだけでなんと800件程度の届出があります。

このようにして機能性表示食品の届出は大きくハードルが下がり、多くの製品が届出されることとなりました。

その代わり企業責任として届出資料は必ず情報開示されることになっています。機能性表示食品の届出情報を検索できるサイトもあり、どなたでも気軽に調べることができます。


いわゆる健康食品

さて、最後は上記のどれにも属さないもので、効能を訴求することができません。その結果、「◯◯な人が飲んでいます」とか「※個人の感想です」といったようなことが起きてしまいます。

では、機能性表示食品にすら届出できなかったものはすべて眉唾物なのか?と言われるとそうとも限りません。

具体例を出すと語弊があるので避けますが、多くの論文を投稿し有効性を確かめながらも、トクホや機能性表示食品とは方針が異なっており、あえて届出を行わないというパターンもあるようです。

となってくると、生活者の方が独自にそれを判断するのは相当困難です・・・わからない場合は医師や栄養士の方と相談するか、あるいは無理に購入しないという判断もありだと思います。

特に安全性の観点で、トクホや機能性は一定の安全性をクリアしていますが、いわゆる健康食品には何ら基準はないので、むしろ有効性の問題以上に気にすべき点であると私は思います。

最後に

今回は健康食品とは何か、トクホと機能性表示食品とは何が違うのかを解説しました。

我々のような研究者は、こういった生活者の健康に寄与できるような素材を探したり、人での臨床試験をおこなったりして、エビデンスを持った新しい価値を提供するため日夜実験を続けています。

では、そんな科学的に証明された健康食品を摂ってさえいれば完璧なのでしょうか?

答えはNOです!!!

意外と知られていないかもしれませんが、トクホや機能性表示食品には「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」という文言を記載するよう義務付けられています。

つまり正しい食生活が大前提としてあって、その上でその人に合った機能を求める場合に健康食品は真価を発揮するのであって、食生活が乱れていても健康食品が免罪符になるなんてことはあり得ません。

そこを誤解してマーケティングをおこなってしまうと、結果的に企業全体の信頼を失いかねません。またマーケティングをおこなう際は薬機法に抵触するような表現はそもそも問題外ですので、そこも有識者のサポートを付けるなど細心の注意が必要です。

正しい食生活を送るためには、農水省の食事バランスガイドや厚労省の食事摂取基準など、多くのエビデンスをもとに国がまとめてくれているので、まずはそちらを見ていただくのが健康への近道。

その前提で、さらに上をいくために機能が欲しいと思ったときに健康食品を是非お試しください。

今回は健康食品とは何か?についてお話ししましたが、では健康食品をどのように選べばいいのか?という視点で次回は解説したいと思います。次回以降もぜひお楽しみに!





著者情報

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じゃぐ
食品メーカーの現役研究員。基礎研究から商品開発まで幅広い業務経験を持ち、学生時代から栄養学や薬理学を専門とするなど、一貫して食と健康の課題に取り組んでいる。科学全般や理系就活生向けの話題もSNSで情報発信中。
https://twitter.com/food_juggle