
組織戦略・ブランド戦略
日本で100都市展開へ。フードデリバリー「Wolt」
2020年、日本のフードデリバリー市場はめざましく成長しました。コロナ禍での外出自粛も拍車をかけ、新サービスも続々と登場しています。フィンランドのヘルシンキを本拠地とするフードデリバリーサービス「Wolt」は、2020年3月に日本へ上陸。現地で培ったローカルに強いデリバリー技術と日本のカルチャーに寄り添ったおもてなし精神で、持続可能なデリバリーサービスを展開し、後発ながら独自のマーケットを開拓しています。
フィンランドから、広島でベースを築き東京へ
Woltはフィンランドのヘルシンキを本拠地とし、2020年3月より日本で展開。カスタマーサポートは問い合わせから30秒以内に初返答をおこない対応、カスタマースタッフも社員を確保し、1.5km以内のデリバリーであれば配達料金99円など、かゆいところに手の届くサービス内容となっています。
お話をうかがった方
Wolt Japan
カントリーマーケティングマネージャー
新宅 暁 氏
ーデリバリーサービスが生まれた経緯を教えてください。
2014年にCEOを務めるMiki Kuusi(ミキ・クーシ)がフィンランドのヘルシンキで会社を設立し、2015年からサービスをスタートさせました。彼はもともとフィンランドで世界最大のスタートアップ向けイベント会社「Slush」を運営しておりました。サンフランシスコで始まったばかりのUberタクシーを利用したことから始まります。このノウハウは人を運ぶだけでなく、物流にも使えるということでフード系サービスの開発に着手しました。
あまり好条件とは言えないヘルシンキで、テイクアウトアプリの展開からスタートし、フードデリバリーサービスに進化。エストニアやデンマークなどの北欧数ヶ国で展開したのちに、2年半ほど前から急拡大させ、現在は23ヶ国140都市で展開をしています。
ー日本で展開されたのが、2020年の3月ですよね。
ちょうど1年経つくらいですね。広島県広島市からスタートして、札幌、仙台、東京と展開してきました。
ー広島で最初に展開されたのは、どうしてなんですか?
これまで展開してきた都市の人口が100万から150万人規模でして、仮に東京だとその10倍近くになります。対して、広島市の人口は119万人とこれまで展開してきた規模に近く、培ってきたサービスをまず実践できる判断をしました。また、生活者の食への興味であったり、行政のサポートが受けられたりと、Woltを受け入れてもらえる非常にいい環境が揃っていたのも要因です。
ー実際に展開してみていかがでしたか?
当時、広島はフードデリバリーが定着していなかったので、比較的新しいサービスとしてスタートできました。広島のお客様は地元密着として親しみをもってご利用いただいているようで、「広島ならWoltじゃろう」と応援してくださいます。これはWoltが皆様に満足していただけるサービスが提供できている証しでもあり、非常に喜ばしいことでした。
広島でこれまでの都市以上に好調な結果を残し、札幌、仙台へ進出。私たちの「持続可能なフードデリバリー」が日本でも展開できると確信し、満を辞して、東京に進出しました。現在も東京本社と広島本社に2本社制で動いており、広島は大切なビジネスの中心になっています。
おもてなし精神が他社との差別化に
ーサービスを展開されるにあたって、日本仕様に変更した点はどんなところでしょうか。
たくさんあるのですが、顧客サービスはかなり日本仕様にチューニングしました。これまで外資系企業が日本に進出するとき、アプリやカスタマーサポートが海外仕様であるために、日本のユーザーに受け入れられず、苦戦しているのを見てきました。その点、効率を重視しながらも人対人のサービスを主眼に置くWoltは、うまくマッチできたと捉えています。
現在、日本でのみ「おもてなし」というワードをテーマに掲げています。お客様向けのカスタマーサポートも、他社では第三者のコールセンターにアウトソーシングされるのが通常のところですが、Woltは自社で運営し、細やかなサービスを心がけています。
一つ事例を挙げますと、お客様のご友人がバースデーケーキをオーダーされた際に、カスタマーサポートが気付き、注文のケーキにサプライズで花を添えてお届けしました。毎回こうしたサービスができるわけではありませんが、一気通貫でコミュニケーションをとっている、我々でないとできないサービスだと自負しています。目指すサービスレベルはホテルクオリティですね。
ーすごいですね!ひとりのお客様にきちんと喜んでもらうというのは、働く皆さんのモチベーションにもつながりそうです。配達パートナーの教育も、かなり充実しているとうかがいました。
配達パートナーになるためには交通の標識や道路交通法などの知識を含む説明会に参加していただいています。その後に、独自の適性テストを受けていただくことで、質の高いサービスを提供できるベースを醸成しています。加えて制服を貸与しており、様々な条件から、プロ意識が高い配達パートナーが集まりやすく、サービス向上にも繋がっています。
ー絶対失敗したくないときにサービスを選ぶ理由にもなりますね。登録店舗へのサポート面はいかがですか?
登録いただく店舗に対しても、結構泥臭いと言いますか。新規開拓のために直接お店に出向いて営業をおこなうことも多いですし、地方では特に何かあればお店に飛んで行くこともあります。競合他社では基本的にオフィスを東京に構えている場合が多いのですが、Woltは北海道、東北、関東、関西、中国地方、九州といった形で支社を置いていることが信用につながっていると考えています。
ーまさに人対人、安心感がありますね。既存のフードデリバリーのユーザーが、物足りないと感じていそうなポイントを全て打ち返されている感じがします。潜在的な課題を拾い上げて、競合との明確な差別化につながっているのも、さすがです。
お客様のお声には常にアンテナを張って、SNS投稿などの小さなお声も逃さないようにしています。日本の生活をより豊かにする持続可能なサービスを展開していきたい、という我々のビジョンに沿って成長していきたいと思っています。
フードデリバリーに留まらないWoltの今後
ー効率も重視されているということでしたが、人対人のサービスとどのように両立しているのでしょうか?
2つの両立を成功させているのがWoltのユニークなポイントですよね。フードデリバリービジネスはまだまだ赤字で推移しているブランドが多いのに対して、Woltは各国の都市でサービス立ち上げから平均12ヶ月から24ヶ月で黒字化させた実績をもっています。それを成し得るためには効率性は不可欠です。
大きなアドバンテージとなっているのは、配達システムのアルゴリズムです。Woltはヘルシンキで生まれたサービスゆえに、過疎地であったり、豪雪地帯などの厳しい環境にも適応できるようになっています。
ーこれが地域密着、さらには持続可能なビジネスに繋がっていくのですね。今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか?
日本のフードデリバリー市場は現在過渡期で、これから更に成長していくでしょう。
数年以内には100都市で展開していくつもりですので、直近は各都市でのローンチを優先させ、その後他の国と同様に黒字化に進んでいければと思っています。3月中に大阪府大阪市、岡山県倉敷市をはじめ7都市で展開していきます。
長期的な話ですと、コンビニエンスストア、スーパーなどで扱うような日用品の配達もおこなっていきたいと考えています。これまでのノウハウを活かせば、30分程度で何でもお届けでき、急ぎの醤油一本をWoltですぐにお届けといったサービスが可能になります。ロジスティクスの分野は、ローカルビジネスとも相性がよく、さまざまな可能性を秘めていると考えています。
ーフードデリバリーに留まらないビジネス展開を目指されているのですね!これからの活躍が楽しみです。
writing support:Akira Fukui
著者情報

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